マンション管理組合の運営では、総会で重要な決議を行うのが基本です。しかし、組合員が集まるのが難しい場合もあります。
そのため、マンション標準管理規約では「書面又は電磁的方法による決議」が認められています。
つまり、紙の書面やインターネットを活用した決議方法を利用することで、総会を開かずに意思決定を行うことができます。
しかし、これらの方法には「全員の同意が必要」というルールがあり、実際の運用には注意点があります。
本記事では、標準管理規約第50条の内容をもとに、書面決議と電磁的方法の違い、メリット・デメリット、運用時のポイントを、実務にも精通しているマンション管理士が分かりやすく解説します。
【規約解説】書面決議・電磁的方法とは?マンション標準管理規約第50条のポイントを徹底解説
今回紹介する内容は、以下の通りです。
✅マンション標準管理規約第50条のポイント
✅「書面又は電磁的方法による決議」に関する管理組合・区分所有者の注意点
マンションの管理組合では、通常、重要な決定は総会で議論し、決議を行います。しかし、全員が集まるのが難しい場合もあるため、「書面」や「電磁的方法」を用いた決議が認められています。
まず、最初の章では標準管理規約第50条の条文から「書面又は電磁的方法による決議」についてそのままの文面を紹介します。
続いて、第50条「書面又は電磁的方法による決議」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者が注意すべき点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第50条のポイント
第50条は電磁的方法が利用可能でない書面決議の場合と、利用可能な場合の電磁的方法の場合について、それぞれひな形があります。
各条文について紹介します。
電磁的方法が使えない場合の条文を解説
(書面による決議)
第50条 規約により総会において決議をすべき場合において、組合員全員の承諾があるときは、書面による決議をすることができる。
2 規約により総会において決議すべきものとされた事項については、組合員全員の書面による合意があったときは、書面による決議があったものとみなす。
3 規約により総会において決議すべきものとされた事項についての書面による決議は、総会の決議と同一の効力を有する。
4 第49条第3項及び第4項の規定は、書面による決議に係る書面について準用する。
5 総会に関する規定は、書面による決議について準用する。
電磁的方法が使える場合の条文を解説
続いて、電磁的方法が利用可能な場合の条文です。
おもに太字の所が利用可能でない場合との違いとなります。
(書面又は電磁的方法による決議)
第50条 規約により総会において決議をすべき場合において、組合員全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。ただし、電磁的方法による決議に係る組合員の承諾については、あらかじめ、組合員に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
2 前項の電磁的方法の種類及び内容は、次に掲げる事項とする。
一 電磁的方法のうち、送信者が使用するもの
二 ファイルへの記録の方式
3 規約により総会において決議すべきものとされた事項については、組合員の全員の書面又は電磁的方法による合意があったときは、書面又は電磁的方法による決議があったものとみなす。
4 規約により総会において決議すべきものとされた事項についての書面又は電磁的方法による決議は、総会の決議と同一の効力を有する。
5 第49条第5項及び第6項の規定は、書面又は電磁的方法による決議に係る書面並びに第1項及び第3項の電磁的方法が行われた場合に当該電磁的方法により作成される電磁的記録について準用する。
6 総会に関する規定は、書面又は電磁的方法による決議について準用する。
次項より、各方法について解説します。
電磁的方法が使えない場合(書面決議)
書面による決議とは?
書面による決議とは、組合員全員が書面で合意することで、総会を開かずに決議を成立させる方法です。具体的には、次の条件を満たす必要があります。
- 組合員全員が賛成すること
- 1人でも反対または未回答の人がいると決議できません。
- 書面での合意が必要
- 口頭やメールではなく、書面による明確な承諾が求められます。
- 総会の決議と同じ効力を持つ
- 書面による決議が成立すると、通常の総会決議と同じ法的効果を持ちます。
- 総会のルールが準用される
- 例えば、決議事項の記録や保管についても、通常の総会と同様に扱われます。
電磁的方法が使える場合(書面・電磁的方法による決議)
電磁的方法とは?
電磁的方法とは、インターネットを活用した電子的な合意方法のことを指します。具体例として、以下のような方法が考えられます。
- メールでの同意
- 専用のウェブフォームやアプリでの承認
- 電子署名を用いた同意
電磁的方法を導入するための条件
- 組合員全員の承諾が必要
- 書面決議と同様に、全員一致が条件です。
- 事前に電磁的方法の種類を通知し、承諾を得る
- どの方法(例:メール、電子署名)を使うのか、事前に説明し、組合員の承諾を得る必要があります。
- 決議の記録を残す
- 電子データの保存方法を決め、適切に記録を保管しなければなりません。
第49条の準用に関する解説
第50条では、総会の議事録作成や保管に関する第49条の規定を準用すると定めています。具体的には以下の点が該当します。
- 書面決議の場合(第50条第4項)
- 第49条第3項の準用:
- 書面決議の書面は理事長が保管し、組合員や利害関係人が請求すれば閲覧できる。
- 閲覧の際には、日時や場所を適切に指定することが可能。
- 第49条第4項の準用:
- 書面決議に関する書類の保管場所を掲示する必要がある。
- 第49条第3項の準用:
- 電磁的方法による決議の場合(第50条第5項)
- 第49条第5項の準用:
- 電磁的方法での決議に関する書面または電磁的記録は、組合員や利害関係人が書面や電磁的方法で請求すれば閲覧可能。
- 電磁的記録の内容は、紙に印刷したものや画面上に表示する方法で提供できる。
- 組合員の希望があれば、閲覧に代えて電磁的方法で提供することも可能。
- 第49条第6項の準用:
- 電磁的方法による決議が行われた場合、その保管場所を掲示する必要がある。
- 第49条第5項の準用:
書面・電磁的方法による決議を活用する際の注意点
次に、筆者独自の観点から、第50条における管理組合や区分所有者に対する注意点を紹介します。
書面決議のメリット・デメリットとは?
まず、電磁的方法が利用可能でない場合の、書面決議の場合のメリットとデメリットを紹介します。
書面決議のメリット
✅数戸程度の小規模マンションだと合意が取りやすい
✅誰から了解を得たかチェックがしやすい
書面決議のデメリット
❌一軒一軒回収する必要があることによる手間
❌提出されない場合の催促の手間
❌規模の大きなマンションだと現実的ではない
❌一人でも承認が得られないとそれまでのものが無駄になる
電磁的方法のメリット・デメリットとは?
次に、多くの場合は電磁的方法を活用する方が効率的であると考えられます。
同様に、メリットとデメリットを確認しましょう。
電磁的方法のメリット
✅迅速な決議が可能:書面の郵送や回収の手間が省け、スムーズに合意形成ができる。
✅遠隔でも対応可能:外出先や海外在住の組合員でも参加しやすい。
✅ペーパーレス化:紙の保管コストや管理の手間を削減できる。
電磁的方法のデメリット
❌ITに不慣れな人には難しい:一部の組合員が使いこなせない可能性がある。
❌セキュリティリスク:メールの誤送信や、不正アクセスのリスクに注意が必要。
❌全員の同意が必要:書面決議と同じく、1人でも承諾しないと成立
全員の承諾は小規模マンション以外では難しい
この第50条は、実質小規模マンションではないと難しいと言えます。
全員から事前承諾を取り、かつ決議する事項についての合意が必要です。
ただ、決議のための合意であり、必ずしも承認しなければならない訳ではありません。
これは、会社法でも同様の規定があり、
✅会社法第319条:株主全員の書面又は電磁的方法による同意の意思表示により株主総会決議が可能
✅会社法第370条:取締役全員の書面又は電磁的方法による同意の意思表示により取締役会決議が可能(監査役が異議を述べた時を除く)
とあります。
会社であれば、上場していない場合は株主が限られていたり、取締役の員数も少数です。
そのため、このような手続きも環境が異なるマンション管理組合に比べて実施しやすいと考えられます。
一般的には、全員の役職者の承認により、わざわざ集まって開催しなくても書面で決議することが可能となっています。
総会では難しくても理事会で活用できる
同様の考え方は理事会にもあり、具体的には第54条「議決事項」に解説しています。
この第54条第2項には、
2 次条第1項第五号に掲げる事項については、理事の過半数の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議によることができる。
とあることから、総会に比べてかなりハードルは低くなっています。
そのため、区分所有者全員の承諾が必要な総会とは違い、柔軟な決議が必要な理事会においては是非とも活用したい方法と言えるでしょう。
まとめ|管理組合が知っておくべきポイント
マンション標準管理規約第50条では、 全員の同意があれば、総会を開かずに書面または電磁的方法で決議が可能 です。しかし、実際に運用するにはいくつかの注意点があります。
✅ 書面決議はシンプルだが、規模が大きいと回収の手間が大きい
✅ 電磁的方法は効率的だが、ITリテラシーの問題やセキュリティリスクがある
✅ どちらの方法も「全員の同意が必要」であり、大規模マンションでは難しい
✅ 総会よりも理事会での決議手段として活用するのが現実的
管理組合としては、どちらの決議方法も適切に活用できるように、規約や運用ルールを整備することが重要です。
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