近々転勤することになって、部屋が空いてしまう予定なので、貸与を考えたい
また、
親から受け継いだものの、暫く使用していない住戸があるけどなんとか活用したい
さらには、
セキュリティがしっかりしている分譲マンションの賃貸物件を借りようかと考えているが、その際に注意しておくべきことはないかな…?
このような分譲マンションの貸し借りを検討している方も非常に多いと思います。
確かに、住んでいない空き住戸があったら、区分所有者としてなんとかうまく活用したいと考えるのは当然の話です。
さらに、管理組合もあってルールが徹底されているうえに、管理員さんもいる、さらにはセキュリティがしっかりしている分譲マンションであれば、賃貸で借りても安心感があると考える賃借人の方も多いでしょう。
今回は、このような区分所有者が所有する専有部分における貸与のルールについて、標準管理規約第19条を取り上げて、マンション管理士の筆者が具体的に紹介します。
【規約解説】マンションの専有部分を貸借する際に気を付けたいルール
今回紹介する内容は以下の通りです。
・第19条「専有部分の貸与」の補足・注意事項は?
・「専有部分の貸与」に対して区分所有者、賃借人双方で気を付けておくべき事項は?
まず初めに、標準管理規約第19条を参照しながら、専有部分の貸与に関する内容を紹介します。
続いて、第19条には、規約を解釈するうえでの補足や注意事項が標準管理規約のコメントとして細かく紹介されています。
そのコメントをピックアップして、記載内容の全てを紹介します。
そして、専有部分の貸与においては、管理組合内のルールを遵守する必要があり、貸す側である区分所有者と、借りる側の賃借人双方において守るべきルールが出てきます。
それらについて、標準管理規約のコメントや、筆者が業務上確認した事項等、考えられる内容を紹介します。
標準管理規約第19条「専有部分の貸与」の紹介
第19条「専有部分の貸与」の条文は?
早速、標準管理規約第19条に記載されている「専有部分の貸与」について、まずは条文を確認してみます。
第19条 区分所有者は、その専有部分を第三者に貸与する場合には、この規約及び使用細則に定める事項をその第三者に遵守させなければならない。
2 前項の場合において、区分所有者は、その貸与に係る契約にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の条項を定めるとともに、契約の相手方にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の誓約書を管理組合に提出させなければならない。
3 第1項の場合において、区分所有者は、当該第三者に、専有部分を借用した旨の届出を管理組合に提出させなければならない。
この専有部分の貸与は、3項とも語尾が「させなければならない。」となっています。
標準管理規約として貸与に関する際の義務を、貸す側、借りる側双方ともに守ってもらわなければならないことを強く明示しています。
すなわち、本来は分譲マンションは区分所有者が所有して住むべきものであるという前提であるものの、冒頭で紹介したとおり、転勤や譲渡など、やむを得ない事情に配慮しているとも考えられます。
専有部分を第三者に貸与する場合の遵守事項
第1項には、区分所有者が第三者である賃借人に部屋を貸与する場合に守らなければならない事項として、規約と使用細則に定めている事項の遵守が挙げられます。
賃借人であっても、マンション内では他の区分所有者や居住者と同様に使用上のルールを守って生活することが求められます。
また、
とあることから、貸す側が借りる側に徹底させる必要があります。
この点は、間に入る不動産会社が代わりに管理組合の規約や使用細則を賃借人に提示することが多いと考えられますが、基本的には区分所有者の責任として実施するものと考えられます。
第1項の内容の賃貸借契約書への反映と管理組合への誓約書の提出
次に、第2項として、第1項の内容を賃貸借契約に反映する旨が記載されています。
また、賃借人は「管理規約と使用細則を遵守する」旨を、誓約書を管理組合に提出することによって守る必要があります。
双方とも、第1項と同じく、
とあるので、区分所有者が貸与する際の義務となります。
第三者の管理組合への届出
そして、第3項については、賃借人が管理組合に対して、「区分所有者から部屋を借りて住むことになった」旨の届出を行う必要があります。
こちらも、
という記載のため、区分所有者の義務となります。
第19条「専有部分の貸与」の補足・注意事項は?
標準管理規約第19号の補足事項としても、比較的手厚く記載されています。
どのような内容になっているのか、細かく見ていきたいと思います。
第三者の賃借人における規約及び細則の遵守
前章でも触れたとおり、当該規約は、区分所有者が専有部分を第三者に貸与する場合に、区分所有者がその第三者に、この規約及び使用細則に定める事項を遵守させる義務を定めたものとなっています。
本来はマンションの持ち主である区分所有者以外の、同居している家族や同居人(占有者)は、管理規約や使用細則を守って生活する必要があります。
第19条は、そこから賃借人にも及ぶものとして定められています。
また、賃借人である第三者が遵守すべき事項は、この規約及び使用細則に定める事項のうち、対象物件の使用に関する事項となります。
具体的には、専有部分や共用部分、敷地内での使用上のルールが該当します。
すなわち、使用に関する以外の規約部分(総会や理事会、役員、議決権等)は対象外となります。
賃貸借契約書や誓約書の書式
次に、区分所有者と締結する賃貸借契約書には、一定の文言を入れる必要があります。
標準管理規約の補足コメントから参照からですが、以下のような例文があります。
管理規約や使用細則を守ることを契約上の条項に入れるとともに、もし遵守できなかった場合には、区分所有者において契約解除が可能となる文言です。
また、管理組合に提出する誓約書についても、以下のような例文があります。
賃借人の遵守事項ということで管理組合側からは管理規約第19条で提示しているものの、その旨を了解し、賃貸借契約書上での遵守事項とともに、誓約書を通じて誓約することが求められます。
民泊を可能としている場合の取り扱い
管理組合として民泊を可能とする場合は、管理規約にその旨が定められていることが一般的です。
(標準管理規約第12条「専有部分の用途」)
都度住居を旅行者等に貸与することによる民泊を開始する場合には、管理組合が把握する必要があることから、管理組合に届け出る必要があるとしています。
さらに、宿泊者が宿泊する≒短期的な賃貸借をする場合は、煩雑になることから、宿泊者からの誓約書については提出義務を免除する旨、定めることも考えられます。
第3項の管理組合への届出事項
第3項の届出事項において、賃借人はどのような内容を届け出ればよいか、紹介されています。
具体的には、
・対象住戸
・電話番号
・緊急時の連絡先となる者の氏名及び電話番号
等が考えられるとしています。
加えて、区分所有者から専有部分を借用した第三者と、現時点で専有部分に居住する者が異なる場合も想定されます。
すなわち、賃借人がさらに賃貸を行う転貸借という概念ですが、その場合は転借人(てんしゃくにん)に対する情報も把握することが望まれるとのことです。
「専有部分の貸与」に対して区分所有者、賃借人双方で気を付けておくべき事項は?
貸す側である区分所有者、借りる側である賃借人双方において、遵守すべき事項があることを、第15条の条文並びに、補足・注意事項で確認しました。
それらを踏まえて、または、筆者の経験上、「専有部分の貸与」に対して区分所有者、賃借人双方で気を付けておくべき事項について、条項の内容に含まれないことも筆者の経験上の内容として紹介します。
管理組合員として引き続き関与する(区分所有者)
まず、区分所有者として、賃借人に専有部分を貸与するということは、そこに住んでいないということになります。
文章が進次郎構文のようになりましたが、そうなるとマンション管理組合の現状と疎遠になることが多くなります。
しかしながら、住んでいないだけで区分所有者であることには変わりがなく、その場合は総会の参加(議決権行使や委任状)も必要となります。
また、居住者以外にも役員の就任を定めている場合には、役員の就任も考えられます。
さらに、大規模修繕工事がある場合にも、賃貸している専用使用部分の工事が行われることとなり、もし区分所有者の私物等を置いたまま貸与している場合は、撤去する必要もあります。
このように、「管理組合に関与しない」ということはできないので、注意が必要です。
賃貸専用マンションと分譲マンションのルールの違い(賃借人)
こちらは賃借人目線での紹介となります。
全戸賃貸マンションでは、賃貸借契約の区切りや生活スタイルの変化等で居住者の入れ替わりが激しいのに対して、分譲マンションは購入者が引越しすることはあまりありません。
そのため、長く住んでいる人は、管理組合のルールが染みついていますが、新しく入ってきた方、さらには分譲マンションに住んだことが無い方にとっては馴染みのないことも多いでしょう。
また、全戸賃貸マンションと違い、各部屋の購入者が住んでいる分譲マンションは管理規約や使用細則等でルールが細かく定められています。
賃貸マンションもルールはもちろんあるものの、マンションによってはそこまで細かなルールが定められているわけではないかもしれません。
そして、マンション使用上のルールは、専有部分、共用部分に限らずすべての居住者(区分所有者+その家族や同居人+賃借人)が守る必要があります。
具体的には、ペットの取り扱い、駐車場や駐輪場、ゴミ置き場、宅配ボックスの使用など、個別に定められている細則がある場合は、それらの内容も遵守する必要があります。
管理費や修繕積立金の支払い(区分所有者)
賃借人が住んでいても、管理費や修繕積立金の支払いは区分所有者になります。
そのため、固定資産税も含めて、賃借料からある程度充当することが多いでしょう。
もし、賃借人が引っ越しをする場合は、次の賃借人が見つかるまで、賃料収入が途切れることとなります。
途切れる期間が長ければ、区分所有者が負担する費用についての持ち出しが発生してしまうことから、注意が必要です。
専有部分を貸借する際には、貸す区分所有者も借りる賃借人も注意が必要
今回は、標準管理規約第19条の「専有部分の貸与」について紹介しました。
区分所有者としては、居住しない時には賃借人に貸与することで、収益化が可能となります。
しかしながら、区分所有者としては、賃借人に遵守して貰う事項があり、標準管理規約でも義務として定められています。
そして、借りた賃借人も、管理組合に書類の提出が義務付けられているとともに、ルールを遵守することが求められます。
貸す方、借りる方、双方において、管理組合としてのルールを遵守する必要があることが、第19条には定められていることが確認できる思います。
※標準管理規約は都度変更になるため、専用書籍はあるものの、法改正により古くなってしまいます。そのため、マンション管理センターのこちらの書籍の最新版
を確認されることをお勧めします。
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