首都圏マンションは「上がりすぎ」? PER30倍超えが示す驚愕の価格と今後の展望

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近年、首都圏のマンション価格高騰が続いていますが、その価格水準が賃料と比較してどの程度「割高」になっているかを示す指標として、株式指標として使う「PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)」の概念が注目されています。

先日、日本経済新聞でも首都圏マンションのPERが米半導体大手NVIDIAを超える水準に達したという報道があり、多くの関心を集めています。

本記事では、このマンション版PERについて日経新聞の記事や東京カンテイのデータを参考にしながら、深掘りしていきます。

PERの基本的な考え方から、2024年現在の首都圏マンションPERの驚くべき現状、世帯年収から見た購入のハードル、そして今後の市場動向に関する見通しまで、分かりやすく解説します。

PERとは何か? 不動産投資における考え方

PERの基本的な定義

PERとは、主に株式投資において企業の株価がその企業の利益に対して割高か割安かを判断する際に使用される指標です。具体的には、株価を1株当たりの年間予想利益(予想EPS)で割って算出されます。

例えば、PERが20倍であれば、その企業の利益の20年分に株価が買われていることを意味し、一般的にPERが低いほど株価は割安と判断されます。

マンションPERの定義と意味

東京カンテイでは、このPERの考え方を不動産市場に応用し、「マンションPER」を算出しています。

マンションPERは、「マンション価格を、同じ駅勢圏内の分譲マンションの年間賃料収入で割って算出される値」です。計算式は以下の通りです。

マンション PER = マンション価格 ÷ (月額賃料 × 12)

このマンションPERは、対象のマンションを賃貸に出した場合、その賃料収入で物件の購入価格を回収するのに何年かかるかを示す尺度として捉えることができます。つまり、マンションPERが高いほど、賃料と比較して物件価格が割高であり、投資回収に時間がかかる(買いにくい)ことを意味します。

逆に、PERが低いほど、賃料と比較して物件価格が割安であり、投資回収期間が短い(買いやすい)と判断できます。

首都圏マンションPERの驚くべき現状(2024年)

首都圏全体のPERの推移と特徴

2024年の首都圏における新築マンションの平均PERは、28.93と算出されました。これは、前年の26.00から2.93ポイントの大幅な上昇であり、コロナ禍を境に5年連続で水準が押し上がる結果、過去最高を更新しています。過去には20倍程度で推移することが多く、不動産ミニバブルと呼ばれた2008年でも22倍にとどまっていたことを考えると、現在の水準がいかに異常な高値圏にあるかが分かります。

このPER上昇の最も大きな要因は、分母である賃料の上昇ペースを、分子である新築マンションの価格高騰が大幅に上回っている点にあります。2024年の首都圏における分譲マンションの平均賃料(70㎡換算)は前年比+3.2%の上昇でしたが、新築マンションの平均価格(70㎡換算)は前年比+17.7%もの大幅な上昇を示し、初めて1億円を超えました(10,288万円)

この価格と賃料の乖離が、回収に要する期間を3年近くも長期化させ、PERを押し上げています。

株式PERと比較しても、首都圏の新築マンション平均PER(28.93倍)は、米半導体大手NVIDIAの足元PER(約24.2倍)を上回る水準です。また、ソフトバンクグループ(23.3倍)やトヨタ自動車(8.0倍)といった日本を代表する企業のPERと比較しても高い水準であり、三菱地所(18.3倍)や三井不動産(16.6倍)といった大手不動産会社のPERをも大きく上回っています。

これは、投資対象として見た場合に、首都圏マンションが大手不動産株よりも割高であることを示唆しています。

高PERエリアと低PERエリア

駅別に見ると、新築マンションPERが最も高かった駅は都営地下鉄三田線「白金高輪」の53.07倍でした。これは首都圏平均と比較して、賃料換算での初期投資回収に24年以上も余計にかかる計算となります。白金高輪で対象となった物件は港区南麻布に立地する大規模タワーマンションで、平均価格(70㎡換算)は31,238万円と非常に高額でした。平均賃料も490,515円と高い水準ですが、販売価格の急騰に賃料の動きが追いついておらず、表面利回りは2%を割り込んでいます(1.88%)

PERが高い駅としては他に、「表参道」(51.95倍)、「白金台」(49.35倍)、「麻布十番」(44.05倍)、「神谷町」(40.04倍)、「渋谷」(38.45倍)などが挙げられ、都心一等地に位置する人気エリアが高PERの上位に並んでいます

これらの駅では、非常に高額な新築マンションが供給されていることがPERを押し上げています。ランキング下位(PERが高い方)の駅のほとんどはJR山手線エリアやその周辺に位置していますが、「調布」「亀有」「北浦和」といった近郊・郊外エリアからも、駅近などの立地優位性を背景に強気の販売価格が設定され、PERが高くなっている駅が登場しています。

一方、新築マンションPERが最も低かった(割安感が強かった)駅はJR京葉線「稲毛海岸」の14.58倍でした。稲毛海岸は、首都圏平均に比べて賃料換算での回収期間が14年以上も短くなっています。低PERとなった要因として、千葉市中心部に近いながらも、対象物件が駅から徒歩10分以遠の臨海エリアに供給されたこと、平均価格(70㎡換算)が3,021万円と首都圏の中でも非常に値頃な水準であることが挙げられます。

低PERの駅はJR武蔵野線以遠や横浜以西といった郊外エリアに多く分布していますが、東京23区内からも「石神井公園」(徒歩20分)や、千葉県に隣接する「葛西」のように、立地条件や駅からの距離によって価格が抑えられ、比較的PERが低くなった駅が見られます。2024年時点で、最もPERが20未満に該当する駅は稲毛海岸のみとなっており、東京都下や神奈川県、埼玉県からは完全に姿を消しています。

中古マンションPERの現状

新築マンションが割高であれば中古マンションという選択肢も考えられますが、首都圏の築10年中古マンションの平均PERは28.87倍と、新築(28.93倍)とほとんど変わらない水準にあります。中古マンションのPERも、近年のマンション投資ブームを受けて買いが向かったことにより、過去最高を更新し続けています

さらに注目すべきは、中古マンションPERが新築マンションPERを上回る「逆転現象」が発生しているエリアがあることです。例えば、麻布十番では新築の44.05倍に対して中古は53.25倍、神谷町や渋谷でも中古の方が割高となっています。これは、新築マンションの供給が少ない地域ほど中古物件に買いが集中し、価格が押し上げられているためと考えられています。

築10年中古マンションで最もPERが低かった駅はJR常磐線「北小金」の18.64倍で、これは首都圏平均より10年以上回収期間が短くなっています。低PER駅は東京都下や周辺3県の郊外エリアに多く分布しており、東京23区内では千葉県に隣接する「一之江」が割安な価格設定によりランキング上位に入っています。

一方、最もPERが高かった駅は東京メトロ半蔵門線「半蔵門」の67.92倍でした。ここでは計算上におけるサンプル対象となった物件グレードの違いによりPERに大きな差が出ていますが、高級レジデンスのグレードで算出しても50ポイント前後となり、首都圏の中でも非常に割高である事実は変わりません。

高PER駅は新築同様にJR山手線エリアに集中しており、中古でも都心部からの距離に関わらず高い価格を維持している駅が見られます。

世帯年収倍率から見る購入のハードル

世帯年収倍率とは

世帯年収倍率は、物件価格を世帯年収で割った数値で、物件価格が世帯年収の何倍に相当するかを示す指標です。マンションPERが賃料収入からの投資回収期間を示すのに対し、世帯年収倍率は購入者の年収に対して物件価格がどの程度「手頃」かを示す指標と言えます。

一般的に、数値が小さいほど世帯年収に対して割安で買いやすく、数値が大きいほど割高で買いにくいことを示します。東京カンテイの調査では、資金計画の目安として世帯年収倍率7倍が基準とされていますが、その他の関連データからも世帯年収800万円を想定して算出されています。

物件タイプ別の世帯年収倍率(首都圏平均、年収800万円想定)

首都圏全体の平均世帯年収倍率(年収800万円想定)を見ると、物件タイプによって大きな差があります。

  • 新築マンション:10.9倍(平均価格 8,759万円)
  • 築10年中古マンション:10.4倍(平均価格 8,291万円)
  • 新築一戸建て住宅:6.0倍(平均価格 4,831万円)

対象駅ベースの平均でも、新築マンションは12.2倍、築10年中古マンションは9.7倍でした。新築一戸建て住宅のみ平均で7倍を下回っており、年収800万円の世帯にとっては、一戸建て住宅がマンションよりも平均的に見て手が届きやすいと言えます。

エリア・年収別の購入ハードル

エリア別・年収別に見ると、購入のハードルは大きく異なります。

東京都では、マンション価格高騰の影響が顕著であり、新築・築10年中古マンションともに、年収1500万円の区分でも世帯年収倍率が7倍以下になっていません。マンションは非常に高額になっており、高所得者層にとっても購入が困難な水準にあることが分かります。一方、新築一戸建て住宅では、年収1000万円以上の区分で7倍以下となっています。

神奈川県では、新築マンションは年収1200万円以上、築10年中古マンションと新築一戸建て住宅は年収800万円以上の区分で世帯年収倍率が7倍以下となります。

埼玉県および千葉県では、神奈川県よりもさらに低い年収区分で7倍以下となる物件タイプがあります。特に新築一戸建て住宅は、埼玉県、千葉県ともに全年収区分で世帯年収倍率が7倍以下となっています。これは、これらの地域では新築一戸建て住宅が年収600万円の世帯でも比較的購入しやすい価格帯であることを示しています。

行政区別に見ると、世帯年収800万円想定の場合、東京都心部に近い行政区ほど世帯年収倍率が高く、都心から離れた郊外エリアほど低くなる傾向が顕著です。

  • 新築マンションで世帯年収倍率が7倍以下で購入できる行政区は、首都圏全体で32.7%(35行政区)にとどまります。最も高いのは東京都港区の36.0倍、次いで渋谷区、千代田区と東京23区が上位を占めています。最も低いのは千葉県成田市の4.0倍で、埼玉県や千葉県の郊外に行政区別の低倍率上位が多く見られます。
  • 築10年中古マンションでは、世帯年収倍率7倍以下の行政区が61.6%(64行政区)と新築マンションより大幅に増加しますが、新築同様に東京23区の行政区が高倍率の上位を独占しています(千代田区30.8倍、港区29.5倍など)。
  • 新築一戸建て住宅では、世帯年収倍率7倍以下の行政区が80.9%(165行政区)と最も多くなります。東京都文京区の16.0倍など、東京23区にも高倍率の行政区はありますが、最も低いのは埼玉県児玉郡美里町の2.6倍で、埼玉県や千葉県の郊外に行政区別の低倍率上位が多く見られます。

このデータからは、特に東京23区内において、年収800万円程度の世帯にとってマンション購入(特に新築)が非常に困難な状況にあることが分かります。より手頃な価格帯の物件を探すには、郊外エリアや新築一戸建て住宅も視野に入れる必要があると言えます。

なぜマンションPERは上昇しているのか?

マンションPERの上昇は、先述の通り、賃料上昇を大きく上回るマンション価格の高騰が主因です。では、なぜこれほどまでに価格が上昇しているのでしょうか。

その背景には、マンションに「住む」という実需目的の買い手だけでなく、様々な投資資金が流入していることが挙げられます。

ニッセイ基礎研究所の佐久間誠主任研究員は、「地方から首都圏への人口流入による住宅需要の強まりに加え、海外投資家や国内富裕層の投資資金もマンション相場の上昇に一役買っている」と指摘しています。

賃料水準に見合わない価格であっても、将来的な値上がり益(キャピタルゲイン)を期待したり、他に魅力的な投資先がないことなどから、資金がマンション市場に流れ込んでいる構造が見て取れます。

今後のマンションPERはどうなる?

PERは物件の収益性(賃料)に対する価格の指標であり、PERの上昇は投資回収期間の長期化、すなわち投資妙味の薄れを意味します。株式市場では、PERが過去のレンジを超えて高騰した場合、株価が下がるか利益が増えるかのいずれかでPERが調整されるのが一般的です。マンション市場でも同様の調整が起こる可能性は高いと言えます。

東京カンテイの高橋雅之上席主任研究員は、「マンションPERの調整は避けられない」との見方を示しています。その上で、物価上昇により生活者の経済状況が厳しくなっており、これ以上の賃料上昇は見込みにくいことから、新築価格の下落がPERを押し下げる可能性が高いと分析しています。

ただし、価格の下落がいつ、どの程度のペースで起こるかは不確実です。海外経済や国内景気、金融政策の動向など、様々な要因が影響するため、今後の市場動向を注意深く見守る必要があります。

マンションPERから考える今後の住まい選び

各データからは、首都圏、特に東京都心部において、マンションのPERが記録的な高水準に達しており、賃料収入から見た割高感が極めて強くなっている現状が明らかになりました。

白金高輪のような一部エリアでは、表面利回りが2%を下回るなど、投資効率だけを考えると非常に厳しい状況にあると言えます。これは、マンションが単なる投資商品としてではなく、「住む」こと自体の価値(利便性、生活環境、ブランドイメージなど)や、将来の資産価値上昇への期待によって価格が維持されている側面が強いことを示唆しています。

中古マンションのPERが新築を上回る「逆転現象」は、都心部や人気エリアでは中古市場でも価格高騰が進んでおり、新築・中古を問わず手頃な物件を探すのが難しくなっている現実を反映しています。

世帯年収倍率のデータは、この「買いにくさ」を別の側面から裏付けています。

特に年収800万円程度の世帯にとって、東京23区内でのマンション購入は非常にハードルが高く、平均的な物件価格は年収の10倍を超える水準にあります。これは、一般的な住宅ローン融資の上限とされる年収の7~8倍を大きく超えており、頭金を相当額用意するか、より高額な収入がなければ購入が困難であることを示しています。

こうした状況を踏まえると、今後の住まい選びにおいては、以下のような点が重要になるでしょう。

「PER」と「世帯年収倍率」を組み合わせて考える

PERは投資効率、世帯年収倍率は購買力を示す指標です。両方を理解することで、そのエリアや物件が自身の経済状況や目的に合っているかをより多角的に判断できます。

郊外エリアや物件タイプを広げて検討する

都心部のマンションは高嶺の花となりつつあります。世帯年収倍率のデータが示すように、郊外エリアや新築一戸建て住宅は、年収800万円程度の世帯にとっても比較的手が届きやすい選択肢となり得ます。ただし、郊外には通勤時間や生活利便性など、都心とは異なるトレードオフが存在するため、自身のライフスタイルに合ったバランスを見つけることが重要です。(※この点はソース外の一般論です。)

投資目的か、実需目的か、目的を明確にする

現在のPER水準は、賃料収入からの投資回収に時間がかかることを示唆しています。単なる投資効率を重視するならば、他の投資対象と比較して慎重な判断が必要です。一方、自身が「住む」ための物件であれば、投資効率だけでなく、利便性や環境、将来のライフプランなども含めて総合的に判断する必要があります。特に高PERエリアでの購入は、投資というよりは利便性などの「住む」ことへの対価として考える側面が強まります。

価格下落の可能性も考慮する

東京カンテイの見解では、PER調整のために新築価格の下落が予測されています。市場動向を注視し、焦って高値掴みをしないよう注意が必要です。ただし、下落時期や幅は不確実であり、待ちすぎることによる機会損失のリスクもゼロではありません。
※データから見た一般的な市場観測

諸費用や維持費、リスクも考慮に入れる

PERは単純な価格と賃料の比較ですが、実際の物件購入には住宅ローン金利、不動産取得税、固定資産税、管理費、修繕積立金などの様々な費用がかかります。また、将来的な金利上昇や物件価値の変動リスクも存在します。
※不動産購入において考慮すべき一般的な要素

まとめ

2024年の首都圏新築マンションPERは過去最高を更新し、賃料水準から見ると記録的な割高感を示しています。これは、賃料上昇を大幅に上回る価格高騰が続いているためであり、投資資金の流入が一因と考えられています。

世帯年収倍率のデータも、特に東京都心部でのマンション購入ハードルが非常に高くなっている現実を浮き彫りにしています。東京カンテイは今後PERの調整(新築価格の下落)は避けられないと見ていますが、市場の先行きは不透明です。

マンションPERはあくまで不動産を投資対象として見た場合の指標の一つですが、現在の価格水準が賃料や一般的な年収に対してどの程度かい離しているかを理解する上で非常に有効です。

今後の住まい選びにあたっては、こうした客観的な指標も参考にしながら、自身のライフプラン、資金計画、そして何を優先するか(利便性、広さ、資産性など)をじっくり検討し、冷静な判断を下すことが求められます。

参考文献

以下、今回の記事で参考にした資料です。

✅東京カンテイ(2025年5月7日)Kantei eye 122(新築マンションPER 2024【改定版】ほか)
「新築マンションPER 2024【改定版】」 首都圏PER 2024
「マンション&一戸建て住宅の世帯年収倍率 2024」 首都圏_行政区別 首都圏_駅別
✅日本経済新聞(2025年5月7日) 首都圏マンション、NVIDIAより割高か 「PER」は30倍

【記事執筆・監修】
マンション管理士・1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古市 守
yokohama-mankan

マンション管理全般に精通し、管理規約変更、管理会社変更、管理計画認定制度の審査、修繕積立金の見直し、自治体相談員、コラムの執筆など、管理組合のアドバイザーとして幅広く活動。
また、上場企業やベンチャー企業のCFOや財務経理部長経験から、経営・財務経理分野にも精通。コンサルティング会社経営の傍ら、経営・財務経理視点を活かし、マンション管理の実践的サポートを行う。

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