マンション管理組合の運営では、理事会が主導して総会を招集するのが一般的ですが、場合によっては組合員自らが臨時総会を開くことも可能です。マンション標準管理規約第44条では、この「組合員の総会招集権」について定めています。
しかし、実際に総会を開くには、5分の1以上の組合員・議決権の同意が必要であり、理事長が対応しない場合の手続きも規約に記載されています。
本記事では、第44条の条文をもとに、組合員が総会を招集する具体的な方法や条件を解説するとともに、管理組合運営における実務上の注意点についても、マンション管理士が詳しく紹介します。
【規約解説】マンション標準管理規約第44条「組合員の総会招集権」とは?
今回紹介する内容は、以下の通りです。
✅マンション標準管理規約第44条のポイント
✅「組合員の総会招集権」に関する管理組合・区分所有者の注意点
まず、最初の章では標準管理規約第44条の条文から「組合員の総会招集権」についてそのままの文面を紹介します。
続いて、この条文についての補足事項や、注意すべき事項は、国土交通省からはありません。
そのため、第44条「組合員の総会招集権」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者が注意しておいた方が良い点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第44条のポイントと条文
この章では、マンション標準管理規約第44条の条文をそのまま紹介するとともに、その内容を解説します。
電磁的方法が利用できない場合の条文(全文)
まず、電磁的方法が可能でない場合の条文は以下の通りです。
(組合員の総会招集権)
第44条 組合員が組合員総数の5分の1以上及び第46条第1項に定める議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て、会議の目的を示して総会の招集を請求した場合には、理事長は、2週間以内にその請求があった日から4週間以内の日(会議の目的が建替え決議又はマンション敷地売却決議であるときは、2か月と2週間以内の日)を会日とする臨時総会の招集の通知を発しなければならない。
2 理事長が前項の通知を発しない場合には、前項の請求をした組合員は、臨時総会を招集することができる。
3 前2項により招集された臨時総会においては、第42条第5項にかかわらず、議長は、総会に出席した組合員(書面又は代理人によって議決権を行使する者を含む。)の議決権の過半数をもって、組合員の中から選任する。
電磁的方法が利用できる場合の条文(第3項のみ)
続いて、電磁的方法が可能な場合の条文です。
3 前2項により招集された臨時総会においては、第42条第5項にかかわらず、議長は、総会に出席した組合員(書面、電磁的方法又は代理人によって議決権を行使する者を含む。)の議決権の過半数をもって、組合員の中から選任する。
太字の「電磁的方法」という文字が入っているのみです。
第44条「組合員の総会招集権」の詳細解説
具体的に第44条の条文について解説します。
組合員が総会を開くための条件(第1項)
組合員が自ら総会を招集するには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
✅ 組合員の5分の1以上の同意
✅ 議決権総数の5分の1以上の同意
例えば、組合員100人、議決権100票の管理組合なら、
- 組合員が100人いる場合 → 20人以上の同意が必要
- 議決権総数が100票ある場合 → 20票以上の同意が必要
この双方の条件をクリアした上で、「何のために総会を開くのか」(会議の目的)を明確にし、組合員が理事長に対して総会の招集を請求します。
請求する人は組合員(区分所有者)であれば、誰でも問題ありません。
理事長の対応と期限(第1項)
理事長は、請求があったら2週間以内に、次の期限内に総会を開催するよう招集通知を出す必要があります。
📌 通常の議題の場合 → 請求があった日から4週間以内
📌 建替え決議・マンション敷地売却決議の場合 → 請求があった日から2か月と2週間以内
もし、理事長がこの対応をしなかった場合、どうなるでしょうか?
理事長が対応しない場合の措置(第2項)
理事長が招集通知を出さない場合、請求した組合員自身が臨時総会を招集することが可能です。
これは、管理組合の運営が理事会(理事長)だけに依存しすぎないようにするための仕組みです。
議長の選任 – 電磁的方法の有無で変わる点(第3項)
臨時総会を開催した場合、議長を決める必要があります。議長の選び方は「電磁的方法(メールやオンライン投票など)」が使えるかどうかで異なります。
電磁的方法が利用できない場合の議長選任方法
🟢 出席者の議決権の過半数で、組合員の中から議長を選任
➡ 出席者とは、実際に会場にいる人 + 書面投票(委任状による議決権行使)や代理人で議決権を行使する人
電磁的方法が利用できる場合の議長選任方法
🟢 出席者の議決権の過半数で、組合員の中から議長を選任
➡ 出席者とは、実際に会場にいる人 + 書面投票・代理人・電磁的方法(オンライン投票など)で議決権を行使する人
ポイント💡
電磁的方法が使えると、オンライン参加やメール投票、またはWEB会議上での賛否の投票などの手段が増え、より柔軟な議決が可能になります。
「組合員の総会招集権」に関する管理組合・区分所有者の注意点
次に、第44条「組合員の総会招集権」に関して、筆者独自の観点から管理組合や区分所有者が注意すべき点を紹介します。
総会招集権は「最後の手段」か? – 乱用のリスク
組合員による臨時総会の招集は、管理組合運営の正常化を図るための重要な権利ですが、頻繁に使われると混乱を招く可能性があります。例えば、意見の対立が激しい組合では、少数派グループが何度も臨時総会を招集し、結果として組合運営が停滞するケースも考えられなくはないでしょう。
この権利を行使する前に、組合員としても理事会との話し合いや他の手段(意見書提出・アンケート実施)を実施することも重要です。
「5分の1」のハードル – 実際に集められるのか?
条文上、組合員数の5分の1、議決権総数の5分の1の同意が必要ですが、実際にこれを集めるのは容易ではありません。
特に管理組合の高齢化が進んでいる場合や、無関心層が多い場合、5分の1の署名を集めること自体が大きなハードルになり得ます。
さらには、現在の理事会や理事長と対立する構図を創り出してしまう可能性もあることから、組合員が同意に回るかどうかも分かりません。
管理組合全体にとって重要な問題であり、どうしても総会決議をしなければならない…そのような場合は理事会として、臨時総会招集を考えることが重要でしょう。
総会開催後のシナリオ – 可決されるとは限らない
臨時総会を開いても、議案が可決されなければ何も変わらないという点に注意が必要です。
仮に総会を開いても、出席率が低ければ、成立しない議案もあります。
さらには、新たに組合員が招集し、提案する議題が、本来の管理組合の方向性と合っているかどうかも重要な論点です。
普通決議でも、半数以上の組合員が出席し、出席者の過半数で可決されることとなります。
もし、管理組合として重大な決議を総会招集権を行使して行うのであれば、単に総会を開くだけでなく、賛同者を増やすための「事前の根回し」「情報共有の工夫」も必要と考えられます。
組合内の対立を深めないための配慮
臨時総会の招集は、組合内の意見の対立が表面化するきっかけにもなります。
特に理事会側と請求者側が対立してしまうと、今後の組合運営に支障をきたすこととなります。
臨時総会の開催後も円滑な運営を維持するために、ファシリテーションや合意形成のプロセスをどう工夫すべきかも重要でしょう。
組合員の総会招集権を行使するには、慎重な準備が必要
今回は、マンション標準管理規約第44条「組合員の総会招集権」について解説しました。
この規定は、理事会が機能しない場合に限らず、特定の課題について組合員が主体的に総会を開くための重要な手段です。
しかし、実際に総会を招集するには5分の1以上の組合員・議決権の同意が必要であり、総会での議案可決の難しさや、意見の対立による組合運営の混乱といったリスクも考慮しなければなりません。
そのため、総会招集権を行使する前に、まずは理事会との協議や、アンケート・意見交換を通じて合意形成を図ることが望ましいでしょう。
臨時総会は管理組合の健全な運営を支える有力な手段ですが、適切な準備と慎重な対応が不可欠です。
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