管理組合における利益相反取引の類型とは【マンション管理士が解説】

マンション管理

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管理組合における利益相反取引とはどういったものがあるのだろうか…?

そのような疑問を持っている管理組合や理事会も多いと思います。

利益相反取引って聞いても、役員や区分所有者にとってもなかなかピンとこないかもしれませんね。

今回は企業の財務経理にも精通しているマンション管理士が、管理組合における利益相反取引の類型、さらには問題点と防止策について、具体的な事例を挙げながら解説します。

管理組合における利益相反取引の類型とは【マンション管理士が解説】

今回紹介する内容は以下の通りです。

・利益相反行為にあたる具体的な類型は?
・利益相反行為を行うことの問題点は?
・管理組合として、不透明な利益相反行為が発生しないためにできることは?

また、管理組合における利益相反行為とは、

管理組合の理事や関係者が自身の個人的な利益を優先し、組合の利益や公平性を損なう行為

であり、利益相反行為を行うことによって、結果的に

理事や管理者が組合の意思決定や取引において個人的な関係や利益を優先させることで、組合の透明性、公平性、信頼性に悪影響を及ぼす

こととなり、良いことはありません。

従って、個々の区分所有者を含めた管理組合全体として、さらに理事会としても注視していく必要があるでしょう。

利益相反行為にあたる具体的な類型は?

まず初めに、管理組合内で行われる利益相反行為に当たるとされる具体例について紹介します。

役員や区分所有者、住民との取引

考えやすいのが、理事や監事等の役員や区分所有者、そして住民の中に専門業者が存在して、その方やその方が属する企業、またはつながりのある企業に対して、共用部分等管理組合の持ち物に対するメンテナンスや清掃、コンサルティングを依頼する形です。

管理費や修繕積立金等、管理組合の財産を利用して、役員や区分所有者等に金銭的なメリットが享受されるとして、利益相反行為として最もイメージしやすいケースでしょう。

管理会社との取引

管理組合でとりわけ発注権限がある理事長等の役員と管理会社の取引において、なんらかの利益相反取引が発生することが考えられます。

ただ、現在はコンプライアンスに対する取り組みが、管理会社各社においても非常に厳しくなっているため、利益相反取引が発生するような場合は、取引に応じないことも考えられます。

具体的には、

・新たな修繕工事や購買等の取引発生事項に対して個別に見返りを受領する(キックバック等)
・管理会社変更等の選定時に優位に進める

などです。

大規模修繕工事の業者選定

比較的取引額が多い大規模修繕工事は、工事業者や施工業者にとって工事受注をしたいと考えるのが普通でしょう。

その場合において

役員や区分所有者がつながりのある工事業者を組合内で勧め、受注の際に見返りを受領する

ことが考えられます。

良質な工事を行う業者なのか、または価格的な適正性があるのか等、合理的な判断に欠けるケースとなるため、気を付ける必要があるといえます。

共用設備の利用

共用の駐車場や設備において、理事長等役員の立場を利用し優先的に利用することもこの範疇に当たるかもしれません。

仮に共用設備の利用が無料であったとしても、他の区分所有者に対しても公平に利用する必要があるでしょう。

メンテナンス業者の選定

日常の修繕や清掃業務等、役員や区分所有者に近い取引先に発注することが考えられます。

区分所有者と関係性が近い場合は、理事会や総会を通じて、発注に値する取引先なのか、より合理的な判断を行うことが求められます。

物品購入やサービス業者選定

大規模修繕工事やメンテナンス時の業者選定と近いところがありますが、管理組合で使用する物品を特定の知り合いの業者に発注する場合です。

また、マンションに関する保険契約を締結する場合で、区分所有者に近い存在の保険代理店等と契約を締結する場合も当てはまるでしょう。

このケースでも、区分所有者自らが見返り等のメリットを受領する可能性があることは避けるとともに、内容が適正な発注であるか、合理的な判断を行う必要があります。

利益相反行為を行うことの問題点は?

次に、利益相反行為を行うことにより、どのような問題が発生するのでしょうか。

次章でも具体的に触れますが、利益相反行為に当たることは必ずしも違法であるわけではないものの、ある種の問題を抱えることになります。

その具体的に考えられる問題を見ていきます。

公平性の欠如

まず、その取引が公平な判断の末に行われる行為であるかを考える必要があります。

発注権限がある理事長や他の役員が独自の判断で発注することは絶対に避けなければなりません。

必ず合い見積もりを取得し、それぞれの発注先や単価、内容を比較することで、公平な判断のもとで発注することに至っている取引なのか、チェックすることが求められます。

不適正なコストの発生

管理組合にとって、かさ上げされたコストとなっているなど、不適切なコストが含まれる可能性が考えられます。

前項同様に、他の取引と比較検討することで、不適切なコストが含まれていないか洗い出してチェックすることも重要でしょう。

区分所有者間における不信感の発生

仮に、利益相反行為が発生して、管理組合に対する費用の見返りとして、組合員の誰かが利益を得ていることが発覚すると、管理組合内に不信感が生まれてしまいます。

また、今後の発注事案に対する合意形成を難しくすることとなり、管理組合運営がスムーズに進まなくなってくる可能性も出てきます。

法的リスクの発生

利益相反行為でもさらに悪質なものが発生した場合には、管理組合として法的リスクも発生することとなります。

仮に、利益相反行為を行っていなかった役員であったたとしても、その発生時点で役員に就任していた場合には、チェック機能が働いていなかったとして、責任を問われる可能性も出てくるかもしれません。

区分所有者の代表として選ばれた理事は、就任期間の責任があるため、理事会や総会でチェックを強化していくことも重要です。

管理組合として、不透明な利益相反行為が発生しないためにできることは?

最後に、管理組合内で不透明な利益相反行為が発生しないために、できることとしてなにがあるのか、具体的に紹介します。

管理規約における利益相反行為条項の策定と順守

まず、管理規約において、利益相反行為について定めておく必要があります。

ちなみに、標準管理規約では第37条の2に利益相反行為の防止という条項があります。

(利益相反取引の防止)
第37条の2 役員は、次に掲げる場合には、理事会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 役員が自己又は第三者のために管理組合と取引をしようとするとき。
二 管理組合が役員以外の者との間において管理組合と当該役員との利益が相反する取引をし
ようとするとき。

ここで定めている通り、必ずしも利益相反行為は禁止というわけではありません。

次項に紹介する、総会や理事会等の一定の手続きを経て実施すればよい訳です。

理事会や総会を通じた決議

どうしても管理組合としてやむを得ず利益相反行為に当たると判断した場合は、次のような対応が必要であることが、標準管理規約のコメントで記載されています。

第37条の2関係
・役員は、マンションの資産価値の保全に努めなければならず、管理組合の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることがあってはならない。
・とりわけ、外部の専門家の役員就任を可能とする選択肢を設けたことに伴い、このようなおそれのある取引に対する規制の必要性が高くなっている。
・役員が利益相反取引(直接取引又は間接取引)を行おうとする場合には、理事会で当該取引につき重要な事実を開示し、承認を受けなければならないことを定める。
・同様の趣旨により、理事会の決議に特別の利害関係を有する理事は、その議決に加わることができない旨を規定する(第53条第3項)とともに、管理組合と理事長との利益が相反する事項については、監事又は当該理事以外の理事が管理組合を代表する旨を規定する(第38条第6項)こととする。

やむを得ず、利益相反行為を決議する場合の理事会の取り決めを定めておく必要があります。

発注額が大きい場合等の総会決議事項においても同様の手続きを踏むことが考えられます。

管理組合における透明性の確保

業者を選定する場合も透明性の確保が重要です。

具体的には、

・なぜその業者を選定するに至ったか?
・競合他社の合い見積もりを取得しているか?

については、理事会で求めるとともに、各役員が入念にチェックを行い、発注することを決議する必要があるでしょう。

外部の第三者におけるチェック体制の充実

発注の際には理事会や総会等でチェックすることも必要ですが、さらに外部の専門家等の第三者にチェックを依頼することも重要です。

特に、大規模修繕工事の発注選定においては、果たしてその発注先が適正なのかどうか、マンション管理士や建築士等、大規模修繕工事について詳しい専門家を入れて検討することも多いでしょう。

都度実施するかどうかはありますが、特に外部専門家を採用している管理組合においては、このようなチェックは有効であるといえます。

発注の際の競争入札方式の実施

こちらについても大規模修繕工事における業者選定の際の方法として挙げられますが、自由な競争の中で発注業者を決定することが求められます。

これにより、自らが利益相反行為として関与する取引先が意図的に選定されることは少しでも回避することができるかもしれません。

仮に合理的に判断した結果、利益相反に該当する取引先が良いとして発注する場合であっても、標準管理規約第37条の2またはその補足コメントに記載の手続きを踏めば、管理組合としてより透明性も高まると考えられます。

管理組合内での不透明な利益相反行為を避けるために

これまで見てきた通り、利益相反行為は適正な手続きを経て対応すれば必ずしも問題という訳ではありません。

役員が管理組合のためとして、善意で自らと近い取引先を紹介することも大いに考えられます。

そのような場合も含めて、合理的な意思決定を管理組合で行うことで、透明性ある取引を心がけていく必要があるでしょう。

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