【徹底解説】マンションの未来を左右する16の課題と対策:国・自治体の取り組みと支援策

マンション管理

※当コラムでは商品・サービスのリンク先にプロモーションを含むことがあります。ご了承ください。

日本のマンションは、多くの人々の生活基盤であり、都市活動を支える重要な要素です。しかし、建設から数十年の時が経ち、様々な課題が顕在化しています。本記事では、国や自治体が現在捉えている主なマンション課題と、それらに対する取り組みや対策について、国や自治体の資料を参考にしながら、マンション管理士が詳しく解説します。

マンションの所有者や管理組合、そしてこれからマンションを購入しようと考えている方にとって、必読の情報となるでしょう。

日本のマンションを取り巻く厳しい現実:顕在化する多様な課題

現在、日本のマンションストックは約666万戸、1550万人以上が居住する重要な居住形態となっています。特に都市部においてなくてはならない存在です。しかし、多くのマンションが築年数を重ねるにつれて、構造的な老朽化だけでなく、居住者の高齢化や生活様式の変化に伴う様々な問題に直面しています。

横浜市における築30年以上のマンションを対象とした調査では、「管理不全・準管理不全」が4.0%、「管理不良」が15.2%存在し、合わせて約2割が何らかの問題を抱えていることが分かっています。これは、築年数が経過するほど、適切な管理が行われているマンションとそうでないマンションの「二極化」が進んでいる実態を示唆しています。

こうした背景から、国や自治体はマンションを取り巻く多岐にわたる課題を重要な政策課題として認識し、対策を講じています。提示された課題リストに基づき、ソース情報を踏まえながら具体的な課題と対策を見ていきましょう。

老朽化・高経年化問題への対応

  • 課題の現状:
    • 全国の住宅団地の約3分の1がマンションであり、その約8割が三大都市圏に集中しています。これらの多くが高経年化しています。
    • 神戸市では、令和2年4月時点で市内の分譲マンション約3500管理組合のうち、築35年以上の高経年マンションが約3割(約1200管理組合)に達しており、今後5年間でさらに急増すると予測されています。
    • 高経年マンションでは、建物・設備の老朽化が進んでいます。また、旧耐震基準で建てられたマンションは耐震性が低い可能性が高く、耐震診断や必要な改修工事が求められています。
  • 国・自治体の対策:
    • マンションの再生を円滑に進めるため、法律の改正が行われています。これまでの取り組みとして、建替えに係る容積率の緩和特例高齢者向け返済特例制度(住宅金融支援機構)、マンション建替えに係る助成(優良建築物等整備事業)などが実施されています。
    • 耐震性不足のマンションに加え、外壁の剥落等により危害を生ずるおそれがある「特定要除却認定マンション」も、5分の4以上の同意により敷地売却が可能となり、建替え時の容積率特例の対象となりました。
    • バリアフリー性能が確保されていない要除却認定マンションも、建替え時の容積率特例の対象となっています。
    • 団地における敷地分割についても、従来の全員合意から5分の4以上の同意で可能とする制度が創設されました。

引用:公益財団法人 全国市長会館 市政(令和2年9月号)より

住民の高齢化・非居住化と管理組合の担い手不足

  • 課題の現状:
    • 高経年マンションでは、建物・設備の老朽化とともに区分所有者の高齢化が進む「二つの老い」に起因する課題が指摘されています。
    • 所有者の高齢化等により管理費等の滞納が発生するケースがあります。
    • 管理組合の役員の担い手不足や、総会の運営・決議が難しくなるといった課題を抱える可能性があります。
    • 所有者不明の専有部分も発生しており、その管理への介入には所有権の特殊性を考慮した柔軟な対応が検討されています。空家等対策特別措置法に基づき、特定空家等の所有者等に必要な措置をとるよう求められる場合があります。
  • 国・自治体の対策:
    • 管理組合の運営に関する基礎知識の普及や、専門家(マンション管理士)による解説などが提供されています。
    • 外部管理者方式等の導入に関する検討が進められています。これには、導入プロセス、説明、管理者権限の範囲、通帳・印鑑の保管方法、監事の設置と監査、利益相反取引への対応などが含まれます。
    • 地方公共団体がマンション管理計画の認定を行う制度が創設されました。これは、適正な管理を行うマンションを評価し、管理組合の自主的な取り組みを誘導することを目的としています。令和7年5月6日時点で2,279件が認定されていますが、マンションストック全体に占める割合からすると僅かな数に留まっており、さらなる普及が課題となっています。

合意形成の困難さ

  • 課題の現状:
    • マンションにおける耐震改修や建替えには、区分所有者および議決権の一定以上の賛成(耐震改修は4分の3以上、建替えは5分の4以上)が必要であり、その合意形成が大きなハードルとなっています。
    • タワーマンションなど大規模なマンションでは、区分所有者間の合意形成がより難しいという課題があります。
  • 国・自治体の対策:
    • マンション再生に係る専門家相談体制(弁護士会等と連携)が整備されています。
    • 団地型マンションの再生手法として、一括又は一部棟建替え、都市再開発手法による再生などが可能となっています。
    • 特定の条件を満たすマンションの敷地売却に関する同意要件が緩和されました。
    • マンション再生の多様なニーズに対応した事業手法の充実に関する検討が進められています。

空き家問題・空室の増加と所有者不明住戸問題

  • 課題の現状:
    • マンションにも空き家や空室が増加しており、その流通性向上が課題となっています。
    • 管理不全空き家を含む空き家調査体制の構築やDX化が有効と考えられています。
    • 所有者不明の専有部分の管理不全も課題となっています。
  • 国・自治体の対策:
    • 空家等対策特別措置法に基づき、市町村は特定空家等の所有者等に必要な措置(除去等)を講じることができます。滋賀県野洲市では、特定空家となった老朽化分譲マンションの行政代執行による解体が実施されました。野洲市長は、こうしたケースを「社会経済的災害」と位置付けています。
    • 空き家掘り起こし支援策の構築に向けた論点として、地域特性に応じた施策、高齢者施設入居の機会を捉えた住まいの終活支援、相続登記の義務化(2024年4月~)の機会を捉えた情報提供の充実などが挙げられています。
    • 地方中小都市等では、市町村職員のマンパワー不足が著しい地域があり、重点地域を対象とした空き家所有者情報へのアプローチや地域レベルでの合意形成手法の検討が提案されています。
    • 空き家売却の事例として、隣地所有者への売却手法などが紹介されています。
    • 空き家利活用に関する法制度(建築基準法、農地法、相続未登記等)や規制緩和、譲渡所得の特例(100万円控除、3000万円控除)の活用などが検討されています。
    • 空き家バンクには市場性の低い物件が集まりやすいという課題があり、自治体予算による対応や全国版空き家バンクとのデータ連携などが要望されています。

防災対策の強化と災害時の要支援者対応

  • 課題の現状:
    • 東京都では、今後30年以内にマグニチュード7クラスの首都直下地震が約70%の確率で発生すると予測されており、甚大な人的・建物被害、停電などが懸念されています。
    • マンションにおける防災対策は、タワーマンションなど大規模な建物であるほど、周辺地域へ与える影響も大きいため重要です。
    • 特に高層マンションでは、エレベーター停止による地上との往復困難など、在宅避難が困難になる場合があります。上層階への物資運搬等には対策や協力が不可欠です。
  • 国・自治体の対策:
    • 東京都では、災害に強い住宅づくりやいざという時の対処方法、情報収集方法など、防災・防犯性能を備える住まいづくりに役立つ情報を提供しています。
    • 川崎市は、高層マンションの防災対策として「在宅での避難のススメ」を推奨しています。被災生活では、掲示板による情報共有、ゴミ集積場所の管理、空き巣防止の見回り、居住者同士の炊き出しや話し合い、周辺地域との協力が重要だとされています。
    • 在宅避難のためには、備蓄や安全な部屋づくりなど、日頃からの準備が重要です。低層階の浸水リスクがある場合は、上層階への避難や避難所への避難を事前に話し合っておく必要があります。
    • 上層階への物資運搬については、居住者が協力してリレー方式で運搬するなど、自主防災組織等が中心となり訓練内容に取り入れることが推奨されています。
    • 受水槽や排水管などの設備点検やエレベーターの応急復旧手順の事前確認も重要です。
    • 災害時の要支援者名簿の有無が、自治体の管理計画認定制度における管理評価項目の一つとして挙げられています。

管理組合の資金不足問題

  • 課題の現状:
    • 新築時の修繕積立金の多くは段階増額型や一時負担金型であり、特に高経年マンションでは積立金が不足するケースがあります。
    • 特に高経年マンションにおいては、消費増税の影響も大きいと指摘されています。
    • 先行きの負担増を懸念し、修繕工事資金の借入れに抵抗感がある区分所有者も存在し、適切な修繕工事が実施されない場合があります。
  • 国・自治体の対策:
    • 大規模修繕工事に必要な修繕積立金の水準や資金収支について、管理組合自らが簡易試算できるツール(マンション版ライフサイクルシミュレーションツール)の作成が進められています。住宅金融支援機構(JHF)のデータに基づき、個々のマンションの実情に即した資金計画や必要となる修繕積立金額をシミュレーションできます。
    • 修繕工事の必要性や金融の有用性を区分所有者や管理組合向けに訴求する広報活動が進められています。行政やマンション管理士等との連携、大規模修繕の手引きが準備されています。
    • 滞納状況や修繕履歴に係る情報公開の義務化や税制による支援が方向性として検討されています。
    • 管理組合の信用補完の在り方(保証や保険の活用)についても検討が進められています。

資産価値の維持・格差拡大と不動産取引の透明性

  • 課題の現状:
    • 適切な管理が行われていないマンションは、居住環境が悪化するだけでなく、周辺環境にも悪影響を与え(外部不経済)、都市に悪影響を与えることになります。
    • 修繕工事等の実施が中古マンションの市場価格に適正に反映されないという課題があります。これにより、管理組合が修繕工事を実施するモチベーションが向上しにくくなっています。
    • 管理状況に関する情報は、従来の不動産取引では契約直前に重要事項調査報告書として書面交付されることが一般的でした。
  • 国・自治体の対策:
    • 管理の質を市場価格へ反映させること、管理組合財政の健全化が重要な課題として認識されています。
    • 修繕工事等の実施状況等が市場で評価される仕組みや、それらを普及・定着させるための金融上のメリットが検討されています。
    • マンション管理に関する情報開示を拡充し、購入検討の早い段階から「登録開示情報」として誰でも閲覧できるようにする方向性が示されています。これにより、理想通りの物件選び、消費者保護、良好なストック形成が期待されています。
    • 管理に関する情報開示について、管理組合の義務又は努力義務とするためにマンション管理適正化法の改正が実施され、令和4年4月より管理計画認定制度ならびに、マンション管理業協会によるマンション管理適正評価制度が制定されました。
    • その中で、情報の定期的な更新・保存や、個人情報保護法との関係整理(管理規約、名簿開示レベル、戸別滞納額の開示など)も課題として挙げられています。
    • 業界横断的なマンション管理に関わる評価基準を確立し、プラス評価・マイナス評価を明確にすることとなりました。

都市計画・エリアマネジメントとの連動と都市部と地方の二極化

  • 課題の現状:
    • マンション政策は、都市全体の計画やまちづくりとも密接に関わっています。横須賀市では、「マンション管理適正化推進計画」が「YOKOSUKAビジョン2030(基本構想・基本計画)」と整合を図り、SDGsの目標の一つである「11 住み続けられるまちづくりを」を踏まえて運用される計画となっています。
    • 再開発に伴う課題として、既存住民、特に高齢者の移転先確保などが問題となる場合があります。
    • マンション開発や再生は、立地条件(都心、郊外駅近、郊外駅遠)によって事業化の容易さが異なり、都市部と地方での二極化が見られます。都心から離れるほど、また供給戸数が小規模になるほど、民間事業者からの事業協力が得られにくくなります。特に「郊外駅遠」で「マンション需要も小さい」地域は、民間事業者の市場参入も望めないケースがあります。
  • 国・自治体の対策:
    • 各自治体において、マンション管理適正化に向けた計画策定や取り組みが進められています。とりわけ、先行している横浜市や神戸市などが独自の取り組みを行っています。
    • 空き家問題についても、地域特性(都市規模等)によって必要な施策が異なり、地方では行政のマンパワー不足も課題となっています。地域レベルでの合意形成手法等の検討が提案されています。

制度・法改正への対応、法制度・行政手続きの複雑化

マンション関連法は改正が進められており、制度や手続きが複雑化する側面もあります。管理組合や区分所有者は、これらの改正内容を理解し、適切に対応していく必要があります。地方自治体も、法改正を踏まえた計画策定や運用が求められています。

民間団体との連携強化

マンション管理や再生に関する課題解決には、行政だけでなく、マンション管理業協会などの民間団体 や、大学教授、弁護士などの専門家 との連携が不可欠です。空き家対策においても、宅建業者やNPO法人等との連携が図られています。

電子化・DX(デジタルトランスフォーメーション)対応

管理組合運営の効率化や、管理情報のデータベース化など、電子化・DX化の推進が有効と考えられます。

環境配慮・省エネ対応

環境意識の高まりや法規制の強化に伴い、マンションにおける省エネ性能の向上や環境配慮も重要な課題となっています。

メンテナンス人材・専門家の確保

大規模修繕工事 や建物・設備の維持管理には、専門的な知識や技術が必要です。適切なメンテナンスを行うための人材や専門家(マンション管理士など)の確保・育成が求められます。

第三者管理・利益相反の懸念

外部の管理業者などが管理者の地位に就く場合、その権限の範囲や、日常業務や大規模修繕工事における利益相反取引への適切な対応、情報開示のあり方などが検討課題として挙げられています。

人口減少・需給バランスの変化

人口減少社会においては、エリアによってはマンションの需要と供給のバランスが変化し、空室の増加や建替え・売却の困難化につながる可能性があります。

地域全体の都市計画・エリアマネジメント

個別マンションの管理や再生だけでなく、地域全体の都市計画やエリアマネジメントの中で、マンションをどのように位置づけ、住み続けられるまちづくりを実現していくかが重要です。

まとめ:持続可能なマンション社会の実現に向けて

日本のマンションが抱える課題は多岐にわたり、その解決は容易ではありません。しかし、国や多くの自治体は、これらの課題を真摯に捉え、法改正、新たな制度の創設、支援策の実施、民間との連携強化など、様々な角度から対策を講じています。

特に、マンション管理計画認定制度による適正管理の誘導 や、管理状況に関する情報開示の推進による不動産取引の透明化と資産価値の維持、そして老朽化マンションの建替え・敷地売却・再生手法の多様化は、今後のマンションを取り巻く環境を大きく変える可能性を秘めています。

これらの対策は、マンションの適切な維持管理を促進し、資産価値を保全することを通じて、区分所有者だけでなく、周辺地域や都市全体の活性化、そして「住み続けられるまちづくり」 の実現に貢献することが期待されています。管理組合は、これらの国の制度や自治体の支援策を積極的に活用し、マンションの現状と将来を見据えた計画的な管理運営に取り組むことが、今後ますます重要となるでしょう。

本記事が、日本のマンションが直面する課題と、それらに対応するための国・自治体の取り組みについて、読者の皆様の理解を深める一助となれば幸いです。

参考文献

以下、今回紹介した記事の参考文献を紹介します。合わせて参考にしてみてください。

✅国土交通省 マンション政策の現状と課題
✅国土交通省 マンション政策上の課題及び検討の方向性・論点
✅国土交通省(令和4年10月16日) マンションを取り巻く現状と課題
✅東京都住宅政策本部(2024年9月18日) 防災・防犯性能を備えた住まい
✅川崎市危機管理本部危機対策部(2024年10月8日) 高層ビル・マンションの防災対策 ~在宅での避難のススメ~
✅横須賀市(令和6年3月) 横須賀市マンション管理適正化推進計画
✅東京大学連携研究機構 不動産イノベーション研究センター(CREI)(令和5年11月13日) マンション政策に関して議論すべきと考えられる論点集
✅公益財団法人 全国市長会館 市政(令和2年9月号)
✅公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会 全国宅地建物取引業保証協会(令和5年3月) 空き家・空き地等の活用促進のための政策研究報告書
✅公益財団法人 マンション管理センター 管理計画認定マンション一覧
✅公益社団法人 全日本不動産協会 東京都本部(2011年3月) マンション管理・再生に関する提言(第3分科会報告書)
✅一般社団法人 マンション管理業協会(令和元年11月1日) マンション管理の現状と課題について
✅住宅金融支援機構 マンションライフサイクルシミュレーション~長期修繕ナビ~
✅住宅金融支援機構 「大規模修繕の手引き~マンション管理組合が知っておきたい工事・資金計画のポイント~」のご案内
✅日本総合研究所 JRIレビュー2020 立岡 健二郎 調査部 副主任研究員 マンションはこれからも維持できるのか─人口減少時代にふさわしい供給・維持・解体のルール構築を─
✅横浜マンション管理・FP研究室 2025年マンション法改正:管理組合が知るべきポイントと対策

コメント

タイトルとURLをコピーしました