マンション価格はもう”住む価格”ではない?中古PER32倍時代の異常

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首都圏の中古マンションPERが、2025年時点でついに31.78倍に達しました。

これは、「家賃収入だけで物件価格を回収するのに約32年かかる」水準です。

しかも現在は、新築マンションより中古マンションの方が割高という、これまででは考えにくかった“逆転現象”まで起きています。

新築の30.46倍を上回り、13年連続で過去最高を更新し続けています。この数字が示すのは、単に「マンションが高くなった」という話ではありません。価格の形成原理そのものが、かつての「住むための価格」から「売れる価格」へと根本的に変質しつつあるという、市場構造の転換です。

本記事では、東京カンテイが2026年5月7日に発表した最新のデータ「新築マンションPER 2025」をもとに、なぜこうした異常が起きているのか、マンション管理士兼FP1級の筆者が、その構造を整理します。そして、価格上昇の陰に隠れた「管理・維持」という視点から、マンションとはそもそも何であるかを改めて問い直したいと思います。

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「PER32倍」とはどういう意味か──数字が語る市場の変質

マンション市場の話をするとき、多くの人は「いくらで買えるか」を基準に考えます。しかし、その価格が「賃料という実需」とどれほどかい離しているかを示す指標が、マンションPER(Price Earnings Ratio/価格が賃料の何年分かを示す指標)です。

東京カンテイが算出するマンションPERは、マンション価格を同じ駅勢圏の年間賃料で割った値で、「賃貸に出した場合、何年で初期投資を回収できるか」を意味します。PERが20倍であれば回収に20年、30倍なら30年かかる計算です。

2025年時点の首都圏中古マンションPERは31.78倍でした。かつて不動産ミニバブルと呼ばれた2008年ですらPERは22倍程度で推移していたことを考えると、現在の水準がいかに歴史的な高値圏にあるかが分かります。さらに注目すべきは、中古(31.78倍)が新築(30.46倍)を1.32ポイント上回るという「逆転現象」が鮮明になっていることです。22年以降も中古が新築を超える年はありましたが、差は1ポイント未満でした。2025年の格差は、単なる統計上のブレではなく、市場の構造変化を示していると読むべきでしょう。

この数字を生み出したのは、価格と賃料の乖離です。首都圏中古マンションの平均価格(70㎡換算)は2025年時点で前年比14.9%増の1億550万円に跳ね上がりましたが、月額平均賃料(同)は2.8%増の25万6,358円にとどまりました。価格が急騰する一方で、賃料の上昇は緩やか──この非対称な動きが、PERを押し上げ続けています。

なお、マンションPERそのものの基本的な考え方や、2024年時点での首都圏PER推移、世帯年収倍率との関係などについては、こちらの記事でも詳しく整理しています。

中古が新築を超える逆転現象──なぜ起きているのか

中古マンションのPERが新築を上回るという現象は、直感的には不思議に思えます。経年劣化した建物が、新築よりも割高になるとはどういうことでしょうか。

背景には、需給の構造的な歪みがあります。新築マンションの供給は、建設コスト高騰・用地取得難などにより近年大幅に絞られており、2024年度の首都圏供給戸数は1973年以降で過去最少水準に達しました。新築が市場に出てこないため、購入を検討していた実需層が中古市場に流れ込みます。さらに東京都心では、富裕層や株高の恩恵を受けた投資家、買い取り再販会社が旺盛な購買意欲を持って中古市場に参入し、価格を押し上げています。

一方で、中古物件の賃料は新築ほど高くつきません。経年により設備や内装の新鮮さが薄れるため、同じ立地でも中古の賃料水準は新築を下回ります。つまり、価格(分子)は押し上げられ、賃料(分母)は相対的に低い──この組み合わせが、中古PERを新築以上に膨らませる構造を生み出しているのです。

駅別のデータを見ると、この傾向は都心部で特に際立っています。最もPERが高かったのは東京メトロ日比谷線「神谷町」の79.88倍。首都圏平均と比べて投資回収に48年以上も余計にかかる計算になります。六本木一丁目(62.24倍)、銀座(60.25倍)など、都心の人気エリアが軒並み高PERの上位に並んでいます。これらのエリアでは、中古物件であっても新築時を上回る価格で取引される事例が増えており、表面利回りが2%を切るケースが続出しています。

「いくらで貸せるか」から「いくらで売れるか」へ──市場の目的が変わった

本質的な問いはここにあります。マンション市場において、いま価格を決めているのは何か、ということです。

かつてマンションの価格は、少なくとも大まかには「その物件から得られる賃料収入」という実態に根ざしていました。賃料は、その地域で実際に生活する人々の所得や家賃負担能力に規定されます。つまり、価格は「住む」という実需と緩やかに連動していたと言えます。

しかし現在、特に都心部の中古市場では、賃料収入による投資回収という発想自体が後景に退いています。東京カンテイの藤谷有希研究員が指摘するように、中古マンションへの関心は「いくらで貸せるか」から「いくらで売れるか」へと移っています。購入者が期待するのは、インカムゲイン(賃料収入)ではなくキャピタルゲイン(値上がり益)です。実際に、新築で販売された後に築10年が経過した首都圏の中古マンションのリセールバリューは、平均で1.6倍になったとの調査結果もあります。

この「値上がり前提」の価格形成が続く限り、PERは賃料実態から切り離されて膨らみ続けます。将来の値上がりを信じる資金が流入する限り、PERという指標は市場の割高感を知らせる信号としては機能しにくくなっています。

ただ、この構造には内在的な脆弱性があります。値上がり期待が継続するためには、常に次の買い手が現在より高い価格を支払い続けることが前提となります。その連鎖がどこかで途切れた瞬間、価格は実需──すなわち賃料水準や居住者の所得──に引き戻されることになります。東京カンテイの上席主任研究員も、PER調整は避けられないと見ており、賃料上昇の限界から新築価格の下落がPERを押し下げる可能性が高いと分析しています。

年収800万円層でも届かない現実──実需層との乖離が深刻化

価格高騰が「投資目線」で語られるとき、見落とされがちなのが、実際にその地域に住もうとしている人々の現実です。

東京カンテイのデータによれば、世帯年収800万円を想定した場合、首都圏新築マンションの世帯年収倍率は平均10.9倍(平均価格8,759万円)に達しています。一般的に住宅ローン融資の目安とされる年収の7〜8倍を大きく超えており、東京都内では年収1,500万円の区分でも7倍以下にならないという状況です。

新築マンションで世帯年収倍率が7倍以下で購入できる行政区は、首都圏全体でわずか32.7%(35行政区)にとどまります。東京都港区に至っては36.0倍という数字が示す通り、もはや特定エリアのマンションは一般的な勤労者世帯の射程を完全に外れています。

「新築が高いなら中古で」という発想も、今や容易には通用しません。築10年中古マンションの平均PERは31.78倍と新築を上回る水準にあり、都心部の中古マンションは新築以上の価格で取引されるケースすら出ています。新築市場から押し出された実需層が中古市場に流入し、その中古市場でも投資マネーと競合する構図が定着しています。

こうした実需層との乖離は、単に「買えない人が増えた」という問題にとどまりません。価格が「住む人の所得」から切り離されて形成される市場では、コミュニティの持続性そのものが問われます。マンションは共同住宅であり、そこに実際に生活する人々の存在なしには成立しません。投資目的の空室や短期転売が増えれば、管理組合の担い手不足、共有部分への無関心、修繕積立金の滞納といった問題が生じやすくなります。

実際に、東京23区では「年収1000万円でも現実的な選択肢が限られる」という状況も起きています。エリア別の購入可能性については、こちらの記事でも詳しく整理しています。

価格が上がっても「管理品質」は上がらない──見落とされている視点

ここで、マンション管理の視点から重要な問いを立てたいと思います。それは、「価格上昇はマンションの価値を本当に高めているのか」という問いです。

マンションの価格が上がることと、そのマンションの物理的・管理的な品質が向上することは、まったく別の話です。都心の人気エリアで1億円を超えて取引されるマンションが、必ずしも適切な修繕積立金を確保し、長期修繕計画を着実に実行し、管理組合が健全に機能しているとは限りません。

近年、建築コストの上昇は著しく、修繕工事の見積もり単価は数年前と比較して大幅に上昇しています。外壁塗装、屋上防水、給排水管更新、エレベーター改修──こうした大規模修繕に必要な費用は、多くのマンションで当初の修繕計画を大幅に超えるようになっています。にもかかわらず、修繕積立金の月額が物価上昇に対応できていない管理組合は少なくありません。

特にタワーマンションは、この問題が顕著です。実際、全国では多くのタワーマンションが今後一斉に大規模修繕期へ入ると見られており、「高額マンション=安心資産」とは言い切れない局面も増えています。

高層建築特有の外装補修や設備更新には膨大なコストがかかり、大規模修繕1回あたり数億円から数十億円規模になることもあります。都心の高額タワーマンションが投資目的で購入され、転売を繰り返される中で、長期的な修繕費用の積み立てが後回しにされるリスクは軽視できません。

また、区分所有者の顔ぶれが頻繁に変わる投資用マンションでは、管理組合の運営に関わる住民が減り、総会の議決に必要な定足数すら集まらないケースが増えています。管理費や修繕積立金の滞納問題も、投資用途の所有者が増えるほど発生しやすくなる傾向があります。実際には、

・修繕積立金不足
・総会参加率低下
・理事のなり手不足
・投資所有者増加
・大規模修繕費の想定超過

などを抱える高額マンションも存在します。

「価格が高い=管理が優秀」とは限らないのです。

外側から見れば「高値で取引されている資産」であっても、内側では「修繕費が不足し、管理組合が機能不全に陥りつつある共同住宅」であるケースは、今後さらに増えていく可能性があります。

特に近年は、建築費高騰の影響から、多くの管理組合で修繕積立金不足や値上げ問題が現実化しています。マンション価格だけでは見えない“維持コスト時代”については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

「高価格=安心資産」という幻想を問い直す

マンション価格の上昇が続く中で、「不動産は値上がりするから安心」という感覚が広がっています。しかし、この「高価格=安心資産」という等式は、本当に成立するのでしょうか。

資産価値の維持には、二つの前提が必要です。一つは市場における需要の継続、もう一つは建物・設備の物理的な健全性の維持です。前者は相場の動向に左右されますが、後者は日々の管理と計画的な修繕によって担保されます。

マンション価格が賃料実態から大きくかい離した「キャピタルゲイン期待」で形成されている現在、市場の調整局面では価格の下落リスクが生じます。東京カンテイも指摘するように、PERの調整は避けられないとする見方があります。その際、管理が行き届いていないマンションは、価格下落のダメージを正面から受けることになります。逆に、長期修繕計画が適切に策定・実行され、管理組合が健全に機能しているマンションは、相場の調整局面でも相対的な価値を保ちやすいともいえます。

「高い価格で買ったから資産価値がある」のではなく、「管理が行き届いているから資産価値が維持される」という視点の転換が、今求められています。

さらに言えば、修繕積立金の適切な積み立てや計画的な大規模修繕の実施は、単に資産価値の観点からだけでなく、居住者の安全・快適性という本来の目的のために不可欠です。建物は時間とともに劣化します。その劣化を適切に管理することなしに、マンションという共同住宅は持続できません。

価格が上がっても、住まいの本質は変わらない

2025年の首都圏中古マンションPERは31.78倍、新築の30.46倍を超えて過去最高を更新しました。神谷町では79.88倍という、投資回収に80年近くかかる計算の数字も登場しています。これはもはや、賃料という実需に基づいた価格形成ではありません。値上がりを期待する資金が市場を動かし、「いくらで貸せるか」ではなく「いくらで売れるか」が価格の基準になっています。

一方、年収800万円の世帯が首都圏でマンションを購入しようとすれば、世帯年収倍率は平均10倍を超え、特に東京都心部では手が届かない水準に達しています。実需層が市場から締め出されつつある現状は、住宅市場の健全性という観点から見過ごせない問題です。

そして、価格が上がることと、マンションとしての品質が向上することはまったく別の話です。修繕積立金の不足、建築コスト上昇による大規模修繕費の膨張、管理組合運営の担い手不足──こうした課題は、価格が高いマンションであっても等しく存在し得ます。

マンションは金融商品である前に、共同住宅です。そこに実際に暮らす人々が、安全で快適な生活を長期にわたって送れるかどうか。その視点を失ったとき、いくら高い価格がついていても、それは「住まい」としての本質を失った器になってしまいます。

マンションは、チャートの中に存在する金融商品ではありません。

実際に人が暮らし、修繕し、管理し、合意形成を重ねながら維持される「共同住宅」です。

価格だけを見ていると、見落とすものがあります。

PER32倍時代だからこそ、今あらためて「そのマンションは、長く住み続けられるのか」という視点が問われているのかもしれません。


参考資料:
東京カンテイ「新築マンションPER2025」(2026年5月7日
日本経済新聞「首都圏の中古マンション、『PER』は32倍 割高感は新築超え」(2026年5月7日)

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