マンションの管理運営をスムーズに進めるために、「専門委員会」を設置できることをご存じでしょうか?
標準管理規約第55条では、理事会の補助機関として専門委員会を設置し、特定の課題を調査・検討する仕組みが定められています。
しかし、専門委員会には決定権がなく、設置には一定のルールや注意点が必要です。
この記事では、専門委員会の設置のルールやメリット、運営のポイントを実務に精通しているマンション管理士が分かりやすく解説します。
マンション管理の効率化を目指す理事会や組合員の方は、ぜひ最後までご覧ください。
【規約解説】マンション標準管理規約第55条|専門委員会の設置と活用ポイントを解説
今回紹介する内容は以下の通りです。
✅ マンション標準管理規約第55条の解説:専門委員会の設置とは?
✅国土交通省の補足解説:専門委員会設置の注意点とは?
✅専門委員会の運営で管理組合が注意すべきポイント
まず、最初の章では標準管理規約第55条の条文から「専門委員会の設置」について、電磁的方法が利用可能でない場合と、可能な場合それぞれの文面を紹介します。
続いて、この条文についての補足事項や、注意しておくべき事項について国土交通省より提示されています。
さらに、その文面の解説を、イメージしやすい具体的な例を踏まえながら紹介します。
そして、最後の章では第55条「専門委員会の設置」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者が注意しておいた方が良い点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第55条とは?専門委員会の設置ルールを解説
マンション管理組合の運営では、理事会が多くの課題に対応しなければなりません。しかし、すべての問題を理事会だけで解決するのは難しい場合があります。そこで、「専門委員会」を設置して、特定の課題について調査・検討する仕組みが、第55条で定められています。
以下、その条文となります。
(専門委員会の設置)
第55条 理事会は、その責任と権限の範囲内において、専門委員会を設置し、特定の課題を調査又は検討させることができる。
2 専門委員会は、調査又は検討した結果を理事会に具申する。
条文について、具体的に解説します。
専門委員会の設置要件と役割とは?
- 専門委員会を設置できるのは理事会
- 理事会は、その責任と権限の範囲内で専門委員会を設置できます。
- つまり、理事会の判断で「この問題について詳しく調査・検討したい」と思ったときに、専門の委員会をつくることができます。
- 専門委員会の役割は調査・検討
- 専門委員会は、特定の課題に対して詳しく調査や検討を行います。
- 例えば、大規模修繕、防犯対策、駐車場の運営ルール変更など、専門的な知識が求められるテーマが該当します。
- 調査・検討結果は理事会に報告(具申)する
- 専門委員会がまとめた内容は、理事会に対して報告されます。
- ただし、専門委員会には「決定権」はなく、あくまで理事会に助言を行う役割です。
- 最終的な決定は理事会が行うため、専門委員会の意見をどう活かすかは理事会次第となります。
管理組合での専門委員会の具体的な活用例
おもな管理組合での活用例としては、以下の委員会が考えられます。
大規模修繕委員会
マンションの大規模修繕工事の計画立案や業者選定、工事内容の検討などを担当します。
住民目線での課題抽出や工事進行状況の確認、住民への情報提供など、多岐にわたる活動を行います。
管理規約検討委員会
法改正やマンションの実情に合わせて、管理規約や細則の見直し・改正を検討します。
組合員への説明や合意形成を図り、適切な規約運用を目指します。
防犯対策委員会
マンション内の防犯カメラの設置や、防犯対策を考えるために設置されます。
駐車場・駐輪場運営委員会
駐車場の使用ルールや駐輪場の管理方法を検討するために設置されます。
管理会社変更委員会
管理会社の変更は、マンション管理組合にとって大きな決断です。
しかし、理事会だけで全ての調査・交渉を進めるのは負担が大きいため、「管理会社変更委員会」を設置することでスムーズな進行が可能になります。
各委員会について、具体的には、以下の記事
でも紹介していますので、合わせてご参照ください。
国土交通省の補足解説:専門委員会設置の注意点とは?
専門委員会を設置する際に注意すべきポイントとして、国土交通省は以下のような補足事項を示しています。これを分かりやすく解説します。
第55条関係
① 専門委員会の検討対象が理事会の責任と権限を越える事項である場合や、理事会活動に認められている経費以上の費用が専門委員会の検討に必要となる場合、運営細則の制定が必要な場合等は、専門委員会の設置に総会の決議が必要となる。
② 専門委員会は、検討対象に関心が強い組合員を中心に構成されるものである。必要に応じ検討対象に関する専門的知識を有する者(組合員以外も含む。)の参加を求めることもできる。
専門委員会の設置に総会決議が必要なケースとは?
専門委員会は基本的に理事会の責任と権限の範囲内で設置できますが、次のような場合は総会の決議が必要になります。
✅ 理事会の権限を超える内容を扱う場合
→ 例:マンションの建替え、管理会社の変更、長期修繕計画の大幅な見直しなど。
→ 理由:これらは管理組合全体に影響を与える重要な決定事項であり、理事会だけで決めるのではなく、組合員全体の合意が必要だからです。
✅ 専門委員会の活動に高額な費用がかかる場合
→ 例:外部の専門家(弁護士、マンション管理士、建築士など)を雇う場合。
→ 理由:管理組合の資金を使うため、組合員の合意を得ることが求められます。
✅ 運営細則を新たに制定する必要がある場合
→ 例:専門委員会の活動ルールを明文化する場合。
→ 理由:管理組合のルール変更に関わるため、総会での承認が求められます。
💡 ポイント
- 日常的な調査や検討のための委員会設置は理事会決議でOK。
- 管理組合全体に影響がある重大な決定が絡む場合は、総会での決議が必要。
専門委員会の適切なメンバー構成と外部専門家の活用
✅ 関心がある組合員を中心に構成する
→ 理由:例えば「大規模修繕委員会」なら、建築に詳しい人や、修繕に関心のある組合員が積極的に参加することで、より良い検討ができるため。
✅ 外部の専門家の参加も可能
→ 例:
- 長期修繕計画の見直し → 建築士、マンション管理士、設計事務所等
- 管理会社の変更 → マンション管理士、管理組合コンサルタント等
- 管理規約の変更 → 弁護士、マンション管理士等
💡 ポイント
- 組合員だけでなく、必要に応じて外部の専門家も加えると、より質の高い議論が可能。
- ただし、外部専門家を雇う場合は費用がかかるため、理事会決議だけではなく、総会決議が必要になることが一般的。
専門委員会の運営で管理組合が注意すべきポイント
最後の章では、条文ならびに、国土交通省の補足事項を踏まえて、筆者が特に管理組合や区分所有者が注意しておいた方が良いと考える点について紹介します。
専門委員会に決定権はない!理事会との関係を整理しよう
専門委員会は理事会の諮問機関であるため、委員会自体で管理組合の意思決定はできません。
委員会内で決めた内容を、理事会に上申してそこで決めるか、さらには理事会の決定を通じて総会で決めるという流れになります。
例えば、大規模修繕委員会であれば、
✅工事の内容を委員会で討議して、まとまった内容を理事会に上げる
✅理事会で討議、確認して問題なければ理事会として決議
✅管理組合総会で、工事内容とともに工事金額等の工事の決議を行う
という流れが一般的です。
専門委員会の権限はどこまで?理事会との違い
上述でも紹介したとおり、諮問委員会として、理事会の分科会であったりご意見役として機能することが一般的です。
そのため、理事会の権限を越えて委員会が管理組合内を統制していくことも基本的にはありません。
理事会にお伺いを立てる形で進めていくことが多いでしょう。
専門委員会の運営を円滑にするためのメンバー選びのポイント
理事会との連携が不可欠であることから、一部のメンバーが委員会を兼務していることが望まれます。
それによって、
✅理事会⇔委員会の連携がスムーズになる
✅理事会における意思決定において説得力が増す
✅委員会で討議した事項と理事会の方針に齟齬が出にくい
などの効果も期待できます。
理事長は理事会対応で忙しくなるので、副理事長等、理事長を補佐する立場の理事が参加するのがいいでしょう。
専門委員会の解散時期と適切な運営ルールとは?
専門委員会は理事会の諮問機関として、臨時的に設置されることが一般的です。
しかしながら、役員の任期よりも長く委員会が継続することも考えられます。
例えば、大規模修繕委員会なら、
✅工事検討段階において工事前の2~3年前に委員会が発足
✅工事期間中は工事進捗状況等で頻繁に会合が開かれる
✅工事完了後1~2年程度はアフター点検や長期修繕計画の作成のために継続
となると、輪番制で任期2年の役員以上に、委員会に在籍することになってしまいあす。
長くやればやるほど、管理組合内で委員長や委員がいつの間にか権限を持ってしまうことも考えられます。
そうなると、理事会よりも強い立場になってしまう可能性も考えられます。
また、委員の負担も役員以上に大きくなってしまうことから、役割を終えたら速やかに解散するのが良いでしょう。
専門委員会を活用して管理組合の運営をスムーズに!
マンション管理において、理事会だけで対応しきれない課題は多くあります。
そのような場合に専門委員会を活用することで、管理組合の運営がスムーズになります。
ただし、専門委員会はあくまで理事会の補助機関であり、決定権を持ちません。
適切なメンバー構成や役割分担、設置・解散のルールを明確にして運営することが大切です。
管理組合の課題に合わせて専門委員会を活用し、より良いマンション運営を目指しましょう。
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