マンション管理に関連する方は資格を持っている方が多いと聞いた…
また、
先日マンション管理士が管理組合に来たけど、どのような役割を果たすのか。
さらには、
フロント担当者が管理業務主任者証を提示していたけど、実際にどのような仕事なのか…
など、マンション管理に関わる方々の中には、様々な資格者がいらっしゃいます。
逆に、マンション管理に関わるためには、一定の責任があるため、資格がないと携わることができないともいえるかもしれません。
今回はこのようなマンション管理に関わる資格者が、管理組合とそれぞれどのような関りを持ち、また自らの役割を果たしていくのか、マンション管理士と管理業務主任者資格を持つ筆者が具体的に紹介します。
マンション管理士、管理業務主任者、建築士…管理組合に果たす役割は
今回紹介する内容は、以下の通りです。
・マンション管理士が果たすおもな役割は?
・管理業務主任者が果たすおもな役割は?
・一級建築士が果たすおもな役割は?
・管理組合が各専門家を採用する際に気を付けておくべき点は?
まず、管理組合が関わっている専門家がどのような立場の人たちなのか、令和5年度マンション総合調査より確認します。
続いて、マンション管理士、管理業務主任者、一級建築士の各専門家を挙げ、管理組合に対して果たすおもな役割や価値について、紹介します。
最後に、管理組合としてこのような専門知識を持つ方との対応において、気を付けておくべき点を紹介します。
現在管理組合が関わっている外部専門家の傾向は?
令和5年度マンション総合調査には、「外部専門家の活用状況」(重複回答)についての調査結果があります。
その結果について、国土交通省が発表した同データを参照しながら、確認してみます。
外部専門家の活用状況は?
詳細データは以下の通りです。
専門家の活用として多いのは、全体では
・次に多いのが弁護士の14.5%
・その次にマンション管理士、管理業務主任者の13.8%
・活用したことがないと回答したのが半数以上
という結果になっています。
また、完成年次別の傾向としては、
・昭和60年~平成元年は管理業務主任者が多く、建築士と続く
・平成2年以降は管理業務主任者と建築士が多く、弁護士やマンション管理士が続く
・新しいマンションほど、活用したことがないと回答している
傾向にあります。
昭和59年以前は、規約や会計、契約等ソフトと設備や修繕等ハードの問題双方多くありそうです。
対して、昭和60年以降は、管理業務主任者と建築士が多く、身近に相談できる管理会社窓口の管理業務主任者に相談して、具体的に大規模修繕工事や設備の問題を建築士が対応するという流れが想定できそうです。
マンション形態別における外部専門家の活用状況は?
続いて、マンション形態別の外部専門家の活用状況についてみてみましょう。
こちらについて、単棟型においては、以下の傾向があります。
・単棟型全体平均で見れば建築士が割合的には多い
・20階以上のタワーマンションは弁護士が多く、管理業務主任者が続く
・一方で活用したことがないと答えた管理組合が20階以上を除くと半数以上
ソフト系はまずは管理業務主任者、ハードは建築士に相談する流れが出来ているようです。
また、団地型においては以下のような傾向です。
・管理業務主任者は単棟型と比べて少ない
・一方で、活用したことがないという回答は単棟型に比べて少ない(51棟以上の例外除く)
団地型については、すでに取り組み方針が決まっていることから、相談は専門的な弁護士や建築士等に行うことが多いのでしょう。
また、管理会社に外部委託していない、または一部委託のマンションも想定され、管理業務主任者に相談するという点が少ないのかもしれません。
マンション管理士が果たすおもな役割は?
管理組合の専門家活用の傾向を確認したところで、続いて各専門家の役割について確認します。
まずは管理組合として気軽に相談できる顧問としての立ち位置でもあるマンション管理士について、おもな役割を紹介します。
管理組合の立場からの客観的な助言
マンション管理士は、知識やノウハウが乏しい管理組合に対して助言や支援する立場にあるといえます。
管理会社からの進言に対して、そのまま採用してよいのか、または他の方法がないのかなど、マンション管理を総合的に考えて管理組合の立場で的確な助言が必要になります。
そのため、自分の思い込みや、管理組合または管理会社のどちらかの意見に寄りすぎるような主観的なものではなく、管理組合にとって良い対策となる客観的な助言が求められるといえるでしょう。
管理組合における課題の解決役や専門委員会等のファシリテーター
前述の通り、管理組合にとってよりよい方向感が示せる助言が必要である点とともに、課題の解決策を提案することも重要でしょう。
その際には、一般的な対策ではなく、管理組合に合った個別具体的な解決策が必要といえます。
また、専門委員会等で、専門委員や管理組合役員が討議する際には、その方向性を提示していくファシリテーターとしての役割も重要と言えるかもしれません。
そして、新たな課題を抽出や、次回の委員会に向けての議案準備など、管理組合の課題解決につながる方向性の提示も重要と言えるでしょう。
会社の会議と同様に、管理組合の会議も効率的に、アウトプットが出るようにしていく必要があります。
休日に時間を割いて出席してくれている専門委員や役員の時間を有効活用する観点から、この視点は重要な論点と言えるかもしれません。
規約・細則の変更や規約の解釈、理事会支援等の専門的な対応
ソフト面での実務という点では、管理会社(管理業務主任者含む)の対応になることもありますが、契約外の専門的な内容については、マンション管理士が担うことも考えられます。
具体的には、規約や細則の変更案の作成や、変更前後の対比表、新たな細則の立案が考えられます。
さらに、理事会支援業務としては、最近では管理計画認定制度やマンション管理適正評価制度を採用する管理組合も多くなっています。
そのための書類の準備や不足事項の対応、総会への準備など、管理会社と連携しながら対応することが考えられます。
その他、管理組合の課題に対して、規約の解釈によってどのような対応策が考えられるのかもマンション管理士としては必要な論点かもしれません。
そのためには、区分所有法や標準管理規約の理解を背景とした、管理組合への具体的な対応方法も求められるでしょう。
管理業務主任者が果たすおもな役割は?
続いて、管理組合と最も接することが多い管理業務主任者(フロント担当者)について確認します。
身近に相談できる管理会社窓口
管理組合役員や理事会内で、身近に相談できる立場にあるのが、管理業務主任者の大きな役割ではないかと考えられます。
役員やられている方においては、まずは管理業務主任者である管理会社フロントに相談することが多いでしょう。
管理組合も、管理委託契約を締結している立場であることから、契約内に記載していることは対応してくれるとして、まずは確認することが一般的です。
ソフト、ハードの各専門家へのハブ役
担当者や所属する管理会社が解決できない課題に対して、まずはハブ役として受けることもあるでしょう。
その後、各ソフト、ハードの専門家に相談することになると考えられます。
ソフト系としては、弁護士やマンション管理士、税理士等が当てはまります。
対するハード系としては、建築士や建築コンサルタント会社などが該当するでしょう。
対応のフィードバックはハブ役のフロント担当者から行われることもありますが、専門的な事項の場合は、各専門家が出席して、管理組合に直接説明することも多くあります。
管理組合に対する4つの独占業務の実行
管理業務主任者には、管理組合に対して行うべき4つの業務があります。
具体的には、
・重要事項説明書の記名
・管理受託契約書の記名
・管理事務に関する報告
の4つが該当します。
これらは、管理業務主任者という専門的な立場として義務的に対応する必要があります。
一級建築士が果たすおもな役割は?
施設や設備等のハード面の専門家である、一級建築士が管理組合に対して果たすおもな役割も紹介します。
マンションの場合は鉄筋コンクリートであり、延べ面積も大きくなることから、一級建築士の範囲であることが一般的です。
そのため、マンション管理に関わる一級建築士としての役割を紹介します。
※当研究室に関与している一級建築士に内容確認済
設備や施設等の普段の修繕における助言
特に高経年マンションにおいては、日々マンション内の設備や施設内の劣化が発生しています。
また、修繕としてどのような対応が望ましいのか、管理組合内ではすぐに判断できないこともあるでしょう。
さらに、タワーマンションをはじめとした大規模マンションにおいては、設備機能がますます高度化しており、一筋縄ではいかない対応が必要となります。
そのため、状況の確認や対応策においては、一級建築士に確認することにより、少なくとも一次対応は可能であると考えられます。
大規模修繕工事における設計監理業務やコンサルタント
管理組合において一大イベントともいえる大規模修繕工事は、必ずと言っていいほど一級建築士が関わることとなります。
直接的に責任施工方式で実施する場合であっても、元請け側には一級建築士が対応することとなります。
一方の、設計監理方式で実施する場合は、管理組合と直接設計監理を担当する一級建築士が関わることとなります。
こちらは大規模修繕工事において、工事の進行状況や設計図通りに工事が実施されているか等、細かなチェックを行うため、非常に重要な役割を占めることとなります。
また、大規模修繕工事に関して、設計監理迄は実施しないまでも、大規模修繕委員会に出席して助言を行うコンサルタントとしても、一級建築士が対応することが多いでしょう。
長期修繕計画の策定や見直し
将来的なマンションの修繕計画の立案も、一級建築士が行うことが考えられます。
こちらも、管理会社と締結する管理委託契約に含まれている場合は、管理会社経由で一級建築士事務所や社内の一級建築士等が対応する場合も考えられます。
しかしながら、管理委託契約に含まれていない場合や、管理会社が対応できない場合等、管理組合側から長期修繕計画の立案が可能な一級建築士事務所に直接発注することも考えられます。
また、現在は長期修繕計画は30年以上のものを立案するとともに、国土交通省が長期修繕計画のひな型で定めている推定修繕工事項目の19項目が含まれていることが望まれます。
さらに、5年程度ごとの長期修繕計画を見直すことも推奨されているため、定期的に計画を確認するとともに、見直しが必要となってきています。
その場合には、定期的なサイクルで一級建築士とのかかわりを持つことも出てくるでしょう。
管理組合が各専門家を採用する際に気を付けておくべき点は?
各専門家のおもな役割について紹介しました。
これらの専門家と関わる際に、管理組合として気を付けておかなければならない点にはどのようなことが考えられるのか、最後の章で紹介します。
各専門家を起用する時は必ず総会で選任する
管理組合役員の知り合いがいきなり理事会に入ってきて、専門家として就任するということは考えづらいでしょう。
また、管理組合としても、そのようなケースは避けるべきであると考えられます。
さらに、管理会社の担当者が専門家を連れてきて、即採用するということも考えづらいことです。
そのため、その方を管理組合に迎え入れる専門家として採用してよいのかどうか、判断する必要があるでしょう。
判断としては、理事会決議を経て、総会に諮って承認を得る手続きが一般的です。
その際には過去の専門家としての実績を確認することも重要となります。
利益相反行為に当たらないかを確認する
総会承認を経て専門家として理事会や総会、さらには委員会等に関わるようになった場合、その専門家の系列企業や近い業者に発注することについても注意が必要です。
いわゆる利益相反行為に当たるかどうかという視点です。
専門家は本来管理組合の利益になるために、管理組合としてはその方への報酬を払って迎え入れていることとなります。
仮に、専門家に親しい外部業者に発注した場合は、裏側で外部業者から専門家に対するバックマージンが支払われている可能性も否定できません。
また、費用を払うという管理組合の行為に対して、受注した業者だけではなく専門家も通常報酬以外の追加利益を受けることを、専門家自らが誘導しているかもしれません。
このように、専門家ら自ら外部の業者を紹介する等の行為については、管理組合としては慎重に扱う必要があります。
しかしながら、利益相反行為については、絶対にNGという訳ではありません。
さらに、実際に利益相反行為になっているのか分からない場合もあります。
そのため、管理組合の判断として、他を探すよりも有効であれば、採用するという判断もあり得るでしょう。
不適切コンサルタントの存在に注意する
設計監理コンサルタントにおける、いわゆる不適切コンサルタントの存在について国土交通省が警戒を呼び掛けたことがありました。
前述の通り、バックマージンを貰っているかどうかは、管理組合としてはなかなか見分けるのは難しいかもしれません。
しかしながら、あまりにも安い値段であったり、特定の業者を推奨する等の怪しい動きがある場合は、警戒すべきであり、さらには契約解除を速やかに検討することも必要です。
外部管理者として起用する際にも注意する
管理組合によっては、専門家が転じて、外部管理者に就任する可能性もあるかもしれません。
その場合は外部管理者方式のタイプにもよりますが、外部専門家として理事長になったり、監事になったりする可能性もあります。
利益相反と同じ考え方ですが、役員という責任ある立場になった場合には、専門家の有利になるような誘導行為も考えられます。
もちろん、外部管理者として採用するにも総会決議等、一定のハードルはあるものの、管理組合に損失を被るような発注が行われないよう、注意する必要があります。
管理組合として専門家を有効活用することでマンションの価値を高めることも可能
今回は、マンション管理士、管理業務主任者、一級建築士の各専門家にフォーカスして、各役割を紹介しました。
また、各専門家の得意分野においては、今回紹介した以外にもまだまだ考えられます。
管理組合としては、専門家を有効活用することで、マンション管理の質の向上、さらにはマンション全体の価値を高めることも可能となるでしょう。
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