― 住宅ローンと火災保険は、すでにあなたのマンションを“スコアリング”している ―
「マンションの価値を決めるのは『立地』がすべて。そんな時代は、金融機関や保険会社の水面下での動きによって、今まさに終わりを迎えようとしています。
2026年。私たちが直面するのは『売れる・売れない』という個人の主観ではありません。住宅ローンや火災保険の実務では、区分所有者個人の属性だけでなく、マンションという「管理組合(団体)」の状態そのものが同時に評価され始めています。銀行からは『融資条件の悪化』、保険会社からは『引受条件の厳格化』というかたちで、個人と団体の双方が金融インフラから“二重にスコアリングされる時代”に入ったのです。
本稿では、FP1級・マンション管理士の視点から、不動産市場で静かに起きている『金融適格性』という新たな格差の正体を解き明かします。あなたの資産が、ある日突然『市場のブラックリスト』に載らないために、今知っておくべき真実を網羅しました。
※本稿で用いる「金融不適格」とは、制度上の適否を指すものではありません。住宅ローンや保険の金融実務において、評価条件が不利に働き始め、選択肢が狭まりつつある状態を示すための便宜的な表現であり、横浜マンション管理FP研究室が実務分析のために独自に整理した概念です。
なぜ今、銀行はマンションの「管理」をスコアリングし始めたのか
住宅ローンの審査といえば、「借りる人の属性(年収・勤務先)」が主役でした。しかし、昨今の建築コスト高騰を受け、銀行は「物件そのものの寿命」に厳しい目を向け始めています。
融資審査の裏側:担保評価に加味される「管理計画認定制度」の影
2022年にスタートした「管理計画認定制度」は、単なる行政上の認定にとどまらず、金融機関にとって一定の評価材料として参照されるケースが出てきています。
銀行にとって、ガバナンスが著しく弱いマンションは、長期融資期間中に資産価値を維持できないリスクを抱えた物件と評価されやすくなります。既に一部の金融機関では、認定を取得しているマンションに対し金利を優遇する一方、認定基準から大きく逸脱する物件については、一般論として、金融機関が担保価値や将来の再販性をより慎重に評価することは十分に考えられます。
【あわせて読みたい】 住宅ローン審査の現場で、一定の評価材料として扱われるケースがある「公的なお墨付き」について、その制度の位置づけと実務上の考え方を解説しています。
フラット35の基準変更が示唆する「国の本音」
「フラット35」では、一定の技術基準や維持管理状況を満たすことが、融資可否や金利引下げ制度の適用条件として位置づけられています。これは、住宅の長期的な品質や資産価値を重視するという、国の住宅政策の方向性を反映したものといえるでしょう。
制度として「管理不全マンションを排除する」と明示されているわけではありませんが、公的融資がどのような物件を想定して設計されているかは、民間金融機関が融資判断を行う際の参考情報になり得ます。
今後、立地条件が良好であっても、維持管理や修繕計画の面で評価が伸びない物件については、融資条件の判断が慎重になるケースが増える可能性は否定できません。
― ここからは「団体評価」が、どのように「個人の家計」に跳ね返るかを見ていきます ―
火災保険料の格差。「管理が良い」は家計を守る盾になる
家計の専門家であるFPとして、最も警鐘を鳴らしたいのが「火災保険料の高騰」です。
水災リスク細分化の先にある「物件別リスク評価」
2024年に導入された「水災リスクの所在地別細分化」により、火災保険では立地条件がこれまで以上に重視されるようになりました。現時点で、建物ごとのメンテナンス状態によって料率が制度的に細分化されているわけではありませんが、事故履歴やリスク評価を踏まえた引受判断が、より慎重になっていることは確かです。
例えば、屋上の防水工事を15年以上放置しているマンションと、計画通りに実施しているマンションとでは、漏水事故のリスク評価は大きく異なります。保険会社にとって、漏水は保険金支払いに直結する代表的な事故類型であり、リスクが高いと判断される物件については、保険料条件の見直しや、引受条件の厳格化が行われるケースがあります。
更新のたびに突きつけられる「管理の通信簿」
火災保険の更新のたびに、その時点の評価に基づいて保険料が見直されます。建物の劣化状況や事故履歴などを踏まえ、結果として保険料が上昇した場合、その影響を直接受けるのは管理費会計です。
本来、修繕積立金は火災保険料の支払いに充当すべきものではなく、管理費の不足が続けば、管理費の値上げや、管理水準そのものの見直しを迫られることになります。こうした判断を先送りすれば、管理組合の財務とガバナンスの両面で、じわじわと負担が積み上がっていきます。
【あわせて読みたい】 管理不全による保険料の高騰を防ぐため、今すぐ理事会ができる「補償内容の見直し」と「プロとの交渉術」については、こちらの実務ガイドをご参照ください。
【独自分析】「金融不適格」がもたらす出口戦略の崩壊
「自分は永住するから関係ない」と考えるのは、FPの視点からは極めて危険な判断です。
買い手がローンを組めない=流動性の死
物件が「ローン不適格」とみなされていたら、将来の売却時にターゲットは「現金一括で買える富裕層」のみに限定されます。必然的に売却価格は大幅に買い叩かれ、それは近隣の類似物件との比較ではなく、「そのマンション自体が持つ金融的な欠陥」に対するペナルティとなります。
制度上「管理不全だからローン不可」とされるわけではありませんが、物件の担保評価や再販性が著しく低下すれば、結果としてローンを使える買い手が限られていきます。
あなたのマンションが「金融不適格」にならないための3つの点検項目
ここで言う「金融不適格」とは、法律用語ではありません。住宅ローンや保険の実務において、「条件が悪化する」「選択肢が狭まる」という、市場から選別され始めた状態を便宜上そう呼んでいます。
あなたの資産を「金融不適格」にしないために、理事会が今すぐ確認すべき3つのポイントを深掘りします。
長期修繕計画の「実効性」と「建築コストインフレ」への対応
単に長期修繕計画書が「存在している」だけでは、十分とは言えません。近年の建築コスト高騰(2021年比で約20〜30%増)を踏まえ、実勢価格を反映した見直しが行われているかが重要になります。
例えばフラット35では、長期修繕計画について「計画期間が20年以上であること」など、形式的な要件が示されていますが、これはあくまで融資制度上の最低条件に過ぎません。
金融機関の実務においては、10年以上前の物価水準で作成された計画書が、そのまま将来の維持管理を担保するものとして評価されるわけではなく、実効性の乏しい計画とみなされる可能性があります。
管理費・修繕積立金の「滞納率」とガバナンス
管理費や修繕積立金の滞納状況は、管理組合のガバナンスを判断するうえで重要な参考情報の一つです。管理計画認定制度では、修繕積立金について「年間徴収額に対する滞納額が10%未満であること」が基準とされていますが、管理費については数値基準が設けられていません。
金融機関の融資判断においても、特定の滞納率をもって一律に評価が下されるわけではありませんが、滞納が常態化している場合には、管理体制や意思決定能力を慎重に見られる要因になり得ます。
修繕積立金の「適正単価」と「隠れ債務」の解消
FPの世界では、将来必要な支出を意図的に先送りすることを「隠れ債務(オフバランスの負債)」と呼びます。 目先の負担を減らすために安すぎる積立金を維持しているマンションは、まさにこの「隠れ債務」を膨らませ続けている状態です。
【あわせて読みたい】 あなたのマンションの積立金が「隠れ債務」になっていないか?FPが教える適正額の判定基準と、不足を解消するための3つのステップはこちらです。
特に注意が必要な「小規模マンション」のリスク
金融機関による融資判断や保険引受の厳格化が相対的に影響しやすいのが、戸数30戸以下の小規模マンションです。
もっとも、戸数が少ないこと自体が直ちに不利に働くわけではありません。築年数が浅く、長期修繕計画や管理体制が適切に整っている小規模マンションであれば、金融実務上も特段の問題が生じることは通常ありません。
一方で、高経年化が進み、修繕積立金が不足し、管理会社との契約維持が困難になっている小規模マンションでは、1戸あたりの負担増や管理水準の低下が連鎖しやすく、結果として金融機関や保険会社から慎重な評価を受けるケースが出てきます。
こうした条件が重なった場合、買い手が利用できる金融商品が限定され、資産としての流動性が急激に低下するリスクがある点には注意が必要です。
【あわせて読みたい】 金融機関からの視線が特に厳しくなる「小規模マンション」が直面する固有のリスクと、2026年に生き残るための具体的な対策については、こちらの記事で深掘りしています。
まとめ:2026年、マンションの資産価値を決めるのは「組織の信用」である
マンションの資産価値を守ることは、管理組合という「組織」の信用を守ることと同義です。金融実務の世界では、評価されるのは区分所有者個人でありながら、その前提条件を握っているのは管理組合という団体です。この「評価と統制のねじれ」を放置したマンションほど、金融不利に陥りやすくなります。
買い手がローンを組めず、所有者が高い保険料に苦しむ……そんな未来を避けるために、今、理事会は「管理という金融的信頼」を数値で示さなければなりません。
しかし、担い手不足や専門知識の欠如により、自力での改善が困難な組合が「金融不適格」を脱するための唯一の道は、意思決定にプロの知恵を入れることです。
【解決策はこちら】 自力運営の限界を超え、金融インフラから「適格」と評価される体制を整えるための究極の解決策、「第三の管理(外部脳)」の導入手順はこちらで公開しています。
まずは自社のマンションが、金融インフラからどう見えているのか。客観的な「点検」から始めてみてはいかがでしょうか。






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