引き続き、国土交通省関連の記事ですが、表題のようなガイドラインが令和6年6月7日付で公表されておりました。
以下の国土交通省ホームページにあります。
国土交通省は、「外部管理者方式」として、管理会社が外部管理者(理事会をやめて管理会社が役員を担う)を構成することに対する警鐘を継続的に行っています。
理由は分かりやすいですが、管理する側と理事や理事会側も管理会社が同一で担うことにおいて様々な課題が生じる可能性があるためです。
管理組合側としては楽であり、管理会社としては二重に儲かる反面、管理組合としていわば「管理会社にやりたいようにされる」リスクを伴います。
また、とりわけ管理会社が外部管理者に就任する場合の方式を「管理業者管理者方式」と定義したようです。
この内容をマンション管理士でもある筆者が確認するとともに、外部管理者方式を実施するうえで注意すべき点を、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドラインの概要」から抜粋して確認します。
以下、本文においては国土交通省の意向を忠実に表現するため、国土交通省の資料から参照しています。
マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドラインの概要
今回のガイドラインの前提として、次のような項目が紹介されています。
これまでの経緯
もとは、「外部専門家の活用ガイドライン(平成29年6月)」というバージョンがあり、それが今回新たに令和6年6月、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」として制定されています。
幾度かワーキンググループを開催して、区分所有者以外の者が管理者に就任する方式について「外部管理者方式」(このうち、管理業者が管理者に就任する場合を「管理業者管理者方式」)と定義しました。
さらに、外部管理者方式等においても、マンションの管理の主体は区分所有者から構成される管理組合であることを前提に、区分所有者がその責務を果たすべきことを確認するとともに、外部管理者方式等における留意事項を整理した内容となっています。
外部管理者方式の概要
一般的な管理組合方式と、管理業者が管理者(≒理事長)のそれぞれについての確認です。
まずは、普段運用されている一般的な管理組合方式は以下のような体制であることが多いでしょう。
対して、理事会がなく、管理組合内部では、総会と監事のみが担う、管理業者が管理者になるイメージは以下の通りです。
比較して分かる通り、管理組合としては、意思決定は総会のみに委ねることになります。
また、一部監事に区分所有者や外部専門家がつくことにより、管理者に対するチェック機能を果たすことになります。
各段階における論点
外部管理者方式を取り入れるにあたって、各段階における論点が紹介されています。
既存マンションは外部管理者方式を導入するか否かの検討から入ります。
一方の新築マンションは、分譲時から外部管理者方式を取り入れる前提となっており、これを認める形で区分所有者はマンションを購入する形となります。
とりわけ、図中にある①~⑧の詳細は次章で紹介します。
現行ガイドラインからの拡充内容
さらに、これまでのガイドラインから、新たなガイドラインへの改訂点について明確になっています。
ガイドラインでは3章構成になっていますが、
・前回定めていなかった投資用マンションやリゾートマンションでもガイドラインが参考となる
・外部専門家を活用する場合の外部管理者方式等の留意事項
・マンション管理業者による外部管理者方式(管理業者管理者方式)における留意事項
について、詳細に説明しています。
冒頭でも記載したとおり、特に多くの管理組合が採用しやすい一方でリスクにもなりやすい、外部管理者方式の中でも管理会社管理者方式において、細かな注意点を紹介しています。
次章で詳細を紹介します。
管理業者管理者方式における留意点や望ましい体制とは?
理事会をはじめとする管理組合の機能の大半を管理会社が掌握する管理業者管理方式には、多くのリスクが伴うということで、国土交通省としても導入する管理組合に対して注意を呼び掛けています。
どのような点に注意すべきなのか、各項目について紹介します。
既存マンションにおいて管理業者管理者方式を導入する場合のプロセス
管理業者管理者方式の導入の検討する場合、管理組合運営には大きな影響がでてきます。
組合運営が、管理組合主体から管理会社主体となるためです。
したがって、管理業者としても、説明会等で以下の3~8の事項を区分所有者に対して説明することが望ましいとしています。
新築マンションにおいて管理業者管理者方式が導入される場合の説明のあり方
さらに新築マンションについては、すでに管理業者管理者方式が採用されることを前提に購入することとなります。
そのため、、購入希望者が購入時点までに検討を行うことが必要となるため、分譲業者は、少なくとも3~8に関する事項について購入希望者に対し情報提供することが望ましいとしています。
また、必要に応じて(とりわけ、購入希望者から質問を受け、分譲業者では必要十分な情報提供が困難な場合など)、管理業者から購入希望者に対して直接説明を行うことが望ましいとしています。
管理組合運営のあり方(管理者権限の範囲等)
以下のような運営のあり方を検討する必要があるとしています。
・管理者業務と管理業務の担当者を分けるべき
・任期は原則1年程度とすることが望ましい
・区分所有者の意思反映のための環境整備(例として、管理評議会といった区分所有者から構成される組織の設置、管理者がアンケートにより区分所有者の意見を集約する環境の整備等)が必要
・議決権行使は、管理者や外部専門家である監事への議決権付与(委任状交付)ではなく、出席又は議決権行使書によることが望ましい
・その他、欠格条項や、総会決議事項、管理者の権限等の規定を定めることも重要
確かに、そうする必要がありますよね…という感じの忠告です。
議決権行使は自らしないと、管理組合や区分所有者自らの意思すら表明しないということになります。
個人的には、通常の管理運営業務については管理者に任せるものの、意思決定に関することは極力組合員が関与することで、チェックする必要があると思います。
とくに決議要件も、本来の標準管理規約で定められている特別決議事項に加えて、費用が掛かるものや、大規模修繕工事に関する事項、さらには役員の選任事項等は「規約で別段の定めを行う」などで、決議のためのハードルを上げることも一つかもしれません。
管理業者管理者方式における通帳・印鑑の望ましい保管のあり方
こちらについても、以下の2点が挙げられています。
・通帳と印鑑等の同一主体による保管を避けるため、管理組合財産を管理する口座の印鑑等は監事が保管することが望ましい
「管理組合に帰属する財産であることが一見して明らかとなる名義」とあるのは、間違っても管理会社や特定の管理者の名義のような形にすることはリスクを伴うこととなります。
当然自分たち管理組合の財産は、管理組合名義の預金口座にする必要があるでしょう。
管理業者が管理者の地位を離れる場合のプロセス
また、現行の管理者である管理業者が、他の管理業者や外部専門家に変更になる場合についての考え方も紹介しています。
・管理者の退任が決まった後の新管理体制への移行手続は、監事が担うことが望ましい
・具体的には新規約の調整、新管理者の選任を議案とする臨時総会の招集通知を、旧管理者の退任決定日から1か月(より長くすることも考えられる)以内を目途に発出し、新管理体制を整備することが望ましい
仮に、規約内に管理者として管理会社名等の固有名詞が入っていると、変更になる場合には規約の変更も伴うため、やや煩雑になってしまいます。
また、管理者退任時は、組合員や管理会社ではない外部管理者である監事が移行手続きを行うことが望まれます。
当然、引継ぎの段階で不備がないようにするためには、これまでの管理者の良いように行われないためにも、客観的な立場である監事が担うのが良いのでしょう。
そして、次の管理者を決める間は空白となってしまうので、なるべく早く(このガイドラインでは1か月と記載)体制を固めていくことが求められます。
日常の管理での利益相反取引等におけるプロセスや区分所有者に対する情報開示のあり方
管理会社管理方式で懸念される、利益相反取引(発注が本来なら管理組合の利益のために実施するにも関わらず、管理会社の利益になるような取引等)は避けなければなりません。
そのため、つぎのような注意点を示しています。
・グループ会社の定義について、管理業者の親会社、子会社、関連会社、管理業者を関連会社とする会社を総称したものとして整理
利益相反取引に該当するような取引は、必ず総会で決議することが望まれます。
また、グループ会社を明確に定義して、そこへの発注等、グループがらみで管理組合のビジネスを行う場合には注意が必要です。
実質グループ会社は、グループ全体でみると管理者と同じ取引先に発注するのと変わらないため、グループ会社ぐるみで管理組合より利益を吸い上げる可能性があると捉えられます。
ただ、会社間の資本関係や取引関係を把握するのは、管理組合では難しい場合もあります。
管理組合として、知らないような発注先については、会社情報の提示を義務付けるとともに、グループ会社ではないか、管理組合内でチェックすることも重要でしょう。
大規模修繕工事におけるプロセスや区分所有者に対する情報開示のあり方
管理組合として巨額な支出となる、大規模修繕工事には特にチェックが必要であるとしています。
これは前項のグループ会社への発注となる場合は、自己取引を形成する懸念もあるためであり、注意深くチェックする必要がありそうです。
・例外的に、小規模マンションであり、かつ修繕委員会の設置に向け適切な募集期間を確保し、公平な立候補機会を確保したものの、候補者を確保できなかったときは
➀設計コンサルタントやマンション管理士等の利用について検討
②大規模修繕工事の過程について、区分所有者に対する透明性を確保するための措置を講じると共に、監事に対する定期報告を充実させる場合に、修繕委員会を設置しないことも考えられる
管理会社管理者方式を実施する管理会社として、大規模修繕工事を発注する発注先がグループ会社であったり、下請け先であったり等、深い関係である会社もあります。
この業界独自の関係を見抜くことは、素人である管理組合にとっては難しい内容です。
そのため、修繕委員会を設置してチェックするか、外部専門家を入れるなどの工夫が必要といえます。
監事の設置と監査のあり方
管理者管理方式とする場合は、監事が非常に重要な役割を担うこととなります。
そのため、以下のような注意が必要です。
・例外的に、小規模マンションであり、かつ経済的な理由等により外部専門家を選任しないこともやむを得ないと考えられるときは、
➀区分所有者に対する定期的な報告(月1回程度)が実施され、
②区分所有者の意思を反映する仕組みが整備されている場合に、区分所有者からのみ監事を選任することも考えられる
国土交通省としては、監事は外部と内部からの選任が望ましいとしています。
やむを得ず内部のみでやる場合であっても、月1の定期報告は必要とのことです。
ただ、区分所有者の意思を外部管理者に伝えることができる場合であれば、内部のみの編成でも考えられるとのことであり、適切な監事の設置が求められるといえるでしょう。
外部管理者を検討する際は管理組合としても慎重な討議が必要
管理組合として組合員の負担を考えると、理事会をなくして総会のみにする外部管理者方式は非常に楽な手段かもしれません。
しかしながら、これまで見てきた通り、リスクを伴うものとなります。
とりわけ、管理会社に外部管理者を任せる管理会社管理方式は、管理組合運営の中心である理事会運営と、通常のマンション管理が同一の管理会社が実施する可能性があり、管理会社のやりたいように管理組合運営がなされるリスクを伴います。
さらに、大規模修繕工事の発注についても、自らのグループ会社や、懇意にしている施工会社への発注等が手軽に実施される可能性があり、管理組合としても非常に注意する必要も考えられます。
管理組合として、メリットともにリスクを加味しながら外部管理者方式の選択を検討することが求められます。
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