現在管理組合で修繕積立金が足りないから、銀行借り入れを検討している
または、
大規模修繕工事を行う必要があるものの、余裕を持ちたいので借入は検討できないだろうか…?
そして、
大規模修繕工事に関する融資にはどのようなものがあるか知りたい…
このような疑問を持っている管理組合役員や大規模修繕委員も比較的いることでしょう。
今回は、このような疑問に応えるべく、実際に大規模修繕工事における借入に関与したことがあり、財務にも詳しい筆者が、管理組合における銀行借入や、おもな金融機関、そして借入方法や注意点について紹介します。
管理組合が銀行借入をするのはどのような場合?【メリットと注意点】
今回紹介する内容は以下の通りです。
・管理組合が借入をするのはどのような場合か?
・借入可能な金融機関にはどのような所があるのか?
・金融機関からの借入で想定される注意点は?
・管理組合が借入を検討する場合のメリットは?
まずはじめに、令和5年度のマンション総合調査から、管理組合が行っている借入金の傾向について確認します。
さらに、管理組合として借り入れが必要な場合にはどのようなケースが当てはまるか紹介します。
そして、具体的に管理組合が借り入れることができる金融機関や借入のタイプについても紹介します。
最後に、管理組合にとって借入をする場合のメリットや、注意点についても記載します。
管理組合にとって、計画的な修繕積立金計画を立案し、修繕積立金が潤沢にあれば借入をする必要はないでしょう。
しかしながら、長期修繕計画や修繕積立金計画を上手く立てなかったり、どうしても修繕する必要が増えてしまって、借入を検討せざるをえない状況が管理組合にあるのも事実でしょう。
また、借入をする場合には、マンション管理組合として借金を負うこととなるため、注意しなければならない点があるのも事実です。
管理組合が抱きがちなこれらの疑問点について、詳しく紹介します。
令和5年度マンション総合調査からみる借入の傾向は?
管理組合における借入の傾向はどのようになっているのか、令和5年度のマンション総合調査から確認します。
そして、以下について同調査のデータからそのまま参照して紹介します。
大規模修繕工事実施時の工事費調達方法の傾向は?
管理組合における大規模修繕工事時の工事費調達方法は以下の通りです。
重複回答ではありますが、傾向としては、
・民間金融機関からの借入は5.8%
・公的金融機関からの借入は5.3%
・一時金の徴収は1.5%
という割合です。
また、この中には、修繕積立金を使用しながらも、一部借入や一時金の徴収を行っている所がほとんどでしょう。
全額借入で大規模修繕工事代金を賄っていることも考えづらいためです。
そのため、修繕積立金のみで行っている所は、「修繕積立金」から、「不明」と答えた管理組合以外の、「一時金」「借入金」「その他」と回答した数を引いた数である、
(88.4-1.5-5.3-5.8-1.9=73.9)
という推測ができそうです。
その仮説に従えば、約4分の1程度が大規模修繕工事時に修繕積立金以外のなんらかの資金調達を行っていると想定もできます。
なお、マンションの完成年次別の傾向は確認できませんでした。
公的金融機関や民間金融機関からの借入の傾向は?
次に、管理組合は公的金融機関や民間金融機関からどのような借入を行っているのか、確認していきます。
公的金融機関からの借入の傾向
公的金融機関としては、おもに住宅金融支援機構からの借入が考えられます。
前項で公的金融機関からの借入を行ったことがあると答えた62件の内訳が紹介されています。
62件のうち、約9割の55件が工事代金の60%以下の借入という回答でした。
これらは、工事代金で満額足らない分や追加工事で発生した代金などが充当されたと考えられます。
民間金融機関からの借入の傾向
民間金融機関の傾向も見てみましょう。
こちらも前項で民間金融機関から借入を行ったことがあると答えた68件についての内訳が紹介されています。
こちらも68件中、9割弱の58件が工事代金の60%以下の借入という回答でした。
また、公的、民間の金融機関に対する差は無いような傾向があります。
借入金の返済状況は?
そして、長期修繕計画の最終年度時点で、借入金がどれぐらい残っているのかの調査となります。
不明と回答した割合があるので、それを除く割合もカウントすると、
・完済しない見込みが3.1%(同3.4%)
という傾向でした。
ちなみに、自治体が行っている管理計画認定制度の審査基準には、
という基準があります。
借入があっても認定対象外になる訳ではありませんが、長期修繕計画上では最終年度に借入金が無い状態にしておかなければなりません。
管理組合が借入をするのはどのような場合か?
実際に管理組合が借入をするのはどのような場合が当てはまるのか、具体的に紹介します。
前提として、国土交通省が定める標準管理規約では、以下のような条文があります。
第63条 管理組合は、第28条第1項に定める業務を行うため必要な範囲内において、借入れをすることができる。
また、第28条第1項は以下の通りです。
第28条 管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
三 敷地及び共用部分等の変更
四 建物の建替え及びマンション敷地売却に係る合意形成に必要となる事項の調査
五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理
以下、詳細を紹介します。
一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
これは大規模修繕工事やエレベーター、機械式駐車場などの一定年数を経過したごとに修繕する必要がある工事と考えられます。
また、「計画的に」とあるとおり、長期修繕計画に則って計画的に行う必要がある修繕と言えます。
それらの工事をする段階であれば、借入金が可能という解釈と考えられます。
不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
計画的に修繕を進めていたものの、災害等の不測の事故によって、共用部分を修繕しなければならないケースももちろんあるでしょう。
そのような場合は、借入を充当して修繕することも考えられます。
敷地及び共用部分等の変更
大規模修繕工事において実施する区分所有者の生活に直接影響する共用部分以外でも、マンション内敷地の工事や、集会室等共用部分の工事も行う必要があります。
その場合においても、借入金を使って実施することができます。
建物の建替え及びマンション敷地売却に係る合意形成に必要となる事項の調査
将来的な建替えやマンションを解体して敷地の売却を検討する場合、合意形成が必要となります。
また、その場合には、事前調査が必要になり、その調査事項等の費用も発生します。
そこに借入金を充当することができるというものになります。
その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理
上記の各項には該当しないものの、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理であれば、借入金を充当することができるとしています。
上記に該当しない例として
・敷地外であっても区分所有者の利益に寄与する事項
などが当てはまりそうです。
管理費で充当する費用に対する借入はできない
標準管理規約第63条には、第28条第1項に当たる部分のみ借入ができると記載がありました。
すなわち、それ以外の費用支出である、おもに管理費から支出している費用には充当できないこととなります。
最近では保険料の支払いが高額になる傾向にありますが、借入金を充当して保険料に当てることはできないということになります。
また、滞納金が多くなって管理費に影響を与える場合も借入金から充当できないこととなります。
管理費は短期の支払いであり、修繕積立金は長期的な視点からの支払いです。
管理組合に対する借入金の使途として、長期的な視点に立って必要な分に充当することができ、短期的なものには充当できないということです。
その理由としては、そこに当てることができるとなると、管理組合の資金繰りにおける自転車操業を許してしまうこととなり、資金計画の改善が行われず管理組合破綻への道を推奨してしまうことにもなりかねないからです。
原則、修繕積立金勘定に借入金が入金され、そこから支払う費用について支出が可能となります。
もちろん、管理費と修繕積立金が区分経理されていることは大前提となるでしょう。
借入可能な金融機関にはどのような所があるのか?
管理組合が借り入れることが可能な金融機関には、どのような所があるのでしょうか。
まず思いつくところは住宅金融支援機構ですが、その他の金融機関も含めておもな融資を4つ紹介します。
住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資
公的な金融機関である、住宅金融支援機構のサービス「マンション共用部分リフォーム融資」が最も一般的だと考えられます。
おもな内容としては、以下の通りです。
・内部のエレベーター工事やオートロック設置などにも対応
・固定金利が適用
・管理組合法人やそうでない管理組合など法人格の有無を問わない
などです。
また、管理組合としては
・総会での工事実施、借入の実施、借入を修繕積立金に充てるなどの決議
・管理規約で修繕積立金を管理費に充当できる定めがない
・管理費と修繕積立金の区分経理がなされている
・修繕積立金が定期的に積み立てられ適切に保管され、滞納割合が10%以内
など、マンションにおける管理状態が整っていることが必要です。
そして、こちらの融資のメリットは
・耐震改修、浸水対策、エネルギー対策工事の倍は金利を年0.2%引き下げ
・マンションすまい・る債の積立と併用で年0.2%引き下げ
・管理計画認定取得により年0.2%引き下げ
となっています。
セゾンファンデックスのマンション管理組合ローン
次に紹介するのが、クレディセゾングループの株式会社セゾンファンデックスが手掛ける企業による、大規模修繕工事用のローンです。
融資内容としては、
・修繕積立金滞納割合が多くてもOK(一定の基準あり)
・工事見積取得前OK
・融資額は100万円~5億円
・融資は変動、固定が可能で
変動:2.80%~3.80%
固定:3.80%~6.65%
となっています。また、こちらの特徴としては、
と紹介があるものの、金融機関が良い場合であっても、管理規約の定めによっては前章で紹介したとおり、管理組合として対応できない可能性がある点に注意が必要です。
三菱電機フィナンシャルソリューションズのマンション共用部リフォームローン
三菱電機グループが手掛ける、大規模修繕工事などの共用部分の工事を行う際に利用できるローンです。
具体的な融資内容としては
・融資金利は長期プライムレート+0.5%~3.0%(固定金利・残債方式)
・返済期間は1年~10年(12回~120回)
・担保や保証人、保証料不要
・マンションの法人格の有無は問わない
となっています。
また、対象工事としては、大規模修繕工事で行われる内容や、玄関ドア・サッシ交換、耐震免振工事、エントランス改修など、幅広く対応しているようです。
福岡銀行 FFGマンション共用部分リフォームローン
地銀である福岡銀行が実施している共用部分のリフォームのためのローンです。
そして、おもな融資内容としては、
修繕積立口座を指定、規約の整備、代表者がマンションに居住している、借入の総会決議等
・融資限度額は工事費の80%または150万円×住宅戸数のうちいずれか少ない金額
・返済期間は10年以内
・固定金利であるが、変動金利もあり
・管理組合の法人格の有無は問わない
・無担保、無保証人、保証料不要で借入可能
となっています。
金融機関からの借入で想定される注意点は?
管理組合として借入を検討するにあたって、注意すべき点も存在します。
また、今回は先に注意点を紹介して、最後の章でメリットも添えたいと思います。
管理組合として借金を負うこととなる
管理組合として借入金を負うことで、ネガティブに捉えてしまうこともあるでしょう。
もちろん、借入がなく大規模修繕工事ができればよいですが、
・工事を適切に行わずに資産価値が低下しているものの、借入金がない管理組合
どちらが選択肢に入るでしょうか。
筆者はとある金融機関に問い合わせたことがありますが、借入金が管理組合の資産価値低下を伴うものであるかということに対する回答は
一概には言えない
ということでした。
もちろん、商売なので不利な回答をしたくなかった…ということもあるかもしれませんが、順調に返済を行い、適切に修繕積立金を積み立てていくことが重要になります。
返済負担が金利動向に左右される
将来の金利動向を予測することは難しいですが、変動金利で借入を行っている場合は、将来的に金利が上がる可能性も考えられます。
それによって、借入利息の支払いが増加し、管理組合の財政に一定の影響を与える可能性があります。
無借金の管理組合ならこの負担も当然ありませんが、借入の場合は金利負担が強いられる可能性もあるでしょう。
将来の修繕積立金の値上げの可能性もある
借入の返済を行うことで、修繕積立金が適切に残らない場合も考えられます。
それによって、次回の大規模修繕工事の遅延も想定されるかもしれません。
また、それを埋めるべく、管理組合として修繕積立金の値上げを検討する可能性もあるでしょう。
現在の世の中的な物価や人件費の高騰もあって、借入をする、しないに関わらず、修繕積立金を値上げする管理組合は多くなっています。
特に評価が高い、自治体の管理計画認定制度で認定取得したマンションや、マンション管理業協会によるマンション管理適正評価制度で高得点のマンションは、おおむね将来を見据えて値上げしている所が多いと聞きます。
そのため、修繕積立金の値上げはネガティブなことではなく、将来に備えての適切な修繕積立金計画であるとも言えるでしょう。
管理組合が借入を検討する場合のメリットは?
管理組合が金融機関から借入をするということは、借金を負うということで、ネガティブにもとらえられがちです。
しかしながら、メリットも存在するので、考えられる点について紹介します。
適切なタイミングで修繕工事が実施できる
管理組合が金融機関からわざわざ借入をする一番のメリットはこの適切なタイミングで修繕工事が実施できることではないでしょうか。
そして、管理組合としては長期修繕計画に従って、適切なタイミングで大規模修繕工事を実施することが望まれます。
しかしながら、なんらかの事情で修繕積立金が足らない場合は、工事費を補填するための資金が必要となります。
管理組合から修繕一時金を徴収したり、資金が貯まるまで大規模修繕工事を先延ばしにするという選択もありますが、その双方を回避できる手段であるともいえます。
つなぎ融資として活用できる
つなぎ融資とは、その名の通り、次の収入までの間をつなぐための融資です。
具体的には、修繕積立金はあるものの先に支払いを行う必要があり、支払い後に補助金等のなんらかの形で収入が見込めるなど、資金が無くならないように残高を保つための融資ともいえます。
さらに、将来的に入金の見込みがあるのに、本来実施すべき修繕をすることができないということがあると、管理組合としても不幸でしょう。
そのため、工事は実施して先に支出はするものの、その後に補助金予定があったりする場合には検討できる手段です。
場合によっては有利な金利で借入ができる
自治体の管理計画認定制度で認定を取得しているマンションに対して、金融機関によっては金利を優遇している所もあります。
また、先ほど紹介した住宅金融支援機構が行うマンション共用部分リフォーム融資のとおり、マンション管理計画認定の取得により、管理組合が借入する融資金利を年0.2%引き下げる対応を行っています。
借入は長期修繕計画や修繕積立金計画を適切に立案して実施する
今回はマンションが借入をするのはどのような場合か、令和5年度マンション総合調査のデータをもとに、おもな借入の際の資金使途や、金融機関、借入の際の注意点やメリットについてご紹介しました。
繰り返しになりますが、金融機関から借入を行う際には、管理組合として負担を伴う反面、適切な工事タイミングの実施やつなぎ融資で活用するなど、うまく利用すれば管理組合にとってメリットにもなります。
また、管理規約に従えば、多くの管理組合では借入は総会決議となります。
そのため、区分所有者の合意形成がなによりも重要な事項であるともいえるでしょう。
そして、当該記事が少しでも借入検討の参考になれば幸いです。
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