管理規約・使用細則の変更手順まとめ|総会決議から議事録作成までの実務フロー

マンション管理

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「規約を変えたいが、手順を間違えて後で無効と言われるのが怖い」 「管理会社に任せておけば大丈夫だと思っていたら、実態に合わないルールになってしまった」

マンション管理組合の理事であれば、一度はそう感じたことがあるはずです。管理規約や使用細則の変更は、区分所有法に基づく厳格な手続きが必要であり、一つでも手順を飛ばすと、最悪の場合「決議無効」の訴えを起こされるリスクすらあります。

実際に、招集通知の記載不備で総会決議が無効になった判例や、変更後の周知が不十分で居住者トラブル(「聞いていない」問題)に発展するケースは後を絶ちません。

本記事では、検討開始から理事会決議、総会での承認(特別決議)、そして議事録作成や周知に至るまでの「一連の実務フロー」を5つのステップで徹底解説します。 単なる手順だけでなく、「多くの管理組合が陥る失敗パターン」や「令和8年(2026年)法改正後の新ルール」もセットで整理しました。これを見ながら進めれば、初めての理事でも迷うことなく、安全確実に規約変更を完了できます。

なお、管理規約や使用細則の「制度上の位置づけ」や、普通決議・特別決議といった決議要件の基本整理については、以下の記事で全体像を解説しています。

本記事では、それらを前提として、「実際にどう進めれば決議無効を避けられるのか」という実務フローに焦点を当てています。

▶ 管理規約・使用細則の変更方法|手続き・決議要件を徹底解説【法改正対応】

規約変更の全体像(実務フローチャート)

管理規約や使用細則を変更するには、思いつきではなく計画的な進め方が必要です。全体の大まかな流れは以下の通りです。

  • STEP1: 現状の課題と変更箇所の特定
  • STEP2: 素案(新旧対照表)の作成と検討
  • STEP3: 理事会決議と総会招集通知
  • STEP4: 総会決議(普通決議・特別決議)
  • STEP5: 議事録作成・周知・原本保管

それぞれのステップについて、具体的な実務ポイントと「プロが教える注意点」を解説します。

【STEP1・2】変更案の準備と検討

変更が必要な「ズレ」を特定する

まずは、現在のルールと実態の間にどのような「ズレ」があるかを洗い出します。 新築時の「原始規約」のまま数十年経過しているマンションも珍しくありませんが、現在の運用と乖離している場合は、トラブルの火種になります。

よくある検討のきっかけ:

  • 標準管理規約との乖離: 国交省の「標準管理規約」が改正された(WEB総会対応、理事の外部専門家登用など)のに、自分のマンションの規約が古いままになっている。
  • ライフスタイルの変化: 「駐車場に空きが増えたので外部貸ししたい」「高齢化でデイサービス車両の乗り入れを許可したい」など。
  • 設備の変化: 「EV充電器を設置したい」「宅配ボックスのルールを決めたい」「置き配を認めるか決めたい」など。
  • トラブル対応: 「民泊を禁止したい」「カスタマーハラスメント条項を入れたい」など。

【重要】変更案(素案)の作成

課題が出たら、「どこをどう変えるか」具体的な文案を作ります。 実務では、いきなり条文だけを見るのではなく、「現行規定」と「改正案」を左右に並べた『新旧対照表』を作成するのが必須です。これにより、理事会や総会での議論がスムーズになります。

例えば駐車場の場合、「未使用の空き区画があるにも関わらず、区分所有者限定」となっている条文を、「外部貸し出しも可」とするように変更案を作成します。

(失敗例:標準管理規約の「丸写し」は危険) よくある失敗が、管理会社に「最新の標準管理規約に合わせておいて」と丸投げしてしまうケースです。 管理会社はリスク回避のために、国交省の標準モデルをそのまま適用しようとします。しかし、標準管理規約はあくまで「標準的なマンション」を想定したモデルです。 あなたのマンションの実情(規模、設備、住民層)に合わない条文まで盛り込まれてしまい、かえってルールが複雑化・形骸化することがあります。 例えば、「役員の資格要件」や「駐車場の使用料設定」などは、マンションごとの個性が強く出る部分です。必ず理事会で「自分たちのマンションに必要なルールか?」を一文ずつ読み合わせ確認してください。

(推奨:専門委員会の立ち上げ) 規約変更は、条文の精査や住民アンケートの実施、新旧対照表の作成など、膨大な実務作業が発生します。通常の理事会業務(月1回の会議)のついでに行うには負荷が高すぎます。 そのため、理事会の諮問機関として「規約改正専門委員会」を立ち上げることを強く推奨します。 委員会には、現役理事だけでなく、過去の理事経験者や、法律・建築の知識がある居住者を公募で招き入れると、専門性が高まり、スムーズな合意形成につながります。また、理事が輪番で交代しても、委員会メンバーが継続することで検討が中断するリスク(「前の期のことは分からない」問題)を防ぐことができます。

【STEP3】理事会決議と総会招集

理事会での承認

変更案(新旧対照表)が固まったら、必ず理事会で「この案を総会に上程すること」を正式に決議します。 使用細則の変更であっても、理事会などの役員だけで勝手に決めることはできません。必ず「総会」にかける必要があります。

(注意点:規約か?細則か?)「細則を直せば足りると思ったら、実は“規約側”の根拠が弱くて運用が崩れる」というミスがあります。ペットルールは、可否・頭数・種類・共用部移動・届出まで含めて細則に集約しているマンションが多い一方、マンションによっては規約本文で基本方針(例:飼育は細則で定める等)を置き、詳細を細則に委ねる書き方もあります。

まずは現行規約・細則の「どこに根拠が置かれているか」を確認し、改正対象(規約/細則/両方)を切り分けるのが安全です。

招集通知と議案書の配布

総会の日時が決まったら、区分所有者へ招集通知と議案書を配布します。 ここで最も注意すべきなのが、区分所有法第35条の規定です。

区分所有法第35条(招集の通知) 会議の目的たる事項が第十七条第一項、第三十一条第一項…の決議事項であるときは、議案の要領をも通知しなければならない。

特に「管理規約の変更」は重要事項(特別決議)にあたるため、単に「規約変更の件」という議題名だけでは不十分です。「議案の要領(どのような変更を行うかの要約)」を通知時に明示しなければなりません。

(【危険】ここでの不備が決議無効を招く) 最も怖いのが、この招集通知の不備です。 「規約を一部変更します(詳細は当日説明します)」などと書いて、具体的な変更内容(新旧対照表など)を事前に配布し忘れると、せっかく総会で可決しても、後から「手続きに重大な瑕疵がある」として決議無効を主張されるリスクがあります。 必ず「どの条文を、どう変えるのか、その理由は何か」が分かる資料を、招集通知と一緒に全区分所有者に送付してください。

▼【2026年4月法改正】総会の招集通知の手続きについてはこちら

【STEP4】総会決議(普通決議と特別決議)

ここが最大の山場です。変更する内容(規約か、細則か)によって、決議に必要な「賛成数」が異なります。 特に管理規約の変更については、令和8年(2026年)4月の法改正により、決議要件の考え方が大きく変わります。

管理規約の変更は「特別決議」

令和8年4月以降の改正区分所有法では、以下のように定められています。

(規約の設定、変更及び廃止) 第三十一条 規約の設定、変更又は廃止は、集会において、区分所有者(議決権を有しないものを除く。以下この項前段において同じ。)の過半数(これを上回る割合を規約で定めた場合にあつては、その割合以上)の者であつて議決権の過半数(これを上回る割合を規約で定めた場合にあつては、その割合以上)を有するものが出席し、出席した区分所有者及びその議決権の各四分の三以上の多数による決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

従来は「区分所有者総数の3/4」が必要(=欠席者は実質反対票)でしたが、改正後は「出席者の3/4」で決議できるようになります(※定足数として過半数の出席が必要)。 これにより、無関心層(所在不明者や委任状すら出さない人)に足を引っ張られることなく、総会に参加する意思ある区分所有者の合意でルールを変えられるようになります。

※ただし、総会成立の定足数(区分所有者数・議決権数とも過半数の出席)が必要です。「出席」の扱い(当日出席/委任状/議決権行使書の算入方法)は、管理規約・議事運営ルールにより整理が必要なため、事前に集計ルールを決めておくと安全です。

もっとも、改正によって決議要件が形式的に緩和されたとはいえ、出席者ベースで4分の3以上の賛成が必要である点に変わりはありません。そのため、総会当日の説明だけで押し切るのではなく、事前に変更理由や影響範囲を丁寧に共有し、賛否の見通しを立てたうえで総会に臨むことが、依然として重要です。

▼【重要】票の数え方と「決議無効」リスクの回避詳細はこちら

委任状と議決権行使書の違い(票読みミス防止)

実務上、票読みの事故が多いのがここです。 「議決権行使書」は、提出時点で「賛成・反対」が確定します。一方、「委任状」はあくまで“誰に議決権を託すか”の意思表示であり、当日の議長判断や総会の進行次第で票の動きが変わる余地があります(白紙委任状の扱いなど)。

特に特別決議では1票の重みが違うため、「委任状=賛成票」と早合点して集計すると、後日「実は反対だった」「無効票だった」と判明した際に定足数割れや否決になるトラブルになります。 事前集計表では、“委任状(議長委任/特定委任)”と“議決権行使書(賛成/反対)”を明確に別列にして管理し、慎重にカウントすることが安全です。

使用細則の変更は「普通決議」

一方、規約に付随する「使用細則(ペット飼育細則、駐車場使用細則など)」の制定・変更・廃止は、原則として「出席者の過半数」で決する普通決議で可能です(※管理規約で別段の定めがある場合を除く)。

標準管理規約第18条(使用細則) 対象物件の使用については、別に使用細則を定めるものとする。

比較的変更しやすいため、細かなルールは規約ではなく細則に落とし込むのが実務のセオリーです。 ただし、細則であっても「規約に反する内容」は定められません。規約と細則の整合性は必ずチェックしてください。

「特別の影響」がある場合の承諾

規約や細則の変更が、特定の区分所有者に「特別の影響」を及ぼす場合は、その人の承諾が必要です。

例えば、「これまではペット飼育可」だったマンションを、「ペット不可」に変更する場合です。現在ペットを飼っている人にとっては、規約改正によってペットを手放さなければならない事態になれば、権利侵害(特別の影響)となります。 そのまま強行採決しても、その部分については無効とされる可能性が高いです。

(実務テクニック:経過措置の活用) 反対を減らし、承諾を得るための現実的な解として、「経過措置(附則)」の設定がカギを握ります。 ペットの例であれば、「本規約変更時にすでに飼育されているペットについては、その一代限りに限り飼育を認める」といった附則を明記します。 リフォーム制限の場合も、「施行日以降に申請された工事から適用する」とすることで、既存居住者の既得権益を守りつつ、将来に向けて段階的にルールを強化することができます。この「落とし所」の設計が、総会を荒れさせないコツです。

【STEP5】変更後の実務(議事録・周知)

議事録への記載と原本保管

総会で可決されたら、議長(理事長)と議事録署名人が署名した議事録を作成します。 ここでのポイントは、「変更された新しい管理規約」を、原本として正しく保管することです。

(原本紛失のリスク:後から復元できないことがある) 規約原本が紛失すると、「現行規約が何か」を証明できず、次回の改正やトラブル対応で詰んでしまいます。議事録が残っていても、改正の積み重ねが多いと“どれが最新の条文か”の確定に莫大な時間と費用(弁護士費用など)がかかります。

実務では、以下の「3点セット」で管理すると安全です。

  1. 紙の原本(署名捺印付き・金庫保管)
  2. PDFデータ(検索・閲覧用・クラウド保管)
  3. 改正履歴一覧(改正日・条番号・変更概要のリスト)

理事長交代の引継ぎ項目にこれらを固定化しておくと、紛失事故を防げます。

組合員への周知徹底

決まったルールは、全区分所有者(および賃借人などの占有者)に配布・掲示して周知します。「知らなかった」というトラブルを防ぐため、広報までが規約変更の仕事です。

(賃借人への周知漏れに注意) 特に賃貸に出している部屋の場合、区分所有者(オーナー)には通知が届いても、実際に住んでいる賃借人(入居者)には新しいルールが伝わっていないことがよくあります。 「ゴミ出しルール」や「ペット飼育細則」「バルコニーの使用細則」などが変わった場合は、エントランス掲示板や各戸へのポスティングなど、居住者全員の目に触れる方法で周知徹底を図りましょう。

(不動産仲介業者への最新版共有) 意外と忘れがちなのが、管理会社への最新版規約の提出です。 中古売買の際、不動産会社は管理会社が発行する「重要事項調査報告書」や規約の写しを元に買主へ説明を行います。ここで管理会社の手元にある規約が古いまま(変更が反映されていない)だと、購入者に誤ったルールが伝わり、「ペット不可なんて聞いていない」「リフォーム制限が違う」といった入居後のトラブルに直結します。 規約を変更したら、必ず管理会社(担当フロント)へ最新の原本データを渡し、重要事項説明の資料を更新してもらうよう依頼してください。

まとめ:手順を守れば怖くない

時代の変化とともに、管理規約や使用細則といったルールも生活しやすさと乖離することとなります。 定期的な見直しをかけることで、マンション管理上、住みやすさを提供することも可能になります。

管理規約や細則がなにか現状と違うなと思ったら、また住民から規約や細則についての提案があったら、本記事のステップを参考に、理事会で変更を提案して変更に向かって進めてみてください。 手続きは面倒に感じるかもしれませんが、これらは全て「区分所有者の財産と権利を守る」ために法律で定められた安全装置です。手順を一つずつクリアしていけば、必ず適正な規約変更が実現できます。

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