以前紹介した、マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドラインの改訂記事に加えて、修繕積立金ガイドラインの改訂も同じ日の令和6年6月7日にありました。
以下の国土交通省ホームページにあります。
こちらも管理組合にとって重要なことであるため、改めて国土交通省の考え方とマンション管理士である筆者の見解等を紹介します。
修繕積立金ガイドライン改訂による積立金引上げの考え方【要確認】
今回の内容は以下の通りとなります。
・ガイドライン改訂に際して管理組合として考えておきたい引上げ対策
・まずは、管理組合として引上げの議論が重要(まとめ)
今回国土交通省から出されているのは、さほど大きな改訂はないですが、管理組合として考えを改めておく必要がある点が明文化されています。
具体的な改訂点とともに筆者の視点からガイドライン改訂に際して、管理組合として考えておいた方がよい対策を紹介します。
修繕積立金ガイドラインの改訂点
まず、改訂点について詳細を確認します。
改訂されたところは、これまでのガイドラインに対して「修繕積立金の積立方法について」という項目が中心となります。
修繕積立金の積立方法
変更前と変更後の比較は以下のようになっています。
まずはコメントです。
変更後 | 変更前 |
段階増額積立方式については築年数の経過に応じて、必要な修繕積立金が増加することや区分所有者の高齢化等により費用負担が困難化していくことを踏まえ、早期に引上げを完了させることが望ましいです。 実現性をもった引上げにより、修繕積立金の早期の引上げを完了し、均等積立方式へ誘導することを目的として、段階増額積立方式における適切な引上げの考え方を以下に示します。 | 新築マンションの場合は、段階増額積立方式を採用している場合がほとんどで、あわせて、分譲時に修繕積立基金を徴収している場合も多くなっています。このような方式は、購入者の当初の月額負担を軽減できるため、広く採用されていると言われています。 |
具体的な修繕積立金引き上げの考え方は?
国土交通省として、具体的にどのように引き上げていくのが望ましいのか、引上げの算式とともに紹介されています。
段階増額積立方式における月あたりの徴収金額は、均等積立方式とした場合の月あたりの金額を基準額とし、計画の初期額は基準額の0.6倍以上、計画の最終額は基準額の1.1倍以内とする。
上げすぎも上げなさすぎも考えて、本来あるべき均等積立額の0.6倍~1.1倍の値上げが良いとされているようです。
具体的な修繕積立金増額の計算方法は?
また、具体的な算式は以下の通り紹介されています。
0.6×D ≦ E かつ 1.1×D ≧ F
A:計画期間全体で集める修繕積立金の総額(円)
B:マンションの総専有床面積(㎡)
C:長期修繕計画の計画期間(月)
D:計画期間全体における月あたりの修繕積立金の平均額 =A÷B÷C(円/㎡・月)
E:計画期間全体における月あたりの修繕積立金の最低額(円/㎡・月)
F:計画期間全体における月あたりの修繕積立金の最高額(円/㎡・月)
仮に、
B:6,000㎡
C:360か月(国土交通省は長期修繕計画を30年以上定めることが望ましいとしているため)
とすると、
※国土交通省の修繕積立金ガイドライン7ページの基準値を意識して設定
D=500,000,000÷5,000÷360≒231.48円
となり、
E=231.48×0.6=138.88円
F=231.48×1.1=254.62円
であると算出できます。
すなわち、月当たりの徴収金額平均が138.88円未満なら、まずはここまで最低限引き上げることとし、無理に254.62円以上まで引き上げる必要はないということとなります。
計算における留意事項は?
留意事項として、以下の点を記載しています。
・例えば、工事費高騰等の状況を踏まえた長期修繕計画の見直しにあたって、管理適正化のために現在の修繕積立金額の額を大幅に引上げる等を制限するものではない
ということであり、工事費高騰等においては、前項の枠内で制限されるものではなく、さらに上げる必要性も紹介しています。
段階増額積立方式における適切な引上げの考え方(イメージ)
国土交通省は段階増額方式にはポジティブではありませんが、今のマンション管理ではやむを得ないと考えているようです。
具体的に引上げのイメージが図表で紹介されていました。
初期額であるスタートは平均額の6割でよいけど、最後に平均額に帳尻を合わせるために、平均以上の1.1倍の額を将来的には徴収してくださいというイメージです。
ただし、こちらについては、段階増額積立方式において、計画初年度から5年ごとに3回の引上げを行う場合を一例として図示したものであり、具体的な引上げ計画は、個々のマンションに応じて異なるとのことで注意が必要と紹介していました。
修繕積立金の積立方法を確認することの重要性
ここはガイドラインでも微修正ですが、
↓
マンションの劣化の状況や技術開発、工事費の高騰等によって、実際の修繕の周期や費用等は変化
ということで、将来的な工事費の高騰についてはケアする必要があると紹介されています。
ガイドライン改訂に際して管理組合として考えておきたい引上げ対策
国土交通省から示された修繕積立金ガイドラインの改訂に対して、管理組合としてはどのようなことに留意すればいいのか、修繕積立金引上げにおいて具体的な対策を紹介します。
管理組合として修繕積立金が不足している現実をいち早く確認する
まず、自分たちの管理組合として果たして現在の修繕積立金は足りているのか、不足しているのか、現状を認識することが重要です。
前章で紹介した「具体的な修繕積立金増額の計算方法は?」の計算に当てはめて、国土交通省がいう額とどれだけ乖離しているのかは一日でも早く確認するのが良いでしょう。
早く確認することによって、後述する合意形成が一日でも早くなり、管理組合として有効な対策を打てることとなります。
長期修繕計画を作成、見直しを必ず行う
長期修繕計画は作成して終了ではなく、5年程度毎の見直しが必要とされています。
仮に今回修繕積立金が足らなそうだとなった場合には、改めて30年程度の長期修繕計画を修正するとともに、より精緻に修繕工事金額とそのために必要な修繕積立金を算出しなおすべきでしょう。
特に前回から5年以上経過しているものは、新たな劣化が進行していたり、最近の工事単価の上昇等が踏まえられていないことも考えられるため、注意が必要です。
早期の引き上げに向けての合意形成としての総会承認を得る
理事会や修繕委員会、修繕積立金検討委員会等の諮問委員会で具体的に検討するとともに、管理組合としての課題認識に対する合意形成を行うことも重要でしょう。
何度か説明会を実施して、前章で説明した国土交通省が示す考え方を前提として、長期修繕計画の見直しや修繕積立金引上げの議論を行っていく必要があります。
その後に管理組合として意思決定を行うことで、国土交通省が指摘する「修繕積立金の早期引上げを完了させる」ことを実行する必要があります。
引上げ後も工事費の高騰の可能性等将来のリスクを意識する
総会で長期修繕計画や修繕積立金の引上げをすれば終わりという訳ではありません。
修繕積立金の額は一度見直せばよいということではなく、将来のインフレに備えて定期的に工事単価等、市場環境をキャッチすることも重要でしょう。
管理会社経由や、大規模修繕工事を行ってもらった施工業者等とのヒアリングなどを定期的に実施していくことも求められます。
まずは、管理組合として引上げの議論が重要
修繕積立金ガイドラインの改訂について紹介しましたが、国土交通省としても、均等積立方式によって、管理組合として負担のないような修繕積立金の徴収を行って欲しいという意図があります。
しかしながら、とりわけ新築マンション時に極端に少ない修繕積立金の額を購入者に提示した結果、そのまま管理組合としても見直しが長年なされず、大幅な引上げもやむを得ない状況となりました。
国土交通省としてはあまり望ましくないと言っているものの、どの管理組合も大幅な差がある中で均等積立方式にすぐに出来る訳もありません。
そして管理組合としては、急激な引上げへの対応は区分所有者個々の生活への負担も増大することから、簡単に採用できるものではないでしょう。
そのため、負担の少ないところから徐々に引き上げつつ、将来的には均等積立方式に持って行って欲しいというのが今回のガイドラインの改訂で示されています。
具体的な金額の上げ幅も示していますので、管理組合としては修繕積立金の値上げの議論において非常に参考になると考えます。
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