管理会社と管理組合で締結する管理委託契約で、複数年契約は可能なのだろうか…?
さらに、
管理委託契約や重要事項説明を受けるのが手間なので、自動更新することは可能なのだろうか…?
また、
管理組合にとって、管理委託契約締結の際に不利となる条件や同一条件とはどういう条件なのだろうか…?
このように、管理会社と管理委託の際に締結する管理委託契約書において、管理組合としても疑問が多いと思います。
今回はこのような管理委託契約締結の際に、管理組合として注意しておきたい内容を中心に、マンション管理士である筆者が具体的に紹介します。
管理会社との管理委託契約は複数年契約OK?自動更新はNG?
今回紹介する内容は以下の通りです。
・毎回契約締結や重要事項説明を省いて自動更新を行うことは可能か?
・管理委託契約締結の際に管理組合にとって同一の条件や不利になる条件は?
契約を締結する際に、管理組合としてはどのような取り決めがあるのか、なかなか分かりづらい点もあるでしょう。
また、そのまま管理会社から提示された契約書を信じて締結してよいのか、マンション管理や契約についてあまり知らない管理組合、さらに役員としては不安もあるかと思います。
このような疑問や不安に対して解消できるように、各章で契約の際の注意事項を具体的に紹介します。
管理会社との管理委託契約において複数年契約は可能か?
まずはじめに、管理会社との管理委託契約において2年や3年等、複数年の契約が可能なのかどうか確認しましょう。
管理委託契約における複数年契約は可能か?
結論からですが、複数年契約の締結は可能です。
また、多くの管理組合では単年度契約を締結している所が多いと考えられますが、管理会社と複数年契約を締結している所も見られます。
さらに、国土交通省が定める管理委託契約書のひな型である、マンション標準管理委託契約書には、第22条に契約の有効期間の記載があります。
ここでは、年月を入れる箇所が〇〇となっています。
また、国土交通省のマンション標準管理委託契約書コメントでは次のように記載されています。
このように、有効期間については自由に定めてよいということになります。
従って、必ずしも1年という訳ではありません。
しかしながら、毎年総会に諮ることで管理委託契約が適切なものであるのか、管理組合で検討するのが望ましいでしょう。
次項以降で複数年契約のメリットやデメリットについても具体的に紹介します。
複数年契約のメリットは?
管理組合として、複数年契約を締結するメリットはどのような所にあるのでしょうか?
具体的には以下のようなメリットが考えられます。
・毎年の総会議案として契約締結を決議する必要がない
・重要事項説明や契約書のチェックが不要
※管理組合として契約締結が不利な場合は区分所有者に対する重要事項説明会の開催も必要
複数年の間、毎年の契約金額が一定になる
管理組合にとって、複数年の間、契約金額としての管理委託料が変わらないのは、収支が読みやすくなり好都合でしょう。
また、値上げしないという点では支出が抑えられるという効果も生まれます。
その結果、長期安定的なマンション管理に繋がることが期待できます。
毎年の総会議案として契約締結を決議する必要がない
あらたに管理委託契約を締結するためには、総会による決議が必要です。
また、契約の更新がないことから、毎年の総会においてこの議案がなくなることとなります。
そして、議案が減れば管理組合としても決議事項が少なくなるため、スムーズに総会が進行することが期待できます。
重要事項説明や契約書のチェックが不要
有利もしくは同一条件の場合は、担当の管理業務主任者(フロント)に対する、理事長に対する重要事項説明で済みます。
あとは、重要事項説明書を全区分所有者へ配布する必要があります。
一方で、管理組合にとって不利になる場合は、区分所有者に対する重要事項説明会が必要となります。
そのため、重要事項説明への対応が不要となります。
また、契約書面も変更になることから、その精査やチェックも不要となるでしょう。
結果的に理事会や役員の手間も省けることとなります。
複数年契約のデメリットは??
一方で、複数年契約を締結する際のデメリットについてです。
・管理会社との契約内容が果たして適切なのか毎年のチェックが働かなくなる
メリット同様にデメリットも具体的に見ていきます。
複数年の契約が継続することによる管理会社との契約内容に縛りが発生する
管理会社との契約が複数年継続することが前提で、契約条件が縛られることとなります。
契約変更を行う場合は、改めて契約締結を行う必要があり、総会開催が必要となります。
また、定時総会のタイミングではない場合、臨時総会決議が必要となるでしょう。
これによって、かえってひと手間掛かることとなります。
管理会社との契約内容が果たして適切なのか毎年のチェックが働かなくなる
複数年契約でそのまま継続すると、毎年更新する場合と比べ、契約内容のチェックが働きづらくなります。
また、実際に管理組合としても総会を開催して検討する機会が減ることとなります。
毎回契約締結や重要事項説明を省いて自動更新を行うことは可能か?
契約の内容が変わらないのであれば、これまでの契約書のままで自動更新条項を入れたらどうか?という疑問もあるでしょう。
自動更新は果たして可能なのでしょうか…?
管理委託契約の自動更新は可能?
結論ですが、管理委託契約書の自動更新はできないこととなっています。
理由は以下の通りです。
・しかしながら、ひな型である標準管理委託契約書の第22条には自動更新可能な旨が定められていない
・自動更新は同一の契約であると解釈する場合、同一条件で契約を更新する場合は管理者(理事長)に対する重要事項説明と全区分所有者への重要事項説明書の配布が必要
・規約のひな型である標準管理規約では管理委託契約の締結は総会決議
となることから、実質契約の更新は総会による決議が必要であるとの判断となるためです。
実はかつては自動更新は可能だった!
国土交通省のホームページには、平成15年4月9日付の内容として「マンションの管理委託契約に係る標準管理委託契約書について」という内容が残っております。
そこには、マンション標準管理委託契約書の改訂概要として
と記載がありました。
また、改訂以前は重要事項説明もなく、管理会社の書面に従う形で管理組合は対応していました。
2000年のマンション管理適正化法の施行を含め、管理組合に向いた形となったと考えられます。
管理委託契約締結の際に管理組合にとって同一の条件や不利になる条件は?
管理委託契約締結の際に管理組合が不利になる条件や、同一の条件の場合があります。
それぞれのケースを確認してみましょう。
管理委託契約における同一の条件とは?
同一の条件について、こちらもやや古いですが、平成14年2月28日に国土交通省から
「マンションの管理の適正化の推進に関する法律第72条に規定する重要事項の説明等について」
という書面が出されています。
同一の条件の定義は?
その書面の中には、「従前の管理受託契約と同一の条件」として、以下のような定義があります。(一部分かりやすいように修正しています)
①従前の管理受託契約と管理事務の内容及び実施方法を同一とし、管理事務に要する費用の額を減額しようとする場合
②従前の管理受託契約に比して管理事務の内容及び実施方法の範囲を拡大し、管理事務に要する費用の額を同一とし又は減額しようとする場合
③従前の管理受託契約に比して管理事務に要する費用の支払いの時期を後に変更(前払いを当月払い若しくは後払い、又は当月払いを後払い)しようとする場合
④従前の管理受託契約に比して更新後の契約期間を短縮しようとする場合
⑤管理事務の対象となるマンションの所在地の名称が変更される場合
同一の条件の解釈は?
それぞれの説明について、具体的に見てみると、
②契約内容を管理組合のために広げるものの、金額は同一もしくは安くする
③費用の支払時期を遅らせる(管理組合の資金繰りが良くなる効果)
④契約期間の短縮
⑤マンションの名称変更
ですが、同一の条件は①②⑤であり、有利な条件は①②③④が該当すると考えられます。
管理組合にとって同一もしくは、有利な条件となる場合が「同一の条件」に当てはまります。
「契約期間の短縮」は一見して管理組合が有利なのかと考えられますが、逆に管理会社側からすると、ビジネス上長期継続的な契約をしたいと考えるでしょう。
その逆であるということは「管理会社にとって不利」になるということです。
そのため「管理組合には有利」と解釈することができます。
管理組合にとって不利な条件とは??
同一の条件に当てはまらないものが、管理組合にとって不利な条件になると考えておいてよいでしょう。
具体的には、
・契約内容を管理組合のために広げるものの、金額は高くなる
・費用の支払時期が早まるような変更(管理組合の資金繰りが悪くなる)
・契約期間の長期化(1年契約を2年契約にするなど)
が該当するかと考えられます。
そして、不利な条件となる場合は、重要事項説明会を開催し区分所有者に説明の機会が必要となります。
各管理組合において、同一の条件(有利)なのか、不利な条件なのかは管理会社との契約締結において細かく見ていく必要があるでしょう。
自らの管理組合を守るために、管理委託契約をしっかり確認したい
管理委託契約を締結すると、その契約期間は管理会社との契約に縛られます。
また、管理委託費も固定されてしまうこととなります。
重要事項説明書もよく確認しながら、契約内容と金額を含め管理組合にとって不利になっていないか、入念に確認する必要があるでしょう。
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