理事会ではどのようなことを決めなければならないのだろうか…?
また、
総会を経ていると時間がかかるので、理事会で決めたいのだが可能だろうか…?
さらには、
この件は総会決議事項なのか、または理事会でも決議できるのか、どちらなのだろうか…?
などなど、管理組合役員においては、理事会における議案とその決議において迷うことも多いでしょう。
実は、マンション標準管理規約で定められている事項以外でも、理事会で定めることができることがあるのをご存じでしょうか…?
今回はこのような疑問を解消すべく、決議事項に詳しいマンション管理士の筆者が、マンション標準管理規約第54条にある理事会の「議決事項」について、条文ならびに国土交通省が紹介する追加事項に対して、詳しく解説します。
【規約解説】マンション管理組合の理事会、実はこんなことも決められる!第54条のすべて
今回紹介する内容は以下の通りです。
・第54条「議決事項」の規定に対する国土交通省の補足・注意事項は?
・「議決事項」に対して管理組合や区分所有者が気を付けておくべき事項は?
まず、最初の章ではマンション標準管理規約第54条の条文から「議決事項」についてそのままの文面を紹介します。
続いて、この条文についての補足事項や、注意しておくべき事項について国土交通省より提示されています。
国土交通省が示している文面を、筆者が意訳せずにまずはそのまま紹介します。そしてその文面の解説を、イメージしやすい具体的な例を踏まえながら紹介します。
さらに、最後の章では第54条「議決事項」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者が気を付けておいた方が良い点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
早速、次章より当該条文について紹介します。
理事会で決められることとは?第54条「議決事項」の全容を解説
まず初めに、マンション標準管理規約第54条「議決事項」の条文を紹介します。
マンション標準管理規約第54条「議決事項」の条文は?
第1項が細かく分かれていますが、以下の通りです。
第54条 理事会は、この規約に別に定めるもののほか、次の各号に掲げる事項を決議する。
一 収支決算案、事業報告案、収支予算案及び事業計画案
二 規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止に関する案
三 長期修繕計画の作成又は変更に関する案
四 その他の総会提出議案
五 第17条、第21条及び第22条に定める承認又は不承認
六 第58条第3項に定める承認又は不承認
七 第60条第4項に定める未納の管理費等及び使用料の請求に関する訴訟その他法的措置の追行
八 第60条第5項に定める弁済の充当の順序の設定
九 第67条に定める勧告又は指示等
十 第67条の2第1項に定める区分所有者の所在等の探索
十一 総会から付託された事項
十二 災害等により総会の開催が困難である場合における応急的な修繕工事の実施等
十三 理事長、副理事長及び会計担当理事の選任及び解任
2 第48条の規定にかかわらず、理事会は、前項第十二号の決議をした場合においては、当該決議に係る応急的な修繕工事の実施に充てるための資金の借入れ及び修繕積立金の取崩しについて決議することができる。
以下、各項ならびに各号について、補足を含めて詳細を解説します。
第1項 理事会の決議事項
第1項は、理事会で決めるべき決議事項ですが、全部で13号ありますので、詳細を解説します。
第一号から第四号の総会提出議案
おもに第一号の収支決算・事業報告案ならびに、収支予算・事業計画案、第二号の規約や使用細則の変更等、第三号の長期修繕計画の作成と変更については、総会で諮るべき議案です。
その内容をまずは理事会で決議して、引き続き総会でも決議するという二段構成になっています。
その他総会に提出すべき議案があれば、まずは理事会で決議することとなります。
第五号 専有部分の修繕や窓ガラスの改良等
こちらは、第17条、21条、22条の承認、不承認は理事会で決議する必要があるとしています。
それぞれ、
第21条:敷地及び共用部分等の管理
第22条:窓ガラス等の改良
であり、理事会決議が必要であるとなっています。
以下
でも詳細を紹介しています。
また、第17条、21条、22条に関する規約解説記事は以下の通りです。
第六号 会計年度開始から総会までの期間に支出する経費
第58条「収支予算の作成及び変更」には、予算についての記載があります。
細かくは当該条文で紹介しますが、年度終了後から総会で新たな予算が承認されるまでの間には、2~3か月の期間が出てしまいます。
その間にもどうしても管理費等の費用支出が発生します。
本来、費用支出は総会で予算承認されてから使用されるものですが、総会前に発生してしまうことから、理事会の決議によって支出できるとしています。
第七号 未納の管理費等のための訴訟
未納の管理費等で訴訟が必要となる場合、理事会の決議で可能とする定めです。
これは、場合によっては総会を待つと最長1年程度待ってから決議して、訴訟手続きをする必要が出てくるため、時間が掛かってしまいます。
決議に時間がかかりその間管理費等の滞納が続いてしまったら、金額がどんどん増えてしまい、管理組合にとっても影響が出てしまいます。
そのため、マンション標準管理規約では理事会決議で速やかに訴訟が可能ようにしています。
第八号 弁済の順序の決定
第60条は「管理費等の徴収」という条文です。
管理費等を徴収する場合は、管理組合として資金が足らない場合に考えられます。
その際には、払うべき対象に見合う分を徴収することができないこともあり、優先順位を決める必要があります。
その優先順位は、理事会で決める必要があります。
第九号 区分所有者や賃借人への勧告や指示、警告
第67条「理事長の勧告及び指示等」には、管理規約や使用細則に違反して、他の区分所有者等への生活に秩序を乱す行為を行った場合の対応が条文化されています。
そのための、勧告や指示、警告等の対応を行う場合、理事会の決議が必要となります。
対応は、対象者への指示や、訴訟まで幅広く含まれています。
第十号 区分所有者の所在等の探索
第67条の2は「区分所有者の所在等の探索」という条文であり、所在が分からない区分所有者を調べる内容です。
区分所有者の連絡先が不在のため、マンション管理に支障をきたし、問い合わせる必要があることも考えられます。
調べる際には、細かな本人調査が必要になることから、理事会の決議が必要となります。
第十一号 総会から任された事項
付託とは、任されるということです。
すなわち、ある内容が総会によって「理事会に任せる」という事項の決議があれば、その内容に該当した場合、理事会で随時決議することとなります。
総会でわざわざ諮るにも煩雑になる、重要事項ではないような内容が想定されます。
第十二号 災害時に総会が困難である場合の応急修繕対応
この場合の修繕は、日々の管理費で充当するような修繕ではなく、共用部分内の大規模な破損など、災害時に起きた修繕対応が想定されます。
また、総会を開くまでに時間がかかったり、災害対応で総会を開いている場合ではないケースを想定しています。
そのような場合、生活にも支障をきたすことから、応急対応は急ぎ行う必要が出てきます。
その決議は理事会で行うことができるとしています。
第十三号 理事の互選と解任
この内容は、総会で理事を選任したあとの、具体的な役職の選任となります。
いわゆる、
という内容であり、これは理事会で決めることとなります。
また、理事長や副理事長を外れる等、理事の役職の解任も理事会で行うこととなります。
詳細は、最後の章で補足説明します。
第2項 修繕積立金取り崩しにおける理事会決議
第2項は、第1項第十二号の決議についての補足です。
一方、第48条「議決事項」において、資金の借入や修繕積立金の取り崩し(使用)については、総会の決議が必要であるとしています。
ただ、緊急で修繕を行うことを可能としていることから、その修繕のための資金が必要となります。
その資金も、理事会決議で可能としている条文となります。
第54条「議決事項」の規定に対する国土交通省の補足・注意事項は?
次に、国土交通省が第54条「議決事項」の規定に対して補足している内容を紹介します。
3項目について記載があります。
総会が不可能な場合の応急的修繕工事の具体例
まず、災害時においては、総会を開催することよりも、人命救助や区分所有者・居住者の生活の確保が優先されます。
そのため、応急処置については、総会を経ずに理事会で決議できるとしています。
具体的には、以下の内容が国土交通省より提示されています。
ア)緊急対応が必要となる災害の範囲としては、地震、台風、集中豪雨、竜巻、落雷、豪雪、噴火などが考えられる。なお、「災害等」の「等」の例としては、災害と連動して又は単独で発生する火災、爆発、物の落下などが該当する。
イ)「総会の開催が困難である場合」とは、避難や交通手段の途絶等により、組合員の総会への出席が困難である場合である。
ウ)「応急的な修繕工事」は、保存行為に限られるものではなく、二次被害の防止や生活の維持等のために緊急対応が必要な、共用部分の軽微な変更(形状又は効用の著しい変更を伴わないもの)や狭義の管理行為(変更及び保存行為を除く、通常の利用、改良に関する行為)も含まれ、例えば、給水・排水、電気、ガス、通信といったライフライン等の応急的な更新、エレベーター附属設備の更新、炭素繊維シート巻付けによる柱の応急的な耐震補強などが「応急的な修繕工事」に該当する。また、「応急的な修繕工事の実施等」の「等」としては、被災箇所を踏まえた共用部分の使用方法の決定等が該当する。
なお、理事会の開催も困難な場合の考え方については、第21条関係⑪を参照のこと。
さらに筆者の補足として、以下分かりやすく解説します。
二次被害や事故も対象となる
災害が起きた場合、共用部分で壊れた箇所は早急に対応しないといけません。
また、災害後などに間接的に壊れた箇所も、その災害時に発生したものと含めて修繕することができるとしています。
さらに、災害ではなく、事故で発生して壊れた箇所も対象になるとして記載があります。
災害に備えての対応
応急的な修繕工事は、災害等が起こったあとの修繕だけではなく、直近の修繕が必要ではないものの、生活に支障をきたす可能性がある箇所を修繕することも含まれるとのことです。
総会開催が困難になるイメージ
総会開催が出来ない例としては、「避難や交通手段の途絶等により、組合員の総会への出席が困難である場合」を挙げています。
全員、また区分所有者の大多数の出席がが困難な場合はもちろん難しいですが、一部の区分所有者が支障をきたす場合も管理組合としてなんらかの判断をすることが考えられます。
また、総会会場に来ることが困難であることに加え、災害で会場が確保できない場合も想定されそうです。
応急工事は軽微なものも含まれる
災害において、壁が崩れたり、廊下がひび割れたり等、大きな災害の際には、生活に支障をきたさない状態に戻すことが必須となります。
一方で、そこまではいかないまでも、軽微な修繕も応急工事に含まれるとしています。
理事会の開催も困難な場合
災害により、理事が集まることが出来ず、理事会の開催も難しい場合があります。
その場合には、前述の全ての理事会決議ができないこととなります。
第21条の「敷地及び共用部分等の管理」では、理事長単独の判断でできる取り決めもあります。
応急的修繕工事の際の借入や修繕積立金取崩し
軽微な修繕等について理事会決議を可能とする定め
この点について、以下補足します。
大規模マンションにおける考え方
タワーマンションや団地等の大規模なマンションにおいては、軽微な変更や管理行為等も多々発生することが想定されます。
その度に総会を開催していると、理事会や区分所有者の負担も高まっていくことが考えられます。
したがって、軽微なものについては、柔軟かつ迅速に対応できるように、理事会での決議で判断することもできるとしています。
理事による利益相反行為に注意する
理事会決議事項となる時には、一定の理事単独による行為において、管理組合との間で利益相反行為が起こる点に注意が必要としています。
具体的には、
・双方代理:発注先と受注先双方の代理を理事が担う
など、理事自らの利益になる⇔管理組合の費用になるような行為に注意する必要があるとしています。
この点については、監事の監査の取り組み強化や、理事会活動の透明性等を確保する仕組みが必要であるとしています。
この章では、国土交通省が「議決事項」の条文に対する補足事項として挙げている点を紹介しました。
最後の章では、条文並びに、国土交通省の見解を踏まえながら、総会ではなく理事会承認とする内容や、理事の解任と辞任の違い等、管理組合や区分所有者が気を付けておくべき事項を紹介します。
「議決事項」に対して管理組合や区分所有者が気を付けておくべき事項は?
この章では、これまでの内容を踏まえて、マンション管理士である筆者が独自の見解で、管理組合や区分所有者が気を付けておいた方が良い点について、具体的に紹介します。
総会ではなく理事会承認とする内容や注意点は?
前章で国土交通省のコメントにあったとおり、総会承認ではなく理事会承認とする内容も、管理組合によっては考えられます。
その要因も前章で説明したとおり、細かい内容まで総会承認していると、役員や区分所有者に負担がかかります。
管理組合にとって影響が少ない、細かな内容を含めて、毎度
・総会議案の理事会決議
・総会議案書作成
・総会招集通知
・総会開催と決議
をやることとなります。
そのため、以下のような内容は、総会承認にするかまたは理事会で良しとするかを考える必要があるでしょう。
・金額的に安価なもの
・頻繁に発生する案件でまとめて総会で決議するには時間が開きすぎるもの
などが考えられそうです。
これらは、前述で説明した「十一 総会から付託された事項」に当たることも考えられますが、
・管理規約や細則で明文化する
ことも合わせて確認する必要があります。
役付理事の解任について
第1項第十三号にあった「理事長、副理事長及び会計担当理事の選任及び解任」の解任についてです。
解任と辞任を比較すると、
辞任:自らの事情により終了する
であり、各役職を強制的に外すという意味になります。
例えば、理事長を解任するとは、
・理事長から副理事長にする
などが考えられ、必ずしも理事から外れる訳ではありません。
理事から外れるためには、役員の解任ということになり、総会の決議が必要です。
理事会で理事の利益相反行為に当たるか確認する
理事会の決議になると、柔軟かつ迅速に動くことができる反面、理事中心に動くことも考えられます。
そのため、管理会社や外部専門家だけではなく、理事の利益相反行為についても、注意して確認していく必要があります。
利益相反行為を防ぐためには、理事会にて発注案件につき、
・金額はどれぐらいなのか?
・理事や外部専門家顧問等が関与するのか?
・利益相反であっても発注してもよいか?
などを明確にして、承認することが求められます。
また、この場合は、監事の監査人としての役割も非常に重要になります。
以下、利益相反に関する記事
を紹介いたします。
国土交通省としても利益相反は注意する必要があるとしているので、管理組合としても確認しておきたいところと言えるでしょう。
理事会決議で訴訟ができるように見直しておく
管理組合の管理規約が古いままで暫く見直しがなされていないのであれば、管理組合における訴訟事項は、理事会の決議ではなく、総会の決議になることも考えられます。
ちなみに、総会で必要な訴訟は、
第59条第1項:同様の場合の専有部分の競売請求
第60条第1項:同様の場合の占有者(賃借人など)に対する引き渡し請求
となります。
参考:第47条「総会の会議及び議事」
また、条文にあったとおり、未納の管理費(管理費の滞納)に関する訴訟や法的手続きは、理事会の決議で行うことができます。
前述のとおり、総会を待っていると対応が後手に回り回収まで時間を要してしまうこともあります。
改めて、滞納における法的手続きが総会決議になっているか、または理事会決議で行えるようになっているか、確認するのがよいでしょう。
理事会決議事項を柔軟に設計することも可能
今回は、マンション標準管理規約第54条の理事会「議決事項」から、その条文とともに国土交通省が指摘する補足・注意事項、さらには筆者の独自の視点で管理組合や区分所有者に気を付けておいた方が良い点を紹介しました。
この条文には、管理組合独自で理事会決議として決めて良い部分もあり、管理組合としても柔軟性を持たせることが可能です。
一方で、一定の理事が独自で判断して利益相反行為に及ばないように注意することも必要と言えます。
今回のコラムを管理組合としてのよい理事会の流れを作るための参考として頂ければ幸いです。
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