通常総会を延期すると何が起きる?任期・決算・予算・契約の実務整理

マンション管理

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管理組合の通常総会は「新会計年度開始後2か月以内に開催する」と規約に定められていることが多く、多くの理事・役員がこれを絶対的な期限と理解しています。しかし、台風や地震などの災害、あるいは感染症の拡大といった非常事態により、物理的に総会を開催できない状況が生じることもあります。

問題は、延期「できるか」ではなく、延期「したときに何が起きるか」です。役員の任期、決算の承認、翌年度予算の効力、管理委託契約の更新――これらすべてが連動して影響を受けます。

もし災害や感染症の影響で総会を開催できない場合、理事会は何を確認し、どこまで判断できるのでしょうか。本稿では、実務上生じるリスクを時系列で丁寧に整理します。

総会は本当に「2か月以内」に絶対開催なのか

まず確認すべきは、標準管理規約第42条第3項が定める「新会計年度開始後2か月以内」という期限の法的な位置付けです。

標準管理規約第42条第3項の位置付け

マンション標準管理規約(単棟型)第42条第3項には、「通常総会は、新会計年度開始後2か月以内に招集しなければならない」と定められています。多くの管理組合がこの規定をそのまま自管理組合の規約に取り込んでいるため、「2か月以内」という数字は実務上の常識として定着しています。

ただし、ここで整理しておかなければならないのは、この規定が何を目的としているかという点です。通常総会は、前年度の決算報告・収支報告の承認、新年度予算の承認、役員の選任・改選など、管理組合の意思決定において最も重要な機能を担っています。「2か月以内」という期限は、年度切り替えに伴う空白期間をできるだけ短くし、組合運営の継続性を確保するための合理的な目安として設けられたものです。

標準管理規約は法令ではなく「ひな形」です。各管理組合が自組合の規約として採用してはじめて、組合内部のルールとして拘束力を持ちます。したがって、まず自管理組合の規約がどのような文言になっているかを正確に確認することが出発点となります。

延期は違法になるのか

結論から申し上げると、規約上の「2か月以内」という期限を経過したことのみをもって直ちに総会決議が無効になるとまでは、一般的には解されていません。区分所有法第34条は総会の招集方法について定めていますが、「いつまでに開催しなければならない」という絶対的な期限規定は設けていません。

ただし、正当な理由のない長期延期は別問題です。区分所有者から「規約違反」として総会招集を請求される可能性があります(区分所有法第34条第3項は、区分所有者及び議決権の各5分の1以上を有する者に、管理者に対する集会招集請求権を認めています。さらに、管理者が2週間以内に招集しない場合には、請求者自らが集会を招集できると定めています。)。また、延期によって生じた損害について、理事会が善管注意義務違反を問われるリスクも考えられます。

延期が「やむを得ない事情に基づく合理的な判断」であることを、議事録・理事会記録・組合員への通知などで文書として残しておくことが、実務上きわめて重要です。

総会を延期すると、まず何が起きるのか

総会延期の影響は抽象論ではなく、具体的な運営リスクとして順番に顕在化します。最初に直面するのは、役員の任期満了という問題です。

役員任期満了問題

通常総会が延期されると、最初に直面する実務的問題が役員の任期満了です。多くの管理組合では役員の任期を1年または2年と定めており、その改選は通常総会での決議によって行われます。総会が2か月以内に開催されない場合、年度が切り替わった時点で現任役員の任期が満了を迎えるケースが生じます。

たとえば会計年度が4月1日始まりの管理組合の場合、6月末までが「2か月以内」の期限となります。仮に7月や8月まで総会が延期された場合、役員任期がすでに満了しているにもかかわらず、後任が選任されていない状態が続くことになります。

この状態が長期化すると、理事会の決議や対外的な契約行為の適法性が争われる余地を生じさせます。管理費の支出、業者への発注、修繕工事の承認など、日常的な業務判断が「誰の権限で行われたか」という問題を内包することになります。

任期満了後の理事の職務権限

では、任期が満了した理事は一切の職務を行えないのかというと、実務上は「準委任の法理」に基づく整理がなされます。理事と管理組合との関係は民法上の委任契約に類するものと解されており、民法第654条は、委任が終了した場合でも急迫の事情があるときは、本人が事務を処理できるに至るまで受任者が委任事務を処理する義務を負うと定めています。この規定が類推適用され、後任が選任されるまでの間、従前の理事が必要な範囲で職務を継続することが許容されると整理されることがあります。

標準管理規約第36条の2には、「標準管理規約(単棟型)第36条第3項には、「任期の満了又は辞任によって退任する役員は、後任の役員が就任するまでの間引き続きその職務を行う」旨が定められています。(いわゆる「職務継続規定」)。自管理組合の規約にこの規定が採用されているか否かを、まず確認してください。

この規定があれば、現任理事は後任が選任されるまで職務を継続する法的根拠を持ちます。ただし、これはあくまで暫定的な措置であり、大規模な支出判断や規約変更などの重要事項を任期満了後の理事会が単独で決定することは、法的リスクを伴います。理事会権限の範囲を慎重に判断することが求められます。

監事の扱い

監事については、その役割の性質から理事とは異なる視点が必要です。監事は管理組合の業務執行や財産状況を監査する独立した立場にあります。標準管理規約第41条に基づき、監事は理事の業務執行に対する監査権限・是正勧告権限を持ちます。

任期満了後の監事についても、職務継続規定が適用されるかという問題があります。規約上の規定が明確であれば従い、まずは規約上の任期・職務継続条項の有無、監査報告の提出時期、延期期間中の監査対象範囲を確認し、そのうえで判断が割れる場合に専門家へ相談してください。

また、監事が「延期された総会期間中の業務執行が適切であったか」を事後的に監査する義務を負う点も意識しておく必要があります。延期期間中の業務執行について、理事会は通常以上に丁寧な記録を残すべきです。

決算と予算はどう扱われるのか

役員の任期問題に続いて直面するのが、決算承認と予算成立という財務面の空白です。

決算未承認のまま年度が跨ぐ場合

通常総会が延期されることで、前年度の決算・収支報告書の承認が遅れます。たとえば3月末決算の管理組合が6月に総会を開催できなかった場合、7月以降も前年度決算が未承認のまま新年度の運営が続くことになります。

決算未承認の状態が続くことは、財務的な透明性の観点から問題をはらむだけでなく、後に理事会の説明責任が問われる可能性を内包します。区分所有者が前年度の収支状況を正式に確認・承認できないまま管理費等の支払いを続けることになるからです。また、監事が決算書類を精査したうえで「監査報告書」を総会に提出する手続きも先送りになります。

実務対応として重要なのは、延期期間中でも財務情報を区分所有者に適宜開示し、透明性を確保する努力を続けることです。「総会が開かれていないから情報提供をしない」という姿勢は、区分所有者の不信感を招くだけでなく、理事会への批判・責任追及の口実を与えることにもなりかねません。

予算未成立でも支出は可能か

翌年度予算が総会で承認されないまま新年度が始まると、管理費や修繕積立金の収入は継続される一方で、総会承認済みの予算が存在しない状態になります。しかし、標準管理規約(単棟型)第58条第3項は、会計年度開始後、総会による予算承認を得るまでの間に必要となった一定の経費について、理事会の承認を得て支出できると定めています。

対象となるのは、第27条に定める通常の管理に要する経費のうち経常的でやむを得ないものや、既に総会承認を得て実施している長期工事に係る経費などです。したがって、管理委託費や共用部の光熱費などの経常的支出については、理事会決議を経ることで暫定的に執行することが制度上認められています。

もっとも、この規定は通常どおり総会が開催され、速やかに予算承認が得られることを予定した年度当初の調整規定です。災害等により総会開催が長期化する場合まで包括的に許容する趣旨ではありません。理事会は適用範囲を慎重に検討し、判断根拠を議事録に明確に残す必要があります。

修繕積立金の執行はどうなるか

修繕積立金は、長期修繕計画に基づく計画修繕のために積み立てられるものです。緊急修繕(突発的な設備故障など)については、予算未成立の状態であっても理事会の判断で執行せざるを得ない場面があります。

この場合、区分所有法第26条第1項に基づき、管理者(理事長)は共用部分の保存行為等を行う権限を有しますが、事後的に総会の承認を求めることが原則です。延期された総会が開催された際には、延期期間中に行った支出の全てを正確に報告し、事後承認を求める議案として整理することが求められます。修繕積立金の用途は特に区分所有者の関心が高いため、透明性の確保を優先してください。

管理会社との契約はどうなるのか

総会延期の影響は組合内部の統治問題にとどまりません。管理会社との管理委託契約という対外的な法律関係にも直接及びます。特に問題となるのは、契約更新の承認ができないまま契約期間満了を迎える場合です。

管理委託契約は総会決議事項である

標準管理規約(単棟型)第48条第17号は、組合管理部分に関する管理委託契約の締結を総会決議事項と定めています。これは新規契約に限らず、実質的な契約更新についても同様に総会の承認を要するという実務整理が一般的です。

また、標準管理委託契約書には自動更新条項は設けられていません。かつては存在していましたが、更新時に重要事項説明が必要とされたことを踏まえ削除されています。したがって、更新時には管理者(理事長)への重要事項説明および区分所有者への重要事項説明書の交付を経たうえで、総会決議による承認を要します。

総会が延期されると、この承認が得られないまま契約期間満了を迎えるという構造的問題が生じます。

契約期間満了後の法的状態

契約更新決議ができないまま期間満了を迎えた場合、直ちに管理業務が停止するわけではありません。実務上は、従前契約に基づく業務が継続しているという事実関係を前提に、契約関係が事実上継続していると整理されることが一般的です。

もっとも、これは明確な更新決議に代わるものではなく、法律関係としては不安定な状態です。理事会としては、総会延期の理由、契約満了日、暫定的な継続の整理を文書で明確にしておく必要があります。

管理委託費支払の法的根拠

総会決議がなされていなくても、管理会社が実際に管理業務を提供している以上、その対価の支払義務は生じます。

この法的根拠は、民法第643条以下の準委任契約の規定、または契約の性質に応じて請負契約の法理に求められます。実際に役務提供がなされ、その利益を管理組合が享受している以上、相当の対価を支払う義務が生じると解されます。

ただし、これはあくまで従前契約関係の延長としての整理にすぎません。総会延期が長期化する場合には、契約関係の不明確さが残るため、できる限り早期に総会を開催し、正式な更新決議を行うことが不可欠です。

理事会が延期判断をする際に確認すべき視点

総会の延期判断は、理事会にとって重大な経営判断です。以下の視点を確認したうえで、判断の根拠を文書として残してください。

まず、延期の理由が「関係コメント」の想定する事由(災害・感染症拡大等)に該当するかを検討してください。単なる準備不足や理事会の都合による延期は、正当な理由とは見なされません。

次に、延期中に生じる役員任期・決算・予算・委託契約のそれぞれへの影響を事前に整理し、対応方針を理事会として確認しておくことが重要です。特に役員の職務継続規定の有無と、予算外支出の範囲についての判断基準は明確にしておいてください。

また、延期の事実と理由、見込まれる総会開催時期については、区分所有者に速やかに書面等で通知することが信頼維持のために不可欠です。区分所有者への説明責任を果たすことが、後のトラブル防止に直結します。

最後に、判断に迷う場面では管理会社や顧問弁護士・マンション管理士などの専門家に相談することをためらわないでください。延期という「やむを得ない選択」が後に「判断の誤り」と評価されないよう、判断の合理性を記録として残し、区分所有者に説明できる状態を維持することが、結果として理事会を守る最も現実的な防御策になります。

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