マンションの規約や総会決議は、どこまでの範囲に適用されるのでしょうか?
マンション標準管理規約第5条では、管理規約や総会決議の効力が区分所有者だけでなく、賃借人や相続人にも及ぶことが明記されています。
本記事では、第5条の具体的な内容と、管理組合や区分所有者が注意すべきポイントについて、マンション管理士である筆者が詳しく解説します。
特に、「規約を知らなかった」「総会決議が伝わっていなかった」などのトラブル防止策についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
【規約解説】マンション標準管理規約第5条とは?規約と総会決議の効力を詳しく解説
まず、はじめにマンション標準管理規約第5条「規約及び総会の決議の効力」の条文を紹介します。
この条文は2項からなります。
第5条 この規約及び総会の決議は、区分所有者の包括承継人及び特定承継人に対しても、その効力を有する。
2 占有者は、対象物件の使用方法につき、区分所有者がこの規約及び総会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。
条文の内容を受け、以下の項目について、筆者の視点で解説します。
規約と総会決議の効力とは?
まず、第1項についての解説です。
「この規約」、すなわち、各マンションで定めた管理規約と、総会の決議事項については、区分所有者の包括承継人と特定承継人にも及ぶこととなります。
それぞれ、国土交通省の補足事項で紹介しているので、そちらで詳しくは解説します。
ちなみに、それぞれ「承継人」とあることから、マンションのルール(管理規約や総会決議)は、元の所有者だけでなく、所有権を引き継いだ人にもそのまま適用される ということになります。
これによって、マンションの管理や運営が引き継いだ人にも一貫性を持って継続されるようになっています。
占有者(賃借人・同居人)にも適用される?
続いて、第2項は占有者の義務について記載があります。
占有者も物件の持ち主である区分所有者同様に、管理規約や総会決議事項において遵守すべき義務があります。
ただし、「対象物件の使用方法につき」とあることから、専有部分や共有部分の使用方法についてのみ、遵守することとなります。
すなわち、その他の総会や理事会、役員等の使用方法以外のところは、適用外ということになります。
「対象物件の使用方法」について
マンションでは、騒音トラブル防止のための「楽器禁止」や、共用部分の適切な利用を定める「ゴミ出しルール」などが管理規約や総会の決議で決まっています。
第2項は、こうしたルールは所有者だけでなく、実際に住んでいる「占有者」も同じように守らなければならないということを定めています。
規約違反になりやすいケース
遵守事項としては、以下のようなケースが考えられます。
・楽器演奏禁止の規約がある場合、借主(賃借人)も規則を守らなければならない
・ベランダでの喫煙禁止の決まりがあるなら、所有者でなくてもそのルールに従う必要がある
なぜこのルールがあるのか?
もし区分所有者から借りて賃貸で住んでいる人が「私は所有者じゃないから関係ない」という態度を取ると、マンションのルールが守られず、住民同士のトラブルが増えてしまいます。
そのため、所有者が負う義務と同じ義務を占有者にも負わせることで、マンション全体の秩序を保つ 仕組みになっています。
国土交通省の補足解説|包括承継と占有者の対象
続いて、国土交通省が第5条について補足している事項があります。
次の文面となります。
こちらについても、詳しく解説します。
包括承継とは?相続時の規約の引き継ぎ
国土交通省のコメントには、包括承継とは「相続」のことを指すとあります。
つまり、マンションの所有者が亡くなったときに、その財産をまとめて引き継ぐ相続人が、新しい所有者になります。
具体例としては、
・この場合、Bさんは「包括承継人」となり、前の所有者(Aさん)が守るべき管理規約や総会の決議をそのまま引き継ぐ。
ということになります。
特定承継とは?売買・譲渡時の規約適用
特定承継とは 「売買や交換などによる所有権の移転」 を指します。
これは、財産全体ではなく、特定の物件(マンションの一室など)を売買・交換・贈与によって取得するケースです。
具体例としては、
・この場合、Dさんは「特定承継人」となり、前の所有者と同じように、管理規約や総会の決議を守る義務がある。
ということになります。
包括承継、特定承継それぞれ対象が違いますが、区分所有者から承継した人は、前の部屋の持ち主である区分所有者と同様の義務を負うということになります。
「賃借人は占有者に当たる」とは?知らないと損するルール
「占有者」とは、マンションを実際に使用・居住している人を指します。
国土交通省のコメントでは、「賃借人(借主)」は占有者に該当すると明記されています。
同様に、具体例としては、
・Fさん(借主・賃借人)は「占有者」に当たり、管理規約や総会の決議に従う義務がある。
・例えば、「ペット禁止」のルールがある場合、Fさんもペットを飼うことはできない。
ということになります。
このように、マンションの管理規約や総会の決議は、所有者が変わっても、また借主であっても適用されるという点がポイントです。
国土交通省の補足の意味
もし、規約の内容を知らなかったり、直接的に総会の決議に関わらない立場であっても、承継人や占有者は、
・総会には出られないから、決議の内容は守れない
という訳にはいかないことになります。
管理組合と区分所有者が注意すべきポイント
最後の章では、マンション管理士である筆者が、マンション標準管理規約第5条「規約及び総会の決議の効力」について、管理組合と区分所有者が注意すべき点を紹介します。
「規約内容が分からない」をなくす方法
問題点として、「新しくマンションを取得・借りた人が規約の存在を知らない」ということが考えられます。
おもな対策としては、
①売買・賃貸契約時に規約の説明を義務化(重要事項説明の強化)
・売主・貸主は「管理規約・使用細則のコピーを渡す義務」を負うことを管理規約で明記
・賃貸借契約書や、管理組合に提出する誓約書にて「マンションの管理規約を遵守すること」を明記し、署名を求める
②入居者ガイドの作成・配布
・ルールのポイントをまとめた「管理規約の簡易版」や「FAQ」を配布し、重要ルールを分かりやすく伝える
例:「ゴミ出しのルール」「駐車場・駐輪場の使用方法」「騒音対策」「ペット禁止」など
③マンション掲示板や管理組合共有ツールなどで定期的に周知
・共用部の掲示板やエントランスに「重要ルール」を掲示
・共有ツールやメール配信で定期的に情報提供する仕組みを導入
などが考えられます。
総会決議事項を周知する工夫とは?
次に考えられることとして、「新しいルールが決まったが、後から入った人には伝わっていない」ということもあるでしょう。
具体的な対策としては、
①総会後の決議内容を分かりやすく共有
・総会で決まったことを 「総会ニュース」 として要点をまとめて配布(紙・電子)
例:「〇〇の使用ルールが変更されました」「駐輪場の利用方法が変わりました」など
②管理組合の公式サイト・共有ツール・掲示板の活用
・総会議事録の要約を定期的に発信し、全員がアクセスできるようにする
・議事録を配布または決議事項を掲示板等で共有
・公式サイトや共有ツールで「新ルールの通知」を実施
③新しい区分所有者・賃借人への「ウェルカムオリエンテーション」
・管理会社や管理員、管理組合理事が「入居者向け説明会」を実施し、最新のルールを伝える
・例えば、「管理組合内で最低限遵守すべきルール」「共用施設の予約方法」などの説明を実施
などが考えられます。
規約を守らないとどうなる?リスクと対応策
管理組合として対策を講じたとしても、守られなかった場合も想定されます。
問題点としては、「承継人・賃借人が規約を守らない場合、管理組合が適切に対処できない」ことが考えられます。
具体的な対策としては、
①義務違反者への警告・指導ルールを明確化
・管理規約第66条「違反行為に対する是正措置」を管理規約に必ず明記
・例えば、「共用廊下に私物を置く」「深夜の騒音」「ゴミ出しルール違反」などの具体例を挙げる
②賃貸物件のオーナー(区分所有者)に対する責任強化
・標準管理規約第67条「理事長の勧告及び指示等」は賃借人や同居人にも適用されるとして、「賃借人が違反した場合、オーナーにも指導責任を課す」ルールを徹底
・例:「オーナーは賃借人の違反行為を是正する責任を負い、違反が続く場合は管理組合が賃貸契約の見直しを求める」
③管理費等の滞納リスクにも対応
・承継人(新しい所有者)が前所有者の管理費滞納を引き継ぐ可能性があるため、事前確認が重要
・「売買時に管理費等の滞納があることを認識したうえで、購入後速やかに滞納を解消する」ことを明文化
などが考えられます。
マンション住民全員が規約と総会決議を守るために
今回は、マンション標準管理規約第5条「規約及び総会の決議の効力」について例を挙げながら解説しました。
マンション内のルールは、所有者である区分所有者のみでなく、賃借人や区分所有者と同居する家族や親族、その他の同居人も当然守る必要があります。
また、守るべきルールは、管理規約や使用細則だけではなく、その場には出席できない総会で決まったことも適用されます。
これらを遵守することで、他の住民にも迷惑を掛けないようにすることが非常に重要です。
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