マンション管理組合のための賢い修繕積立金運用ガイド:すまい・る債を徹底解説【分かりやすい音声解説付き】

マンション管理

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マンションにお住まいの皆さんにとって、修繕積立金は建物を長期にわたって維持・管理していく上で非常に重要な資金です。しかし、近年、建築資材や人件費の高騰により、計画通りの修繕費用を確保することが難しくなるケースが増えています。このような状況を踏まえ、多くのマンション管理組合が、集まった修繕積立金をただ銀行に預けておくだけではなく、計画的に運用して将来の修繕に備えようという動きを加速させています。

修繕積立金の運用方法にはいくつか選択肢がありますが、中でもマンション管理組合にとって比較的馴染み深く、注目を集めているのが、住宅金融支援機構が発行する「マンションすまい・る債」です。

このコラムでは、「マンションすまい・る債」がどのような商品なのか、どのようなメリットや注意点があるのか、そしてどのように申し込むのかを、マンション管理士でもあり、FP1級(一級ファイナンシャル・プランニング技能士)でもある筆者が分かりやすく解説します。安全に修繕積立金を増やしたいと考えている管理組合の方は、ぜひ最後までお読みいただき、今後の運用検討の参考にしてください。

マンション管理組合の修繕積立金を取り巻く現状

物価上昇が修繕費用に与える影響

ご存知の通り、近年は様々なものの価格が上昇しています。これはマンションの大規模修繕工事や設備の改修・更新にかかる費用にも影響しており、建築資材費や人件費の高騰により、以前に立てた長期修繕計画で想定していたよりも費用がかさんでしまう懸念が出てきています。

修繕積立金の積立状況と課題

国土交通省の調査によると、約4割のマンション管理組合が「計画通りの積立ができていない」と回答しているようです。物価上昇に伴い、この傾向はさらに強まる可能性があり、将来的に必要な修繕費用が不足することが懸念されています。

現在の主な運用方法

このような状況にもかかわらず、多くのマンション管理組合の修繕積立金は、依然として低金利の銀行預金に眠ったままであるとされています。実際、令和5年度のマンション総合調査では、修繕積立金の運用先として最も多かったのが銀行の普通預金で、次いで定期預金、決済性預金となっており、これらは「運用している」というよりは「口座に入れているだけ」という解釈ができます。特に、完成年次が古いマンションほど、銀行の普通預金の割合が多い傾向が見られます。

注目される修繕積立金の運用方法

このような背景から、マンション管理組合の間で関心が高まっているのが、修繕積立金の効率的な運用です。様々な運用方法がある中で、近年特に応募数を増やしているのが、住宅金融支援機構が発行する「マンションすまい・る債」です。

「マンションすまい・る債」は、マンション管理組合が修繕積立基金や修繕積立金などをまとめた金額で購入できる債券商品で、修繕積立金の代替運用先として利用できます。これは、住宅金融支援機構という国の認可を得て発行する債券であり、原則として10年満期の全期間固定金利債です。マンション管理組合は「マンションすまい・る債」を購入(積立て)することで、将来の修繕資金を計画的に運用することが可能です。

「マンションすまい・る債」の詳しい内容とメリット

では、「マンションすまい・る債」にはどのような特長やメリットがあるのでしょうか。

安全性の高さが大きな特長

「マンションすまい・る債」の大きなメリットの一つは、その安全性の高さです。発行体である住宅金融支援機構は、資本金の全額を政府が出資している機関であり、債務全体を履行する総合的な能力(信用力)に関する外部機関からの評価である格付けも、国債と同等水準の評価を取得しています。さらに、マンションすまい・る債の元本については、機構法において、機構の財産より優先的に弁済されることが定められており、管理組合から預かった財産を保全するための措置が講じられています。

ただし、安全性が高いとはいえ、発行体である機構の信用状況の悪化等により、元本や利息の支払が滞る可能性や、元本割れが生じる可能性はゼロではありません。また、マンションすまい・る債は預金保険制度の対象ではありませんので注意が必要です。

定期的な利息の支払いと購入単位

「マンションすまい・る債」は利付10年債であり、満期までの10年間、毎年1回定期的に利息を受け取ることができます(通常毎年2月予定)。これにより、運用状況を実感しやすく、管理組合の会計計画にも組み込みやすいでしょう。

購入は1口50万円単位から可能で、一度購入すると、応募時に届け出た積立希望口数を毎年最大10回まで継続して購入し、積立てていくことができます(1回のみの購入も可能です)。ただし、購入した口数を後から分割したり、口数を変更したりすることはできません。

中途換金が手数料無料

マンションの修繕は計画通りに進むとは限りません。大規模な災害や予期せぬ設備の故障などで、急にまとまった修繕費用が必要になる場合もあります。「マンションすまい・る債」は、初回債券発行日から1年以上経過すれば、手数料なしで、修繕工事等のために1口単位で中途換金が可能です。また、やむを得ない事情がある場合には、債券発行から1年以上経過していなくても中途換金が可能な場合があります。中途換金時には、購入金額(元本)に所定の利息を加えた金額が支払われます。ただし、中途換金には機構による審査及び承認が必要です。

中途換金が可能な金額は、その時点で保有する債券の残高の範囲内であれば一部でも全部でも可能で、複数回に分けて行うこともできます(ただし、同じ月に中途換金できるのは1回のみです)。中途換金額は購入した債券1口あたり50万円で、これに加えて経過利息が支払われます。経過利息に対しては課税されますが(源泉分離課税)、中途換金自体に手数料はかかりません。

管理計画認定で利率が上乗せされる「認定すまい・る債」

2025年4月からは、地方公共団体が定める基準を満たし、「管理計画認定制度」の認定を受けたマンションの管理組合が「マンションすまい・る債」を購入する場合、債券の利率が上乗せされる「認定すまい・る債」の募集が開始されました。

2025年度募集の場合、通常の「マンションすまい・る債」の10年満期時年平均利率(税引前)が0.525%であるのに対し、認定を受けたマンション向けの利率は0.575%に上乗せされます。管理計画認定を取得している管理組合にとっては、より有利な条件で修繕積立金を運用できるメリットがあります。

管理計画認定制度は、マンションの適切な管理を推進するための制度であり、借入れがある場合でも、適正な長期修繕計画があり、計画最終年度までに借入れを完済していれば認定取得の可能性があります。認定を取得することで、資産価値向上や共用部分リフォームローンの借入利率引き下げといったメリットも得られます。

リフォーム融資利用時の優遇措置

「マンションすまい・る債」を積立てている管理組合には、住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」を利用する際に、金利や保証料の優遇措置が受けられる特典があります。

「マンション共用部分リフォーム融資」は、大規模修繕工事等を実施する際に利用できる、マンション管理組合向けの融資制度です。この融資を利用する際に「マンションすまい・る債」の残高がある場合、融資金利が年0.2%引き下げられ、さらに、(公財)マンション管理センターの保証を利用する場合、保証料が2割程度割り引かれます。これは、将来的に大規模修繕などで融資が必要になる可能性がある管理組合にとって、非常に魅力的な特典と言えるでしょう。

管理組合としては、

「余剰資金があってマンションすまい・る債を購入しているにも関わらず、なぜ共用部分リフォーム融資で借金をしなければならないのか?」

という疑問が生まれるかと思います。確かに、自己資金の運用と借金という、いわゆる両建てを行うことによる違和感もあるでしょう。すまい・る債で運用している中で満期になる前に、新たな工事が必要となり、少額であっても資金需要が発生することも考えられます。そのようなケースを考えると、いわゆる「両建て」という考え方もあり得るかもしれません。

「マンションすまい・る債」のデメリットと注意点

多くのメリットがある「マンションすまい・る債」ですが、運用にあたってはいくつかのデメリットや注意点もあります。

物価上昇率との比較

「マンションすまい・る債」の利率は、現在の低金利の銀行預金と比べると高い水準にありますが、近年進む建築コストの上昇率と比べると、その利回りは低いという側面があります。つまり、運用によって得られる利息だけでは、修繕に必要な資材や人件費の上昇分を十分に補えない可能性があるということです。

資金が増えにくい側面

上記とも関連しますが、「マンションすまい・る債」は安全性の高い商品である反面、長期的な視点で見ても修繕積立金の金額を大きく増やすことには向いていないと言えます。積極的に資金を増やして、物価上昇による修繕費用の増加に備えたいと考える場合には、期待する成果が得られない可能性があります。

すまい・る債を購入した結果、修繕積立金の余剰が十分でなくなる可能性

すまい・る債のメリットとして中途換金ができるものの、購入から1年以内や満期償還の年(例えば発行からちょうど10年目)の2月には、満期償還を待つ必要があり、この月だけは中途換金ができないというルールがあります。

仮に、工事で支出を計画している場合は、修繕積立金に余剰を残すなどの余裕を持っての購入が必要となります。

「マンションすまい・る債」への応募方法と流れ

「マンションすまい・る債」の購入を検討している管理組合は、以下の応募方法と流れを把握しておきましょう。

年に一度の募集期間と先着順の注意

「マンションすまい・る債」の募集は年に一度行われます。2025年度の応募受付期間は、2025年4月21日から2025年10月10日までとされています。

ただし、募集口数には上限があり、応募は先着順となります。応募口数が募集口数に達した時点で受付終了となり、募集口数を超過した場合は、応募期間終了日が前倒しされます。そのため、応募を検討している場合は、募集開始に合わせて早めに準備を進めることが非常に重要です。

応募に必要な書類

応募にあたっては、原則として以下の書類の提出が必要です。

  • 積立申込書兼送付先指定依頼書
  • 管理規約(全文)の写し
  • 代表権等確認書類(マンション管理組合の名称及び代表者の代表権を確認する書類。総会議事録などが含まれます。)

なお、応募時には代表者の本人確認書類の提出は不要ですが、購入時に提出する必要があります。

申し込み方法(郵送とWeb申込サービス)

応募は、応募書類を郵送する方法と、インターネットを通じて手続きを行う「マンションすまい・る債Web申込サービス」を利用する方法があります。

Web申込サービスを利用すると、応募・積立て、残高証明書のダウンロード、中途換金や登録内容変更等の各種手続をオンラインで行うことができます。Web申込サービスのご利用にあたっては、事前に委託先の管理会社に相談することをお勧めします。管理会社があらかじめ利用登録を行っている場合、管理会社が応募内容の入力等の手続を代行し、理事長が申請内容を承認するという流れで進めることも可能です。

応募にあたっての重要な準備

「マンションすまい・る債」への応募は先着順であり、早期に締め切られる可能性があるため、管理組合としてスムーズに手続きを進めるためには事前の準備が欠かせません。具体的には、

  • 運用する資金の額(すまい・る債の購入口数)を検討する。修繕積立金や修繕積立基金など、まとまった金額で購入できます。
  • 運用を開始するための総会決議を行う。管理規約によっては、修繕積立金の運用方法について総会での決定が必要な場合があります。通常、借入れに関する総会決議は普通決議(出席者の過半数)で可決されることが多いですが、運用に関する規約を確認し、適切な決議方法を確認しておく必要があります。
  • 総会決議後、速やかに申し込み手続きを行う

これらの準備を募集開始前に行っておくことで、希望通りの購入が可能になる可能性が高まります。

他の主な運用方法との比較

「マンションすまい・る債」以外にも、マンション管理組合が修繕積立金を運用する方法はいくつかあります。ここでは、主な運用方法として挙げられる定期預金と国債について簡単に触れ、「マンションすまい・る債」と比較してみましょう。

定期預金

定期預金は、普通預金よりも高い金利で預けることができる運用方法です。リスクはほとんどなく安全性の高い方法と言えます。しかし、現在の金利水準は非常に低く、例えば三菱UFJ銀行の10年もののスーパー定期でも年0.4%程度(記事紹介日現在)という状況です。「マンションすまい・る債」の2025年度の利率(0.525%または0.575%)と比べると、条件は劣ります。また、急に資金が必要になった場合に途中解約すると、適用される利率が低くなるデメリットがあります。

国債

国債は国が発行する債券で、管理組合でも購入が可能です。2024年10月11日現在の情報では、管理組合が購入可能な新窓販国債の10年ものの利率は年0.827%(税引き後)と、「マンションすまい・る債」や定期預金と比べて利率は非常に良く見えます。しかし、国債には価格変動リスクがあり、満期前に換金する場合などに元本割れ(購入した金額より少ない金額で戻ってくること)の可能性がゼロではありません。安全性が非常に高い「マンションすまい・る債」とは、リスクの性質が異なります。

各運用方法の比較まとめ

運用方法 安全性 利回り(目安) 中途換金 その他注意点
マンションすまい・る債 高い 銀行預金より高い 手数料無料 物価上昇率との差、早期締め切り
定期預金 非常に高い 低金利 途中解約で利率低下 期間によってはほぼ利息が付かない
国債 高い すまい・る債より高い場合あり 価格変動リスクあり 元本割れの可能性

マンション管理組合の修繕積立金は、将来必ず必要になる大切な資金です。運用によって大きく増やすことよりも、安全性を最優先に考えることが重要です。その点において、「マンションすまい・る債」は安全性が高く、他の運用方法と比較しても有利な条件があるため、多くの管理組合に選ばれていると言えるでしょう。

マンション管理組合が運用を成功させるためのポイント

修繕積立金の運用、特に「マンションすまい・る債」のような新しい運用方法を導入する際には、管理組合内で円滑に進めるためのポイントがあります。

区分所有者間の合意形成

修繕積立金はマンションの全区分所有者の共有財産です。運用方法を変更したり、新しい運用商品を購入したりする際には、区分所有者間の十分な話し合いと合意形成が不可欠です。投資や運用に対する意識は区分所有者によって様々であり、運用経験がない方にとっては不安を感じることもあるでしょう。運用方法のメリットだけでなく、デメリットやリスクについても丁寧に説明し、理解と協力を得ることが重要です。総会での円滑な決議のためにも、事前の丁寧な説明会や資料配布などが効果的です。

長期修繕計画と一体で運用を考える

修繕積立金の運用は、長期修繕計画と一体で検討することが必須です。将来の修繕計画でいつ、いくらくらいの費用が必要になるのかを見通した上で、必要な時期に資金が不足しないように運用計画を立てる必要があります。運用によって得られる収益を長期修繕計画にどのように反映させるか、または計画自体を見直す必要があるかなど、総合的に検討することが求められます。

専門委員会や専門家の活用

修繕積立金の運用は専門的な知識が必要となる場合もあります。管理組合内に運用に詳しい方がいない場合は、修繕積立金の運用に関する専門委員会を設置したり、マンション管理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談したりするのも有効な手段です。専門家からの客観的なアドバイスを受けることで、より適切な運用計画を立てることができます。

すまい・る債を分かりやすく音声解説

最後に、これまで紹介したすまい・る債について、音声で解説します。他の運用方法との比較にや、管理組合が取り組むべき課題への投げかけなど、リアリティある内容で構成しました。

すまい・る債の解説を2人が非常に分かりやすく解説しています!

こちらを聴いて全体像をつかんでから、改めてコラムや住宅金融支援機構のホームページを見ると理解しやすいかもしれません。

まとめ:すまい・る債を活用して計画的な修繕資金を

物価上昇による修繕費用の増加という課題に直面しているマンション管理組合にとって、修繕積立金の計画的な運用は避けて通れないテーマとなっています。

住宅金融支援機構の「マンションすまい・る債」は、国の機関が発行する高い安全性を持ち低金利の銀行預金よりも有利な条件で、かつ中途換金も手数料無料で行える など、マンション管理組合の修繕積立金の運用先として多くのメリットを持つ商品です。特に、管理計画認定を取得しているマンションであれば、さらに有利な利率で運用できます。また、将来的な大規模修繕で融資を検討する場合にも、金利や保証料の優遇が受けられる特典も魅力的です。

一方で、物価上昇率に見合うほどの大きな運用益は期待しにくいという側面や、応募が先着順で早期に締め切られる可能性があるといった注意点もあります。

マンション管理組合が「マンションすまい・る債」を活用して修繕積立金を運用するためには、区分所有者間の丁寧な合意形成、長期修繕計画に基づいた計画的な検討、そして必要に応じて専門家のアドバイスを得ること が成功の鍵となります。

ぜひこのコラムを参考に、「マンションすまい・る債」を賢く活用し、皆さんの大切なマンションの長期的な維持・管理に役立ててください。

参考文献

今回のコラムで参考にした文献は以下の通りです。

✅住宅金融支援機構 すまい・る債 ホームページ
【マンションすまい・る債】のご案内
管理組合のための積立てサポート債券 【マンションすまい・る債】
✅横浜マンション管理・FP研究室
管理組合余剰資金の運用方法は?マンション管理士兼FP1級が解説
【令和7年度最新】国土交通省補助金(マンション関連等)の概要
【規約解説】マンション管理組合の借入れとは?標準管理規約第63条をわかりやすく解説!
【記事解説】マンション組合、資産運用に動く 物価上昇で修繕に懸念(日経)
管理計画認定向けすまい・る債募集枠超え【マン管新聞231125】

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