マンションの建替えは本当に可能なのか?費用・合意形成・法改正後も難しい現実を解説

マンション管理

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築40年超のマンションが急増する中で、「いずれは建替えればよい」と考える区分所有者も少なくありません。しかし、マンション建替えは、建物が古くなれば自然に進むものではありません。費用負担、仮住まい、区分所有者の高齢化、合意形成、容積率や事業性など、複数の条件がそろわなければ実現しない、極めて難易度の高い選択肢です。

2026年4月施行の法改正により、マンション再生に関する制度は整理されましたが、それでも「制度上できること」と「現実にできること」は別問題です。本記事では、最新データと管理組合実務の視点から、マンション建替えがなぜ難しいのか、そして建替えに頼らず長く住み続けるために何を考えるべきかを整理します。

結論:マンション建替えはなぜ極めて難しいのか

筆者が確認している中でも、マンションの建替えは非常にハードルが高いと言わざるを得ないと思います。

多くの方もそのような感覚をお持ちではないでしょうか。しかしながら、事例に紹介する通り、都市部を中心に建替えを実現したマンションもあります。

本記事では、建替えや居住意向に関するデータ、そして建替えを実現したマンションの事例を確認しながら、「なぜ難しいのか」と「現実的に何を考えるべきか」を整理します。

マンション建替えの現実~建替えや居住意向に関するデータより

まずはじめに、建替えに関する各種データを確認しておきます。

一部国土交通省が発表している資料を引用いたします。

前提としての国土交通省(国)の方向性は?

具体的に、国土交通省のマンション政策のホームページについて確認してみます。


引用:国土交通省 マンション政策ホームページ TOPより抜粋

トップページを確認すると

・マンション管理計画認定制度
・マンション管理・再生ポータルサイト

が国土交通省として重点項目だろうと想定できます。

さらに、管理・再生は上記TOPページに

・マンション管理
・マンション再生

とそれぞれ項目が準備されており、さらに項目があがっています。

これを見ると、上記2項目から国土交通省としての関心が高いものとして、

【1】マンション管理
・マンション標準管理規約
・長期修繕計画
・修繕積立金
・外部管理者方式【2】マンション再生
・建替え
・マンションの敷地売却
・マンションの改修

が挙がっています。また、

【1】マンション管理は、日々のマンションの管理としてやっておかなければならないこと

【2】マンション再生は、建替えや壊しての敷地売却、さらには団地を中心とした高経年マンションの再生や、耐震補強等抜本的な改修

について紹介しています。

すなわち、国土交通省としては、

マンション管理が適切に出来ない場合は、抜本的なマンション再生を行う

ことを意図しているようにも取れます。

マンションの建替え実績は?

次に、マンションの建替え実績についてです。

同じく国土交通省より、以下のような資料が出ています。

引用:国土交通省 マンション建替え等の実施状況より

この中には、

①マンション建替円滑化法によらない建替え
②同法による建替え
③同法によるマンション敷地売却等

があります。

国土交通省の資料では、マンション建替えの実績は2025年3月31日時点で累計323件、約26,000戸にとどまっています。また、マンション建替円滑化法に基づくマンション敷地売却等の実績も累計17件、約1,300戸に限られています。

①はおもに区分所有法や民法によるものであり、②はマンション建替円滑化法に従って建替えたもの、③はマンションを壊したあと建替えずに敷地を売却した実績です。

また、今回は細かな法の説明は省きますが、同法が成立したのは2002年のため、それ以前の建替えは①が該当するものと考えられます。

同法施行後、検討するマンション管理組合が増え始め、2006年に最初の建替えマンションが出てきたと考えられます。

その後、①のマンションが減り、②か③を取るマンションが増えてきたということです。

具体的な建替えの実績は?

前項で紹介したグラフは、累計実績です。

したがって、引き算すると毎年どれぐらいのマンションが建替えられたかが明確になります。

また、具体的に計算してみると、以下の通りです。

※国土交通省のデータをもとに筆者が集計

この表から分かるのは、マンション建替えは制度として存在していても、実績としては毎年10件前後から十数件程度にとどまっているという現実です。全国で高経年マンションが増え続けている状況を考えると、建替えは「一般的な解決策」ではなく、一定の立地・容積率・合意形成・事業性がそろった一部のマンションでようやく成立する選択肢と見るべきです。

対する高経年マンションの戸数は?

国土交通省が発表した資料によると、令和5年末時点で


引用:国土交通省 マンション政策の現状と課題より

・築40年を超えるマンション戸数は138.1万戸
・うち、築50年を超えるマンション戸数は42.3万戸

となっています。

棟数が明確化されていませんが、仮に建替え実績(累計297件、約24,000戸)から平均件数(≒棟数と仮に解釈)として80戸/棟とした場合は、

・築40年を超えるマンション棟数は17,262棟
・うち、築50年を超えるマンション棟数は5,287棟
・合計で22,549棟

と算出できます。

これから考えると、高経年マンションに該当する22,549棟に対して、建替えが308棟しかないということは、いかに建替えが難しい現実であるか定量的にお分かり頂けるかと思います。

また、建替えたマンションは必要に迫られて建替えを実施したマンションもあるでしょう。

そのため、大半のマンションは、建替えは現実的ではなく、どうすれば長く住み続けることができるかを考える必要があります。

区分所有者の居住意向は?

次に、同じく国土交通省が発表した令和5年度のマンション総合調査より、区分所有者の居住意向についても確認してみます。

マンションの取得年次別における永住・住み替え意向

まず、区分所有者に対して、マンションを取得した年次における永住と住み替えの意向を調べたデータです。

また、このデータから、取得した年次が古いほど、永住意向が高いという傾向が出ています。

令和2年以降の最近購入した方も、半数近くがずっと住み続ける意向を示しています。

世帯主の年齢別の永住・住み替え意向

続いて、世帯主別の永住・住み替え意向です。

こちらも高年齢に従って、終の棲家としたい意向が増えています。

また、若い人がどのような年次のマンションに住んでいるかの関係は分からないため、「古いマンションだからいずれ住み替える」と回答したかどうかは不明です。

しかしながら、永年住み続けると回答した50~60代の方が、すんなり建替えに応じることができるかは、個々の事情はあるものの、一定のハードルが考えられそうです。

そのため、どれだけマンションを持たせることができるかが重要になります。

よって、長期修繕計画や大規模修繕工事の実施時期、さらには修繕積立金の確保額などがマンションにとって重要な論点となると考えられます。

おもなマンション建替え事例の紹介

マンション再生協議会のホームページに、建替法による建替え事例という内容があります。

その数はなんと150事例が挙がっており、建替え組合が認可された段階で掲載されているようです。

また、マンションによっては建替え前後の情報が網羅されており、非常に確認のし甲斐もある重要なデータと言えるかもしれません。

国土交通省のデータとも時期のずれもあるため、数値は合致しませんが、この中から筆者なりに興味深いものをピックアップしてみます。

野毛山住宅(アトラス野毛山)

まず初めに紹介するのが、横浜市内でも有名な建替え事例でもある野毛山住宅についてです。

同資料によると、主な情報は以下の通りです。

 建替え前建替え後
建築時期1956年2008年
延床面積(㎡)5,20712,749.49
階数や棟数地上5階 5棟地上6階地下1階 1棟
戸数(戸)120142
間取り2DK1DK~4DK
組合認可時の築年数50年
建替えの理由耐震性、給排水ガス管等の老朽化、屋上からの漏水等の発生
協力事業者旭化成ホームズ(株)

JR桜木町駅から野毛山公園方面に行く途中にある高台にあります。

ちょうどこのコラムを書いている日にこのマンションの前を通り、興味深く擁壁を見ていました。

そして、その擁壁は野毛山住宅亀甲積擁壁が横浜市認定歴史的建造物に指定されています。

1890年~1898年に作られたもので、野毛山住宅の前は平沼専蔵別邸がこの上に建っていたようです。

また、横浜市のホームページによると、建替え検討開始は1992年、建替え決議が2005年、建替えが2008年と16年掛けて建替えを実施しています。

萩中住宅

次に紹介するのが、改正後の区分所有法を初めて適用して建替えられたマンションである、東京都大田区にある萩中住宅の事例です。

 建替え前建替え後
建築時期1968年2006年
延床面積(㎡)18,510.9148,801.38
階数や棟数地上5階 8棟
地上18階地下1階 2棟
戸数(戸)368534
間取り3K、3DK1DK~4DK
組合認可時の築年数35年
建替えの理由給排水設備の老朽化、耐震性
協力事業者(株)シティコンサルタンツ他

このマンションは、1994年に建替え準備委員会が発足されました。

その後、2000年に建替え推進決議がなされたものの、旧区分所有法の2002年に建替え決議は不成立となりました。

1棟だけ、可決要件である5分の4以上の賛成が得られなかったということです。

さらに2003年の改正後の区分所有法にて、建替え決議が成立し、建替えに向けて進むこととなりました。

準備委員会発足から建替えまで12年掛かっています。

同潤会上野下アパート(ザ・パークハウス上野)

最後に紹介するのは、東京都台東区にある、同潤会上野下アパートの建替え事例です。

筆者も「同潤会」という3文字を目にして、是非取り上げてみたいと思い紹介します。

 建替え前建替え後
建築時期1929年2015年
延床面積(㎡)2,093.998,415.84
階数や棟数地上4F2棟地上14F地下1階1棟
戸数(戸)住宅71、店舗4住戸128、店舗4
間取り2K、1R1R~3LDK
組合認可時の築年数83年
建替えの理由建物及び設備の劣化や狭小さ等
協力事業者三菱地所レジデンス(株)他

新たに建替えられたザ・パークハウス上野の事業者である三菱地所レジデンスのホームページには、同潤会上野下アパートの建替えまでの経緯が興味深く紹介されています。

また、同潤会上野下アパートがザ・パークハウス上野に建て替わるまでには、その長年の歴史から権利関係の複雑さがあったといいます。

さらに、昭和初期にできた古さなので、当然区分所有法もない時代のものであり、管理組合もなかったとのことです。

最後の同潤会アパートとして、保存活動も検討されたものの、そこには至らなかったようです。

そして、惜しまれながらも建替えざるを得なかった事例ですが、古いアパートの当時のレトロモダンを現在のマンションに取り入れた点など、建替組合でかなり検討されたようです。

建替えを検討するにあたってのおもな課題は?

建替えのデータや、おもな建替え事例を紹介しましたが、建替えを検討するにあたっての課題はどのような所にあるのでしょうか。

単純にお金や住むところの問題なども考えられますが、それ以外にも考えられる要因がありそうです。

最後に、建替えの難しさともいえる課題について紹介します。

建替える場合に管理組合や区分所有者としての持ち出しが必要となる

仮に、建替え後に建ぺい率等の配慮があってマンションの戸数を増やして売り出すとしても、管理組合や区分所有者個々においても、相応の支出を伴う可能性があります。

また、建替えは大規模修繕工事に必要な額では到底足らないと考えられます。

そして、将来の建替えを想定してまでの十分な修繕積立金がないこともあるでしょう。

金銭の問題は、個々の区分所有者の生活に直結するため、なかなか判断が難しい点もあります。

建て替え中に一時的な住まいを考えなければならない

建替えを検討するマンションには、高経年マンションが多いと考えられます。

「2つの老い」という側面では、高経年マンションには高齢者も住んでいることが多いでしょう。

高齢者においては、引っ越しは一定の負担を伴うこととなります。

建替え前の自宅の引越し準備をして、全てを運び出して、一時の住処に配置しなおして、さらに建替え後は戻って…

ということが現実的であるかという点も考えられます。

区分所有者の価値観が多様化していて合意形成が非常に難しい

従来、マンション建替えは区分所有者数と議決権の各5分の4以上という高い合意形成が必要とされてきました。2026年4月施行の改正では、法律名も「マンションの再生等の円滑化に関する法律」へ改められ、建替えだけでなく、建物更新、敷地売却、取壊しなど、複数の再生手法が制度上整理されています。ただし、制度が整ったとしても、費用負担や住み替え、所有者間の利害調整という実務上の壁がなくなるわけではありません。

区分所有者の中には、

このまま自分の代だけで住むことができればよい

と考える人もいれば、

これから数十年住むので、新しいマンションだと子どもの代まで住めるのでより嬉しい

また、

これ以上ここにいなくても良いので、敷地を売却して清算して欲しい

と考える人もいるかもしれません。

このように、様々な世代が住むマンションであれば、価値観が多様化しており、可決に持って行くための合意形成が難しくなる可能性があります。

これらの課題を上手くまとめ上げる人が管理組合にいない

建替えは「建替事業」と言われるように、マンションの再開発と考えられます。

そのため、管理組合内をまとめ上げていく必要があります。

金銭的な問題や、住む場所の問題、区分所有者の価値観の多様化…など、全てをまとめ上げていくには、非常に労力が必要になります。

どの管理組合においても、建替推進委員会発足から、新たなマンション完成まで、10数年掛かります。

まとめ上げるのは、恐らく管理組合内でも求心力がある区分所有者であり、若くても50代以上、通常60~70代の現役を引退した高年齢の方ではないかと考えられます。

その方が10数年携わるとなると、人生の後半にある意味人生を掛けたプロジェクトを手掛けることとなります。

外部からの支援があるとしても、立場が違うことから非常に負担が掛かるのではないでしょうか。

建替えに関する記事の紹介(2025年5月31日更新)

朝日新聞の記事ですが新たに建替えに関する記事がありましたので、紹介します。今後の法改正に関する内容を踏まえた記事となっています。

また、記事内で動画がありますが、YouTube動画でも紹介されていました。

今後法改正されても建替えは極めて難易度が高い

法改正によって、賛成割合の変更等の要件が変わったとしても、建替えの合意形成を行うことができる管理組合は引き続き低水準になるのではと考えられます。

耐震性や漏水が激しくもうこれ以上住めない状態だ

または、

仮に建替えても現在の区分所有者に金銭的な持ち出しがない

など、特別な要因がないと建替えは極めて難しいと考えられます。

そのため、多くの管理組合にとって、まず問うべきなのは「建替えできるか」ではなく、「今のマンションをどこまで安全に維持できるか」です。建替えは、費用・合意形成・事業性・仮住まいなど複数の条件が整った場合に初めて現実味を持つ選択肢です。だからこそ、日常の管理、長期修繕計画、修繕積立金、大規模修繕の実行力を高めることが、建替えより先に管理組合が取り組むべき現実的な対応になります。

鉄筋コンクリート造のマンションは、維持修繕に時間を掛けると100年持つ可能性も大いにあります。

建替えも並行して考えるものの、現実的には「修繕積立金をどのように確保し、どの水準で積み立てていくか」が、超高経年化を実現するうえでの最大の論点になります。

▶︎ 修繕積立金の考え方や、長期修繕計画との関係については、以下の記事で詳しく整理しています。

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