マンション給排水管の寿命と更新費用:合意形成の課題と解決策

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今日の午前中に挙がっていた日経の記事「マンション給排水管、寿命40年 「更新」には1戸数百万円」が気になったので、記事のまとめと筆者が執筆・監修した関連記事等も合わせて紹介します。

給排水管の寿命と更新の必要性

マンションの給排水管は国土交通省の『長期修繕計画作成ガイドライン』によると、寿命が30~40年程度とされており、それを超えると劣化による水漏れトラブルが増加します。給排水管が老朽化すると、以下のような問題が発生する可能性があります。

  • 漏水事故:配管が錆びたり破損したりすると、天井や床に水漏れが発生し、住戸内だけでなく共用部分にも影響を及ぼす。
  • 水質の悪化:古い金属配管では錆が発生し、飲料水の安全性にも影響を与える。
  • 設備の詰まり:管内の汚れや錆が蓄積することで、水の流れが悪くなり、詰まりが発生しやすくなる。

このようなトラブルが起こると、日常生活に支障をきたすだけでなく、修繕費用も高額になります。外壁や共用部分の修繕を行っても、給排水管が老朽化していれば快適な住環境を維持することは困難です。給排水管の更新は建物の寿命を延ばし、資産価値を向上させる可能性があります。

給排水管更新工事の種類と費用

給排水管の更新には、大きく分けて以下の2種類の工事があります。

更生工事(延命措置)

  • 内部の錆を取り除き、コーティングを施すことで10~15年程度の延命が可能。
  • 比較的安価で済むが、根本的な解決にはならず、最終的には更新が必要。
  • 工期が短く、住民への影響が少ない。
  • 既存の管を利用するため、費用負担が軽減される。

技術の進歩により、最近では更正工事でも給排水管が延命できるものも出てきているようですが、国土交通省の『長期修繕計画作成ガイドライン』によると、19~23年という目安があります。

更新工事(交換)

  • 劣化した金属製の給排水管を、耐久性の高い樹脂製のものに交換。
  • 費用が高額(1戸あたり100万~300万円)になりやすいが、将来的なメンテナンスコストを抑えられる。
  • 配管の位置を変更する場合、工期が長くなる可能性がある。
  • 耐久性が向上し、長期間にわたって安全な給排水環境を維持できる。

この記事にある築38年のあるマンションでは、更新工事の費用が1戸あたり200万円と見込まれ、修繕積立金を月4万円値上げする必要がある状況です。費用負担をめぐって住民間の合意形成が難航し、3年以上膠着状態が続いています。

費用負担と合意形成の課題

給排水管工事の合意形成には、以下のような課題があります。

共用部分・専有部分の区分

  • 共用部分(竪管など)は管理組合が修繕費用を負担。
  • 専有部分(横引管など)は基本的に区分所有者負担。
  • 更新工事の範囲をどこまで含めるかが論点になる。
  • 一部の住戸だけが対応しても根本的な解決にならないため、マンション全体での計画が必要。

管理規約の変更が必要

  • 専有部分の工事を管理組合が担うには、長期修繕計画の修正や管理規約の改定が必要。
  • 総会で議決権及び区分所有者数の4分の3以上の特別決議による賛成を得る必要があり、ハードルが高い。
  • 事前に住民の理解を深めるための説明会や資料配布が不可欠。
  • それらの対応によって比較的時間を要する。

住民の理解不足

  • 給排水管の劣化は外壁のように目に見えないため、住民の危機感が低い。
  • 漏水事故が起こらないと、更新の必要性が伝わりにくい。
  • 修繕積立金の値上げに対する抵抗があるため、具体的なメリットを示す必要がある。

事例紹介:成功した合意形成のポイント

みさと第一住宅(築51年・688戸)

  • 5年かけて準備委員会を設置し、住民の意見をまとめる。
  • 説明会を複数回開催し、広報紙・DVDを配布。
  • 専有部分の工事も含め、住民の負担軽減策を導入。
  • 費用18億円のうち、修繕積立金14.5億円+国の補助金3.5億円で賄う。
  • 資産価値向上:設備の刷新により、未納の修繕積立金も回収できた。

霧が丘グリーンタウン第一住宅(築45年・横浜市)

  • 給排水管更新工事を実施後、資産価値が200万~300万円上昇。
  • 省エネ給湯器や窓の断熱化も行い、若い世代の入居が増加。

給排水管更新のための資金調達方法

修繕積立金の活用

長期修繕計画と修繕積立金を連動させることで、長期計画的な積立が可能となり、組合員の負担を平準化することができます。

修繕積立金は、段階的に値上げをする「段階増額方式」か、長期的に同一金額を徴収する「均等積立方式」が一般的です。

国土交通省による『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』によれば、国土交通省は「均等積立方式」が望ましい方式としており、長期的に組合員の負担が少なくなるように配慮する必要があるとしています。

住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」

  • 固定金利で、2025年3月時点の金利は年0.97%(返済期間10年以内)。
  • 省エネ工事を行えば最大0.6%の金利引き下げが可能。
  • 東京都では最大1%の利子助成があり、実質無利子での借入も可能。

まとめ:早期対策がマンションの未来を左右する

✅築40年を超えたマンションでは、給排水管の更新工事が不可避。
✅早期に合意形成を進め、計画的に資金を準備することが重要。
✅成功事例を参考に、住民への説明と負担軽減策を工夫する。
✅ローンや補助金を活用し、資産価値向上を目指すべき。

給排水管は「建物の血管」とも言える重要なインフラです。適切なタイミングでの更新が、快適な住環境と資産価値の維持に直結します。マンション管理組合は、先送りせずに具体的な対策を講じる必要があります。

【記事執筆・監修】
マンション管理士・1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古市 守
yokohama-mankan

マンション管理全般に精通し、管理規約変更、管理会社変更、管理計画認定制度の事前審査、修繕積立金の見直し、マンション関連コラムの執筆など幅広く活動。
また、企業経営、とりわけ財務・経理分野にも精通し、上場企業やベンチャー企業でCFOや管理部長を歴任。経営視点を活かし、マンション管理の実践的なサポートを提供している。

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