横浜市の分譲マンションを管理されている管理組合の皆様、マンションの適切な維持管理と資産価値の維持向上は、常に頭を悩ませるテーマではないでしょうか。特に、マンションの「健康診断書」ともいえる長期修繕計画は、将来にわたって快適な住環境を維持し、計画的な修繕を行う上で不可欠です。しかし、その作成や見直しには専門的な知識と費用がかかるため、着手しにくいと感じている管理組合も少なくありません。
そこで、横浜市は、マンションの適切な管理を促進するため、「マンション長期修繕計画作成促進モデル事業」という画期的な補助金制度を提供しています。この制度は、長期修繕計画の作成・見直しにかかる費用の一部を補助することで、皆様の負担を軽減し、マンションの健全な運営をサポートするものです。さらに、令和7年度からは、省エネ改修を盛り込んだ計画作成に対する新たな補助メニューも加わり、より多角的な支援が可能になりました。
このコラムでは、横浜市が提供するこの補助金制度の全貌を、管理組合の皆様の目線に立ってマンション管理士が詳しく解説します。
なぜ今、長期修繕計画の作成・見直しが必要なのか?
マンションは築年数が経過するにつれて、様々な箇所の劣化が進みます。適切な時期に修繕を行わないと、建物の安全性が損なわれるだけでなく、資産価値の下落や住環境の悪化を招く恐れがあります。修繕費が不足し、必要な工事ができないという事態は、多くの管理組合が直面しうる課題です。
マンションの資産価値と住環境を守るために
長期修繕計画は、将来の修繕工事の時期、内容、費用を予測し、計画的に修繕積立金を積み立てるための重要な指針です。この計画をきちんと作成・見直すことで、修繕費不足による工事の遅延を防ぎ、安定した管理運営を実現できます。結果として、マンションの資産価値を維持・向上させ、居住者の皆様が長く安心して暮らせる快適な住まいを提供することにつながります。
長期修繕計画見直しのタイミングは?
国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」によると、長期修繕計画や修繕積立金の額を、一定期間(5年程度)ごとに見直しを行うことが望ましいとされています。
管理組合として一度長期修繕計画を作成したらそれで終了という訳ではありません。工事には材料やそこに従事する職人さんたちが必要となるため、そのための費用が年々高騰しているという現状があります。将来的には更に高騰することも考えられることから、5年前に作成した長期修繕計画や修繕積立金計画がそのまま使用できるという訳ではない点にも注意が必要です。
横浜市の強力なサポート「マンション長期修繕計画作成促進モデル事業」とは?
この補助金制度は、大きく分けて2つのメニューが用意されています。
一般の長期修繕計画作成・見直しへの補助
このメニューは、長期修繕計画をまだ作成していない管理組合や、作成から15年以上見直しをしていない管理組合が主な対象です。修繕費不足といった管理不全を防ぐことを目的としており、計画の作成や見直しにかかる費用の一部を補助します。
補助対象となる管理組合の条件(共通条件に加え、以下のいずれかを満たす):
- 総会が年1回以上開催されている。
- 管理規約がある。
- 長期修繕計画を作成していない、または作成から15年以上見直しをしていない。
補助対象となる経費:
- 長期修繕計画作成に向けた劣化調査診断に要する委託費用。
- 対象となる調査範囲には、住宅本体(外壁、内壁、天井、床等)、防水(屋上、屋根、バルコニー等)、給排水設備、電気・ガス・通信・消防・エレベーター・機械式駐車場等の設備、金属製品や配線などが含まれます。
- 長期修繕計画作成に要する委託費用。
申請回数:劣化調査診断と長期修繕計画作成のそれぞれについて、1回ずつ申請が可能です。
【新制度】省エネ改修を盛り込んだ計画への補助
令和7年7月より新たに加わったこのメニューは、省エネ改修を長期修繕計画に盛り込もうと考えている管理組合を対象としています。省エネ改修は、光熱費の削減に繋がり、居住者の健康増進にも効果が期待できるほか、環境配慮の観点からも重要性が増しています。
補助対象となる管理組合の条件(共通条件に加え、以下の全てを満たす):
- 「横浜市管理計画認定制度」を認定済みである、または認定申請の総会決議済みである。
- 次回の大規模修繕工事までに、以下のいずれかの省エネ改修を行うことを盛り込んだ長期修繕計画を作成すること。
- 屋上断熱及び外壁断熱、窓の断熱改修(外窓改修(カバー工法)、真空ガラス等への交換など)。
- その他共用部分の設備(昇降機や集会室等の設備など)の高効率化。
- 太陽光発電設備の設置。
- 蓄電池設備の設置。
補助対象となる経費:
- 長期修繕計画作成に要する委託費用。
共通の補助金額(両メニュー共通):
- 上限20万円、かつ委託費用の2分の1まで(1,000円未満の端数は切り捨て)。
- 注意点:令和7年度の予算には上限があり、予算に達し次第、募集は終了となります。早めの申請を検討しましょう。
補助金を受け取るための条件と対象経費
ここからは、両メニューに共通する重要な条件と、具体的な申請手続きについて解説します。
共通の補助対象条件
横浜市内のマンション管理組合がこの補助金の対象となります。 申請を行う管理組合は、以下の共通条件を全て満たす必要があります:
- 長期修繕計画の作成または見直しを実施すること、およびその経費について、当該マンションの管理規約に基づき適切に意思決定がされていること(総会での決議など)。
- 事前に横浜市マンション登録制度へ登録を行っていること。
※住宅部分とそれ以外の用途(店舗など)に供する部分が併存するマンションの場合、住宅部分に係る費用のみが補助対象となります。
各補助メニューの対象経費と補助金額
前述の通り、一般の計画作成では劣化調査費用と計画作成費用が対象、省エネ改修を含む計画では計画作成費用が対象です。どちらのメニューも、上限20万円、委託費用の2分の1までという補助金額は共通です。
申請手続きの流れと提出書類、そして注意点
申請から補助金の交付までには、いくつかのステップと必要な書類があります。
申請から補助金交付までのステップ
- 事前相談:申請を検討する前に、横浜市建築局住宅再生課への事前相談が推奨されています。
- 交付申請:必要書類を揃えて申請書を提出します。
- 交付決定:横浜市による審査後、補助金の交付が決定されます。
- 契約・事業着手:補助金の交付決定後に、事業実施に係る事業者(計画作成業者など)と契約を締結し、事業に着手してください。交付決定前の契約や着手は補助対象外となりますので特にご注意ください。
- 完了報告:事業完了後、実績報告書を横浜市へ提出します。
- 補助金の請求・確定:報告書の内容が確認され、補助金額が確定された後、請求を行うことで補助金が交付されます。
必要な書類リスト
申請時には以下の書類を添付して提出します。
- 補助金交付申請書(第1号様式)
- 補助金の交付申請及び補助事業の実施に関する証書(第2号様式)及び総会議事録(管理組合での意思決定を示す書類)
- マンション管理組合の管理規約の写し
- マンションの案内図、配置図等(申請敷地を示したもの)
- 補助対象経費の項目・内容が把握できる書類の写し(見積書など)
- マンションの検査済証又は確認済証の写し(建築確認申請台帳記載証明でも可)
- 委任状(管理組合以外の代理者が申請する場合に必要)
- 補助対象経費算出根拠資料(併設用途がある場合に必要)
これらの申請書類は横浜市のホームページからダウンロードできます。
申請に関する重要な注意点
- 事業完了と実績報告書の提出期限:補助制度の対象事業は、当該年度の1月末日までに完了し、同日までに事業の実績報告書を提出する必要があります。令和7年度の補助決定を受けたマンションは、令和8年1月末日までに事業を完了し、報告書を提出する必要があります。
- 契約締結のタイミング:繰り返しになりますが、横浜市から補助金の交付決定を受ける前に、補助事業の実施に係る事業者との契約を締結したり、事業に着手したりしないよう十分ご注意ください。
- 申請内容の確認:劣化調査診断委託と長期修繕計画作成委託を同時に行うか別々に行うかによって、申請内容が異なる場合があります。詳細は、横浜市建築局住宅再生課に確認しましょう。
申請書の提出先・お問い合わせ先: 横浜市建築局住宅部住宅再生課
TEL:045-671-2954 FAX:045-641-2756
Eメール:kc-jutakusaisei@city.yokohama.lg.jp
専門家への相談も可能!「マンション専門家派遣事業」
長期修繕計画の作成や見直しは、専門知識を要するため、管理組合だけでは難しいと感じることもあるでしょう。横浜市は、このような管理組合の悩みを解決するため、「マンション専門家派遣事業」も実施しています。
どんな相談ができるの?
- 長期修繕計画の作り方や見直しの進め方
- 役員のなり手不足、管理規約の見直し
- 大規模修繕の進め方、省エネ改修に関する相談
横浜市に登録されているマンション専門家から、直接アドバイスを受けることができます。 詳細は横浜市住宅供給公社(事務局委託先)へお問い合わせください。 電話:045-451-7740
まとめ:横浜市と協力して快適なマンションライフを
横浜市の「マンション長期修繕計画作成促進モデル事業」は、分譲マンションの適切な維持管理と資産価値向上を強力に後押しする素晴らしい制度です。特に、今年度から加わった省エネ改修に関する新たな補助金メニューは、光熱費削減や環境負荷低減といった現代的なニーズにも応えるものです。
修繕費不足による不安の解消、計画的な修繕による資産価値の維持、そして省エネ改修による快適な住環境の実現のために、この補助金制度とマンション専門家派遣事業をぜひご活用ください。
まずは、貴管理組合が補助金の対象となるか、どのようなメリットがあるのかを、横浜市の担当課(横浜市建築局住宅再生課)に相談してみてはいかがでしょうか。横浜市から支援を受けながら、管理組合としてより良いマンション管理を構築することが可能です。
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