――管理組合が“いま動くべき理由”を専門家が整理する
2026年4月、マンション管理の根幹にあたる区分所有法が施行されます。これに先立ち、2025年10月には標準管理規約の改正が公表されており、両者を前提に各管理組合の実務を見直す必要があります。
総会の成立要件、管理不全住戸への法的介入、海外在住区分所有者への対応、建替え・再生の決議要件…。
どれも管理組合の運営や意思決定に直結するテーマで、実務への影響は極めて大きいものです。 本ページでは、
区分所有法の改正ポイント 標準管理規約の改正(新設条文・修正条文) 管理組合が取るべき具体的なステップ
を体系的に整理し、必要な部分へ迷わずアクセスできる“総合ナビゲーション”として設計しました。まずは全体像をつかみ、次に該当する論点で“深掘り記事(詳細コラム)”を読む。その導線を最適化した「ハブページ」としてご活用ください。
2026年改正の背景
――いま国が動いた本当の理由 マンションの課題は、部分的な改善では追いつかない段階に来ています。
築40年以上のマンションが増え、住民の高齢化や相続放置住戸の増加により、“総会が成立しない” “理事長が担い手不足” “滞納者と連絡不能”という事例が全国で報告されています。 国はこうした状況を受け、区分所有法(マンションの憲法)と標準管理規約(運営ルール)を同時アップデートするという大きな決断を下しました。 今回の改正は、
管理不全の連鎖を止めるための 「管理基盤の強化」
老朽化・所有者不明住戸の増加に伴う 「意思決定の停滞の解消」
ゴミ屋敷・漏水等の専有部分内部問題への 「法的介入ルートの整備」
建替え・再生の合意形成を可能にするための 「決議要件の合理化」
という目的のもと設計されています。こうした「トータルの再設計」が今回の特徴であり、管理組合の実務に直接跳ね返ってきます。
改正の焦点は5つ
――管理組合が直面する論点を俯瞰する 数多くの条文改正がありますが、管理組合が押さえるべき中心軸は次の5つです。
✅強行規定の整理(総会成立要件など)
✅管理不全への直接介入を可能にする新制度(専有部分管理命令)
✅海外在住所有者への対応(国内管理人制度)
✅建替え・再生を現実的に進めるための決議要件の緩和
✅標準管理規約の修正・新設(第1条〜72条のうち、管理不全・名簿管理・役員・総会・理事会等を中心とした見直し)
特に注意すべきは、
「法律は自動的に新ルールへ切り替わる」が「管理規約は自動的には切り替わらない」
という点です。多くのマンションでは、法律と管理規約の間に“ズレ”が生まれます。
改正後は、旧規約に存在する「総会成立要件」「特別決議要件」「専有部分の規定」などが
新しい区分所有法と整合しなくなるケースが多発します。この“法規と規約の齟齬”を放置すると、総会決議の有効性、議案説明、登記手続で不整合が生じるため、理事会としての方針決定が不可欠です。
区分所有法の改正
― 管理組合の「基準点」が変わる4つの柱 区分所有法は、管理規約よりも上位に位置する“強行法規”が多く含まれています。今回の改正により、総会の成立要件・議決方法・建替え決議のハードルなど、管理組合の“基準点”が大きく書き換わります。
🔥 総会成立要件(強行規定)の変更 【概要】
改正により、特別多数決議の「定足数(区分所有者・議決権いずれも過半数)」と「賛成要件(出席区分所有者および出席議決権の4分の3以上)」が法律上明確化されました。これらの多数決の枠組み(どの程度の多数を要するか)は規約で緩和することはできず、実務上「強行的なルール」として扱われます。
旧規約のままでは法律と規約のズレが生じ、特に理事長・管理会社の説明責任が重くなります。誤解したまま総会を開催すると、決議の有効性そのものが問題になりかねません。


🏠 管理不全専有部分管理命令(専有内部への法的介入) 【概要】
専有部分内部のゴミ屋敷・漏水・害虫など、これまで管理組合が実質的に介入できなかった領域について、理事長が裁判所に申立てを行い、“専有部分管理人”の選任によって内部の改善を行える制度が整いました。
ただし、申立てには「段階的通知」「理事会の意思決定」「写真・記録の継続的保存」という
厳密な事前準備が必要で、証拠の精度が制度利用の成否を左右します。
🌐 国内管理人制度(海外在住所有者への対応) 【概要】
海外在住所有者に対し、国内の管理人を選任できる制度が設けられ、管理規約で届出義務を課すことで、理事長や管理会社がコンタクトをとれる仕組みを整えやすくなりました。
(1)議決権行使
(2)管理費滞納対応
(3)専有部分の連絡
(4)管理不全時の連絡・書類送付
といった管理組合の重要な通知・書面の授受を、国内の窓口(国内管理人)を通じて確実に行えるようになりました。もっとも、管理不全専有部分管理命令などの申立て権者はあくまで「管理者(理事長)」や利害関係人であり、国内管理人が直接申立てを行う制度ではありません。
🏗 建替え・再生の決議要件の緩和(3/4へ) 【概要】
建替えや敷地売却については、原則として従来どおり「区分所有者および議決権の5分の4以上」の賛成が必要です。ただし、
✅著しい老朽化等で一定の要件を満たす場合は「4分の3」
✅災害等により大きな被害を受けた場合などは「3分の2」
といったように、要件を満たすケースに限り、段階的にハードルを下げる仕組みが導入されました。
これにより、老朽化マンションの意思決定が現実的なものになり、建替えに至らない「大規模一体工事」「一棟リノベーション」といった、専有部分と共用部分を包括的に扱う改修工事についても、標準管理規約コメント等で、「通常有すべき効用の確保を含む効用の維持・回復」として位置づける考え方が示されており、建替えに至らない選択肢として整理が進んでいます。
これは法的には「建替えではない」ものの、修繕積立金の取り崩しや決議要件の判断に関わる
重要な実務論点です。
標準管理規約の改正
― “現場運営”に直接影響する条文の見直し 区分所有法が上位ルールだとすれば、標準管理規約は日々の運営を支える実務ルールです。今回の改正は、新設条文と既存条文の修正が広範囲に及び、マンションの日常運営に最も影響が出る部分です。
📌 新設条文(国内管理人/管理不全/名簿管理) 【概要】
今回新設された条文群は、現場の「連絡不能」「ゴミ屋敷」といった深刻な課題に手段を与える核心部分です。管理不全に陥らないためにも、管理組合としては海外に住んでいて国内に居住していない、または国内に居住していても複数住戸を所有していて、ほとんどマンションに来ないとなると要注意です。
国内管理人制度を導入するためにも、現状の組合員や居住者の名簿を充実させ、誰がどういう状態であるか、タイムリーに把握しておくことが求められます。
さらに、管理不全状態を未然に防ぐ/是正するための仕組みとして、「所有者不明専有部分管理命令等」に関する第67条の3〜5の新設や、共用部分の損害賠償金・保険金の扱いを整理した「保険金等の請求及び受領等」(第24条の2)、消防法上の防火管理者との関係を明確にした「防火管理者」(第32条の2)も、新たに条文化されました。
以下、新たに条文化された内容を詳しく紹介していますので、是非ご参照ください。







🔧 第1条〜第29条の修正(費用・専用使用権の整理)
続いて、新設ではなく、新たに修正された条文ですが、こちらはおもに「使用細則」(第18条)、「敷地及び共用部分等の管理」(第21条)、「必要箇所への立入り等」(第23条)、「修繕積立金」(第28条)が挙げられます。
「使用細則」については、条文の追加はありませんが、国土交通省の補足コメントとして「喫煙に関するルール」が盛り込まれました。
そして、「敷地及び共用部分等の管理」は共用部分と専有部分を一体的に工事をする場合の取り決め、さらに「必要箇所への立入り等」では、理事長自ら立ち入って、保存行為が出来ることが明文化されています。
さらに、多くの管理組合で非常に重要な「修繕積立金」では、建替え等のマンション再生に関する費用や、修繕積立金の管理、運用についても新たに明文化されています。
以下、新たに明文化された内容を詳しく紹介していますので、是非ご参照ください。




📚 第30条以降 ― ガバナンス強化とリスク管理のための修正
標準管理規約後半の第30条以降にも、修正された条文があります。おもな変更点があったものは、「役員」(第35条・補足コメント)、「招集手続」(第43条)、「議決権」(第46条)、「総会の会議及び議事」(第47条)、「議決事項」(第48条)、「理事会の会議及び議事」(第53条)、「議決事項」(第54条)、「専門委員会の設置」(第55条・補足コメント)、「理事長の勧告及び指示等」(第67条)です。
特にガバナンス面としては、総会、理事会関連に分かれます。前提となる「役員」は条文の修正はありませんが、昨今の役員なりすまし問題に関連して、国土交通省の補足コメントで「役員候補者や外部専門家の選任において、本人確認を適切に実施することが有効」として注意を促しています。
そして、総会関連は「招集手続」において、全ての議案において「議案の要領」や「議案の送付は遅くとも5日→1週間前迄」が新たに義務付けられることとなりました。総会当日参加しない、議決権行使や委任状でも意思決定しやすいように、内容も分かりやすく、かつ期間を設けることが配慮された形です。
「議決権」については、所在等不明区分所有者を決議の母数から除外できる仕組み(所在等不明区分所有者の除外決定)が整備される一方、所有者不明専有部分管理人は、所在等不明区分所有者に代わって総会で議決権を行使できる立場にあります。法制審の補足説明でも、建替え決議を含めて原則として賛成・反対の議決権行使を認める方向が示されており、そのうえで善管注意義務や誠実公平義務を負うことが強調されています。
さらに、理事会関連は、「理事会の会議及び議事」において、理事が出席できない場合の「職務代行者」を定める場合の規定案が提案されています。これまで、「理事本人が理事会に出席すべき」という方向感からガラッと変わり、「理事本人でなくも良い」という内容になっています。
理事会の「議決事項」では、柔軟かつ迅速に理事会で決めて対応することができる内容が新たに条文化されています。また、「専門委員会の設置」においても、「役員」就任同様に、委員のなりすまし対策について、国土交通省が補足コメントで補足的に言及しています。
最後に、「理事長の勧告及び指示等」ですが、理事長の法的対応が幅広く取れるように修正されています。
後半のガバナンス面は比較的改正箇所が多くなっていますので、以下、新たに明文化された内容を詳しく紹介しました。それぞれ変更になった箇所に取り消し線と赤文字を入れて分かりやすく解説していますので、是非ご参照ください。









管理組合が“2025年度中にやるべきこと”を3つに絞る
法律が変わっても、管理規約や管理会社の委託契約は自動で変わりません。適切な順序で進めれば、改正のメリットを最大限に引き出すことができます。
🧭 【最優先】強行規定に関する規約の整合性(総会成立要件・特別決議)
規約改定の時期、誰が案を作るか、どこまで変えるか。この三点を明確にしておくと、総会準備が一気に楽になります。特に強行規定のズレはなるべく早く修正方針を固めておきたい領域です。
📘 【次点】名簿管理・国内管理人制度の受け皿作り
国内管理人制度を実務で機能させるには、前提として名簿の整備が不可欠です。
✅所有者の現住所・連絡先
✅海外在住か否か
✅賃貸中か自主管理か
などを整理したうえで、「国内管理人が必要な所有者」を洗い出し、規約・細則で届出方法や期限、未届出の場合の扱いを定めておく必要があります。
特に、所在等不明区分所有者や管理不全専有部分が生じた場合、名簿情報と国内管理人の情報が揃っているかどうかで、初動のスピードが大きく変わるため、2025年度中に「名簿と国内管理人制度の受け皿作り」を進めておくことが重要です。
🚨 【同時並行】管理不全住戸への“準備段階の整備”(記録・通知)
管理不全住戸の実務は、施行日を迎えてから動くのでは遅い領域です。写真記録・段階的通知・理事会の協議プロセスなど、早めに準備することで施行後の“初動スピード”が格段に変わります。また、国内管理人制度への対応のため、名簿の整備・電磁的保存のルール化も急務です。
よくある質問(FAQ)
Q1.規約が古いままでも、強行規定は自動的に新ルールが適用されますか?
→ はい、強行規定は新法が自動適用されます。ただし、規約が古いままだと「説明責任」「総会議案の書き方」「議事録の整合性」で実務トラブルが生じます。そのため規約改定は実務上不可欠と考えるべきです。
Q2.改正対応は、いつまでに終わらせれば良いですか?
→ 法的な期限はありませんが、遅くとも施行後数年以内には改定しておく方が運営が安定します。
Q3.管理不全住戸の申立てはすぐできますか?
→ 可能ですが、事実の記録・段階的な文書通知など、事前準備が重要です。
Q4.規約が古くて旧法対応で総会や理事会を成立させた場合は有効?
→これはケースによります。規約が厳しいままで成立した場合は有効として考えてもよいですが、法律が厳しくなった部分で成立した場合は無効になる可能性があります。
Q5.旧法で行った場合の具体例は?
一例として、特別決議を「区分所有者数及び議決権の4分の3以上」で可決したとしても、改正法である「組合員数の過半数以上の出席で、その中で区分所有者数及び議決権の4分の3以上」よりも厳しいので、可決としても良いと考えられます。
一方で、総会議案書の送付は「5日を下回らない→1週間を下回らない」と変更になったので、これまでの5日前までに総会議案書を送付していると無効になる可能性があります。
なお、招集通知期間や議案の要領の不備など、招集手続の瑕疵があった場合でも、裁判例は一律に決議無効とせず、「瑕疵が重大かどうか」「区分所有者に実質的な不利益が生じたかどうか」で判断している点には注意が必要です。
今回の改正は「負担」ではなく“管理組合の再スタート”のチャンス
2026年の法改正は、ただ条文が書き換わるだけの出来事ではありません。これは、老朽化・高齢化・所有者不明住戸の増加といった、全国のマンションが抱える深刻な課題に対して 「管理組合がもう一度、動き出せるようにするための再設計」 です。
強行規定の整理によって総会の手続が明確になり、管理不全住戸への介入ルートが確立され、海外在住の所有者にも国内管理人という“受け皿”ができます。さらに、建替え・再生に向けた決議のハードルが段階的に見直されました。
どの項目も、本来は理事会が「やりたくてもできなかったこと」を、“できるようにするための仕組み” です。
改正の本質は、
『管理組合が動きやすくなること』
それに尽きます。
本ハブページを起点に、それぞれのテーマごとの詳細コラムを読み進めることで、あなたのマンションが どこから・何を・どの順番で手をつければよいか が明確になります。
2026年の改正を「負担」と捉えるか、「チャンス」と捉えるかで、5年後・10年後のマンションの姿は大きく変わります。本コラムを “改正対応の羅針盤” として、ぜひご活用ください。



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