横浜の歴史ある大規模団地「汐見台」とは?住環境、課題、未来への取り組みを深掘り【音声解説付き】

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横浜市磯子区の高台に広がる汐見台団地は、半世紀以上の歴史を持つ、緑豊かな大規模団地です。計画的に開発されたこの団地は、かつて他のニュータウン開発のモデルともなった先進的な街づくりが行われました。本記事では、汐見台団地の誕生から現在、そして未来に向けた課題や取り組みについて、何度か訪問したこともあるマンション管理士の筆者が詳しく解説します。

横浜市磯子区「汐見台団地」の基礎知識

汐見台団地はどのようにして生まれたか?その歴史

汐見台団地は、根岸湾の埋立地に進出した企業の工場勤務者のための「職住近接都市」として開発が始まりました。昭和30年代後半から開発が進められ、約75haの開発面積に約16,000人が暮らす団地として計画されました。この開発は、後世のモデルとなるような理想的な団地造成を目指し、無電柱化などを取り入れた公社初の試みであり、その後の多摩ニュータウンや千里ニュータウンの先行モデルにもなったと言われています。

開発は「磯子団地」として昭和36年1月に起工式が行われました。昭和37年10月には町名が「汐見台団地」に変更され、昭和38年6月には住民の入居が開始されました。インフラ整備も進み、昭和39年6月には根岸線の桜木町~磯子駅間が開通しました。また、団地内に小学校や中学校(浜小学校汐見台分校、浜中学校分校から独立)が昭和42年4月に開校し、昭和48年3月には久良岐公園が開設されるなど、教育施設や公園の整備も進められました。

以下に神奈川県住宅供給公社のYouTubeチャンネルから、1968(昭和43)年に作成された汐見台団地の記録映画を紹介します。

筆者も結構気に入っている記録動画であり、以前より何度か繰り返し見ています。比較的貴重なものであると思っています。

汐見台団地の規模と構成

汐見台団地は、都市計画法第11条第1項8号で定められた「一団地の住宅施設」として位置づけられています。計画戸数は中層住宅約4,300戸(合計4,295戸)であり、高層住宅や低層住宅は計画されていません。

「一団地の住宅施設」として都市計画決定されている区域内では、建築行為を行う際に都市計画法第53条の許可が必要となります。また、この区域内では戸建住宅を建てることはできず、建築できるのは共同住宅や寄宿舎等に限定されています。団地内には、住宅のほか、道路、公園、緑地、配水池、警察官派出所といった公共施設のほか、学校、幼稚園、保育所、購買施設、管理事務所、集会所、病院用地といった公益的施設が計画的に配置されています。

2017年時点では、3,749世帯、8,860人が汐見台に居住しています。

汐見台団地へのアクセス方法

汐見台団地への主なアクセス方法は、最寄駅からのバス利用となります。

  • JR根岸線「磯子」駅から市営バスで約14分、「汐見台3丁目」バス停下車後、徒歩1~5分。
  • 京浜急行線・横浜市営地下鉄ブルーライン「上大岡」駅からもアクセス可能ですが、徒歩では18~20分程度かかります。
  • 京浜急行線「屏風浦」駅から徒歩15~17分程度。

汐見台団地は鉄道駅から比較的離れた地域であるため、地域住民の交通手段は主にバス利用が中心となっていることがうかがえます。

筆者も、汐見台団地まで徒歩で行くことがありました。散策も兼ねて磯子駅や、上大岡駅から向かいましたが、汐見台という立地が丘の上にあることから、双方からのアクセスは上り坂が続く道のりです。

そのため、バスでの移動が一般的なのではと考えられます。

緑豊かな環境と生活を支える施設

汐見台団地は、その広大な敷地と計画的な配置により、緑豊かな住環境が特徴です。

計画的に配置された施設と周辺環境

団地の中央には、スーパーや総合病院が配置されており、日々の買い物や医療面での利便性が確保されています。また、団地内には幼稚園3つ、保育園2つ、小学校2つ、中学校1つといった教育施設も整備されており、子育て世帯にとっても生活しやすい環境と言えるでしょう。

写真には汐見台団地の中心部にあるスーパーCOOPが写っていますが、少し前の写真であったため、その後の2024年9月に閉店していたようです。それに代わり、現在はクリエイトS・D磯子汐見台店がはいっているとのことです。これだけの大規模団地なので、中心地にはスーパーが不可欠であると考えられます。

汐見台の敷地内には、各区画に児童公園が整備されており、子どもたちが安全に遊べる場所が身近にあります。さらに、桜の名所として知られる久良岐公園が徒歩圏内にあり、広大な敷地には広場や子どもの遊び場、散策路などが整備されています。

磯子区全体としては、公園の面積率(2.3%)が全市平均(4.2%)を下回る状況であり、緑の創出が課題となっていますが、汐見台を含む岡村地区など丘陵部では、緑被率が全市平均を上回るエリアも存在します。地域によっては、斜面緑地の保全や宅地内、公園、空き地等の緑化が進められており、良好な住環境の維持に向けた取り組みが行われています。

老舗団地が直面する課題とその対応策

半世紀以上の歴史を持つ汐見台団地は、他の大規模団地と同様に、時代の変化に伴う様々な課題に直面しています。

人口構造の変化への対応

磯子区全体では、2015年から2035年にかけて総人口が約2.8万人減少することが予測されており、生産年齢人口も同様に減少が見込まれています。一方で、高齢者の数は1990年から2015年までに2倍以上に増加しており、高齢化が進展しています。特に、高齢の単身世帯が増加する予測があり、これは汐見台団地でも同様の傾向が考えられます。

人口減少・高齢化が進む中で、地域コミュニティの維持・活性化や、高齢者を見守り・支え合う仕組みづくりが重要となっています。また、高齢化に伴い、徒歩による生活サービス施設へのアクセスが低下することが想定されるため、生活拠点の強化や、バス路線の維持・見直しなど、交通利便性の維持・向上に向けた検討も行われています。

施設の老朽化と再生の必要性

磯子区内の集合住宅は、築後35年以上が経過しているものが約半数を占めており、特に集合住宅は老朽化への対応が必要とされています。大規模団地の存在は、このように築年数が経過したマンションが多い地域の割合を押し上げる要因の一つとも言われます。

汐見台団地のように計画的に開発された集合住宅地区では、建替えや大規模な修繕等の機会を捉えて、バリアフリー化や長寿命化への対応を進めることが方針として掲げられています。また、「一団地の住宅施設」として決定されている区域では、集合住宅の再生に関する検討が必要とされ、行政は地区の課題解決に向けた活動や、地区全体の合意形成に向けた支援を行うとしています。

さらに、公園プールなどの市民利用施設を含む公共建築物も、築後35年以上経過している建物が約6割あり、その更新時には地域特性に合った施設の複合化や多目的化が必要になると想定されています。

安心・安全なまちづくりに向けた防災対策

磯子区内、特に木造住宅が密集している地域や狭あい道路が多い地域では、地震時の火災による延焼や、災害時の避難路確保、緊急通行車両の通行困難といった防災上の課題があります。汐見台団地自体は計画的な街並みですが、周辺の岡村地区などには木造住宅密集地が存在し、同様の課題を抱えています。

また、丘陵部に位置する汐見台は、土砂災害警戒区域や急傾斜地崩壊危険区域に含まれる可能性があり、県と連携した崖崩れ対策が進められています。巨大地震発生時には、区内全域で震度4~7の揺れが想定されており、木造住宅密集地の火災対策や、平地部・臨海部での液状化、臨海部の埋立地での津波浸水といったリスクも挙げられています。

これらの課題に対し、建物の耐震化や不燃化、狭あい道路の拡幅整備を進めることで、地震による被害拡大を防ぎ、災害に強いまちづくりを進める方針です。また、土砂災害ハザードマップの周知や警戒避難体制の整備、津波対策の推進、情報発信の拡充も行われます。

地域における共助体制の強化も重要視されており、日常的な地域交流による見守り・支え合い活動や、地域防災拠点を中心とした防災訓練、防災組織・消防団・家庭防災員の活動を通じた地域防災力の強化が図られています。

交通環境の維持・改善

汐見台団地を含む、鉄道駅から離れた地域では、バスが主要な交通手段となっています。バス路線の維持や、高齢者などの外出手段確保のための新たな交通手段(地域住民が乗り合って運行するバスなど)の導入に向けた検討が進められています。また、駅周辺や団地内におけるバリアフリー化の推進や、幹線道路の交通対策なども、快適な交通環境実現のために検討されています。

汐見台団地の新たな魅力づくりと地域住民の取り組み

汐見台団地では、歴史ある住環境を守り育てながら、未来に向けて新たな魅力づくりや、地域住民による主体的な活動が進められています。

地域主体のまちづくり活動

汐見台には汐見台自治会連合会が存在し、団地内の各自治会・町内会が活動しています。中でも、汐見台第一団地自治会においては高齢化が進む中でも、防災訓練の実施、花植え、敬老の日の訪問、年末の声かけ(ティッシュ配布)、昼間の声かけ、オレオレ詐欺への注意喚起など、見守りや支え合いを中心とした地域コミュニティ活動を積極的に行っている事例が紹介されています。集会所がない中でも、役員や居住者の協力により「住みやすい自治会になった」との声が挙がっています。

行政も、このような地域の主体的なまちづくり活動を促進しており、地区計画や建築協定、景観協定といった制度の活用や、まちづくりコーディネーターの派遣、地域まちづくり組織等によるエリアマネジメントを支援する方針です。また、まちづくりに多くの区民意見や提案が反映されるよう、住民参加の充実を図り、地域としての合意形成支援も行われます。空家や空き地についても、地域の活動拠点や集会機能としての活用が検討されており、地域コミュニティの活性化につながることが期待されます。

水辺や緑、歴史資源を活用した魅力向上

汐見台団地の周辺地域には、堀割川や大岡川といった水辺、久良岐公園をはじめとする緑地、そして三殿台遺跡などの歴史資源が点在しています。これらの資源を活かし、まちの魅力を高める取り組みが進められています。

例えば、堀割川の河口部に親水護岸を整備し、水辺を区民の憩いの場として活用する検討や、団地内外の公園や緑地、街路樹を「緑の軸」や「グリーンロード(緑の散策路)」としてつなげ、自然を感じながら快適に散策できる環境を創出する構想があります。また、久良岐公園や三殿台遺跡、岡村天満宮、久良岐能舞台といった歴史資源を結ぶ散策ルートを活用し、まちの魅力向上を図ることも検討されています。

平成26年度の市民意識調査によると、磯子区民は現住地への定住意向が全市の中でも高く、「交通・通勤などの便利さ」、「ふだん買物をする場所の近さ」、「周辺の静けさ」に満足を感じています。一方で、「遊びや余暇活動の便利さ」、「飲食やショッピングの便利さ」、「緑や自然やオープンスペースの豊かさ」には不満が見られます。この不満を解消するため、緑や自然の創出、水辺や公園の整備、生活拠点の賑わい創出といった取り組みが今後のまちづくり方針として掲げられています。

汐見台団地のマンション管理組合が直面する課題と取り組み

汐見台団地は大規模な集合住宅で構成されているため、各棟やエリアごとのマンション管理組合が重要な役割を担っています。老舗団地としての課題は、そのまま管理組合の課題にも繋がります。

最大の課題は、築年数の経過に伴う建物の老朽化への対応です。管理組合は、建替えや大規模修繕の計画・実施を検討・推進していく必要があります。これには、修繕積立金の長期的な計画や、居住者の合意形成が不可欠となります。また、老朽化対策と同時に、高齢化社会に対応するためのバリアフリー化や、地震に対する耐震化も重要な課題です。

「一団地の住宅施設」という特殊な都市計画区域内にあることから、開発や建築行為には事前協議や行政の許可が必要であり、マンションの再生などを検討する際には、行政や神奈川県住宅供給公社との連携が求められます。行政からは、集合住宅の再生に向けた検討や地区全体の合意形成に対する支援も提供されることになっています。

さらに、管理組合としては、団地内の住環境維持・向上のため、地域コミュニティとの連携も重要です。例えば、前述の自治会活動(見守り、防災訓練など)への協力や、団地内に存在する緑地やオープンスペースの適切な維持管理も管理組合の役割に含まれる場合があります。高齢化が進む中では、孤立防止や安否確認など、居住者同士の支え合いを促すコミュニティ形成に向けた取り組みも重要になってくるでしょう。

まとめ:汐見台団地の持続可能な未来へ

横浜の汐見台団地は、過去の先進的な都市計画によって生まれた、緑豊かな大規模団地です。しかし、時代の流れとともに、人口構造の変化や施設の老朽化といった課題に直面しています。

これらの課題に対し、行政は高齢化対応、防災対策、緑化推進など、様々な分野でのまちづくり方針を定めています。そして、その実現には、汐見台自治会連合会をはじめとする地域住民やマンション管理組合の主体的な活動が不可欠です。

施設の老朽化対策や地域コミュニティの維持・活性化は、各管理組合にとって大きな課題ですが、同時に団地全体の住みやすさ、ひいては資産価値の維持・向上にも繋がる重要な取り組みです。行政や関係機関との連携を図りながら、地域で連携し、課題解決に向けた取り組みを進めることが、汐見台団地がこれからも多くの人々にとって「住みやすいまち」であり続けるための鍵となるでしょう。

歴史と自然に育まれた汐見台団地が、課題を乗り越え、魅力あふれる地域として未来へ引き継がれていくことが期待されます。

汐見台団地の魅力を音声解説!

今回のコラムは以下の音声解説でも楽しむことができます。

汐見台団地の音声解説はこちら↑

ナレーターが非常に分かりやすく、魅力や課題、今後の取り組みなどを解説しています。

参考文献

今回の記事作成のために参考にした文献は以下の通りです。

✅横浜市 汐見台一団地の住宅施設の制限
✅横浜市磯子区役所・都市整備局(平成30年3月) 横浜市都市計画マスタープラン 磯子区プラン 磯子区まちづくり方針
✅神奈川県住宅供給公社 大規模団地「汐見台」 団地紹介 汐見台
✅磯子区連合町内会長会 汐見台第一団地自治会
✅汐見台自治会連合会 ホームページ
✅Wikipedia 汐見台 (横浜市)
✅横浜マンション管理・FP研究室 築40年超マンションの自治体ランキング:全国と政令指定都市の傾向を徹底分析

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