マンションの管理組合が適切に運営されるためには、管理規約の保管と閲覧ルールが重要です。
「規約原本等」とは、マンション標準管理規約第72条で定められた、規約の正式な保管方法や閲覧権限に関するルールを指します。
しかし、マンション管理の現場を見ていると、実際には「規約原本が見つからない」「管理組合が適切に運用できていない」といった問題が発生するケースもあります。
本記事では、マンション標準管理規約第72条『規約原本等』の内容を詳しく解説し、国土交通省の補足事項や実務上の注意点についてもわかりやすく紹介します。
管理組合や区分所有者として、どのように対応すべきかを理解し、適切に管理できるようにしましょう。
【規約解説】規約原本とは?マンション標準管理規約第72条をマンション管理士が解説
今回紹介する内容は、以下の通りです。
・国土交通省が指摘する補足・注意事項
・管理組合・区分所有者が注意すべきポイントを5つ紹介
まず、最初の章では標準管理規約第72条の条文から「規約原本等」についてそのままの文面を紹介します。
続いて、この条文についての補足事項や、注意しておくべき事項について国土交通省より提示されています。
今回は、国土交通省が示している文面を筆者が意訳せずにまずはそのまま紹介します。
その後、その文面の解説を、イメージしやすい具体的な例を踏まえながら紹介します。
そして、最後の章では第72条「規約原本等」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者が気を付けておいた方が良い点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、さっそく次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第72条「規約原本等」とは?
まずはじめに、第72条「規約原本等」の条文内容について紹介します。
そして、条文に対する筆者の補足説明をします。
第72条「規約原本等」条文は?
条文の内容は、以下の通り定められています。
また、電磁的方法が利用可能ではない場合と可能な場合があります。
それぞれの内容について、紹介します。
電磁的方法が利用可能ではない場合
まず、電磁的方法が利用可能ではない場合の条文です。
第72条 この規約を証するため、区分所有者全員が署名した規約を1通作成し、これを規約原本とする。
2 規約原本は、理事長が保管し、区分所有者又は利害関係人の書面による請求があったときは、規約原本の閲覧をさせなければならない。
3 規約が規約原本の内容から総会決議により変更されているときは、理事長は、1通の書面に、現に有効な規約の内容と、その内容が規約原本及び規約変更を決議した総会の議事録の内容と相違ないことを記載し、署名した上で、この書面を保管する。
4 区分所有者又は利害関係人の書面による請求があったときは、理事長は、規約原本、規約変更を決議した総会の議事録及び現に有効な規約の内容を記載した書面(以下「規約原本等」という。)並びに現に有効な第18条に基づく使用細則及び第70条に基づく細則その他の細則の内容を記載した書面(以下「細則内容書面」という。)の閲覧をさせなければならない。
5 第2項及び前項の場合において、理事長は、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
6 理事長は、所定の掲示場所に、規約原本等及び細則内容書面の保管場所を掲示しなければならない。
電磁的方法が利用可能な場合
次に、電磁的方法が利用可能な場合についてです。
太線の部分が、利用可能でない場合に対する追記部分となります。
(規約原本等)
第72条 この規約を証するため、区分所有者全員が書面に署名又は電磁的記録に電子署名した規約を1通作成し、これを規約原本とする。
2 規約原本は、理事長が保管し、区分所有者又は利害関係人の書面又は電磁的方法による請求があったときは、規約原本の閲覧をさせなければならない。
3 規約が規約原本の内容から総会決議により変更されているときは、理事長は、1通の書面又は電磁的記録に、現に有効な規約の内容と、その内容が規約原本及び規約変更を決議した総会の議事録の内容と相違ないことを記載又は記録し、署名又は電子署名した上で、この書面又は電磁的記録を保管する。
4 区分所有者又は利害関係人の書面又は電磁的方法による請求があったときは、理事長は、規約原本、規約変更を決議した総会の議事録及び現に有効な規約の内容を記載した書面又は記録した電磁的記録(以下「規約原本等」という。)並びに現に有効な第18条に基づく使用細則及び第70条に基づく細則その他の細則の内容を記載した書面又は記録した電磁的記録(以下「細則内容書面」という。)の閲覧をさせなければならない。
5 第2項及び前項の場合において、理事長は、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
6 理事長は、所定の掲示場所に、規約原本等及び細則内容書面の保管場所を掲示しなければならない。
7 電磁的記録により作成された規約原本等及び細則内容書面の閲覧については、第49条第5項に定める議事録の閲覧及び提供に関する規定を準用する。
電磁的方法によるものは、第7項まである比較的長い条文になります。
各項について、詳細を解説していきます。
第1項 規約原本の意義と作成方法
まず、第1項についてです。
本条では、マンションの管理規約を証明するため、区分所有者全員が署名した規約を「規約原本」として作成することを定めています。
また、電磁的記録(例:PDF、電子文書)に電子署名を付与した規約も規約原本として認められるようになりました。
これらにより、規約の真正性が担保され、将来の紛争防止につながります。
なお、新築時の管理規約は通常、最初の管理組合総会で承認されることが一般的です。
第2項 理事長の保管義務と閲覧請求の対応
次に、第2項についてです。
理事長は、規約原本を適切に保管する責任を負い、区分所有者や利害関係人(例:賃借人、管理会社など)から書面で請求があった場合には、閲覧を認めなければなりません。
売買の際には、購入者側がマンションの管理規約を入手して、生活スタイルと合っているかなど購入して問題ないかを確認することも必要です。
これにより、関係者が管理規約の内容を正しく把握し、適切な対応を取ることが可能となります。
ちなみに、電子メールやオンラインシステムを利用した「電磁的方法」による閲覧請求も行えるようになっています。
第3項 規約変更時の対応と有効性の確認
総会決議によって規約が変更された場合、理事長は最新の規約内容を記載した書面を作成し、署名のうえ保管する義務があります。
これは、規約の変更履歴を明確にし、区分所有者間での認識のズレを防ぐための措置です。
特に、大規模修繕やペット飼育ルールの変更など、重要な変更があった際には正確な管理が求められます。
また、管理組合の規約としてよくあるパターンが、規約変更が承認された総会の議事録や改訂履歴を、規約書面に追加していくことです。
これによって、新たに変更された箇所が区分所有者に対して確認できることとなります。
第4項 閲覧義務の範囲と細則の管理
閲覧請求があった場合、理事長は以下の書類の閲覧を認めなければなりません。
・規約原本等(規約原本・規約変更の議事録・現行規約)
・細則内容書面(使用細則・管理細則等)
これにより、区分所有者や利害関係人が最新の管理規約や使用細則を適宜確認できる環境が整えられます。
電磁的方法によって保存された規約原本等も同様となります。
第5項 閲覧対応の調整
理事長には、閲覧の日時や場所を指定できる権限があります。
例えば、管理組合の事務所や理事長の自宅ではなく、管理会社のオフィスで閲覧できるようにするなど、適切な運用が可能です。
ただし、不当に閲覧を拒否することはできません。
第6項 保管場所の掲示義務
理事長は、規約原本等および細則内容書面の保管場所を所定の掲示場所(例:管理組合掲示板やエントランス)に明示する義務があります。
これにより、関係者が規約の所在を把握しやすくなり、必要に応じた閲覧請求がスムーズに行えるようになります。
第7項 電磁的記録の閲覧に関する準用規定
最後の第7項は、電磁的方法が利用可能な場合になります。
管理組合においても、管理規約の電子化が進み、保管の省スペース化、改訂履歴の明確化、アクセス性の向上といったメリットが生まれます。
ただし、導入にあたっては以下の課題も考慮する必要があります。
・閲覧システムの整備(クラウド管理の安全性、セキュリティ対策)
・従来の紙ベース管理との並行運用(紙と電子の管理をどのように両立するか)
電磁的方法は便利になる反面、紙ベースと併用となると管理が煩雑になります。
そのため、各管理組合でも対策を講じていく必要がありそうです。
このように、第72条は、管理規約の適正な管理と閲覧のルールを明確にし、管理組合の透明性を高めることを目的としています。
次の章では、国土交通省が当該条文に対して指摘や補足する事項について、筆者の補足もさらに交えて紹介します。
国土交通省が指摘する補足・注意事項
この章では、第72条の条文に対して、国土交通省が補足している事項を紹介します。
全部で3項目ありますので、それぞれ紹介するとともに、筆者の解説も加えたいと思います。
規約原本が存在しない場合の代替措置
この場合の対応策として、以下の内容が提示されています。
標準管理規約第72条では、区分所有者全員が署名した規約を「規約原本」として定めていますが、実際には分譲時の規約案や区分所有者全員の同意書がないケースも想定されます。
そして、築年数が経っている管理組合においては、適切に規約原本が保管されていない場合もあるでしょう。
そのために、このような場合には、次の書類が規約原本の代替として認められます。
・分譲時の規約案と、当時の区分所有者全員の同意書
・初めて規約を設定した際の総会議事録
これにより、規約の法的効力を確保しつつ、管理組合として適正な管理が継続できる仕組みとなっています。
規約変更時の適切な書面作成方法
次に、規約を変更した場合には、都度書き換えも煩雑になり、管理組合にとっても労力がかかります。
そのため、以下のような対策が提示されています。
ア)規約原本とは別に、変更内容を反映した冊子を作成し、理事長が署名する方法
イ)規約原本に、変更内容及び理事長の署名を記載した書面を添付する方法
なお、現在有効な規約内容の一覧性の確保や閲覧をする際の利便性を考慮して、ア)の方法により作成することが望ましい。
ア)の方法は、現行規約を一覧しやすく、閲覧請求時の利便性が高いため、望ましい方法とされています。
都度、1冊しかない原本を出してきて、閲覧させるのは非常に手間が掛かるためです。
また、イ)の方法は、変更の履歴が明確に残るメリットがあるものの、内容の把握が煩雑になる可能性も考えられます。
使用細則の閲覧手続きの明確化
そして、3つ目として、使用細則についても、管理規約同様の手続きで閲覧できることを補足しています。
また、上記によって、
・使用細則(例:共用施設の利用ルール)や管理細則(例:管理組合の運営ルール)も、規約と同様に閲覧が請求できる。
・閲覧請求があった場合、理事長は「規約原本等」と「細則内容書面」の両方を開示しなければならない。
・管理組合の透明性が向上し、区分所有者や利害関係人の権利保護が強化される。
などの視点も考えられます。
これにより、使用細則の閲覧権限が明確になり、マンション管理の適正化とルールの周知が促進されることが期待されます。
以上、第72条「規約原本等」の条文ならびに、国土交通省の補足として突っ込んだ内容を、筆者の解説も含めて紹介しました。
最後の章では、これら以外に管理組合や組合員において気を付けておくべき事項を、規約原本の修正例や電磁的方法による規約の保管等について、マンション管理士である筆者の経験上も含めた独自の視点から紹介します。
管理組合・区分所有者が注意すべきポイントを5つ紹介
最後の章では、管理規約の原本等に関する条文や国土交通省の見解を踏まえて、筆者の独自の視点から、マンション管理組合や区分所有者が気を付けておいた方が良い事項を、いくつか紹介します。
区分所有者への管理規約の配布やデータ共有の必要性
まず、区分所有者は、マンション内のルールを守るためにも、規約原本に書かれている内容を当然守る必要があります。
そのため、管理組合としては、区分所有者が知っておくという観点では、規約原本を閲覧させるだけではなく、控えを配布することも考える必要があります。
また、電磁的方法によって、管理規約がPDF等のデータにして渡すことも作業効率化の観点から有効的と考えられます。
規約原本の具体的な修正例
これまでにも紹介した通り、当該条文や、国土交通省の説明では、具体的な規約原本の修正例が提示されていません。
そのため、筆者の方でこれまで見てきた管理組合の例から、多い例を紹介します。
規約変更履歴の見出しを付ける
いつの総会で、管理規約のどの箇所が変更されたのか、履歴を付けている管理組合も見られます。
これによって、これまでの規約変更の変遷が分かります。
また、一覧があれば参加した総会の決議内容について、区分所有者が思い出すことも考えられます。
したがって、管理組合での管理が必要になりますが、このような変更履歴を付けていくことも有効な手段と言えるでしょう。
規約改正があった総会議事録とともに改正箇所を添付する
多くの管理組合では、規約原本があって、その後の修正箇所については規約原本の後半に改定があった文面を、総会議事録とともに追加していくことが多いでしょう。
都度、原本である管理規約の中身を修正するよりも手間が掛からず、またどこが修正になったのかが分かりやすいことも考えられます。
また、総会議事録や議案書には、規約の条項とともに修正前後の記載が行われることが一般的です。
例えば、第72条を例に、電磁的方法が可能でない場合から可能にした場合の規約変更決議をする際には、
変更前 | 変更後 |
(規約原本等) 第72条 この規約を証するため、区分所有者全員が署名した規約を1通作成し、これを規約原本とする。 2 規約原本は、理事長が保管し、区分所有者又は利害関係人の書面による請求があったときは、規約原本の閲覧をさせなければならない。 …(以下省略) |
(規約原本等) 第72条 この規約を証するため、区分所有者全員が書面に署名又は電磁的記録に電子署名した規約を1通作成し、これを規約原本とする。 2 規約原本は、理事長が保管し、区分所有者又は利害関係人の書面又は電磁的方法による請求があったときは、規約原本の閲覧をさせなければならない。…(以下省略) |
このような形で提示されることとなるでしょう。
その書類を添付することによって、変更後の規約が有効になったということを証明することができます。
管理規約の表紙または最後に規約原本である旨の記載とともに理事長の署名捺印を行う
現在ある管理規約が、管理組合の規約原本であるかどうかの証明が必要となります。
その場合には、
・管理組合名
・証明年月日
・管理組合理事長名と理事長印
を記載のうえ、添付することが必要です。
総会で可決された後の遅滞なき管理規約修正と理事会での確認
総会で規約変更が可決された後、最新版規約として更新する必要があります。
この作業は、遅滞なく速やかに行うことが必要です。
理由としては、総会決議日以降、ルールが新たに変わってしまうからです。
また、規約を変更した場合は、これまでの管理規約に書面を追加する形で、最新版の規約として有効にする必要があります
そして、最新版になっているかどうかは、総会後の第二回理事会(直後の理事の互選で役職を決める理事会を第一回とカウントした場合)などで確認する必要があるでしょう。
改訂箇所が積もってしまい、どの内容が正なのか分かりづらくなる場合の対応
建ってから歴史があるマンションであれば、標準管理規約の改定に伴って、随時管理規約の改定を行っている管理組合も多いでしょう。
マンションの歴史とともに、一体どの内容が現在の規約内容なのかが、非常に分かりづらく、また見づらくなります。
その場合は、最新版の管理規約を新たに作成することも検討する必要があるかもしれません。
紙で規約管理をしている場合は、規約内容を全て打ち直す必要があるうえ、過去の改定履歴含めて、正しい内容が反映されているかなど、非常に労力がかかることとなります。
筆者はとある管理組合で実施したことがありますが、非常に大変な作業です。
現在の単棟型標準管理規約でも72条、82条文あるものの、管理組合では随時改定されていることから、現行規約が標準管理規約と完全に一致しているとは限りません。
さらには、管理組合独自の「規約に別段の定め」をしていることも考えられます。
したがって、一番古い管理規約をベースとして、改訂された箇所を全て拾って、上書き修正していく作業が必要になります。
最後には、理事会等で現行の管理規約内容と相違ないかのチェックも必須と言えるでしょう。
もちろん、その後は紙ではなく、管理規約のデータ管理をすべきともいえます。
電磁的方法による管理規約の保管や管理
規約原本は、紙で保管して管理員室や集会室のバインダーに入っているというケースが多いでしょう。
一方で、区分所有者に配布する必要もあることから、それらをコピーすることも考えられます。
さらにはスキャンしてPDF等データ化して、管理組合内の共有ツールを使って周知することもあります。
そして、電磁的方法が可能である場合の取り決めにある通り、管理規約を完全にデータ化することも考えられます。
それぞれの方法で、規約原本の管理方法が変わってくると考えられます。
パターンとしては、
・上記同様に規約原本は紙で保管し、紙またはデータで区分所有者に共有
・規約原本は電磁的方法で保管し、紙またはデータにて区分所有者に共有
が想定されそうです。
管理組合にはさまざまなITリテラシーの方が区分所有者にいることから、紙の配布も視野に入れておく必要があるでしょう。
また、議事録の保管にも、同様に3タイプ考えられるので、マンション標準管理規約第49条「議事録の作成、保管等」の記事である以下
で紹介しています。
管理規約原本は最新版の管理、共有が重要
今回はマンション標準管理規約第72条「規約原本」を紹介しました。
規約の原本は、現時点でどのバージョンが最新版であるのか、管理組合として把握するとともに、直近の株主総会で改正されたものについても、漏れずに定めておくことが求められます。
また、その最新バージョンを原本として証明することも理事長にとっては重要となります。
そして、最新版は、区分所有者が直ちに守らなければならないルールともいえます。
そのため、規約原本を最新版に修正した後には、速やかに区分所有者に共有することも重要と言えるでしょう。
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