大規模修繕工事を検討しているのだけれど、どのような方法で実施すればよいのか?
また、
工事の方式にはどのようなものがあるのか?
さらには、
管理会社から大規模修繕工事の提案があるけど、それをそのまま受けても良いのだろうか…?
このような疑問を持つ理事や修繕委員、区分所有者も非常に多いと思います。
マンションにおいては12~15年に1度ある一大イベントともいえる大規模修繕工事は、管理組合として毎回頭を悩ます行事であるといえるでしょう。
また、工事だけではなく、居住者全員に注意事項を守りながら協力して貰う必要があるため、修繕委員にとっても非常に大変と言えます。
今回は、このような大規模修繕工事を検討しているマンション管理組合が持つ疑問として、大規模修繕工事の方式について解説します。
とりわけ、多くのマンションで実施している
・設計監理方式
・プロポーザル方式
の3つを取り上げ、それぞれの方式の説明やメリット、デメリットについて取り上げます。
具体的に、最近マンションの大規模修繕工事に深く関与したマンション管理士が実際の工事であった状況も踏まえ、少々長くなりますが詳しく解説します。
大規模修繕工事の3方式と各メリットデメリットを詳しく紹介【必見】
今回紹介する内容は以下の通りです。
・設計監理方式のおもな特徴やメリット、デメリットは?
・プロポーザル方式のおもな特徴やメリット、デメリットは?
・各方式を採用するにあたっての管理組合として注意すべき点とは?
・3つの方式におけるメリットやデメリットのまとめ
まずはじめに、大規模修繕工事の方式として3つ、責任施工方式と設計監理方式、さらにはプロポーザル方式のそれぞれについての特徴や各方式のメリット、デメリットを確認します。
そして、各方式にはそれぞれ特徴がありますので、管理組合として注意すべき点を紹介します。
最後に、一覧として、改めて3つの方式のメリットやデメリットを掲載します。
また、マンション管理組合として、非常に重要な大規模修繕工事ですので、細かく説明をいたします。
責任施工方式のおもな特徴やメリット、デメリットは?
前章のとおり大規模修繕工事を行うとなると、管理組合としては相当な支出が発生します。
そのため、施工会社各社はマンションの大規模修繕工事を受託しようと、営業を頑張ることとなります。
具体的に3つの方式のうち、まず責任施工方式について確認します。
責任施工方式とは?
責任施工方式を図解すると以下の通りとなります。
※筆者独自作成
3つの方式の中では、2社間で契約するという、最もシンプルな方法と言えます。
場合によっては、建築事務所やマンション管理士等を入れて、工事進捗管理や第三者としての工事内容のチェック等を行うこともあるかもしれません。
修繕委員会におけるオブザーバー的な立ち位置として考えられます。
管理組合と大規模修繕工事を担当する施工会社が、直接工事請負契約を締結します。
工事については、施工会社に全て依頼することとなります。
責任施工方式のメリットは?
おもに工事の特徴から考えられるメリットとしては以下の通りです。
・工事進捗等の報告やコミュニケーションがシンプルになる
・施工会社が責任を持って実施するため責任の所在が明確化する
・施工会社1社で完結するためスケジュールが見積もりやすい
・支払い先が1社ののみであり工事金額の総額が分かりやすい
それぞれ見ていきましょう。
管理組合として施工会社に全てを任せることができる
いわゆる丸投げという形ですが、全てを任せるということはそういうことになります。
そのため、管理組合として他の業者を意識して管理する必要がなく、工事を任せるという面においては負担の軽減が期待できます。
工事進捗等の報告やコミュニケーションがシンプルになる
1社に任せることから、施工会社の現場を担っている監督とのコミュニケーションで済むこととなります。
そのため、修繕委員会や理事会では現場監督からの工事進捗等の報告や、工事中における日々のコミュニケーションがシンプルになることが期待されます。
施工会社が責任を持って実施するため責任の所在が明確化する
その名の通り、施工会社が工事の全責任を持って実施することになります。
そのため、責任の所在が明確になり、全てが施工会社の責任で工事が行われるということとなります。
施工会社1社で完結するためスケジュールが見積もりやすい
施工会社以外に会社が入ることがないため、施工会社の判断で職人さんや材料手配等のスケジュール管理が行われることとなります。
そのため、施工会社のみの判断でスケジュール構築ができ、柔軟にスケジュール調整等もできることが期待できます。
支払い先が1社のみであり工事金額の総額が分かりやすい
大規模修繕工事の代金支払先がおもに1社のみになると考えられます。
そのため、大規模修繕工事総額でいくらかかったのかが把握しやすくなることが期待できます。
デメリットは?
このような便利な責任施工方式ですが、対するデメリットにはどのようなものがあるのか確認してみます。
・工事内容に対する金額が他社と比べて適正なのか分かりづらい
・コンサルタントを入れていない場合は工事状況の客観的な判断が難しい
・トータル的には他の方式と比べて管理組合の負担が増える可能性がある
施工会社や担当した現場監督の実力に工事品質が左右される
まず挙げられるのが、大規模修繕工事の工事は、施工会社や現場監督の実力に左右されるということです。
施工会社には会社独自の手法があり、その方法に則って工事が進んでいきます。
さらには、工事を担当する現場監督のチェックや職人さんのマネジメント、進行管理等のスキルも工事内容に影響することとなります。
従って、これらの実力によって、大規模修繕工事の品質、さらにはマンションの工事後の状態が左右されると言ってもいいかもしれません。
工事内容に対する金額が他社と比べて適正なのか分かりづらい
1社に責任を持って実施して貰うことから、管理組合としては「もしも、他社が同様の工事を実施したら…」となるかもしれません。
施行会社選定の場合であっても、1社決定した会社がその後に工事内容の見直しをすれば、前述の「もしも…」は分かりません。
コンサルタントを入れていない場合は工事状況の客観的な判断が難しい
工事の進行状況や品質が果たして適切なものなのか、素人が多い管理組合では判断がつかないこともあるでしょう。
そのため、客観的な視点から助言をしてくれる専門家としてのコンサルタントがいない場合は、良し悪しが判断できないことも考えられます。
トータル的には他の方式と比べて管理組合の負担が増える可能性がある
管理組合と施工会社1対1のため、コミュニケーションは取りやすいものの、施工会社から受けた検討事項等管理組合としての対応事項は、理事会や修繕委員会が行うこととなります。
そのため、場合によっては管理組合側の負担が増える可能性も出てくるでしょう。
設計監理方式のおもな特徴やメリット、デメリットは?
つぎに、2つ目の方式として設計監理方式について確認してみます。
設計監理方式とは?
設計監理方式を図解すると以下の通りとなります。
※筆者独自作成
この方式ではおもに3者が登場することになります。
管理組合としては、施工会社と工事請負契約を、設計監理担当とは設計監理委託契約を締結することとなります。
さらに、設計監理担当は、施工会社の工事に対して進行状況や工事監理(設計図の通りに工事が進んでいるかのチェック)などが発生します。
設計監理方式のメリットは?
設計監理方式のメリットは主に以下の通りです。
・施工会社選定の際にも設計監理のチェックを入れることができる
・そのため大規模修繕工事費用が低減できる可能性がある
・設計や工事に管理組合の意向が踏まえられやすい
それぞれ順番に確認していきましょう。
設計図の通りに工事が進んでいるかという設計監理が可能となる
設計監理という言葉通り、設計図通りに工事が進んでいるかどうかのチェックが入ります。
そのため、第三者チェックによる工事品質の向上が期待でき、管理組合としても工事に対して安心感が生まれることとなります。
施工会社選定の際にも設計監理のチェックを入れることができる
工事の段階だけではなく、工事前の施行会社選定の際にも、どの会社の工事内容や金額が適正なのか、チェックが入ります。
そのため、管理組合にとってより適切な施工会社の選定が可能となります。
大規模修繕工事費用が低減できる可能性がある
前述のとおり、設計監理担当という第三者の視点を通じて、適切な施工会社の選定が可能となることから、費用面でも適切な内容を選択することが可能となります。
そのため、大規模修繕工事にかかる費用の低減が期待できます。
設計や工事に管理組合の意向が踏まえられやすい
日々暮らしている管理組合の役員や修繕委員としては、生活上、マンション共用部分のどの点が気になるのかがわかります。
その点を伝えることによって、適切に工事に反映される可能性も高くなります。
責任施工方式でももちろん可能ですが、設計監理方式では設計段階に落とし込んで検討できることから、その対応による工事品質向上も期待できるでしょう。
デメリットは?
管理組合においてメリットも多い設計監理方式ですが、対するデメリットには、どのようなものが考えられるのでしょうか。
具体的には以下の点が挙げられます。
・設計監理チェックが入って修正が必要な場合、計画通りいかない可能性がある
・設計監理担当への費用が発生する
・施工会社と設計監理どちらの責任か不明確になる可能性がある
それぞれ見ていきましょう。
施工会社と設計監理コンサルタントが繋がっていると管理組合としては分からない
国土交通省がかつて「不適切コンサルタント」として注意喚起したことがあります。
以下、国土交通省の書面をそのまま引用します。
国土交通省がマンション管理関連団体に不適切コンサルタントに関する注意喚起の周知を依頼しています。
具体的には、以下のような事例が見られました。
国土交通省による注意喚起により、現在は設計監理を担当するコンサルタント会社等がこのようなことを実施することも少なくなっていると考えられます。
しかしながら、管理組合としては、このような裏側で行われていることを発見することは実質困難です。
バックマージンを支払ったり、設計監理ではないような事例も考えられるため、注意が必要と言えるでしょう。
設計監理チェックが入って修正が必要な場合、計画通り進まない可能性がある
施工会社に対して常に細かなチェックを入れている設計監理という立場でも、おもった通りの工事進捗とならない可能性もあります。
その場合は、工事のやり直し、再修繕等、計画通りいかず後戻りする可能性も考えられます。
設計監理担当への費用が発生する
建築事務所やコンサルティング会社等、設計監理を担当する会社への費用が別途発生します。
こちらはもともとそのことを前提として設計監理方式を採用していると考えられることから、管理組合側では了承済みでしょう。
また、設計監理が入ることによって、施工会社選定の段階で、コストが抑えられている効果も考えられます。
トータルで見て一概に高い、安いの比較は難しい所もありますが、余分に設計監理に対する費用が発生することは事実です。
プロポーザル方式のおもな特徴やメリット、デメリットは?
これまでに紹介した2方式に比べて聞きなれない方式かもしれませんが、プロポーザル方式と言われる方式もあります。
プロポーザル方式とは?
プロポーザル方式を図解すると以下の通りとなります。
※筆者独自作成
この方式では、管理組合の希望や条件等を提示して、各施工会社から大規模修繕の提案を受けることとなります。
大規模修繕工事の提案に対して、コンサルタントが入って管理組合のサポートを行うことも考えられます。
プロポーザル方式のメリットは?
具体的なメリットとしては、以下のものが考えられます。
・管理組合が本来想定できなかった提案も考えられる
・クリアな競争の中で決めることができる
それぞれ確認していきましょう。
施工会社から管理組合にあった提案を受けることができる
管理組合が考える方向性に対して、施工会社候補が管理組合にとって最良な方法を考えて提案してくることとなります。
当然参加する会社は、大規模修繕工事を手掛けたいため、相見積もりに参加することとなります。
そのため、工事内容的にも金額的にも管理組合にとってよいものが出てくる可能性が考えられます。
管理組合が本来想定できなかった提案も考えられる
各施工会社の提案に先立ち、管理組合としてはこうしたいという希望や金額感を各社に伝えることとなります。
それに対して各社は提案を考えることとなりますが、管理組合としてこういうことは思いつかなかった…という提案もあるかもしれません。
そのような場合には、管理組合として新たに工事内容に取り入れて検討することも可能になるかもしれません。
クリアな競争で決めることができる
プロポーザル方式の図解からもある通り、管理組合と各施工会社が直接線で繋がっていることとなります。
そのため、設計監理方式のように、どこか他の会社が介在するところがありません。
また、横の施工会社はそれぞれライバル関係になることで、競争が働くこととなります。
これらによって、クリアな競争関係の中で決めることができるため、裏に何かが隠れている可能性が少なくなることが期待できます。
デメリットは?
一方のデメリットとしては、以下のものが考えられます。
・比較対象基準が異なる場合には判断が難しくなる
・コンサルタントを入れる場合は別途費用が掛かる
こちらについても、具体的に確認したいと思います。
複数の提案に対して検討することによる管理組合側の負担が掛かる
施工会社の複数提案に対して、比較検討するのもまた管理組合として必要となります。
どの提案がよいのか、見極めることもノウハウがないと難しいでしょう。
また、その場合は後述するとおりコンサルタントの起用も検討しなければなりません。
とりわけ、コンサルタントを起用しない場合はこれらの負担が管理組合や修繕委員に全て掛かってくると考えられます。
比較対象基準が異なる場合には判断が難しくなる
施工会社独自の提案が可能ということは、逆にそれぞれの施工会社の個性が出てくるということになります。
その場合は、一方の施工会社に提案内容があって他方にはない、またはその逆などがあった場合、工事内容の基準で比較することが難しくなります。
それによって、どの施工会社を決定するのが望ましいのかが、難しい点と言えるかもしれません。
その場合には、コンサルタント等を起用することも必要になります。
コンサルタントを入れる場合は別途費用が掛かる
責任施工方式や設計監理方式に比べ、管理組合の負担が掛かるとともに、難易度も上がる方式といえるこの方式なので、コンサルタントを入れることも考えられます。
その場合には、コンサルタント費用が別途かかります。
また、設計監理方式と違い、設計監理を行わないこととなるため、工事に深く関与しないことから、あくまでもコンサルタントの業務範囲として助言や集計の域になることも考えられます。
各方式を採用するにあたっての管理組合として注意すべき点とは?
大規模修繕工事におけるおもな3方式について、メリットやデメリットも含めて紹介しました。
どの方式を採用するかは管理組合の判断になりますが、採用するにあたっての注意点を紹介します。
どの方式にも一長一短あること
前章までに紹介した通り、どの方式にも一長一短あります。
また、先ほどの設計監理方式におけるデメリットで紹介した、不適切コンサルタントの所では、国土交通省としては、設計監理方式は有効であるという見解を、以下の通り出しています。
そして、筆者が最近担当したマンション管理組合は、責任施工方式で実施しました。
ただこのマンションは、修繕委員会がかなり機能していて、けん制が入っていたため、それも有効であったといえるかもしれません。
さらに、マンションの規模の大小によっても、どれを選択しても一長一短あると考えられます。
そのため、管理組合としてどの方式を採用するかは、特徴を掴んだうえでよく検討することが望まれます。
管理組合としてどれぐらいの労働負担を許容できるかを考える
理事会や修繕委員会等、管理組合の役員や区分所有者が大規模修繕工事でどれぐらいの負担を許容できるかも考える必要があります。
区分所有者による負担を許容できないなら、施工会社に丸投げの責任施工方式もあるでしょう。
また、チェックを全てしっかりとして欲しいというのであれば、設計監理を担当する会社にある程度費用を負担して役割を担ってもらうということも考えられます。
一方で、費用を極力抑えて、大規模修繕工事をしたいということであるなら、どの方式であっても管理組合がある程度手を動かすことは必要となります。
これらについて、どの程度まで管理組合が労働負担を許容できるかで変わってくるでしょう。
大規模修繕工事を通じて管理組合として最終的に何を実現したいかを考える
3つの方式はそれぞれ大規模修繕工事の方法という手段であり、最終的には管理組合として何が実現したいのか、目的を考えることも一つです。
例えば、
・今回大規模修繕工事を行ったとしても今後適切な修繕積立金の確保をしたい
・100年維持できるマンションを目指しているためそこに近づけてくれる施工会社を考えたい
などです。
周期を伸ばすことを考えれば、丁寧かつ品質の高い工事になり、それだけ費用負担も掛かるかもしれません。
さらには、修繕積立金の確保が必要なら工事代金を極力抑えたいという考え方もあります。
そして、100年維持できるなど長年住めるマンションにしたいなら、通常の長期修繕計画よりも長めの超長期修繕計画から、今回の大規模修繕工事ではどのような工事が必要かという逆算もあるでしょう。
その目的に沿った方式や施工会社を検討することも一つです。
3つの方式におけるメリットやデメリットのまとめ
長くなりましたが、最後にこれまで紹介した3つの方式のメリットとデメリットをまとめました。
メリット | デメリット | |
責任施工方式 | ・施工会社に全て任せることが可能 ・コミュニケーションがシンプル ・責任所在の明確化 ・スケジュールが立てやすい ・工事総額が分かりやすい |
・施工会社、現場監督の工事品質に左右されやすい ・金額の他社比較が難しい ・工事の客観的状況が分かりにくい ・管理組合の負担増 |
設計監理方式 | ・設計図通り工事が進んでいるかのチェックが働く ・施工会社選定時にも設計監理担当のチェックを入れることが可能 ・工事費用低減の可能性 ・管理組合意向の反映 |
・不適切コンサルタントの存在 ・チェックによって計画通り進まない可能性 ・設計監理費用の発生 |
プロポーザル方式 | ・管理組合にあった提案をうけることができる ・想定外の良い提案 ・クリアな競争環境 |
・複数検討による管理組合負担の増加 ・比較検討が難しくなる可能性 ・コンサルタント費用の発生 |
繰り返しになりますが、管理組合としてはどの方式を採用するにしても一長一短あります。
管理組合の方針に合わせて、各特徴を踏まえながら最適な手法を選択することが望まれます。
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