マンションの管理組合には「通常の管理組合」と「管理組合法人」という2つの形態があります。
しかし、その違いや、法人化によって区分所有者にもたらされるメリットを正確に理解している方は多くありません。
多くの管理組合は、管理組合法人とつかない
マンション名+管理組合
という名称がほとんどでしょう。
そして、管理組合法人となる場合には、どのような特徴や手続きがいるのでしょうか?
そのような疑問を解消するために、企業経営にも詳しいマンション管理士の筆者がマンションの管理組合法人について解説します。
※法的面におけるマンション独自の個別具体的な内容は弁護士等の専門家に確認されることをお勧めします
マンション管理組合法人と通常の管理組合の違いや特徴を詳しく解説
今回の内容は以下の通りです。
✅マンション管理組合法人とは?通常の管理組合との違い
✅法人ではない管理組合との違い【権利能力なき社団との比較】
✅管理組合を法人化するメリット【5つのポイント】
✅管理組合法人のデメリット・注意点
多くの管理組合は法人化していませんが、大規模修繕や訴訟リスクに備えて検討するケースが増えています。この記事では、あなたのマンションが法人化すべきかどうかの判断基準を、メリット・デメリットと合わせて明確にします。
マンション管理組合法人とは?通常の管理組合との違い

まず初めに、分譲マンションにおける管理組合法人とは、どのような形態であるのか確認しましょう。
管理組合法人とは
多くのマンションでは、マンション名+管理組合として運営されています。
一方で、管理組合法人の場合は、
マンション名+管理組合法人
として管理組合の名称がつけられているところがほとんどです。
管理組合法人とは、区分所有法第47条・第48条に基づき、管理組合が法人格を取得した団体です。
法人格を持つことで、契約・訴訟・財産管理を法人名義で行える「権利能力」を取得する点が最大の特徴です。
企業のように法人として権利能力を持ちますが、あくまで区分所有法に基づく特殊法人であり、会社法上の株式会社とは異なります。
少々分かりづらい論点ではあるので、次の項目で詳細を記載します。
ちなみに、国土交通省が発表した令和5年マンション総合調査75ページによると、管理組合法人となっているのは管理組合全体の9.8%と1割にも満たない、比較的少ない状況にあります。
管理組合法人の特徴
そして、具体的な管理組合法人の特徴は次の通りです。
・管理組合法人と名乗る必要がある
・管理組合法人には法的な地位と責任がある
・財産を法人名義で一元管理でき、権利関係が明確になる
・契約書・議事録等の管理が法令準拠となり、運営の透明性が高まる
・法人としての責任主体が明確になり、コンプライアンス強化につながる
具体的にそれぞれ確認していきます。
管理組合法人と名乗る必要がある
マンションの法律である区分所有法の第48条には、
第1項:管理組合法人は、その名称中に管理組合法人という文字を用いなければならない。
第2項:管理組合法人でないものは、その名称中に管理組合法人という文字を用いてはならない。
という決まりがあります。
そのため、必ずマンション名+管理組合法人という名称になります。
管理組合法人が、この名称になっていたのは、そもそも法律で決まりがあるからなのですね。
法人格がない管理組合と明確に区別することが必要であるといえます。
管理組合法人には法的な地位と責任がある
前述した通り、管理組合法人は法人格を持ちます。
そのため、契約や訴訟を行う際には、管理組合法人名義で行うことができます。
そのため、法的には、管理組合法人の責任となります。
通常の管理組合の場合は、理事長名義で行うことが一般的ですが、それとは対照的といえます。
会計処理・税務上の扱い
法人名義で会計処理を行うため、資産・負債が明確に区分されます。また、法人税申告が必要となるため、適切な会計基準に基づいた処理が求められます。
法的・規制上の遵守が行いやすい形態
民法や区分所有法といったマンションに関する法律で法人について規定されており、遵守する必要があります。
そのため、管理組合全体で不正等が発生しずらい形態であるともいえます。
それぞれ、管理組合で実態は異なるものの、一般的にはコンプライアンスにおいては法人格がない管理組合以上に遵守している状況といえるかもしれません。
管理組合運営の透明性
管理組合法人として、法令順守が実践されることから、透明性の高い管理組合運営が期待できます。
また管理組合財産が一定規模の場合は、管理組合内の監事における監査だけではなく、会社同様に公認会計士などの外部専門家による任意の会計監査を導入する管理組合法人もあります。
法人ではない管理組合との違い【権利能力なき社団との比較】
管理組合法人と、そうでない管理組合の違いは以下の通りです。
| 管理組合法人 | 管理組合(権利能力なき社団) | |
| 法的地位・責任の主体 | 法人名義で契約 | 理事長や各々の区分所有者 |
| 契約の名義 | 法人名義 | 理事長個人名義 |
| 訴訟の当事者 | 法人 | 理事長や各々の区分所有者 |
| 資産の名義・登記 | 法人名義 | 区分所有者全員 |
※筆者独自の見解による作成
それぞれ具体的に説明します。
法的地位・責任の主体
管理組合法人では、契約・訴訟などの「表に立つ主体」が常に法人になるため、対外的な窓口が一本化されるのが大きなポイントです。
一方、非法人の管理組合では、契約書の名義は理事長個人、訴訟では「理事長○○○○外区分所有者全員」といった形になることもあり、
・誰が何について責任を負うのか
・相手方からみたとき、誰に請求すべきなのか
が分かりにくくなりがちです。
実務上も、理事長個人が訴訟当事者として名前を出さざるを得ないケースがあり、これが法人化を検討するきっかけになる管理組合も少なくありません。
契約の名義
管理組合法人においては、契約はすべて法人名義で行われ、契約の相手方に対する法的強制力が強く、管理組合全体の利益を守ることが容易です。
対して、法人格がない管理組合における契約は個人名義や理事長名義で行うことが多く、契約の相手方との法的関係が複雑になることがあります。
訴訟の当事者
訴訟や調停などの法的手続きでも、管理組合法人であれば「管理組合法人○○マンション」が原告・被告となります。出廷や書面作成は代表理事や代理人弁護士が行いますが、判決や和解条項の名宛人はあくまで法人です。
非法人の管理組合では、
・理事長個人が当事者になる
・「理事長+区分所有者全員」を当事者として扱う
といった形になり、訴状の作成・送達だけでも手間が増えます。特に「滞納管理費の回収」など繰り返し発生する手続きでは、この違いがボディブローのように効いてきます。
資産の名義・登記
管理組合法人の場合、管理組合が所有する資産は法人名義で登録され、所有権が明確に整理されます。
これにより、管理組合としての財産の処分や管理がスムーズに行えます。
対して、法人格がない管理組合は、資産の所有権は区分所有者全員に分散されます。
そのため、資産の処分や管理が複雑で、合意形成が難しくなることが考えられます。
管理組合を法人化するメリット【5つのポイント】

管理組合法人の特徴や、法人ではない管理組合との比較からある程度は確認される所ではありますが、具体的なメリットについて紹介します。
法的地位と信頼性の向上
管理組合法人とすることで、契約や法的手続きを法人名義で行えるため、取引先や第三者からの信頼が向上することが期待されます。
これによって、管理組合としての意思決定や交渉が円滑に進むことが可能となります。
新規購入者や区分所有者における安心感の確保
法人としての姿勢が明確になることで、買主・金融機関・管理会社など外部ステークホルダーからの信頼性が向上します。
特に金融機関による大規模修繕工事の借入れでは、管理組合法人の方が審査がスムーズになるケースもあります。
安定した管理組合に加入することによって、安心した生活が確保できることも大きなメリットでしょう。
また、既存の区分所有者においても同様に、加入している管理組合において安心感が生まれることが期待されます。
訴訟や法的手続きの簡便性
管理組合法人における訴訟や法的手続きでは法人が当事者となります。
そのため手続きが法人格がない管理組合に対して簡便で、理事長等、個々の区分所有者が直接関与する必要がありません。
理事長や個々の区分所有者に対する負担の軽減
管理組合法人が表に立つため、理事長や区分所有者が立つ必要はありません。
そのため、それぞれの精神的かつ業務としての負担が軽減されることとなります。
この点は、法人格ではない管理組合と比べて大きなメリットといえるかもしれません。
役員が輪番でたまたま自分の番に回ってきた時に訴訟等法的手続きを取らなければならない場合は、その役員にとって不利な役割を担わされることとなります。
通常の管理組合では、理事長個人が訴訟の当事者となるため、心理的負担が大きくなります。
対して管理組合法人では「法人」が当事者となるため、役員個人が訴訟に巻き込まれるリスクは実質的にありません。
管理組合における継続性の確保
法人格を持つことによって、管理組合法人は、建物の滅失や4分の3以上の解散決議など、法律上の解散事由が生じない限り、理事の交代や区分所有者の入れ替わりにかかわらず継続して存続します。
そのため、理事の交代や区分所有者の異動に関係なく、法人格が継続することとなります。
また、特定の役員に依存することが法人格がない管理組合に比べて軽減されることとなるでしょう。
管理組合法人のデメリット・注意点
管理組合法人には一定のメリットがある反面、デメリットとして注意しておくべき点があります。
どのような点が挙げられるのか、具体的に確認します。
設立手続きの煩雑さ(令和8年4月の改正区分所有法に基づく最新ルール)
管理組合を管理組合法人へ移行する際には、総会での特別決議と登記手続きが必要となり、一定の時間とコストが発生します。
2026年4月施行の改正区分所有法では、法人化の決議要件が次のとおり明確化されました。
① 総会成立のための定足数(新設)
・区分所有者の過半数が出席
・その出席者が 議決権の過半数 を有している
② 法人化を決議するための特別多数決議
・出席した 区分所有者数の4分の3以上
・出席した 議決権数の4分の3以上
これらの賛成により、
「管理組合法人とする旨」
「名称」
「主たる事務所」
を決定し、その所在地で設立登記を行うことで法人として成立します。
登記申請には司法書士への依頼費用などの初期コストが発生するため、事務負担と金銭負担の両面で一定のハードルがある点がデメリットといえます。
毎年発生する「役員変更登記」の手間とコスト
実務上、最も大きな負担となるのが「役員変更登記」です。 管理組合法人の場合、理事長や理事が交代するたびに、法務局で変更登記を行わなければなりません(組合員法第49条)。
・手間: 毎年(または任期ごと)に司法書士へ依頼するか、自分たちで書類を作成して法務局へ行く必要性
・コスト: 登録免許税や司法書士報酬が発生
・リスク: 登記を怠ると「過料(罰金)」の対象
これに加え、法人税申告や会計監査などのコストも発生するため、小規模なマンションでは費用対効果が合わないケースも多々あります。
具体的には、税理士・司法書士等への報酬や登記維持費用など、年間で数万円〜数十万円程度の追加コストが発生するケースもあります。(金額はマンションの規模や依頼範囲によって大きく異なります)
役員負担の増加
法的な面においては法人が表に立つことからその負担は減るものの、理事や監事は会社でいう、取締役や監査役に近い位置づけとなります。
そのため、管理組合法人運営における法的手続きや財務会計の管理等、管理組合内での業務負担が増える可能性があります。
加えて、法的手続きにおいては矢面に立つ必要はないものの、その準備等は管理組合内部で行う必要があることから、法人格がない管理組合同様の負担は発生する可能性があるでしょう。
どんなマンションが管理組合法人に向いているか【法人化を検討すべきケース】
管理組合法人の特徴や、法人化されていない管理組合との比較、法人化することによるメリット、デメリット等を紹介しました。
冒頭で記載した通り、全管理組合のうち法人化されているのは10%に満たない水準です。
デメリットに対して余りあるメリットがある管理組合としては、法人化も視野に入ることと考えられます。
とりわけ、実務上、次のような管理組合は法人化を検討する価値が高いといえます。
【法人化を検討しやすいマンションの特徴】
✅ 規模が大きい・団地型である: 区分所有者数が多く、契約や合意形成の手続きが複雑になりやすい場合
✅ 複合用途: 1階に店舗・事務所が入っているなど、権利関係が複雑で、対外的な契約主体を一本化したい場合
✅ 新たに不動産を取得する予定がある: 隣接地、集会室、元店舗区画などを管理組合で購入し、管理組合法人名義で登記しておきたい場合
✅ 訴訟・トラブル対応が多い: 管理費滞納者への法的措置や、共用部分をめぐるトラブルなど、今後も法的手続きが想定され、理事長個人が矢面に立つ負担を減らしたい場合
これらに該当する場合、管理組合法人とすることで、「対外的な契約・訴訟窓口の一本化」や「理事長個人の心理的負担の軽減」といったメリットが大きくなります。
一方で、登記維持や税務申告などのコストも発生するため、自団地の規模や運営体制に照らして慎重に検討することが重要です。
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今回のコラムはYouTubeでナレーターの2人が分かりやすく、詳しく解説しています。
分かりやすく解説していますので、こちらも確認してみてください。









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