築30年超マンションの「これから」を見据えて~第二回大規模修繕工事と管理組合の羅針盤~

マンション管理

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築30年を超えたマンションは、社会と共に歩んできた証として、風格と歴史をその佇まいに刻んでいます。しかし、年月は建物や設備に確実に影響を与え、様々な箇所で劣化の兆候が見え始める時期でもあります。

特に、新築時から一度目の大規模修繕工事を経て、第二回目の大規模修繕工事を迎えようとしている、あるいは終えたばかりのマンションにおいては、今後のマンションの寿命を左右する重要な局面を迎えていると言えるでしょう。

国土交通省の令和5年度マンション総合調査(当研究室による解説)を見ても、マンションを取り巻く環境は変化し続けており、築年数を重ねたマンションならではの課題も顕在化しています。

本稿では、この調査結果も踏まえながら、築30年を超えるマンションの現状を分析し、第ニ回大規模修繕工事を中心とした今後の対応について、管理組合の皆様に向けて具体的な指針を示します。マンションの持続的な発展と、快適な居住環境の維持のために、今一度、足元を見つめ直し、将来への羅針盤を描きましょう。

築30年超マンションのリアル~令和5年度調査から見える現状~

築30年を超えるマンションは、建物自体の老朽化に加え、居住者の高齢化、空室の増加、管理費等の滞納といった複合的な課題に直面しているケースが増えています。令和5年度マンション総合調査の結果から、これらの現状を具体的に見ていきましょう。

建物・設備の老朽化:顕在化する不具合と修繕ニーズの高まり

築年数の経過と共に、マンションの建物や設備は確実に劣化していきます。令和5年度マンション総合調査では、依然として「建物の不具合」がトラブル内容の上位に挙げられており(前年度の平成30年度調査でも同様の傾向)、特に築年数が古いマンションほどその割合が高い傾向にあります。

具体的には、給排水管の老朽化による水漏れ外壁のひび割れや剥落屋上防水の劣化などが挙げられます。これらの不具合は、居住者の生活に直接的な影響を与えるだけでなく、マンション全体の資産価値を低下させる要因となります。

第二回大規模修繕工事においては、これらの経年劣化した部分を適切に修繕し、マンションの耐久性を回復させることが最重要課題となります。

居住者の高齢化と空室の増加:新たな管理運営の課題

居住者の高齢化も、築30年超マンションにおける重要な課題です。令和5年度調査では、「区分所有者の高齢化」や「居住者の高齢化」が将来への不安要素の上位に挙げられており、特に築年数の経ったマンションでその不安が高くなっています。高齢化が進むと、管理組合活動への参加が難しくなる、生活上のサポートニーズが増加するなどの課題が生じます。

また、空室の増加も無視できない問題です。令和5年度調査によると、「空室(3ヶ月以上)がない」マンションの割合は増加傾向にあるものの、依然として3分の1程度のマンションは何らかの形で空室を抱えています。そして、築年数が古いマンションほど空室割合が高い傾向が見られます。空室の増加は、管理費収入の減少に繋がり、マンションの維持管理に影響を与える可能性があります。

管理費・修繕積立金の滞納:健全な管理運営を脅かすリスク

管理費や修繕積立金の滞納は、マンションの健全な管理運営を大きく阻害する要因となります。令和5年度調査においても、管理費・修繕積立金を3ヶ月以上滞納している住戸があるマンションの割合は依然として29.7%存在しており(平成30年度調査では全体で24.8%)、築年数が古いマンションほどその割合が高くなる傾向が見られます。滞納が増加すると、計画的な修繕工事の実施が困難になる、日々の管理業務に支障をきたすなど、マンション全体の機能低下を招きかねません。

居住者間のマナー問題の変化:高経年化による新たな火種

居住者間のマナーに関するトラブルは、マンションにおける永遠の課題とも言えます。令和5年度調査でも、依然として「居住者間のマナー」が60.5%と平成30年度の調査を上回ってトラブル内容の多くを占めています(平成30年度調査でも最多の55.9%)。

トラブルの内訳を見ると、高経年マンションでは「違法駐車」「ペット飼育」「共用部分への私物の放置」が多く、築浅マンションでは「生活音」「バルコニーの使用方法」が多い傾向が見られました。これは、築年数の経過と共に居住者の構成が変化し、生活スタイルや価値観の多様化が進むことが影響していると考えられます。

第ニ回期大規模修繕を成功させるための羅針盤

築30年超のマンションにとって、第二回大規模修繕工事は、建物の寿命を延伸させ、居住環境の質を向上させるための重要な機会です。しかし、工事の規模も大きくなることが予想され、多くの注意点が存在します。

長期修繕計画の見直しと資金計画の再構築

第二回大規模修繕工事の実施にあたっては、長期修繕計画を改めて見直し、現状に合わせた計画へとアップデートすることが不可欠です。特に、前回の修繕履歴や今回の建物診断の結果を踏まえ、より具体的な工事内容、時期、概算費用を洗い出す必要があります。

また、それに伴い修繕積立金の残高を確認し、不足が見込まれる場合は、積立金の増額一時金の徴収などを検討する必要があります。国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」も参考に、将来を見据えた無理のない資金計画を策定しましょう。場合によっては、住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資制度の活用も検討に入れるべきでしょう。

建物診断の徹底と工事項目の精査

大規模修繕工事の成否は、事前の建物診断の精度に大きく左右されます。専門家による詳細な診断を実施し、現状の劣化状況を正確に把握することが重要です。その結果に基づき、本当に必要な工事項目を精査し、無駄のない効率的な修繕計画を立てるべきです。

単に劣化している部分を直すだけでなく、将来的なリスクを低減するための予防保全の視点も取り入れることが望ましいです。

居住者ニーズの把握と合意形成

第二回大規模修繕工事は、居住者全体の協力が不可欠です。工事内容や期間、費用負担などについて、丁寧な説明会を開催し、アンケートなどを活用して居住者の意見や要望を把握するように努めましょう。

特に、高齢化が進むマンションにおいては、バリアフリー化のニーズ、共働き世帯が多いマンションにおいては宅配ボックスの増設など、社会の変化や居住者のライフスタイルの変化に対応した改修も検討する価値があります。

合意形成には時間がかかることもありますが、透明性の高い情報公開積極的な対話を通じて、居住者全体の理解と協力を得る努力が求められます。

信頼できる施工業者の選定

大規模修繕工事の品質を確保するためには、信頼できる施工業者を選定することが最も重要です。複数の業者から見積もりを取り、実績、技術力、提案内容、アフターフォロー体制などを総合的に比較検討しましょう。

設計監理者を選任し、工事の品質管理を第三者の視点で行ってもらうことも有効な手段です。契約内容についても、保証期間や瑕疵担保責任などをしっかりと確認することが大切です。

特に最近は、大規模修繕工事における談合問題が表面化しています。管理組合としても徹底した事前対策が必要となっています。

工事期間中の居住者への配慮

大規模修繕工事は、長期間にわたることが多く、騒音や振動、生活動線の制限など、居住者の日常生活に様々な影響を与えます。工事期間中は、工事の進捗状況や注意点などを定期的に周知し、居住者の不安や不便を最小限に抑えるための配慮が求められます。

仮住まいの手配共用施設の利用制限などが発生する場合は、事前にしっかりと説明し、理解と協力を得るように努めましょう。

築30年超マンションの「これから」~持続的な発展に向けて~

第二回規模修繕工事は、マンションの再生に向けた重要なステップですが、それで全てが解決するわけではありません。築30年超のマンションが持続的に発展していくためには、長期的な視点に立った継続的な取り組みが必要です。

主体的な管理運営とコミュニティの活性化

マンションの価値を維持・向上させていくためには、管理組合が主体的に管理運営に取り組むことが不可欠です。役員のなり手不足や高齢化による活動の低下が懸念される場合は、外部の専門家(マンション管理士など)の支援を得ることも検討しましょう。また、居住者間のコミュニケーションを促進し、コミュニティを活性化させることで、様々な課題に協力して取り組むことができる土壌を築くことが重要です。

管理組合としての空き家対策の検討

空室の増加は、マンションの活力を低下させるだけでなく、管理費等の収入の減少にも繋がります。空き家所有者が滞納していなければまだ問題ないといえますが、住んでいないということは、前述の通り役員のなり手不足にも繋がってしまう可能性があります。

そのため、空き家の所有者である組合員に対しても、議決権の行使や定期的な帰宅など、管理組合に関与して貰うことも重要です。管理会社などと連携しながら、管理組合との関与を切らさないようにすることも重要でしょう。

できれば、賃貸に出して貰って、誰かが住んでいる状態であるとより安心感も高まります。誰もいない空き家状態がしばらく続くと、安心・安全の観点からも管理組合内で不安が出てくる可能性があります。

時代の変化に対応した設備更新

社会のニーズや技術の進歩に合わせて、マンションの設備を更新していくことも、長期的な視点で見ると重要です。例えば、宅配ボックスの増設インターネット環境の整備EV充電設備の設置などは、居住者の利便性を高め、マンションの魅力を向上させる可能性があります。

30年を超える高経年マンションにおいては、現在の新築マンション同様の設備を整えていく、いわゆる「時代が求める建物の性能」を満たすことも求められます。多くのマンションにおいては、大規模修繕工事の段階や、それ以外のタイミングでも行われることが多いですが、

✅充実した設備→若いファミリー層の入居増→役員のなり手不足等課題の解消

にもつながるので、重要と言えるでしょう。

将来を見据えた建て替え・敷地売却の検討

築年数がさらに経過すると、大規模修繕だけでは維持が困難になるケースも想定されます。将来的に建て替え敷地売却といった選択肢も視野に入れ、早期から情報収集を行い、長期的な検討を始めることも重要です。区分所有法の改正によって、今後より検討しやすくなる見込みです。

ただし、これらの対策を考えるにあたっては、生活の支障を大いにきたすことになるため、区分所有者全体の合意形成が不可欠であり、時間と労力を要することを理解しておく必要があります。

おわりに:未来へ繋ぐための決断と行動

築30年を超えるマンションは、多くの思い出と歴史が詰まった、居住者にとって大切な財産です。第二回大規模修繕工事を契機として、現状の課題をしっかりと認識し、将来を見据えた適切な対応策を講じることで、マンションの価値を維持し、次世代へと繋いでいくことが可能です。

管理組合の皆様には、本稿を参考に、主体的な議論を重ね、未来へ繋ぐための決断と行動を起こしていただければ幸いです。

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