分譲マンションで生活するうえで、意外と見落とされがちなのが「網戸」の扱いです。網戸は傷みやすく、入居者が自ら交換するケースも少なくありませんが、実はその網戸が「共用部分」に該当する可能性があることをご存じでしょうか?
この記事では、マンション管理士の視点から、標準管理規約の解釈や関連する法令、実務的な対応までを解説し、区分所有者が知っておくべき「専有部分と共用部分の境界」について掘り下げていきます。
網戸の扱いを考える前に:専有部分と共用部分の違いとは?
区分所有法と標準管理規約の定義
区分所有法では、建物の構造上区分所有者が単独で使用する部分(例:室内の壁や床など)を「専有部分」、それ以外の部分(例:構造体や外壁、廊下など)を「共用部分」と定義しています。
この考えをさらに明文化したのが「マンション標準管理規約」です。ここでは、窓ガラスや窓枠、玄関扉といった住戸に附属する開口部についても、専用使用権が付された「共用部分」であると位置付けています。
見落とされがちな網戸の立ち位置
窓や玄関扉については共用部分であることが比較的知られていますが、網戸となると話は別かもしれません。網戸は日常的に触れるものであり、破損した場合に入居者自身がホームセンター等で購入して自ら交換することも考えられることから、つい「専有部分」と勘違いされがちです。
標準管理規約で読み解く:網戸は共用部分か?
マンション標準管理規約第14条と第22条の確認
マンション標準管理規約第14条では、「窓枠や窓ガラス等は専用使用権付きの共用部分である」と明記されています。
また第22条でも、「共用部分のうち、各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事」と記載があり、これらが共用部分であることが再確認されています。
この流れから見ても、網戸が取り付けられる窓そのものが共用部分であるため、網戸も原則として共用部分と考えられます。
マンション管理業協会の明確な見解
さらに、マンション管理業協会が公表しているFAQ(Q&A)では、「雨戸又は網戸は専有部分に含まれない」と明確に記載されています(参考資料はこちら)。
これは、平成28年3月14日に公表された、マンション標準管理規約第7条関係のコメントで、以下のように示されていることによっています。
(第7条関係コメント)
3 第1項は、区分所有権の対象となる専有部分を住戸部分に限定したが、この境界について疑義を生じることが多いので第2項で限界を明らかにしたものである。
4 雨戸又は網戸がある場合は、第2項第三号に追加する。
ここでいう、第2項第三号は当時も今も標準管理規約第7条第2項第三号と同じ文面であり、「三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。」という内容です。
それによって、網戸も共用部分であるという公式な見解が得られたことになります。
網戸の交換費用は誰が負担するのか?
そもそも、網戸の交換費用は誰が負担するのでしょうか。こちらについても考察していきたいと思います。
計画修繕での交換は管理組合負担
共用部分である以上、その維持管理や修繕は基本的に管理組合が負担します。よって、経年劣化などで網戸が破損・腐食した場合、計画修繕による大規模修繕工事や窓サッシ・窓ガラス交換と合わせて管理組合が対応すべき内容となります。これは先に紹介した、標準管理規約第22条でも、
(窓ガラス等の改良)
第22条 共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス(網戸)、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において、計画修繕としてこれを実施するものとする。
と明確に定められています。
通常使用で劣化した場合は区分所有者負担
原則として共用部分である窓ガラス・窓サッシ同様に、網戸も上述の様な形で計画的に管理組合が行う必要があります。しかしながら、そのタイミングに合わせることが出来ず、止むを得ず区分所有者が交換せざるを得ない場合もあります。
・劣化によって破れてしまって、計画修繕とは違うタイミングで区分所有者が交換した場合
・故意または過失による破損(例:家具をぶつけて破損)
このようなケースでは、区分所有者が修繕費を負担することが原則です。これも第22条第2項に明確に定められています。
2 区分所有者は、管理組合が前項の工事を速やかに実施できない場合には、あらかじめ理事長に申請して書面による承認を受けることにより、当該工事を当該区分所有者の責任と負担において実施することができる。
管理組合としてどう対応すべきか
管理規約や細則で明文化を
標準管理規約第22条「窓ガラス等の改良」の原則を踏まえたうえで、第7条、第14条、第22条などの窓サッシ関連条文や使用細則に窓サッシ・窓ガラス同様に、網戸についても触れておくことが望まれます。そして、「網戸は共用部分であり、管理組合の責任で管理・修繕を行う」ことが分かるように明記しておくことが望ましいです。前述のマンション管理業協会の内容同様に、存在する場合は網戸とともに雨戸についても定めておくことが望まれます。
これにより、誤解やトラブルの発生を防ぎやすくなります。
一括交換の提案も視野に
築年数の経過とともに網戸の劣化が目立ってきた場合、各戸の状態を確認した上で、網戸のみの一括交換を検討することも選択肢のひとつです。共用部分の修繕工事として実施すれば、計画修繕や大規模修繕の中で合理的に対応できます。
よくある誤解と注意点
「自ら交換したから専有部分」は誤解
住人自ら網戸を交換した場合でも、専有部分(自分のもの)とはならず、(共用部分である)専用使用部分の管理として自己負担を行っただけとなります。すなわち、自分で交換したとしても、共用部分であることに変わりがない点に注意が必要です。もっとも、交換時においては窓サッシや窓ガラスの交換同様、原型と異なる素材や構造にしないようにする必要があります。
「交換してはいけない」訳ではない
共用部分を保護するためにも原則、管理組合が行う工事として実施する必要があります。しかしながら、劣化状態を放置していると、虫やほこりが入ってきたり等、生活に支障をきたす可能性も考えられます。そのため、第22条「窓ガラス等の改良」を必ず守りながら、管理組合の意向に従って実施することが求められます。
まとめ:網戸も「共用部分」、だからこそ正しい理解を
分譲マンションにおける網戸は、たとえ交換が容易であっても、原則として「共用部分」に該当します。
区分所有者の自己判断が難しい場合は、管理組合の意向や理事会・役員にまずは相談することが重要です。また、管理組合としても明確なルール作りと適切な情報共有を行い、トラブルを未然に防ぎましょう。
今回のコラムを分かりやすい音声で解説
今回のコラムを分かりやすい音声で解説しています。
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