マンションの給排水管工事:快適な暮らしを守るための手続きと流れを徹底解説

マンション管理

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マンションでの暮らしにおいて、給排水管は生活を支える重要なインフラです。しかし、時間の経過とともに劣化は避けられず、漏水や赤水、排水不良といった問題が発生する可能性があります。これらの問題を放置すると、居住者自身の生活に支障をきたすだけでなく、隣室や階下への被害、さらにはマンション全体の資産価値低下にも繋がりかねません。

本稿では、マンションの給排水管工事に関する手続きや流れを、計画段階から工事完了までマンション管理士が詳細に解説します。国土交通省の調査報告書等を活用しながら、より分かりやすく、そして実践的な内容を目指します。

知っておきたい給排水管の基礎知識

まず、マンションの給排水管がどのように構成されているか、基本的な知識を身につけましょう。

共用部分と専有部分

マンションの配管は、共用部分専有部分に分けられます。共用部分は、玄関の外の配管スペース(パイプスペース)、 竪管など、マンション全体の居住者が共同で利用する部分です。一方、専有部分は、各住戸の内部にある配管、例えばキッチンや浴室、トイレの給排水管などが該当します。

給水管、給湯管、排水管、汚水管

住戸内で使用される主な配管には、以下の種類があります:

  • 給水管: 水道水を各蛇口へ供給する配管。
  • 給湯管: 給湯器で温められたお湯を供給する配管。
  • 排水管: キッチンや浴室、洗面所などで使用された生活排水を排出する配管(雑排水管とも呼ばれます)。
  • 汚水管: トイレの排水を排出する配管。

配管の材質と寿命

マンションの配管には、かつては銅管や亜鉛メッキ鋼管(白ガス管)などが多く用いられていましたが、近年では塩化ビニル管(塩ビ管)、耐火二層管、硬質塩ビライニング鋼管、そして耐久性に優れたポリエチレン管や架橋ポリエチレン管などが主流となっています。

給排水管の法定耐用年数は一般的に15年とされています。しかし、実際には使用状況や環境によって異なり、築25~40年で改修工事が行われることが多いようです。国土交通省の調査報告書によると、築25年~35年を経過したマンションで配管の更新工事が圧倒的に多いというデータもあります。

給排水管工事の種類と工法

給排水管工事には、主に更新工事(交換)更生工事(ライニング)の2種類があります.

更新工事(交換)

更新工事は、老朽化した給排水管を新しい配管に交換する工事です。配管の劣化が著しい場合や、より耐久性の高い材質への変更を希望する場合に選択されます。

  • ヘッダー工法: 近年、給水管工事で採用が増えている工法で、従来の塩ビ配管よりも耐久性に優れ、施工時間も短縮できるとされています。
  • 埋設配管と露出配管: 配管が壁や床の中に埋め込まれている場合(埋設配管)は、撤去や新しい配管の設置に際して内装の解体・復旧が必要となるため、費用が高くなる傾向があります。一方、露出配管の場合は比較的費用を抑えることができます。

更生工事(ライニング)

更生工事は、既存の給排水管の内部を洗浄し、特殊な樹脂などでコーティングすることで、配管の寿命を延ばす工法です。配管の腐食が比較的軽度な場合や、工事期間や費用を抑えたい場合に検討されます。

各工事会社によって独自の更生工事手法があります。こちらでは個別には紹介しませんので、具体的には検索等で確認してみてください。

また、更生工事のメリットは、更新工事に比べて工期が短く、費用が安い、騒音や振動、埃の発生が少ないなどが挙げられます。しかし、あくまで既存の配管の延命措置であり、劣化が進行している場合は更新工事が推奨されます。

給排水管工事の必要性の判断と兆候

給排水管工事を検討するきっかけとなるのは、以下のような兆候が見られた場合です:

  • 漏水: 壁や天井からの水漏れは、配管の腐食や破損を示唆する最も明確なサインです。
  • 赤水: 蛇口から赤い水が出る場合、給水管内部の錆が原因と考えられます。
  • 水圧低下: 水の出が悪くなった場合、配管内部の閉塞や腐食が影響している可能性があります。
  • 排水の悪臭、詰まり、異音: 排水管の劣化により、排水の流れが悪くなったり、異臭が発生したりすることがあります。

これらの兆候に加えて、築年数も重要な判断材料となります。築20年を超えると、配管の劣化リスクは徐々に高まります。

工事の必要性を正確に判断するためには、専門業者による劣化診断が不可欠です。内視鏡調査や水質検査などを行い、配管の状況を詳細に把握することができます。

給排水管工事の手続きと流れ

給排水管工事は、主に管理組合が主体となって進める場合と、専有部分のみを区分所有者が個別に行う場合がありますが、本項では管理組合主導で行う一般的な流れを解説します.

計画段階

  1. 問題の認識と検討開始: 漏水事故の発生や築年数の経過などをきっかけに、管理組合内で給排水管工事の必要性が認識され、検討が開始されます。
  2. 劣化診断・調査: 専門業者に依頼し、配管の劣化状況を調査・診断します。
  3. 工事会社選定: 複数の業者から見積もりを取り(相見積もり)、実績や評判、技術力、保証内容などを比較検討します。修繕の専門家によるサポートサービスを利用するのも有効です。
  4. 工事内容・工法の決定: 劣化診断の結果や予算などを考慮し、更新工事か更生工事か、具体的な工法を決定します。
  5. 費用と資金調達方法の検討: 工事費用を算出し、修繕積立金からの支出、区分所有者の一時金徴収金融機関からの借り入れなどの資金調達方法を検討します。
  6. 総会での決議: 工事の実施、内容、費用、資金調達方法などについて、管理組合の総会で決議を行います。多くの事例で4分の3以上の賛成が必要となる重要決議事項とされています。
  7. 専有部分工事における区分所有者の同意: 専有部分の工事が必要となる場合は、事前に各区分所有者の同意を得る必要があります。国土交通省の報告書 によると、同意を求めずに工事を実施するケースも多いようですが、後のトラブルを避けるためには丁寧な説明と同意を得ることが重要です。
  8. 長期修繕計画の見直しと規約改定: 必要に応じて長期修繕計画を見直し、専有部分の配管工事に関する規定を管理規約に盛り込むことも検討されます。国土交通省の報告書 には、規約改定の事例も紹介されています。
  9. 広報活動と合意形成: 居住者への説明会や広報誌などを通じて、工事の目的や内容、スケジュールなどを丁寧に説明し、合意形成を図ります。モデル施工 を行うことで、居住者の不安を軽減する試みも有効です。

工事段階

  1. 事前説明会: 工事着工前に、工事のスケジュール、注意点、居住者の協力事項などを説明する事前説明会を開催します。
  2. 工事期間と断水: 工事の内容や規模によって異なりますが、更新工事の場合は数日から数週間、更生工事の場合は比較的短期間で完了することが多いです。工事期間中は断水が発生するため、事前に居住者へ周知し、必要に応じて仮設トイレなどの対策を講じます。
  3. 専有部分への立ち入りと協力: 専有部分の工事が必要な場合は、居住者の協力が不可欠です。工事への理解と協力を得るために、丁寧なコミュニケーションが重要となります。
  4. 工事中の注意点と居住者の負担軽減: 工事中の騒音や振動、生活への影響を最小限に抑えるよう、業者に配慮を求めます。

完了後

  1. 検査と引き渡し: 工事完了後、管理組合と施工業者が立ち会い、工事内容に問題がないかを確認します。
  2. 保証とアフターサービス: 工事には保証期間が付帯するのが一般的です。保証内容やアフターサービスについても工事施工会社に対して事前に確認しておくことが重要です。

専有部分の工事に関する特記事項

専有部分の給排水管は、原則として区分所有者の所有物であり、維持管理の責任は区分所有者にあります。しかし、マンション全体の老朽化対策として、管理組合が主体となり、専有部分の配管も一斉に更新・更生工事を実施するケースが増えています。

管理組合が専有部分の工事を行う場合、標準管理規約第21条第2項では「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる」とされています。

専有部分の工事を管理組合主体で行うメリットとしては、スケールメリットによる費用削減(数十%のコストダウンが期待できる場合もあります)、工事の品質確保、居住者の負担軽減などが挙げられます。

優良な工事会社を選ぶポイント

給排水管工事は、専門的な知識と技術が必要となるため、信頼できる優良な工事会社を選ぶことが非常に重要です.

  • 実績と評判の確認: ホームページや紹介などを通じて、過去の施工実績や顧客からの評判を確認しましょう。特に、マンションの給排水管工事の実績が豊富かどうかを確認することが重要です。
  • 複数の業者からの見積もり(相見積もり): 複数の業者から見積もりを取り、費用だけでなく、工事内容、使用する材料、保証内容などを比較検討しましょう。
  • 対応工事の種類と得意分野: 給水管、給湯管、排水管、汚水管など、希望する工事に対応しているか、また得意としているかを確認しましょう。
  • 見積書の内訳と明瞭性: 見積書の内訳が詳細に記載され、不明な点がないかを確認しましょう。
  • 保証内容とアフターサービス: 工事後の保証期間や内容、アフターサービス体制について確認しましょう。
  • 資格や技術力の確認: 施工を担当する技術者の資格や経験、会社の技術力などを確認することも大切です。

国の支援制度と今後の展望

現在、専有部分を含む給排水管の更新工事に対して、国や自治体からの助成金制度はほとんどないのが現状です。国土交通省の報告書 でも、このような状況に対し、長寿命化を目指す管理組合の努力に応える助成金制度の創設が提言されています。

全国マンション管理組合連合会(全管連)は、「マンション再生法(仮称)」の制定を提言しており、その中には専有部分の配管類の管理組合による一斉更新を可能にするための法整備も含まれています(2015年秋時点)。今後の法制度の整備により、マンションの給排水管工事がより円滑に進められるようになることが期待されます。

まとめ

マンションの給排水管工事は、居住者の快適な生活を守り、マンションの資産価値を維持するために不可欠な取り組みです。計画段階から工事完了まで、適切な手続きと流れを理解し、管理組合と居住者が協力して進めることが重要です。信頼できる専門業者を選び、将来を見据えた計画的な改修を行うことで、安心で快適なマンションライフを長く送ることができるでしょう。

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