マンションの機械式駐車場、維持費・空き駐車場問題に終止符を!撤去・平面化という選択肢とその全貌

マンション管理

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マンションに設置された機械式駐車場は、住民の利便性を高める一方で、多くの管理組合にとって無視できない課題を抱えています。日々のメンテナンスに加えて、定期的に訪れる大規模な修繕には多額の費用がかかります。

さらに、時代の変化とともに車の所有状況やニーズが変化し、機械式駐車場の利用率が低迷するマンションも見受けられます。利用率の低い機械式駐車場の維持費用が、貴重な修繕積立金を圧迫し、他の重要な修繕が滞るリスクも生じています。

こうした状況を受け、マンションの管理組合の中には、機械式駐車場を撤去し、平面駐車場化するという選択肢を検討し、実行に移すところも増えています。これは、長期的な視点でマンション全体の資産価値維持や居住環境の向上を目指すための重要な対策の一つと言えるでしょう。

本コラムでは、マンションの機械式駐車場が抱える課題を踏まえ、撤去・平面化という対策について、そのメリット、検討すべきポイント、具体的な手順、そして特に重要な課題について、国土交通省のガイドラインとともに、筆者の経験等、見解を交えながら詳しく解説します。

機械式駐車場を撤去する、という選択肢とそのメリット

機械式駐車場を撤去し、平面駐車場に転換することには、主に以下のようなメリットが考えられます。

長期的な維持管理費用の削減

機械部分がなくなることで、定期的な点検や部品交換、大規模修繕といった機械特有のメンテナンス費用が不要になります。国土交通省による「長期修繕計画作成事務ガイドライン(令和6年6月改訂版)」には、機種ごとの1台あたりの月額修繕工事費の目安が示されており、これらの費用が削減されることは大きなメリットとなります。

詳細は以下のコラム

で詳しく紹介していますが、機械式駐車場のタイプによって、維持のための相応の費用が掛かってくることとなります。

修繕積立金の圧迫解消

機械式駐車場に対する維持管理にかかる費用が削減されることで、修繕積立金の収支を改善し、本来必要な建物全体の修繕に修繕積立金を充当できるようになります。これによって、修繕積立金会計の健全化に繋がり、長期修繕計画の実行性を高めることとなります。

空き駐車場問題の解決

利用率の低い機械式駐車場は、駐車場収入が十分に入らないため、将来的な機械式駐車場修繕のための原資が確保できないという問題を引き起こします。

撤去・平面化により、現状のニーズに合わせた駐車場台数や形式(例:カーシェアスペース、駐輪場への転換など)に再構成することが可能になり、資産の有効活用に繋がります。

平面化による利用の柔軟性向上

車高制限などがなくなり、利用できる車種の幅が広がったり、入出庫がスムーズになるなど、利用者の利便性が向上する場合があります。

撤去を検討する上でのポイント

機械式駐車場の撤去は、管理組合にとって大きな意思決定です。検討を進める上で、以下のポイントをしっかり押さえる必要があります。

現在の稼働状況と将来予測

現在の駐車場の利用率や、将来的な車の保有状況(EVの普及、高齢化による運転控えなど)の変化を見込み、本当に機械式駐車場が必要なのか、平面駐車場化した場合の需要はどうかなどを慎慮に検討します。

長期修繕計画との整合性

現在作成・積立を進めている長期修繕計画や修繕積立金計画において、機械式駐車場の修繕費用がどのように見込まれているかを確認します。

今後機械式駐車場を撤去・平面化した場合の新たな長期修繕計画(または既存計画の変更)が必要となります。国土交通省による「長期修繕計画作成事務ガイドライン(令和6年6月改訂版)」によれば、計画期間は30年以上で、大規模修繕工事が2回以上含まれるように設定されていることが望ましいとされています(当該資料8ページ)。

修繕積立金の平均額が著しく低額でないことも重要であり、機械式駐車場がある場合は「【是非知っておきたい】機械式駐車場の種類、改修時期や費用は?」でも紹介した通り、機種・台数に応じた加算額を考慮して目安と比較されます。撤去によりこの加算額が不要になるため、修繕積立金計画の見直しが必要となります。

撤去・平面化にかかる費用と相見積もりの重要性

撤去工事や平面化工事には初期費用がかかります。撤去費用は機械式駐車場の方式や台数など、機械式駐車場の形態によって大きく異なり、業者によって大きく差が出る可能性があります。そのため、複数の業者から見積もりを取り、比較検討すること(相見積もり)が非常に重要です

そして、見積もり額に影響する要因としては、重機・搬出条件、工期、金属スクラップの買取価格などがあります。

代替駐車場の確保の可能性

全撤去などにより、現在利用している住民の駐車場がなくなる場合、近隣の駐車場を確保できるか、あるいは敷地内に代替となる駐車場を整備できるかなど、代替手段を検討する必要があります。

機械式駐車場撤去の基本的な手順

機械式駐車場の撤去・平面化は、共用部分の用途変更を伴うため、管理組合において慎重な手続きを踏む必要があります。大まかな手順は以下の通りです。

管理組合内での方針検討

理事会や専門委員会などで課題を共有し、機械式駐車場撤去・平面化の必要性や方向性について議論し、方針案をまとめます。

理事会で負担が大きい場合が想定されますので、車を所有し機械式駐車場を利用している住民の参加も含め、専門委員会を立ち上げ、議論することも有効でしょう。

総会決議

専門委員会や理事会でまとめた方針案を総会に諮り、工事内容や金額、工事業者、契約など工事全体に関する詳細について、区分所有者全体の承認を得ます。この決議はほとんどの管理組合では特別決議となるでしょう(詳細後述)。

工事計画の策定

総会で撤去・平面化の方針が決まったら、具体的な工事範囲、工法(鋼製平面化工法か埋め戻し工法かなど)、スケジュールといった工事計画を具体的に詰めます。

業者からの見積もり取得と選定

策定した工事計画に基づき、複数の専門業者から詳細見積もりを取得します。機械式駐車場の撤去については、管理組合として大きな支出を伴うことから、大規模修繕工事で行うのと同様に必ず相見積もりの取得を行う必要があります。

費用だけでなく、実績、技術力、現場担当者の対応などを比較検討して業者を選定します。仕様確定後に改めて正式見積もりを取得することが推奨されます。必要に応じて設計コンサルタントに工事仕様書や図面作成を依頼し、公平な入札を行う方法も有効です。

契約・発注

選定した業者と工事請負契約を締結し、管理組合として正式に発注します。

工事実施

契約に基づき、業者が撤去および平面化工事を実施します。工期が費用に影響するため、計画通りに進むよう管理が必要です。

機械式駐車場撤去に潜む重要な課題と対策

機械式駐車場の撤去・平面化には、前述の費用や技術的な側面に加え、管理組合の運営に関わるいくつかの重要な課題が伴います。

利用者の対応と合意形成

機械式駐車場を撤去する場合、現在その駐車場を利用している区分所有者の方々にとっては、駐車場所を失うという特別の影響が生じます。そのため、計画を進めるにあたっては、現行利用者への丁寧な説明と個別の状況を踏まえた対応の検討、そして事前の承諾を得ておくことが不可欠です。

また、管理組合の意思決定は、最高意思決定機関である総会の決議によって行われます。機械式駐車場撤去のような重大な事項は、区分所有者全体の理解と協力なしには進められません。総会での円滑な決議に向けて、事前に説明会を開催したり、個別に相談に乗るなど、慎重な合意形成に向けたプロセスが非常に重要となります。一方的な見切り発車で進めると、トラブルの原因となります。

総会での決議:特別決議のハードル

機械式駐車場の撤去・平面化は、マンションの共用部分の形状または効用の著しい変更に該当します。したがって、この事項を決議するためには、マンション標準管理規約第47条第3項第2号に基づき、特別決議が必要となります。
※2025年5月の記事執筆時点であり、今後法改正によって決議要件の変更が予定されています。

標準管理規約第47条第3項には、「次の各号に掲げる事項に関する総会の議事は、前項にかかわらず、組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する」と定められており、第二号として「敷地及び共用部分等の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの及び建築物の耐震改修の促進に関する法律第25条第2項に基づく認定を受けた建物の耐震改修を除く。)」が挙げられています。

これは、通常の議案(普通決議)が出席組合員の議決権の過半数で可決されるのと比較すると、はるかに高いハードルです。

例えば、100戸のマンションで1戸1議決権の場合、総会に出席した組合員の議決権の過半数(定足数半数以上出席の場合、最低26票あれば可決)で済む普通決議に対し、特別決議では総組合員数100人のうち75人以上、議決権総数100のうち75以上の賛成が必要となります。WEB会議システムでの出席も、定足数や議決権行使において出席組合員とみなされます。

形状または効用の著しい変更を伴わない共用部分の変更であれば普通決議で可能ですが、機械式駐車場を撤去して平面化することは一般的に「著しい変更」に該当します。

さらに、標準管理規約第47条第8項では、共用部分等の変更が「専有部分又は専用使用部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき」は、その区分所有者または専用使用を認められている組合員の承諾を得なければならないと定めています。

機械式駐車場を撤去する場合、その利用者の専用使用部分(駐車場区画)の使用に特別の影響を及ぼすため、個別の承諾が必要となる点に留意が必要です。これは特別決議の要件とは別に、個別の同意が必要になることを意味します。これは組合員だけではなく、賃貸で住戸を借り、さらに駐車場を借りている人も含まれる点に注意が必要です。

工事期間中の車両退避

撤去工事期間中、機械式駐車場を利用していた車両は別の場所に移動させる必要があります。敷地内の別の場所に一時的な駐車スペースを確保できる場合は良いですが、それが難しい場合は、近隣の月極駐車場などを一時的に借り上げるなどの対策が必要になります。

筆者が以前機械式駐車場撤去に関する相談対応した際には、非常に大規模な管理組合であったことから、一時的に近隣の駐車場と契約して、車を退避させるための台数を相応に確保が必要となるケースがありました。

この期間や費用負担についても、事前に検討し、関係者と合意しておく必要があります。工期が長引くと、それに伴う一時退避の費用や現場監督や工事担当者をはじめとした人件費が増加し、全体の工事費用が高騰する可能性がある点も注意が必要です。

決議後の具体的な工事プロセス

総会での特別決議を経て撤去の方針が固まった後も、工事着手までにはいくつかのステップがあります。

まず、工事計画の詳細化が必要です。どのような工法で平面化するか、排水設備や舗装をどうするかなどを具体的に設計します。この段階で、仕様確定後の正式な見積もりを業者から取得し、費用を確定させます。

業者の選定は非常に重要です。機械式駐車場の撤去・平面化は専門的な工事であり、実績や信頼性のない業者に依頼するとトラブルに繋がる可能性があります。相見積もりを通じて費用だけでなく、提案内容や対応力なども総合的に判断することが大切です。必要であれば、大規模修繕工事の場合と同様に、客観的な視点を持つ建築士などの専門家に見積もり内容のチェックや工事監理を依頼することも検討すべきです。

工事の際には、撤去で発生する金属スクラップの処理なども費用に影響する要因となります。業者との契約内容をしっかりと確認し、予期せぬ追加費用が発生しないように注意が必要です。

その他、管理組合として考慮すべき課題

これまで紹介した以外でも、管理組合として考慮しておいた方が良い事項があるので、以下挙げたいと思います。

長期修繕計画の見直し

撤去工事が完了したら、長期修繕計画を見直す必要があります。機械式駐車場の修繕費用が不要になることで、修繕積立金の額にも余裕ができる可能性もありますが、将来的に必要な建物全体の修繕費を賄えるように、適切な金額を再算定する必要があります。

収支計画において、修繕積立金の累計額が推定修繕工事費の累計額を上回っていることが望ましいとされています。計画期間全体で一時金の徴収を予定していないことや、修繕積立金会計から管理費会計など他の会計への充当がされていないことも、長期修繕計画の実効性を確保する上で重要な点です。

専門家の活用

長期修繕計画の作成・見直しや、建物・設備の劣化診断、工事計画の策定、業者の選定・監理など、専門的な知識が必要となる場面が多くあります。管理会社や建築士事務所などの専門家のサポートを得ながら進めることが、適切な意思決定と工事の実現に繋がります。

管理計画認定制度との関連

マンションの管理計画が一定の基準を満たす場合、都道府県等から認定を受けることができる制度があります。この認定基準には、長期修繕計画が適切に作成されていることや、資金計画(修繕積立金)が適切であることなどが含まれます。

機械式駐車場がある場合の修繕積立金の目安には、機種・台数に応じた加算が行われます。機械式駐車場の撤去により修繕積立金が適正化された場合、管理計画認定を取得しやすくなる可能性があります。

また、管理計画認定を受けたマンションは、一定の要件を満たせば固定資産税の減額措置(マンション長寿命化促進税制)の適用を受けることができます。これは撤去による修繕積立金適正化の副次的なメリットとなり得ます。

まとめ:将来を見据えた慎重な判断を

マンションの機械式駐車場の維持管理は、費用負担や空き駐車場問題など、管理組合にとって頭の痛い課題となることがあります。このような状況を改善するために、機械式駐車場の撤去・平面化は有効な選択肢の一つとなり得ます。

しかし、撤去はマンションの共用部分の形状または効用の著しい変更を伴う重大な決定であり、組合員総数及び議決権総数の各4分の3以上の賛成による特別決議が必要です。特に、現在機械式駐車場を利用している組合員にとっては特別の影響が生じるため、個別の承諾も必要となります。

円滑な事業遂行のためには、計画の初期段階から理事会、修繕委員会等の専門委員会、駐車場利用者、そして全ての区分所有者間で情報を共有し、課題や懸念事項について十分に議論を重ね、丁寧かつ慎重な合意形成を図ることが不可欠です。また、撤去・平面化の費用、工事期間中の代替駐車場の確保、長期修繕計画の見直しなど、様々な側面について専門家の知見も借りながら、現実的な計画を策定する必要があります。

機械式駐車場の撤去・平面化は、一時的な負担や調整が必要ですが、長期的に見ればマンションの維持管理コストを削減し、修繕積立金の積立状況を改善し、資産価値の維持・向上に繋がる可能性があります。将来を見据え、管理組合全体でメリット・デメリットを理解し、納得のいく形で意思決定を進めていくことが、持続可能なマンション運営のためには重要です。

参考文献

今回参考にした資料は、以下の通りです。

✅国道交通省
長期修繕計画作成事務ガイドライン(令和6年6月改定版)
マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和6年6月改定版)
マンションの管理の適正化の推進に関する法律第5条の3に基づくマンションの管理計画認定に関する事務ガイドライン(令和6年9月改定版)
✅マンション管理FP研究室
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