マンション修繕積立金不足はなぜ深刻化?回避のための戦略と最新動向【YouTube解説付き】

マンション管理

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近年、日本のマンション管理組合において修繕積立金の不足が深刻な問題として認識されています。国土交通省の調査では、3割以上のマンションが修繕積立金の不足に直面している現状が明らかになっています。また、令和5年度マンション総合調査によると、長期修繕計画に対して積立金残高が不足している管理組合の割合は36.6%に達しているという報告も出ています。

この問題は、単に建物の劣化に留まらず、居住者の生活の質やマンションの資産価値にまで影響を及ぼす喫緊の課題いえるでしょう。

今回コラムでは、テレビ東京BIZのニュース動画「【ニュースのリアル 身近に迫る危機】積立金が足りない…マンション修繕問題」で取り上げられた論点と、横浜マンション管理・FP研究室で過去紹介した豊富な資料を基に、なぜ修繕積立金が不足するのか、そしてそれを回避するための具体的な戦略について深掘りします。

また、コラムの最後に今回の解説動画も付けていますので、合わせて参考にしてみてください。

深刻化するマンション修繕問題の背景

修繕積立金が不足する背景には、複合的な要因が存在します。動画と以下のコラムから見えてくる主な原因は以下の通りです。

新築時の積立金設定の甘さ

多くのマンションで、新築時の修繕積立金が低く設定される傾向があります。これは、分譲する不動産会社が販売促進のために、初期の住宅ローンや管理費と合わせた総支払額を低く見せたいという意図があるためです。しかし、これにより将来的な積立金不足の根本的な原因が生じています。

マンション竣工前の管理計画認定制度である予備認定制度では、計画的な修繕積立金計画を設定する必要があります。そのため、今後は解消されていく事も期待されます。

建設費・人件費の継続的な高騰

近年、建築資材や労務費の著しい高騰が修繕費用を押し上げています。特に、2015年から2024年7月にかけて建設工事費は約1.3倍に上昇しており、2020年頃からは建築資材価格が急激に値上がりしています。建設業界における職人不足も人件費の上昇を招き、これらのコスト増が長期修繕計画で想定されていた費用を大幅に超過する要因となっています。

マンションの老朽化の進行

日本の分譲マンションは築年数の経過とともに老朽化が進んでおり、国土交通省の調査では2023年末には築40年以上のマンションがマンションストック数704.3万戸に対して、20%弱の137万戸を占める状況です(国土交通省 マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向)。

築年数が経過したマンションでは、給排水管、エレベーター、窓サッシなど、大規模な修繕や更新が必要となる時期が集中し、修繕費用も高額になるため、積立金が不足しがちです。冒頭で紹介した動画内でも、築23年のマンションで初めての大規模修繕が行われる様子が示され、コンクリート内の鉄筋の錆びつきによる重大なダメージが報告されています。

段階増額積立方式の問題点

多くのマンション管理組合で採用されている段階増額積立方式は、計画当初の積立額を抑え、期間中に段階的に増額していく方式です。しかし、この方式では計画通りの積立金増額が区分所有者の合意を得られず、結果として積立金不足に陥るケースも多く見られます。

動画によると住民からは、当初5,000円だった積立金が2万円に、あるいは3~4万円が6万円にまで値上がりしているといった声が聞かれ、組合員に対する説明のない値上げへの不満が示されています。最新の国土交通省による修繕積立金ガイドライン(令和6年6月改定版)でも、この方式における適切な引き上げの考え方が示されていますが、この動画を見ると依然として課題となっていることが伺えます。

居住者の高齢化という現実

国土交通省の最新調査(令和5年度マンション総合調査)でも、マンション世帯主の約半数が60歳以上であることが明らかになっています(以下の記事のマンション居住の状況→世帯主の年齢)。高齢化が進むことで、年金生活に入った区分所有者にとって、修繕積立金の値上げが経済的に大きな負担となり、増額への合意形成が困難になるという問題が生じています。

業者による不適切な高額請求

動画では、知識のない住民に対して業者が不当に高額な修繕費を請求するケースがあることも指摘されています。見積もりチェックの末に5,500万円で済む工事が6,000~7,000万円と提示されるなど、高額の請求が行われることがあると報じられています。これは大規模修繕工事に対して素人が多い管理組合では、どの金額が適切かどうかが分からず、ついつい言われたままに発注してしまうこともあり得るという事です。

マンション修繕積立金不足を回避する3つの戦略

これらの複合的な課題に対し、「横浜マンション管理・FP研究室」では、2025年の最新ガイドラインも踏まえ、以下の3つの戦略的アプローチを提示しています。

戦略1:長期修繕計画と積立金の見直しと最適化

マンションの財政的な健康と長寿命化のために、最も重要な戦略が長期修繕計画の適切かつ継続的な見直しです。

長期修繕計画の重要性

長期修繕計画は、将来必要となる修繕工事の時期、内容、費用をまとめた計画書であり、修繕積立金の額はこれに基づいて設定されます。計画を明確にすることで、将来の必要な工事とそれに必要なお金を具体的に把握でき、区分所有者全員に計画を周知することで意識向上にも繋がります。

定期的な見直しと改訂

国土交通省は、長期修繕計画を5年程度ごとに見直すことを推奨しており、実際の工事費用や物価変動、法改正、住民構成の変化などを考慮に入れる必要があります。特に、2021年と2024年6月にガイドラインが改訂(長期修繕計画作成ガイドライン)されているため、これらの変更点を踏まえた計画となっているかを確認することが肝要です。

適切な積立金額の算出と方式の検討

「毎月の修繕積立金額=推定修繕工事の累計額÷計画期間」という基本的な計算式に基づき、国土交通省が示す目安も参考にしながら、マンションの規模や設備、築年数などを考慮して十分な積立金額を設定することが求められます。

また、均等積立方式は、計画期間中の積立額が一定で、将来的な管理組合の負担増による不足リスクが低いとされ、国土交通省が望ましいとしています。人生における年金や貯金の考え方と同様に、長い目で見て、無理のない積立が重要という事です。

一方の段階増額積立方式の場合は、ガイドラインに示された適切な引き上げ幅(初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内)を守ることが重要であり、将来的には均等積立方式への移行も検討すべきとされています。

戦略2:修繕費用のコスト削減策の実施

品質や建物の寿命を損なうことなくコストを削減するための工夫も非常に重要です。

複数業者からの見積もり取得と精査

大規模修繕工事などでは、複数の業者から見積もりを取得し、価格だけでなく実績や経営状況も比較検討することが不可欠です。動画で紹介された会社のように、最大8社の見積もりを取ることで費用を抑えられた事例も存在します。このような業者間の競争環境を作ることで、管理組合として不必要なコストを被ることなく、合理的な価格を導き出すことも、今後の材料費・人件費高騰の将来においては必要不可欠な論点と言えます。

バリューエンジニアリング(VE)の検討

建物の機能や品質を維持・向上させながらコストを削減する手法です。例えば、より耐久性の高い材料を選定することで長期的なメンテナンスコストを削減したり、最新の技術や工法を取り入れたりすることが考えられます。フッ素塗料のように耐用年数が長い代替工法も有効な手法と言えるでしょう。

その他のコスト削減策

工事範囲の見直し(必要不可欠な工事への絞り込み)、管理委託費の見直し、維持費の高い機械式駐車場の見直しなども検討できます。専門家(マンションNPOの建築士など)に相談することで、より効率的な修繕計画を策定できた事例もあります。

戦略3:外部資金の活用

修繕積立金が不足している場合、外部からの資金調達も有効な選択肢となります。

政府や自治体の補助金・助成金制度の活用

国や地方自治体は、マンションの省エネ改修や耐震改修、バリアフリー化などの工事に対して、補助金や助成金制度を設けている場合があります。これらを活用することで、修繕費用の負担を軽減できます。例えば、自治体の管理計画認定マンションなど一定条件を満たす修繕工事を行ったマンションに対して、固定資産税の減額措置が実施されています。

金融機関からの融資

修繕積立金が大幅に不足している場合、金融機関からの融資を検討することも手段の一つです。住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」が最も一般的で、低金利で利用可能です。耐震改修やエネルギー対策工事、管理計画認定取得などにより金利引き下げのメリットがあります。

その他、民間の金融機関(セゾンファンデックス、三菱電機フィナンシャルソリューションズ、福岡銀行など)も管理組合向けのローンを提供しています。

融資の目的は、主に修繕積立金の用途に限定され、大規模修繕工事や設備の改修・更新、災害などの緊急修繕が代表例です。管理費の不足補填には原則として使用できません。

外部資金活用のメリット・デメリット、注意点は?

メリットとしては、必要な修繕工事を遅滞なく実施できることで、マンションの資産価値低下を防ぎ、居住者の安心・安全を確保できます。また、一時的な資金不足を補う「つなぎ融資」としても活用できます。

一方のデメリットは、返済義務が発生し、追加の費用負担が生じます。金融機関によっては審査が厳しく、借入要件によっては保証人や担保が必要となる場合もあります。金利変動リスクや、将来的な修繕積立金の値上げが必要となる可能性も考慮すべきです。

そして注意点として、融資を受ける際には、管理組合総会の決議(標準管理規約では普通決議)が必要であり、長期修繕計画と一体で返済計画を立てることが不可欠です。また、借入れがあっても、計画的な返済が可能であれば、自治体の管理計画認定を取得することができます。

行動を起こすための実践的なステップ

修繕積立金不足という課題に対応するために、管理組合が取るべき具体的なステップを以下に示します。

長期修繕計画の再評価

まずは、最新の国土交通省による長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月改訂)に照らし合わせ、既存の長期修繕計画を見直しましょう。専門家による建物診断を実施し、現状の劣化状況を正確に把握することが重要です。

そして、例えば横浜市では長期修繕計画作成のために専門家の派遣を行ってくれます。横浜の支援制度資料を確認しながら、自らの管理組合で対応可能か確認されることが望まれます。

積立金額の再計算

将来の修繕費用を最新の物価や労務費を考慮して再計算し、必要な修繕積立金額を算出します。出来ることなら、国土交通省が推奨する均等積立方式への移行も視野に入れ、委員会を立ち上げるなど区分所有者全体で議論しましょう。

コスト削減策の検討

複数の業者から見積もりを取得し、バリューエンジニアリングや代替工法の導入など、修繕費用の削減につながる具体的な対策を検討します。

外部資金の調査

国や自治体の補助金・助成金制度、金融機関の融資制度など、利用可能な外部資金について情報を収集し、検討します。

区分所有者への情報共有と合意形成

長期修繕計画の見直しや積立金の増額、外部資金の活用など、重要な決定を行う際には、区分所有者に対して十分な情報を提供し、理解と合意を得ることが不可欠です。事前に説明会を開催した上で総会で決議するなど、丁寧な説明を心がけましょう。

結論:マンションの未来を守るために

マンションの修繕積立金不足は、放置すれば建物の劣化を招き、資産価値を損なうだけでなく、居住者の生活の質にも悪影響を及ぼす可能性があります。今回解説した「長期修繕計画と積立金の見直しと最適化」、「修繕費用のコスト削減策の実施」、そして「外部資金の活用」という3つの戦略は、これらの課題を解決し、マンションの財政的な健康と長寿命化を実現するための重要な手段となるでしょう。

そして、これらの戦略を実行するためには、管理組合が主体となり、区分所有者全体が協力して取り組むことが不可欠です。最新のガイドラインを学びながら理解し、専門家(マンション管理士、建築士など)の意見も参考にしつつ、それぞれのマンションの状況に合わせた適切な対策を講じることで、将来にわたる安心・安全なマンションライフを送ることができるでしょう。

今回のコラムをYouTubeでも解説

2人のナレーターが今回のコラムを解説しています。ラジオのように聴き流して頂ければと思います。

今回はテロップも入れて、分かりやすくしていますので、合わせましてご覧ください。

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