マンションの大規模修繕工事ってどのような流れでやるのか今ひとつ分かりづらい…。
そのようなマンション管理組合の役員の方や区分所有者の方も比較的多いと感じます。
また、よく
どのような流れ・手順で実施すればよいのか
ということも、管理組合からの相談を通じて聞かれます。
今回は最近とあるマンションの大規模修繕工事の修繕委員長も担当したマンション管理士の筆者が、筆者の見解も踏まえつつ分かりやすく紹介したいと思います。
【確認したい】大規模修繕工事検討から完了までを分かりやすく解説
今回の大規模修繕工事の方法について、以下の流れで紹介します。
・具体的な大規模修繕工事の進め方
・大規模修繕工事において注意したいこと
今回比較的簡単な紹介になるので、込み入った内容はご説明しませんが、またそれぞれの細かな部分については、改めて紹介の機会を考えたいと思います。
大規模修繕工事に着手する前に確認しておきたいこと
まず初めに、大規模修繕工事を検討するにあたって工事に着手する前に、管理組合として事前に考えておいたほうが良い点について解説します。
長期修繕計画との整合性
多くのマンションにおいて、長期修繕計画を立案しているところがほとんどでしょう。
その場合、工事の時期が12~15年程度毎に計画されていると考えられます。
工事のタイミングに合わせて、修繕積立金を積み立てているかと思います。
そのため、計画を見ると
近々大規模修繕工事を実施しなければならない
という意識が高まってきます。
「必ずしもそのタイミングにしなければならない」
ということではないですが、理事会や区分所有者としても計画があれば、意識することとなるのではないでしょうか。
建物点検時における劣化の指摘
定期的にマンションの劣化状況の診断を実施するところがほとんどでしょう。
その中で、想定以上に劣化している個所で
・大規模修繕工事で計画通りに実施する箇所
・次回の大規模修繕工事で一部の個所に限定して実施することで足りる箇所
なども考えられるかもしれません。
現在のマンションがどのような状態にあるのか、専門家のチェックにより、定期的に確認しておく必要があるといえます。
管理会社からの大規模修繕工事の提案
前回は12年前に実施したから、または長期修繕計画に則って、そろそろ準備したほうがよいでしょう。
このような形で管理会社からの提案も想定されます。
管理会社の指摘により、そろそろ検討しなければならない、そのような理事会の意思決定も考えられるかもしれません。
管理会社からの提案については、後述する注意点でも紹介しますが、一定の確認をしながら実施することが望まれます。
居住者からの要望やクレームがあった
居住者である組合員から、
・共用部分の劣化の影響でうちの住戸で雨漏りが発生した。全体的にもそのような状況になっているから、大規模修繕工事が必要なのではないか?
このような指摘が理事会や理事長宛にくることもあります。
そのような場合には、工事を検討するきっかけになるとともに、もしかしたらすでに工事をすべき兆候が出ているのかもしれません。
都度各住戸を修繕するよりも、大規模修繕工事でまとめて工事することによって、今後の発生を未然に防げることも考えられるうえ、結果的に修繕コストが安くなることも考えられます。
工事に費やされる期間の確認
大規模修繕工事には、後述する流れをすべて実施するとなると、おおむね3~4年の期間は管理組合として、大規模修繕工事に関して拘束されることとなります。
どこまでを「大規模修繕工事」というかというのも、管理組合の見解としてあるかと思いますが、
・理事会、総会等における合意形成
・さらには実際の大規模修繕工事
・工事終了後の長期修繕計画の引き直しや修繕積立金の見直し
など、現場の工事だけではない、工事に付随事項があることも意識する必要があります。
具体的な大規模修繕工事の進め方
では、具体的に大規模修繕工事はどのような流れで進めるのがよいのでしょうか?
必ずしもこの通りとは限らず、また前後する場合もあるかもしれませんが、一般的な考え方を紹介します。
具体的には、
2.コンサルタントの選定(設計監理方式の場合)
3.大規模修繕工事の準備に関する総会決議
4.建物の状況把握
5.設計図書の作成
6.施工会社の選定
7.大規模修繕工事の内容を総会で決議
8.工事の準備
9.工事着工から工事完成後の引き渡し
10.長期修繕計画の見直し
となりますので、順番に解説します。
修繕委員会の設立
大規模修繕工事を検討するにあたっては、修繕委員会の組成が望まれます。
理由は
・理事だけでは工事の準備期間含めた3~4年では入れ替わってしまう
・区分所有者に幅広く門戸を開き意見を吸い上げる
・多数の区分所有者の参加により大規模修繕工事に向けての一体感を高め、合意形成をしやすくする
などが考えられます。
以下の記事に詳細を記載していますので、併せてご参照ください。
コンサルタントの選定(設計監理方式の場合)
大規模修繕工事の種類には、おもに
・責任施工方式(施工会社の責任で実施)
・プロポーザル方式(自由に工事の企画を提案)
と言われる手法がありますが、設計監理方式で実施する場合は事前に一級建築事務所など、設計監理を専門にやっている会社と取り組んでいく必要があります。
そのため、実績や評判等によって設計監理を行ってもらう会社を、理事会や修繕委員会で選定する必要があるでしょう。
大規模修繕工事の準備に関する総会決議
大規模修繕工事という、管理組合にとって一大プロジェクトを動かすにあたって、どのような形で進めていくのか、事前に準備をしていくことから始めます。
そのためには、管理組合として合意形成をとっておく必要があるでしょう。
修繕委員会は、管理規約により理事会の諮問委員として設置できる場合は、総会の決議を経ずに組成することができます。
一方で、
・大まかな大規模修繕工事の予定時期
・一緒に考えていってくれる設計監理会社の選定とコンサル料、条件
などは、この段階で管理組合総会の決議を取っておくことが大切でしょう。
建物の状況把握
管理組合として大規模修繕工事を実際に実施する方向性が握れれば、今度は自分たちのマンションがどのような状況になっているのかを確認しておく必要があります。
具体的には、以下のような内容を確認します。
・コンサルタントと修繕委員会による組合員へのアンケート調査
・修繕委員会や理事会における調査結果の共有と組合員に対する報告
・大規模修繕工事における改修項目の選定と改修方法の検討
とりわけ、修繕委員はコンサルタントと一緒にマンションを回って劣化状況等を説明してもらうとともに、把握しておくことも重要です。
また、劣化状況の調査は、バルコニーの立ち入りもあるため、修繕委員会における調査住戸の選定や組合員への依頼も必要となってくるでしょう。
そして、調査結果は、予定工事項目等とともに、大規模修繕工事説明会等で組合員に対する説明の場を設け、情報を共有することが大切です。
設計図書の作成
コンサルタントが、調査結果やアンケート結果、工事予算等により、具体的な工事項目と工事方法を検討し、設計図書に落とし込みます。
設計図書には、
・設計図
・工事費積算書
・見積要領書
・スケジュール表
などが含まれます。
修繕委員や理事会とコンサルタントとの間において協議を行い、具体的な工事項目、内容、予算について決定します。
決定した設計図書を施工会社に渡して、見積もりの徴収を行います。
設計図書には、コンサルタントが算出した金額は提示せずに、施工会社に工事仕様書や設計図から改めて独自で金額を出してもらうこととなります。
施工会社の選定
施工会社を公募して、応募してきた会社の応募要件や大規模修繕工事の実績、経営状況等により、一次選定を行います。
選定した会社に見積もり依頼を行い、二次選定で3社程度に絞ります。
3社からプレゼン等を通じてヒアリングを行い、1社に内定します。
コンサルタントに協力を仰ぎながら施工会社を選定しますが、選定においては管理組合が主導で選定を行う必要があり、コンサルタント任せにしないようにしなければなりません。
最終決定は、理事会や修繕委員会の全メンバーが選定した会社のプレゼンに参加し、内定1社を決めることが望まれます。
一部の役員によって決めて、後々その他の役員から納得感がないようなことが出ないようにすることが大切です。
大規模修繕工事の内容を総会で決議
修繕委員会ならびに、理事会にて、大規模修繕工事のおおむねの流れが決まった段階で、総会の決議にかけることとなります。
具体的には、大規模修繕工事の具体的な内容として、
・工事期間
・工事金額
・具体的な工事の内容
を決議していくこととなります。
工事期間は、季節によっては天候不良により工事ができない時期も見込んでおくことが望まれます。
さらに、工事金額は、工事費+予備費(発注金額の10%程度)を見込んでおく必要があります。
工事の準備
総会で決議されたら、工事の準備に取り掛かることとなります。
工事準備から工事開始までは、3か月程度は準備期間を取りたいところです。
その間に、
・工事説明会の開催
・タイルのある物件では色合わせのための見本焼きの実施
・マンション敷地内における資材置き場やトラック搬入時の取り決め
などを行います。
とりわけ、工事説明会においては、組合員向けに工事中の注意事項を説明します。
また、組合員を含めて、それ以外の賃貸の住民にも影響することとなるため、組合員とそれ以外の賃貸等の住民の居住者に対して、工事のお知らせや掲示を行うことが必要となります。
工事着工から工事完成後の引き渡し
準備が完了したら、工事着工となります。
月1回か2回程度は、修繕委員会や理事会と、コンサルタント、施工会社との間で、工事定例会を行うことが望まれます。
その中で、コンサルタントと施工会社から
・工事における問題点
・工事内容に変更・追加があるか
などの報告を受けながら、協議を行っていきます。
また、工事の検査も修繕委員会においても立ち会っていく必要があります。
具体的には、
・工事完成時の検査
については、必ず立ち会うことで、工事に不備がないか、委員会側としても確認しておくことが望まれます。
工事完成後に工事関連書類として、施工会社から工事竣工図書が渡されます。
工事竣工図書は、アフターケアや今後の工事を行う際にも重要な情報となります。
量は多いですが、修繕委員会や理事会としても内容を確認しつつ、不明点は引き渡しからなるべく早い段階で確認しておくことが望まれます。
長期修繕計画の見直し
国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでも、長期修繕計画は5年程度毎に見直すことが望まれています。
そのため、工事の期間中または、工事終了後の修繕内容が明確化した段階で、改めて長期修繕計画を見直し、次回いつ工事を実施すべきか修正することが求められます。
また、これまでしばらくの間(5年以上)、長期修繕計画が修正されていない場合や、作成したことがない、手元に残っていないなどの場合も、改めて長期修繕計画を作成することも必要です。
直近実施した大規模修繕工事をよく知る修繕委員会を中心に長期修繕計画を作成し、総会で承認を得ることも必要となります。
大規模修繕工事において注意したいこと
大規模修繕工事における事前確認と工事の流れを紹介しました。
中でも、工事前後において注意しておいたほうが良い点を最後に紹介します。
管理会社からのアドバイス
管理会社は、管理組合の内情を知っており、具体的な修繕積立金の額も把握しています。
また、長期修繕計画も把握しており、いつ工事のタイミングが来るかも分かっています。
そのため、大規模修繕工事をビジネスにしたいと考えることも見方によっては考えられ、工事をするタイミングを見計らってアドバイスをしてくることも考えられます。
事前に大規模修繕工事に対する管理会社の立ち位置をみておくことも大切でしょう。
具体的には、
・管理会社と切り離して独自に大規模修繕工事を考えることは可能か
などです。
後者の場合には、通常の管理において、小修繕を管理会社が元請けとして行っている場合、影響がでることも考えられますので、注意する必要があるでしょう。
工事保証内容の確認
大規模修繕工事の各工事箇所には保証期間が設定されています。
各工事箇所によって、その保証内容や期限もことなることとなるため、管理組合としてはどの箇所が、いつまで保証があるのかを確認しておくことが望まれます。
工事終了後は修繕委員会は解散していることとなるため、理事会内で継続的に引き継ぎながら、保証期間を確認しておくことも重要でしょう。
不適切コンサルタントの存在
最後に、設計監理に関する不適切コンサルタントについてです。
2017年1月に国土交通省からの書面として、
設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知)
という書面が、マンション主要4団体に対する協力要請として出されました。
具体的には、以下のような現象が出ているというものです。
・設計監理事務所がコンサルタント費用より安い費用を管理組合に提示し低額で受注する
・不足分を回収するために工事を受注した施工会社から還流させる(バックマージンを受領)
一方で、管理組合としては、外からではこのような流れはわからず、かつ設計監理会社が、バックマージンを受領しているかどうか見つけるのは極めて困難です。
そのため、管理組合で独自に学んでいくしかないのですが、具体的には
・輪番で理事が変わっても引き継ぎ等を行い業務として継続しノウハウを貯める
・緊張感がある隙がない管理組合である印象をコンサルタントに与える・けん制する
などが考えられます。
大規模修繕工事は管理組合全体で対応を
12~15年程度の周期で実施が必要な大規模修繕工事ですが、前回工事から次回工事にかけて、それまでのノウハウもなかなか継続が難しくなります。
当時の修繕委員や理事が転居していたり、高齢で工事に関与できなくなっていたり等、管理組合によって事情があります。
しかしながら、日々のマンション管理と同様に、将来の大規模修繕工事についても、定期的かつ計画的に管理組合全体で議論しておけば、個々の組合員の意識も高まります。
そして、前章で確認したような3つの注意点も、たとえ役員輪番制であっても、難なく引き継ぐことでクリアできるでしょう。
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