契約書類を電子化してやり取りしたいのだが、どうすればよいのか?
また、
議事録も電子化して回覧したいのだけれど、うちの管理組合で出来るのだろうか?
そして、
電子化データを適正に保管したいのですが、どのようにしたらよいのだろうか…。
このように、管理組合におけるIT化やDXの疑問をもつ管理組合も多いと考えられます。
この記事を見ている管理組合の役員や区分所有者であれば、普段書類を電子的に取り扱うことも一般的でしょう。
管理組合内でも、同じような取り組みは可能となってきています。
具体的には、どのような仕組みを考えればよいのか、IT系ビジネスに知見があり、業務フローの整備等にも携わったことがあるマンション管理士の筆者が具体的に紹介します。
管理組合における契約書面や議事録の電子化方法とは?【運営効率化】
今回紹介する内容は以下の通りです。
・具体的な電子化手順の紹介
・契約書面や議事録、管理規約等の電子化のメリットは?
・契約書面や議事録、管理規約等を電子化する際に気を付けるべきことは?
まず、契約書面や議事録の電子化について、前提として規約や細則等で考えておかなければならない事項を紹介します。
次に、具体的な手順として、契約書を中心とした押印システムの設定について紹介します。
さらに、書面を電子化することは、管理組合や役員にとって様々なメリットをもたらしますので、想定されることを記載します。
最後に、管理組合としてこのような電子化を導入するにあたって注意しておかなければならないことについて触れます。
PCを使って手軽に契約書面や議事録に電子署名や電子押印ができるのは、理事長をはじめとした役員にとっては非常に便利で、是非導入したいところですね。
今後はますます増えていくこの電子化方法について、次章より紹介していきます。
契約書面や議事録の電子化のポイントは?
まず、契約書面や議事録等、電子化するにあたって管理組合として対応すべき点や、準備する必要がある点など、ポイントを紹介します。
管理規約変更を検討
まず、電子化を行うにあたって、電子化対応が可能なように、管理規約を変更しておくことが望まれます。
おもに、
・管理会社との管理委託契約書の電子化
・管理規約書面自体の電子化
などに対応できるように、総会の決議によって管理規約を変更しておくことが望まれます。
具体的には、標準管理規約に以下のような文例があります。
総会議事録の電子化例
※国土交通省 標準管理規約 単棟型より引用
管理規約電子化例
※国土交通省 標準管理規約 単棟型より引用
標準管理規約の文例そのまま規約に反映することで、議事録や規約の電子化の運営が可能となります。
使用細則で細かなルールを明文化
管理組合として、書類保管用に後述するような共有フォルダーを準備する場合、アクセス可能なメンバーやパスワードの付与等のルールを決めておくことも一つの考え方としてあります。
筆者が見ている管理組合では、電磁的データ利用細則というのはまだ確認したことはないですが、今後書類の保管等が適切に行われるように、共有フォルダー作成ルールやアクセスルール、セキュリティ等を定めておくこともあるでしょう。
管理組合が使う共有サーバーや専用アプリの準備
データを保管するための管理組合内で共有で利用できるクラウドシステムやスキャンに必要なスキャナーなども準備が必要かもしれません。
ただ、便利になっている現在では、GoogleDriveやWindowのOneDriveなどのクラウドシステムは一定の容量までは無料で活用できます。
また、スキャナーも無料スマートフォンアプリで書類を撮影すれば、PDFに変換してくれる便利なものもあります。
さらには、PDF間の書類結合やPDF書類の回転などで、見やすく整理するソフトも無料で提供されています。
これらを上手く活用すれば、管理組合としても費用負担が不要な可能性もあります。
そして、管理会社など独自のシステムを持っている場合、区分所有者がアクセスできる管理組合専用のシステムが準備されることもあるでしょう。
そのような場合は、委託管理費の範囲内でシステムを活用できることも考えられるため、有効活用することも検討すべきです。
具体的な電子化手順の紹介
次に、具体的に電子化を導入するためには、どのような手順を踏めばよいのか紹介します。
まずは電子契約用のシステムを検討する
管理会社が使用している電子契約システムがあれば、それを活用することが一番でしょう。
弁護士ドットコムが提供するクラウドサインやGMOサインなど、最近では数多くのサービス出ています。
特にリモートワークの促進や、コロナ禍を通じた遠隔での業務の必要性から、一気にこの契約システムが進んできています。
管理組合としての書類保管ルールを考える
管理組合用の契約管理システムが導入できれば、そのアカウントで一括管理はできるでしょう。
というのも、後述する役員個別で署名した場合には、各契約システムの性質上、役員個別でデータは残るものの、管理組合として集約して残らない可能性があります。
そのため、ルールとしては、
・議事録において当事者として管理会社のフロント担当に参加して貰い、サインはしないものの電子データが残るように工夫する
・管理会社との管理委託契約の電子化の場合は、管理会社に必ず電子データを保管して貰う
などを考えていくことも一つです。
役員個別でも署名対応を準備
議事録や管理会社との管理委託契約など、電子署名する際も電子的な対応が可能です。
そのためには、各役員が署名を行なえるように、メールアドレスの共有と契約システムへのアクセスが必要となります。
とりわけ個々の役員が契約システムに参加する必要はなく、メールアドレスがあれば送り手側の契約システムを通じて署名することが可能です。
また、関係者すべての電子署名が終わった後には、各役員に電子署名後のデータが配信されることが一般的です。
契約書面や議事録の送付
管理組合から契約書面を送ることは少ないため、多くは管理会社やその他業者から理事長宛に送られてきて、電子署名をすることが一般的でしょう。
一方の議事録は、理事長が作成してまずは電子署名のうえ、議事録署名人に送付することとなります。
ただし、最初に送る理事長は、契約システムにアクセスして送付する役割が求められます。
この辺りは管理会社が導入する方法としてフロント担当者が関与する場合や、システムにも関連する可能性がありますが、一般的には上述の流れです。
関係する各役員が電子署名や捺印を行う
送られてきた他のメンバーは契約システムに従って電子署名をします。
議事録であれば、理事長→署名人1→署名人2、といったように前の人が電子署名したり電子捺印した段階で次の人に回っていく仕組みです。
全員が電子署名または捺印が完了した際に、有効な議事録となり、各メンバーに最終版がメールでフィードバックされる仕組みが一般的です。
管理組合や各役員で保存する
データは各役員にも回ってくるため、各自で保存することになります。
一方で、各自が持っていて、管理組合として集約化されていない場合は、議事録をすぐに確認することができないため、注意が必要です。
前述したように、理事長が注意して管理会社に共有したり、指定のフォルダーに格納することで、保存をすることも必要となるでしょう。
契約書面や議事録、管理規約等の電子化のメリットは?
契約書面や議事録、管理規約などを電子化することによるメリットはどのようなところにあるのでしょうか。
使用上考えられる事項を具体的に紹介します。
データ一元管理による書類整理の効率化
まず、紙のデータだと、データがかさばるうえ、バインダーに綴じる手間が掛かったり、仕訳が必要になったり等、その作業だけでも膨大にかかります。
さらに、バインダーを置く場所も管理組合において発生します。
年々バインダーが増えていき、高経年マンションとなると膨大な量になってしまい、外部倉庫を使わないといけない…なども発生します。
一般的には管理組合の書類保管期限は特に定められていません。
しかしながら、ある程度の保管は必要になり、外部倉庫を使うまでにはいかないかもしれないですが、集会室や管理員室も書類が多くなってくる可能性があります。
データ化によって、かさばらず、バインダーへの綴じ込みや場所を取らずに書類保管が可能なため、これらが解消できることが期待できます。
押印手続きの迅速化
契約書類や議事録を紙で回覧すると、実際に捺印の手間が掛かるうえ、遠方であれば郵送することになります。
電子データのやり取りではこれらの手間が全くなくなることとなります。
さらには、紙の契約では印紙代が発生するものもあるかと思いますが、電子契約には印紙という概念はないため、この金額が契約の当事者間で節減することも可能です。
契約時や議事録に理事長印は必要ない
電子署名を行う場合は、リアルな理事長印を捺印できないこととなります。
ただ、それでも有効な理事長の電子印・理事長の電子署名として機能することになります。
そのため、議事録や契約書等において理事長印を押す必要がないこともあります。
また、電子署名では難しい契約や他の捺印のために、理事長印が不要になる訳ではありません。
理事長印は、引き続き管理・保管を徹底する必要はあります。
光学文字認識機能(OCR)が付いていればどこに何が書いてあるのか検索しやすい
筆者が電子化による書面のPDF化によって一番効果的だと考えているのはこの機能です。
光学文字認識機能(OCR)がついているPDFには文字を容易に検索できます。
非常に多くの文章が掲載されている契約書面や管理規約は、どこに何か書いてあるのか、検索するにも時間が非常に掛かります。
したがって、この検索機能によって、例えば規約「監事」と検索すれば、理事長の該当箇所をピックアップしてくれることになります。
※国土交通省の標準管理規約より「監事」と検索した場合の例
このように対象箇所を表示してくれるため、どこに何が書いてあるのか、膨大な文書からスムーズに確認することができます。
契約書面や議事録、管理規約等を電子化する際に気を付けるべきことは?
契約書面や議事録などの管理組合の書面を電子化するにあたって、どのような点に注意しておけばよいのか、最後の章で具体的に紹介します。
セキュリティ管理を徹底する
管理組合において、データを電子的に扱うということは、操作の誤りによって漏洩の危険性もあります。
役員の故意ではなくても、知らないうちに漏洩してしまっている…そのような懸念も考えられます。
そのため、セキュリティ管理を徹底するとともに、セキュリティのための教育も継続的に実施していく必要があるでしょう。
このあたりは、マンション管理の側面では弱い点かもしれませんので、管理組合内で対策を検討することが求められます。
次に就任する役員への引き継ぎが重要
もし、管理組合で専用アカウントを持っている場合は、アカウント管理やアクセス用のパスワード等の引き継ぎが必要になるでしょう。
また、役員交代時にはセキュリティの関係上、パスワード変更することが望まれます。
新たに就任した役員が変更のうえ、ログイン可能な役員に共有する等で運用を工夫していく必要があります。
さらに、議事録の回覧や署名方法なども、次の役員に引き継ぐ必要があります。
電子化をすでに導入している管理組合であれば、管理会社のフロント担当者がフォローしてくれると考えられますが、そうでない場合は、必ず申し送りが必要になるでしょう。
電子版と紙版が混じる場合には煩雑になる
電子契約や議事録の電子署名・押印は、押印や署名する対象者全員が電子化で対応することが効率的です。
また、管理会社との管理委託契約締結の際も、双方が電子印と電子署名を行うことが望まれます。
一方で、電子対応とこれまでの紙による押印も併用できます。
併用する場合には、以下のような注意が必要です。
・書面を電子化したい側がデータを送信し、紙で残したい側がプリントアウトして捺印、控えをPDFで共有して貰う
・原本は紙で保存したい側が保存すれば電子化側は控えでも問題ない
これらにより双方にとって有効なデータとなるようです。
ちなみに、電子契約と紙の契約が混在するケースについて、実際にクラウドサインを運営する弁護士ドットコムに問い合わせました。
以下、チャットにおける筆者の質問と、クラウドサインを運営する弁護士ドットコムから回答を得たスクリーンショットです。
双方電子化できればこのような手間はなさそうですが、そうでない場合は、電子化したい側がPDF化するなどして保管していれば問題ないようです。
PCが使えない役員がいる場合は電子契約や電子押印が難しい可能性がある
仮に議事録を回覧するとなった場合、電子署名や押印に慣れていない役員がいた場合は、電子押印は難しいかもしれません。
しかしながら、前項のクラウドサインの例で考えると、全ての役員にリアルな印鑑を押して貰ったあとに、スキャンしてPDF化すると、議事録の電子化が可能といえます。
役員のITリテラシーに合わせながら、電子化を採用するかどうかを検討する必要も出てくるでしょう。
書類の電子化は非常に便利なのでルールを作って運用したい
通常の業務では書類の電子化は一般的な事項になっています。
一方で、管理組合の電子化はまだ途上である感じもします。
管理組合として、管理規約をはじめとしたルールを整備し、役員を中心に使い方に慣れれば、非常に有効活用できます。
効率的な管理組合運営のためにも、すでに実施している管理組合も多いため、可能な所から取り入れていくことが望まれます。
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