横浜市は管理計画認定制度における認定マンションが比較的多くなってきています。
とりわけ、政令指定都市の中でも、東京23区を除いてマンションストック戸数においてトップであり、目立っていることもあるでしょう。
※東京カンテイ2023年1月31日リリースより
そのような中、横浜市は勿論ですが、その他の自治体においても今後自治体が主体的に実施する管理計画認定制度について注目されてくることとなり、自らのマンションがその認定水準に該当するものであるのか、気になる所となります。
今回は、管理計画認定制度のなかでも、一番チェック項目として注目される長期修繕計画にフォーカスし、具体的な審査におけるチェックポイントについて解説します。
【要確認】管理計画認定マンションになる為の長期修繕計画のポイント
今回は以下の内容で構成されています。
・管理計画認定制度における長期修繕計画のチェック内容
・見逃せない長期修繕計画のチェックポイント4つ
基本的な内容は整っている管理組合は多いものの、長期修繕計画は適時適切に作成され、それが総会承認を経ているかなど、作成においての条件が整っている必要があります。
そのような条件について、せっかく作成したのに再提出にならないように…ということで、事前に見ていくべきチェックポイント等を含めて紹介します。
管理計画認定制度ではなぜ長期修繕計画が重要なのか
まず、管理計画認定制度では長期修繕計画に関するチェックポイントが比較的多く準備されています。
国や自治体としては、それだけ長期修繕計画の作成が重要との認識だと考えられますが、なぜ重要なのか、確認していきたいと思います。
先日ご紹介したこちら
も合わせてご確認下さい。
マンション長寿命化の要請
マンションは建て替えすることは好立地ややむを得ない状況の除きほぼ不可能であり、継続的な修繕によりどれぐらいの期間もたせることが出来るのかが重要となっています。
国や自治体としては、マンションの管理が不十分で問題がある状況にしたくはなく、管理組合がマンションの管理において機能している状態を保ち、できるだけ長く持たせることを望んでいます。
マンションのコンクリート構造は上手く修繕等の手入れをすると100年はもつともいわれているので、仮に築50年の旧耐震マンションであっても、しっかりと修繕や手入れをすればさらに50年はもたせることは出来る可能性もあります。
そのためには、長期的な視点に立ったマンションとしての計画、すなわち長期修繕計画の立案と運用が重要になってくるというのは自然な流れでしょう。
管理組合としての計画性があるマンション管理運営の必要性
マンションとしての計画があれば、それを拠り所として今後の修繕工事や修繕積立金を確保を図っていくことが可能になります。
逆に、それがないと計画性がないマンションとなり、修繕工事はいつやればいいのか、また修繕積立金は将来の工事を見据えるにあたって十分なのかも分かりません。
管理組合運営を計画的に行っていくためには、長期修繕計画の様な計画が必要となってくることは何となくお分かりいただけるかと思います。
ひな形に準じる場合将来的に必要な工事や金額が明らかになる
上記の2項目によって計画を立てる重要性は理解したものの、具体的には将来どのような工事を実施して、そのためにはどれぐらいの修繕積立金が必要なのかが重要となります。
国土交通省が提示している、長期修繕計画にはひな形が存在し、そのひな形に沿った工事や工事代金が充当できるような修繕積立金はどれぐらい必要なのか、また修繕積立金は専有床面積あたり月間どれぐらいの単価を目安としなければならないのかなどが算出できるようになっています。
「●長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(最終改正 令和3年9月)」にあります。
管理組合ではこれを作成するのは難しいかもしれないですが、ひな形自体は結構使える仕様になっています。
実際は調査して各工事項目がこれから先どれぐらいで必要になりそうかを試算しながら入れていく必要がありますが、ある程度寿命等を考えて管理会社やコンサルタントとともに数字をたたいてみてもいいかもしれません。
管理計画認定制度における長期修繕計画のチェック内容
続いて、管理計画認定制度の長期修繕計画の審査項目においては、どのような点をチェックするのでしょうか。
以前こちら
でも紹介、解説していますが、改めて長期修繕計画の項目だけ抜き出して紹介します。
長期修繕計画(標準様式準拠)の内容及びこれに基づき算定された修繕積立金額が集会(総会)で決議されている
上記でも少し触れている点ではありますが、長期修繕計画として標準様式に準拠した工事内容が織り込まれている必要があります。
長期修繕計画の標準様式には、推定工事項目として19の工事内容があります。
長期修繕計画の内容に、これらの工事について計画がなされているかが重要となります。
具体的な19項目を以下に列挙します。
これらの工事項目は、ガス設備、立体駐車場設備等、設備がないものは含める必要はなく、かつ、例えば「19長期修繕計画作成費用」について、通常の管理費の中に見直し対象として織り込まれている場合は、その旨を記載すればよいとされています。
それ以外に9つの要件があり、具体的には
・ 修繕工事のおおよその実施時期
・ 修繕積立金の月当たり㎡単価
・ 長期修繕計画書の計画期間が30年以上の設定期間であること
・ 認定申請日以降の残存期間において大規模修繕工事(※)が2回以上含まれていること
※建物の外壁について行う修繕又は模様替えを含む大規模な工事
・ 計画期間当初における修繕積立金の残高
・ 計画期間全体で集める修繕積立金の総額
・ 計画期間全体における専用使用料等からの繰入額の総額
・(借入れがある場合)借入れの状況
という点です。
長期修繕計画を作成するのにあたって、各工事項目の費用とともに、実施時期やその年の工事費用の合計、修繕積立金の月当たりの㎡単価の表記が必要です。
とりわけ㎡単価は後述する「長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく低額でない」にも関係するところであり、必ず㎡単価を割り出しておく必要があります。
また、これらの工事が30年以上の計画性をもったものであり、その30年間の間に2回以上の大規模修繕工事の計画が織り込まれている必要があります。
「30年以上で2回以上」のため、40年の計画で3回の大規模修繕工事などでもいいわけですが、筆者が見てきた中では30年で2回の計画となっていることが多い印象です。
また、修繕積立金として当初どれぐらいあって、計画期間中に総額どれぐらい集めて、さらに駐車場使用等からの繰入額があればその総額、さらには借入を行う場合はその状況も数値として織り込む必要があります。
結果的に
となり、計画期間中使える修繕積立金に対して、実施すべき工事内容と比較して、修繕積立金が足りるのか否か、さらに工事内容を見直すまたは将来に調整する等、将来に向けて計画性を持たせた修繕計画が立てられることが可能となります。
また、これらの計画が総会で決議されており、管理組合全体として認識されているものでなければなりません。
その他のチェック内容
前項の内容の充実が一番求められるところですが、その他必要な点について紹介します。
長期修繕計画の作成又は見直しが7年以内にされている
これはさほど気にはならない所ですが、あまりにも古い長期修繕計画ではダメということです。
筆者が見てきた管理計画認定マンションは、制度の直後に提出していることから、意識が非常に高く、長期修繕計画は直近開催されたものや前年度に開催された総会で決議され、提出されているところが一般的です。
そのため、作成が7年以内と古いマンションはありませんが、管理計画認定制度に出すために見直して、提出することも望まれます。
長期修繕計画の計画期間が30年以上かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれている
計画期間が30年以上のものであり、その期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれているものである必要があります。
これは、計画期間は30年以上なので、30年でも、50年でもいいわけですが、ほとんどのマンションは30年で計画されています。
その場合は、15年ごとを目途に大規模修繕工事(建物の外壁について行う修繕又は模様替えを含む大規模な工事)を実施する計画となりますが、それに合わせて修繕積立金を適正に積み立てていくよう、計画していく必要があるといえます。
長期修繕計画において将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していない
これは工事の段階で足りないからということで、その前後で一時的な修繕積立金の徴収を行っていない、すなわち、将来の工事において計画性がない長期修繕計画になっていませんよね?という確認となります。
管理組合として果たして現実的なのかという観点でのチェックとなります。
国土交通省としては、一時金を含めた修繕積立金の徴収はもちろんですが、年々修繕積立金が上がっていく段階増額方式も推奨すると言及はしていません。
ただし、段階増額方式を採用しているマンションだからと言って長期修繕計画がNGではなく、「均等積立方式が望ましい」としています。
長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく低額でない
著しく低額ではないというのは、長期修繕計画において、計画期間における月当たりの修繕積立金の㎡単価の目安があり、そこをクリアしているかどうかがチェックされます。
こちら
に細かく記載していますので今回割愛しますが、基準額をクリアする様に修繕積立金を徴収するとともに、必要な修繕工事に対する計画をバランスよく立ててくださいということになります。
基準をみたない修繕積立金単価となると、自然と増額はやむを得ないこととなり、年々修繕積立金を増額していく段階増額方式や、大きく値上げしてその後一定の修繕積立金とする均等積立方式、または一時金を取らざるを得ないこととなります。
計画期間の最終年度において、借入金の残高のない計画となっている
もし2回の大規模修繕工事のなかで借入をして実施する場合、長期修繕計画において借入の想定額を入れておくのはよいが、計画最終年度までには、借入がない状態にしておく必要があります。
マンションの将来においては、仮に計画上でマンションを壊して、更地にしていく場合は、修繕積立金徴収という概念はなくなります。
そうなった場合には借入に対する返済原資が無くなることも考えられることから、将来的には借入がない状態にしておくことが望まれます。
見逃せない長期修繕計画のチェックポイント4つ
長期修繕計画をチェックしていて、管理組合として課題となりそうなところや、管理計画認定制度で細かくみられる点を中心に、前章までに出てきた内容含め、改めてチェックポイントを紹介します。
19の推定工事項目と工事金額、修繕積立金のバランス
前章でも紹介した大規模修繕工事における19の推定工事項目は、マンションにその設備があれば全てが入っていなければならず、1つでも欠けていたら審査から不備を指摘される可能性があります。
この19の推定工事項目は、マンションとして修繕すべき対象として国土交通省が挙げている重要項目であることから、長期修繕計画に織り込むことで将来的に修繕を見込んでくださいという指摘になります。
19の推定工事項目に金額の記載がないマンションについては、その理由(当マンションには機械式駐車場設備はありません、長期修繕計画の見直し費用は通常の管理において実施しているため省いています、等)を明記しておく必要があります。
また、工事項目に対して、工事金額を将来の物価や人件費高騰、インフレ等を踏まえて適切に見積もるとともに、工事において足らない修繕積立金の状況になっていないか、バランスが必要であるといえます。
工事金額全体においても、マンション戸数に対して少な過ぎないような金額になっていないか、管理組合として精緻に計画するとともに、将来修繕積立金が貯まっていく試算になっているか考えることが求められるでしょう。
修繕積立金の月当たり㎡単価のクリア
修繕積立金の月当たり単価は、年度ごとに長期修繕計画に織り込んでいることが前提ですが、計画期間内全ての年度において、基準となる修繕積立金の月当たり㎡単価をクリアしている必要があります。
相当潤沢に修繕積立金があるマンションを除き、工事のための材料費等の物価や人件費の将来的な高騰を考えると、値上げは将来的にほぼ不可欠であることも考えられます。
値上げをすることについて管理組合としては合意形成上課題が出てくるかもしれませんが、将来の計画を区分所有者に提示しながら、値上げが必要である旨を丁寧に説得していくことも求められる可能性があります。
機械式駐車場の修繕工事費を加味する
今では多くのマンションにおいて機械式駐車場が採用されています。
機械式駐車場はそのメンテナンスや修繕にも多額の費用を要するため、国土交通省が提示する修繕積立金ガイドラインにおいても、当該施設があるマンションはそれ以外の共用部分の修繕工事に対して駐車場部分を追加で検討する必要があります。
そのため、月間の㎡当たり修繕積立金(+機械式駐車場を加味したもの)の単価も上がることが想定され、漏れなく加味していくことが求められます。
長期修繕計画は管理組合総会で承認されたものであること
こちらも繰り返しになりますが、長期修繕計画は管理組合総会で承認されたものである必要があります。
確認の際には、チェックを担当するマンション管理士は議事録からしか判断できないため、議事録に必ず承認されていることを記載しておく必要があります。
また、その際の議事録は有効なものであることが求められます。
有効なものとしては、一般的には議長と議長が指名した2名の合わせて3名の署名または電子署名が入っている等が挙げられるでしょう。
長期修繕計画はしっかりと作れば認定の基準を満たす
これまで紹介した通り、長期修繕計画は管理組合内で精査しながらしっかりと作成して、手続きを経れば、管理計画認定制度でも活用できるものとなります。
逆に、このレベル感の長期修繕計画を作成しておけば、まずはマンションとしては安心となるレベルであるともいえるでしょう。
これまで暫く対応していなかった、または対応したことがないマンションにおいては一定のハードルもあるかもしれませんが、理事会ならびに管理組合内で、まずは整えていくことを検討することから始めることも重要です。
コメント