マンションの管理組合総会において、どこも頭を抱える課題である
管理費や修繕積立金の値上げの問題。
将来的な人件費の高騰
マンションの共用部分の劣化の進行
などにより管理費や修繕積立金を上げざるを得ない局面が出て来ているしょう。
定期総会のシーズンである今回は、管理費や修繕積立金値上げについて、
・値上げ議案に対して承諾を得られるか不安だ
・値上げ議案を検討する際に確認すべき点にはどのような事があるのか
このような課題に、現役のマンション管理士が解説します。
【注意したい】管理費・修繕積立金の値上げ前に必ず確認すべきこと
今回のテーマは次の項目を中心に紹介します。
・値上げが必要な具体的な理由
・値上げ議案の検討時に確認すべきポイント
総会で十分に議論や納得がなされないまま、思いつきで値上げの議案を出しても区分所有者からの抵抗が大きいことが想定されます。
そのため、まずは
・理事が理事会において必要性を討議する
・直近の総会ではなく、将来的な総会で決議する予告
・事あるごとに必要性を話していく
ことから行っていくことが良いでしょう。
そうすることで、ニュース等では聞いていたものの、
「うちのマンションも値上げについて考えていかなければならないタイミングに来ているのか」
という認識を、区分所有者が徐々に持ってきます。
今回は管理費や修繕積立金の値上げについて、順を追って確認します。
管理費・修繕積立金の値上げが必要な背景
最初に、管理費や修繕積立金を値上げするに至る背景についてです。
具体的にはどのようなことが考えられるのでしょうか。
値上げにおいて考えられる点を挙げてみたいと思います。
計画金額とのギャップが拡大している
まず考えられるのが、
竣工当初の長期修繕計画や管理費計画が長年の間見直されていない
結果、管理費や修繕積立金が時代背景と合っていない
ことがあります。
物価の上昇や管理員人件費の上昇を配慮していない状況も多いです。
作成当初のそのままになっており、特に
・最近の物価の上昇
・管理員や管理会社の人材不足からくる人件費高騰
などが該当します。
2,30年前の計画をそのまま見直さずに実施していたのでは、ギャップが出ているのは当然でしょう。
直近はなんとか辻褄が合うにしても、10年後、20年後といった将来的には厳しい状況となります。
また特に竣工直後のマンションは購入しやすさが優先され、
修繕積立金が低めに設定されている
ことが多く、実際に住んでからそのギャップを認識してしまうこともあります。
これらの点を充分に認識しておく必要が有るでしょう。
人件費高騰の影響
通常のマンション管理における
・管理会社のフロントや管理員
・修繕工事を行う際に必要な職人不足
による人件費の高騰などが挙げられます。
・マンションに関わっていく方のなり手がなかなか見つからない
・担当マンションの増加
・マンション管理の複雑さなどに伴い適切なフロント担当の手当てができない
・長時間労働をさせられない
等で人員が割けないなどもあるでしょう。
仮に手当するとなると高単価で採用せざるを得なくなります。
そのコストがマンションの管理費や工事の際の費用に跳ね返ります。
共用部分各所の劣化が想定以上に進行
マンション内の共用部分各所の劣化が想定以上に進行することもあるでしょう。
その場合は工事すべき箇所が増加することも考えられます。
過去計画的に工事を進行しなかった場合には、要所要所の劣化が見られ、結果、工事費用が余分に掛かってくることとなってしまいます。
予め修繕積立金を充実させておくとともに、各工事項目ごとに長期修繕計画をしっかりと立てて見積もっておく必要があるでしょう。
修繕費用の不足
劣化を発見するたびに修繕工事をしていては、
・割高になってしまう
・大規模修繕工事の際の工事サイクルと合わなくなる
ことも考えられます。
結果、大規模修繕工事の間に工事せざるを得なくなってしまうかもしれません。
一緒に出来る工事もバラバラに実施することで非効率化、高支出に繋がる可能性も出ます。
値上げが必要な具体的な理由
前述の様な背景から、管理組合にとって、管理費や修繕積立金の値上げが必要になる場合があります。
管理費、修繕積立金それぞれに分けて記載します。
管理費の値上げが避けられないケース
普段の生活において、マンション管理の費用が必要になってきます。
管理員を雇っている場合はその人件費
管理会社に依頼をしている場合は事務管理費用等の費用
が掛かるでしょう。
一方で、管理組合としては極力支出したくはないというのが本音かと思います。
その場合、値下げして欲しいといった場合はどうなるでしょうか?
管理会社にとっては、マンションからの管理費が重要な売上となります。
場合によっては、
担当マンションの契約を終了を言われマンションの管理が行えないリスク
も発生します。
または、値下げにより管理の質の低下が懸念されるかもしれません。
お互いの話し合いの中で
・省けるところは省くこと
・管理組合自らできるところはないか
その検討をまず行う必要があります。
それでも足らない場合や、管理会社からの管理委託費値上げを要請された場合は、管理組合に対して管理費の値上げを検討しなければならないかもしれません。
今は人件費が高騰しており、加えて働き方改革により、管理会社フロント担当や管理員の長時間労働の見直しも入る世の中です。
そのため、逆に値上げさせて欲しいという提案もありえるでしょう。
修繕積立金の増額が必要なケース
普段の管理に関する費用が管理費であるのに対して、将来的な修繕のために貯めておく費用が修繕積立金です。
修繕積立金の値上げは、将来の修繕箇所や工事内容を見越して、現時点での修繕積立金で積まれている額が足らないと想定される場合に実施されます。
そのため、将来どのような工事を行うことでいくら必要になるのか、長期修繕計画を立案する必要があります。
そこで、
・値上げが必要なのか
・それとも今の修繕積立金の水準で維持できるのか
の判断になります。
値上げ議案の検討時に確認すべきポイント
最後に、管理費や修繕積立金の値上げをする際に確認しておきたい事項を確認しておきます。
急な値上げの難しさを理解する
足らなくなったからと言って、総会で急に値上げの議案を提示しても、区分所有者からの理解を得るのは難しいでしょう。
値上げの議案を出すにしても、
・予め前期の総会で将来的な値上げの可能性を予告する
・理事会で十分討議する
ことがまずは必要となります。
また、値上げの根拠として、現状の費用明細や今後の計画などを準備することで、区分所有者に納得して貰わなければなりません。
そのための準備が必要であり、マンション全体として合意形成を図っていくことが求められます。
大規模修繕工事の延期や計画変更の検討
マンションに使用される材質も継続的な品質改良により、より長持ちするようになってきています。
そのため、これまで12年周期と考えられることも多かった大規模修繕工事の周期も、今後は伸びていくことも考えられます。
国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインや、管理計画認定制度における評価基準となる長期修繕計画期間も、
「30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上」
とあります。
解釈に寄れば、
国の基準では平均でも15年以上として考えられる
こととなり、12年の周期から考えても伸びていることが分かります。
今後は18年、20年と伸びていくことも考えられます。
仮に12年→18年となると、6年分の修繕積立金が確保できます。
マンションの劣化の度合いにもよりますが、
先送りにより修繕積立金を確保することができないか
についても一つの視点となるでしょう。
修繕積立一時金や段階的な値上げの難しさ
大規模修繕工事に合わせて、
・区分所有者から工事のための一時金を徴収すること
・5年に一度などの段階的に修繕積立金を増額させること
については、区分所有者に将来的な負担を強いることとなります。
区分所有者としては、自身のマンションを良くする大規模修繕工事のための資金であっても、一時的な支出や継続的に増加することには生活への影響から抵抗があるでしょう。
出典:国土交通省 マンションの修繕積立金に関するガイドライン 段階増額積立方式の例
国土交通省においても、マンションの修繕積立金に関するガイドラインで
「段階増額積立方式や修繕時に一時金を徴収する方式など、将来の負担増を前提とする積立方式は、増額しようとする際に区分所有者間の合意形成ができず修繕積立金が不足する事例も生じていることに留意が必要です。」
とあり、均等積立方式が望ましいとの見解を示しています。
出典:国土交通省 マンションの修繕積立金に関するガイドライン 均等積立方式の例
修繕積立金を見直すなら、段階的に少しずつ上げていくのではなく、長期を見越して1度だけとし、その後は均等積立方式を長期修繕計画においても採用していくことが望まれます。
まとめ
どこのマンションでも必ず課題となる、管理費や修繕積立金の値上げを確認しました。
管理費や修繕積立金を値上げしなければならないと分かった場合には、早い段階から値上げタイミングを検討し、管理組合で合意形成を図りながら進めていくことが求められます。
今一度、今の金額が適切なのか、確認することから始められることをお勧めします。
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