管理組合の総会において普通決議と特別決議があるけど、なにがどう違うのか?
今回の議案は普通決議なのか、特別決議なのかが分からない…
このような疑問をよく見かけます。
筆者も、規約を見てこの管理組合はどちらが適用されるのか、確認することもあります。
今回は、どのような議案が普通決議に当たるのか、または特別決議にしなければならないのか、普段各決議において身近に接している、マンション管理士の筆者が詳しく解説します。
管理組合総会における普通決議と特別決議の違いとは?【詳しく解説】
今回の記事の内容は次のとおりです。
・普通決議の議案とその事例
・特別決議の議案とその事例
・見落としがちな普通決議、特別決議における注意点
管理組合における、重要意思決定の場である管理組合総会には2つの決議事項があり、そしてそもそも普通決議と特別決議とはなにか?という点を紹介します。
また、普通決議、特別決議それぞれの議案について、最新版の標準管理規約から抜粋して一般的なものを紹介します。
加えて決議内容にどのような事例があるのか、分かりやすく紹介します。
さらに、それぞれの決議に見落としがちな注意点を最後に記載します。
管理組合総会における普通決議と特別決議とは?
まずはじめに、そもそも管理組合総会における普通決議と特別決議にはどのような違いがあるのか、確認していきます。
普通決議と特別決議
各決議についてそれぞれ対比してみました。
決議の種類 | 普通決議 | 特別決議 |
議決要件 | 総会出席区分所有者数の議決権の過半数 | 区分所有者総数及び議決権総数の4分の3以上 |
おもな議案 | ・役員の選任・解任 ・共用部分の管理 |
・規約の変更や廃止 ・共用部分の重大変更 |
詳細はそれぞれの章で細かく紹介しますが、共用部分の管理や重大変更でそれぞれ決議要件が変わってきます。
管理組合としてどちらにあたるのかは、区分所有者に招集通知を展開する前の議案作成の段階で十分注意する必要があります。
特別決議で否決されるケースは?
標準管理規約における普通決議については、
出席した区分所有者の過半数
であり、一方の特別決議は
区分所有者の総数及び議決権総数の4分の3以上
であることから、普通決議は出席した人の中から多数決で過半数で決議すればよいこととなります。
一方で、特別決議は、管理組合として重要な議案であることから、出席する、しないに関わらず、管理組合全体の区分所有者の4分の3以上の出席(意思表示)が必要となります。
さらに、議決権総数の4分の3以上による決議となるため、8割方の区分所有者の出席があっても、欠席もしくは反対票を投じた残り2割の方において3割の議決権を持っていると、否決される可能性もあるということです。
逆に、出席した半分の方が議決権の8割持っていて賛成票を投じても、区分所有者数が満たないため否決されることとなります。
特別決議の議案は区分所有者として積極的に参加しなければならない
特別決議は、区分所有者と議決権の双方の要件を満たす必要があることから、重要な意思決定です。
したがって、区分所有者としては、管理組合のためにも、積極的に意思決定に参加することが求められます。
ちなみに、前項で
4分の3以上の出席(意思表示)
と記載しているのは、総会当日議場にいなくても、事前の賛否の投票としての議決権行使や、議長やその他の区分所有者に賛否を任せる委任状の提出でも問題ないためです。
いずれにせよ、特別決議の場合は、区分所有者としてなんらかの議案に対する意思表示が重要となります。
普通決議の議案とその事例
具体的に、普通決議、特別決議それぞれの議案と、その代表的な事例を紹介します。
普通決議の議案とは?
最新版の標準管理規約第48条(議決事項)によると、普通決議、特別決議を含めた総会決議の要件が定められています。
中でも、普通決議でよいものは以下の通りです。
・役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法
・収支決算及び事業報告
・収支予算及び事業計画
・長期修繕計画の作成又は変更
・管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法
・修繕積立金の保管及び運用方法
・管理計画の認定の申請、更新、変更の申請
・専有部分と共用部分が構造上一体となっている管理の実施
・修繕ための資金の借入れ及び修繕積立金の取崩し
・共同の利益に反する行為の停止等の訴えの提起並びにこれらの訴えを提起すべき者の選任
・建物の一部が滅失した場合(2分の1以下)の滅失した共用部分の復旧
・マンション除却認定の申請
・建替え等に係る計画又は設計等の経費のための修繕積立金の取崩し
・組合管理部分に関する管理委託契約の締結
・その他管理組合の業務に関する重要事項
普通決議のおもな事例は?
前項の総会普通決議の要件では、具体的にどのようなことなのか分かりづらい点もあるでしょう。
代表的な具体例について紹介します。
使用細則の制定、変更又は廃止
まず、使用細則は、普通決議で新たに制定と変更や廃止ができます。
ベースとなる管理規約は次章で紹介しますが、特別決議によらなければなりません。
一方、そこから詳細を取り決めする使用細則は、普通決議で追加することが可能です。
役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法
理事や監事等、新任役員を決定するときは、総会の普通決議で決めることができます。
また、役員に対して活動する費用やその支払い方法がある場合は、総会で決議することとなります。
年間で役員名義で使用する場合は、予算化することも重要でしょう。
長期修繕計画の作成又は変更
新たに長期修繕計画を作成したり、見直したりする場合も総会に諮る必要があります。
また、長期修繕計画に合わせて、修繕積立金の徴収額も記載されていることが一般的です。
計画によって、修繕積立金の額が変更となる場合もあるでしょう。
その場合は、区分所有者全体への負担もあることから、併せて総会決議を行うことが望まれます。
修繕積立金の保管及び運用方法
修繕積立金は、多くは管理費と区分経理され、別の預金口座で保管されることが一般的です。
さらに、将来的な修繕に備えて、年々積みあがっていくこととなります。
工事が来るまでは余剰資金といえ、口座に寝かせておくことも勿体ないことから、運用に回すことも考えられます。
その運用方法についても決議による必要があります。
管理計画の認定の申請、更新、変更の申請
国が定める管理計画認定制度について、自治体へ認定のための申請を行う場合は、総会の決議を経て申請する必要があります。
まだ始まったばかりのため申請が中心ですが、今後は5年ごとの更新の際や何らかの指摘等によって内容に変更が必要な場合は改めて総会で決議を行い、申請する必要があります。
専有部分と共用部分が構造上一体となっている管理の実施
イメージしやすいのは、共用部分である窓サッシや玄関ドアなどでしょう。
これらに関する管理としての修繕や交換などは、総会の決議によって行う必要があります。
修繕ための資金の借入れ及び修繕積立金の取崩し
前述で、修繕積立金の運用方法を紹介しましたが、これを取り崩す場合で大規模修繕工事等で利用する場合が当てはまります。
一方で、修繕積立金が足らない場合は、借入によって手当をすることもあるでしょう。
その場合も総会の決議による必要があります。
組合管理部分に関する管理委託契約の締結
管理会社との管理委託契約の締結などが該当します。
また、場合によっては、契約締結決議の前に重要事項説明を管理会社から実施して貰い、総会によって契約締結を決議する必要があります。
その他管理組合の業務に関する重要事項
ここは管理組合にとって重要度が変わるところかもしれませんが、理事会で重要と考えて理事会内で決めきらずに、総会で諮って区分所有者全体で決める方がよいとされる事項が考えられます。
例えば、火災保険等の高額の保険契約や、大規模修繕工事実施時の設計監理会社の選定、マンション周辺の大規模な植栽の剪定、管理組合としての地域の自治会への新規加入等もあるかもしれません。
総会の決議事項に含まれない決議はどうすればよいのか?
極論すれば、自分たちのマンションの管理規約に定めてある事項以外は、総会の決議によらずに理事会の決議でもよいと考えられます。
理事と監事が集う理事会は、総会で区分所有者から選出されたメンバーであり、その事業年度の代表メンバーともいえます。
その代表メンバーが決めればよいということも考えられます。
また、標準管理規約では、直前でも記載したとおり「その他管理組合の業務に関する重要事項」という項目があります。
理事会で討議したものの、管理組合として重要事項であることから、改めて総会に諮って区分所有者全員で決めた方がよいのではという事項が該当します。
区分所有者全員に対して決めていくことで、不信感が減り納得感も生まれるとともに管理組合全体の一体感も高まっていくと考えられます。
特別決議の議案とその事例
対する特別決議についてはどのようになっているのか、普通決議同様に確認と解説していきます。
特別決議の議案とは?
標準管理規約第47条3項~5項には特別決議の要件が紹介されています。
そして、特別決議には組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上のものと、5分の4以上のものがあります。
組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上の特別決議
・敷地及び共用部分等の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの及び建築物の耐震改修の促進に関する法律第25条第2項に基づく認定を受けた建物の耐震改修を除く。)
・区分所有法第58条第1項、第59条第1項又は第60条第1項の訴えの提起
・建物の価格の2分の1を超える部分が滅失した場合の滅失した共用部分の復旧
・その他総会において本項の方法により決議することとした事項
組合員総数の5分の4以上及び議決権総数の5分の4以上の特別決議
・マンション敷地売却決議
特別決議のおもな事例は?
おもに「組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上の特別決議」の事例について紹介します。
規約の制定、変更又は廃止
管理組合の中で最も多いものは規約に関するものでしょう。
法制度の改正により、規約の変更が都度必要になってくるため、管理組合としても毎年とまでは言わないものの、数年に1度は規約変更があると考えられます。
その場合は、普通決議では可決されないため、組合内での参加が重要となります。
敷地及び共用部分等の変更
敷地および共用部分等の変更としては、「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」「建築物の耐震改修の促進に関する法律第25条第2項に基づく認定を受けた建物の耐震改修」を「除く」と解釈する必要があります。
また、前半部分を引用すると「その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く」ということで、法律用語独特の二重否定となっています。
すなわち、「その形状又は効用の著しい変更を伴うもの」として解釈できます。
敷地および共用部分等の計上又は効用の著しい変更を伴うものの例としては、標準管理規約の補足では
・集会室、駐車場、駐輪場の増改築工事(充電設備の設置工事等他の工事に伴って行われる場合も含む。)などで、大規模なものや著しい加工を伴うもの
と例示されています。
おもに新たに設置するものとして位置づけられ、大規模修繕工事は名前からして「著しい変更」を想起しがちですが、それに該当しないこととなります。
参考までに、著しい変更を伴わない行為とは?
一方で、標準管理規約のコメントでは以下の例示がなされています。
・耐震改修工事で柱やはりに炭素繊維シートや鉄板を巻き付けて補修する工事や、構造躯体に壁や筋かいなどの耐震部材を設置する工事
・防犯化工事でオートロック設備を設置する際、配線を空き管路内に通したり、建物の外周に敷設したりするなど共用部分の加工の程度が小さい場合や、防犯カメラ、防犯灯の設置工事
・宅配ボックスの設置工事で壁や床面に宅配ボックスを固定するなど、共用部分の加工の程度が小さい場合
・IT化工事に関し、光ファイバー・ケーブルの敷設工事を実施する場合、その工事が既存のパイプスペースを利用するなど共用部分の形状に変更を加えることなく実施できる場合
・新たに光ファイバー・ケーブルを通すために、外壁、耐力壁等に工事を加え、その形状を変更するような場合
・充電設備の設置工事に関し、充電器自体の設置及び配線を通すために必要な配管の設置など、建物の躯体部分や敷地への加工の程度が小さい工事を行う場合等
・計画修繕工事に関し、鉄部塗装工事、外壁補修工事、屋上等防水工事、給水管更生・更新工事、照明設備、共聴設備、消防用設備、エレベーター設備の更新工事
・窓枠、窓ガラス、玄関扉等の一斉交換工事、不要となったダストボックスや高置水槽等の撤去工事
区分所有法第58条第1項、第59条第1項又は第60条第1項の訴えの提起
第58条1項は「使用禁止の請求」、59条1項は「区分所有権の競売の請求」、そして60条1項は「占有者に対する引渡し請求」が該当します。
「使用禁止の請求」は区分所有者の生活上支障をきたす場合など、
「区分所有権の競売の請求」は管理費や修繕積立金の滞納が多く、支払えない場合など、
そして、「占有者に対する引渡し請求」は、マンションの一室を専有し管理組合に影響を与えている賃借人などが該当します。
それぞれ管理組合の方針により、区分所有者に対して大きな影響を及ぼし、法的手続きに出ざるを得ない場合の手段といえるでしょう。
その他総会において本項の方法により決議することとした事項
これは、管理組合独自で特別決議で決めるとしたことが挙げられます。
例えば、
・大規模修繕工事は管理組合に大きな影響があることから、特別決議として区分所有者の合意を得る
なども考えられるでしょう。
見落としがちな普通決議、特別決議における注意点
最後の章では、普通決議、特別決議において注意すべき事項について紹介します。
普通決議なのか、特別決議議案なのか十分確認
今回の総会に諮る議案は、管理規約とも照らして普通決議か特別決議なのか、事前の理事会において丁寧に確認する必要があります。
本来は特別決議事項だったのに、実際には普通決議で決議してしまった場合は、総会のやり直しも必要となってしまいます。
管理会社委託の管理組合はそのようなリスクは低減されるかと思いますが、自主管理マンションであると、どちらかが明確にならない場合もあるかもしれません。
そのようなことが無いようにするためにも、時間を取って予め理事会で話し合い、総会に諮る準備が必要です。
特別決議案に対する参加を促す
筆者も非常に気を遣いますが、特別決議案がある場合には、特に総会開催前から注意が必要です。
さらに、決議要件が、「組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上」となることから、多数参加が絶対条件です。
また、多数参加が必要な場合は、予め議決権行使、委任状、さらには当日参加を促すことで、議案が成立しない(=否決)とならないような段取りが必要でしょう。
とりわけ、管理組合活動への参加意識が低かったり、区分所有者の理解が深まっていない比較的新しいマンションは注意が必要かもしれません。
規約により別段の定めが可能
標準管理規約は、最新の区分所有法をもとに作成されています。
区分所有法の中では、「規約で別段の定めが可能」とあり、本来の規約のひな型案とは違った形で、管理組合独自の定めが可能となっています。
例えば、以下のような内容です。
標準管理規約 | 規約で別段の定めを行う場合 | |
議決権割合 | 専有部分の床面積割合 | 1住戸1議決権 |
理事会の招集手続き | 総会に準ずる形 | 各管理組合独自の手法 |
総会の議案 | 予め通知した事項のみ決議 | 普通決議事項による通知外の事項※ |
決議においては、専有部分の床面積割合の算出が難解となるため、部屋の広さを問わず、1住戸1議決権と定めている所もあります。
この場合は、参加者数等、議決のカウントがしやすいメリットがありますが、大きな住戸に住んでいる方に対する不公平感も発生する可能性があります。
また※の箇所は、その議場に参加していない区分所有者は知らないこととなるため、標準管理規約においては「予め通知した事項のみ」とありますが、大元の区分所有法は「別段の定め」ができるとしており、いわゆる「緊急動議」ができることとなります。
それは、普通決議事項は「総会出席者の過半数」としていることから、仮に出席者が全員議場にいる場合、理屈として可能なのかもしれません。
ただし、議決権行使をして議場にいない方は新たな動議には参加できないので、その数が多いと可決は難しく、法律的には可能なものの運営上適切ではないでしょう。
代理人による議決権行使も可能
標準管理規約でも、代理人による議決権行使は認められています。
具体的には以下のような記載があります。
・その組合員の住戸に同居する親族
・他の組合員
この場合、各代理人は代理権を称する書面を理事長に提出する必要があります。
また、同居する親族は親等問わず出席可能であり、仲の良い隣人の組合員に代理で出てもらうことも可能となっています。
賃借人には議決権は存在しない
これはそもそもで多くの方が理解されている所ですが、区分所有者から借りて住んでいる賃借人には議決権はありません。
また、前述でも上がりましたが、議決権は「所有している専有部分の床面積割合」が原則であり、賃借人は所有していないためです。
さらに、前項の代理人に該当しない賃借人であれば、代理人としての参加もできません。
したがって、参加しても無効となるものの、開始前に出欠表をチェックすることで、区分所有者の代わりに来ていないか、参加者を明らかにする必要があるでしょう。
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