管理組合として考えたいエレベーター改修のポイント【比較表・巻末に音声解説】

マンション管理

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近年、全国のマンションでエレベーター改修に関する検討が急速に進められています。背景には、築20年以上が経過した建物の老朽化に加え、国土交通省によるエレベーター安全基準の見直しや、建築基準法・昇降機関係法令の改正が影響しています。

さらに、近年では「戸開走行保護装置(UCMP)」など、安全装置の設置が実質的に義務化される流れが加速しており、古いエレベーターではリニューアルが必要になるケースが増えています。こうした中、エレベーターの改修は「高額な設備投資」であると同時に、「住民の安心・安全を守るための不可欠な対策」となっています。

本稿では、管理組合が主体的に検討すべきポイントや、費用を抑えるための実践的な視点、安全性・法令対応とのバランスの取り方について、マンション管理士の視点から解説していきます。

エレベーター改修が求められる背景

まずはじめに、そもそもなぜエレベーター改修が求められているのか、その背景を確認しておきます。

老朽化による安全性の低下

築20年〜30年を超えるマンションでは、エレベーターの主要部品(制御盤、巻上機、戸開閉装置など)が経年劣化により不具合を起こしやすくなります。こうした不具合は、利用中の事故リスクだけでなく、突然の停止や故障によって住民の生活に大きな支障をもたらします。国土交通省による「長期修繕計画作成ガイドライン」でも、エレベーター(昇降機設備)の回収については、

✅カゴ内装、扉、三方枠等は12~15年周期で補修
✅全構成機器については26~30年で取替

とされています。

引用:国土交通省 長期修繕計画作成ガイドライン 令和6年6月改訂版より抜粋

法改正による安全基準の強化

2009年9月27日以前に設置されたエレベーターには、UCMPの設置義務はありません。しかしながら、国土交通省としては、重大事故を未然に防ぐための安全装置設置を推奨しており、特に「戸開走行保護装置」の設置は強く求められるようになっています(国土交通省のパンフレットより)。これに対応するためには、既存設備のままでは対応が難しく、多くのケースで「リニューアル=機器の入替」が必要になります。

維持コストの増加

古いエレベーターは、部品の「製造中止」により、部品在庫も徐々に減少することとなります。そのため、エレベーターに合う部品が無くなった場合にはメンテナンスが困難になり、故障時の対応に多額の費用がかかることもあります。また、定期検査や法令点検の基準も厳しくなっており、更新を怠ると維持コストがかえって高騰するという、エレベーター設備を取り換えるよりも高額になってしまうという逆転現象が生じやすくなります。

管理組合が押さえるべき改修の検討ポイント

次に、管理組合が押さえておきたい改修検討のポイントについて紹介します。

現状のエレベーター診断の実施

まず、現在のエレベーターがどの程度老朽化しているのかを、メンテナンスを依頼している専門業者等による「現状診断」で確認することがスタートです。この段階で以下のような情報を整理しましょう。

  • 設置からの年数とメーカー
  • 過去の故障履歴と対応状況
  • 点検報告書や不具合内容
  • 将来的な部品供給の可否

この結果をもとに、「部品交換で対応可能な延命措置」なのか、「全機器取替が必要な段階」なのかを判断します。

メンテナンス業者が客観的な判断ではなく、主観的に全機器取替が必要と判断する場合は、さらに第三者のエレベーターメンテナンス業者に見て貰う事も一つの考え方としてあります。

費用と更新内容の相場を把握する

一般的なエレベーターリニューアル工事は、おおむね1基あたり500万〜1500万円程度が相場とされます。価格に幅があるのは、以下の要因があるためです。

  • リニューアル対象となる部品の範囲(部分交換か全交換か)
  • 制御方式の違い(リレー式、インバータ式など)
  • 館内の台数・機種の種類(非常用含むか否か)
  • エレベーターのかごのサイズ
  • マンションの階数

見積もりを取る際には、1社のみではなく、必ず複数社(3社以上)から相見積もりを取得することが原則です。管理会社任せではなく、理事会や専門委員会で主導して比較検討することが重要です。また、書面による見積もりだけではなく、面談によって、近隣マンションの実績や、会社の方針、工事担当者のスキルや人柄など、多面的な視点からの判断が求められます。

補助金・助成金の活用可否を確認する

エレベーターのリニューアルには、自治体によっては補助金制度が用意されていることがあります。特に、「高齢者や障がい者が多い建物」「災害時に避難困難な立地」などの場合には、条件付きで助成が受けられることがあります。

各自治体の住宅政策課や建築指導課などに確認し、最新情報を収集しておきましょう。併せて、国の補助事業やマンション管理支援制度に該当するかも確認するとよいでしょう。

管理組合主導の進め方と注意点

さらに、管理組合主導でエレベーターの改修工事を進める場合、どのような点に注意すればよいのか、解説します。

情報共有と合意形成の工夫

エレベーター改修は高額な工事になるため、住民の理解と合意形成が不可欠です。総会での決議だけでなく、事前に住民説明会を開催し、工事の目的や内容、コストの妥当性を丁寧に説明しましょう。

また、説明会の際には、工事担当者から直接説明して貰う事が不可欠です。工事の際の注意点や、停止時間や停止期間も、特に高齢者が多いマンションや、高層階に住む住民にとっては大きな関心事となります。

長期修繕計画との整合性を取る

リニューアル工事のタイミングは、あらかじめ作成された長期修繕計画と照らし合わせることが大切です。突然の予算組み替えではなく、計画的に資金を確保しておくことで、組合の財政への影響を最小限に抑えることができます。また、エレベーター改修工事は必ず発生する出来事であることから、劣化状況を見計らいながら、長期修繕計画の見直しの際に必ず注意して見込んでおく必要があります。

もし修繕積立金が不足している場合は、金融機関からの融資や、積立金の見直しといった対策も早めに検討しましょう。

エレベーター改修工事とその後のメンテナンスの考え方

エレベーター改修の際は、改修した業者がその後のメンテナンスを請け負うことも考えられますし、そうでない場合もあります。したがって、改修コストが安くなっても、メンテナンスで高くなるなどのことも考えられますので、「エレベーター改修とその後」を考えながら検討する事求められます。

エレベーター改修業者とその後のメンテナンス業者を同一にするか、別々の業者にするかについては、以下の様なメリットやデメリットが考えられます。

  同一業者に依頼する(セット契約) 別々の業者に依頼する(分離契約)
メリット スムーズな引継ぎ: 交換工事からメンテナンスまで一貫して対応するため、情報共有が円滑で、トラブル時の対応も迅速
責任の明確化: 不具合が発生した際の責任の所在が明確で、対応がスムーズ
パッケージ割引: 一括契約により、費用面での割引が適用される場合がある
競争によるコスト削減: 複数の業者から見積もりを取ることで、コスト削減が期待できる可能性
専門性の活用: 交換とメンテナンスで、それぞれの分野に特化した業者を選ぶことが可能
デメリット 選択肢の制限: 他社との比較が難しくなり、より適したサービスを見逃す可能性がある
コストの不透明性: セット契約により、個別の費用が明確でなくなることがある
責任の分散: 不具合時に、交換業者とメンテナンス業者の間で責任の所在が不明確になる可能性
情報共有の課題: 業者間の情報連携が不足し、対応が遅れる可能性

※筆者調べ

また、エレベーターメンテナンス業者は、メーカー系と独立系があります。

✅メーカー系:三菱電機、日立、東芝、フジテック、日本オーチスなど、エレベーター製造メーカーの系列会社を指す
✅独立系:特定のエレベーターメーカーに属さない保守・点検業者を指す

メーカー系、独立系のメリットとデメリットをまとめましたので、選ぶ際の参考にしてください。

  メーカー系 独立系
メリット 高い信頼性とブランド力: 大手メーカーの系列であるため、技術力や信頼性が高い
純正部品の迅速な供給: 自社製品の部品を迅速に供給できる体制が整っている
最新技術への対応: 自社製品の最新技術やアップデートに対応しやすい
コストパフォーマンスが高い: メーカー系に比べて、保守・点検費用が安価なケースが多い
複数メーカーへの対応: さまざまなメーカーのエレベーターに対応可能で、複数のエレベーターを一括して保守点検できる
サービスの柔軟性: 顧客ニーズに応じたプラン設定や、部分的なメンテナンス、緊急対応など、カスタマイズされたサービスが提供できる
デメリット コストが高め: 開発・製造コストが保守費用に反映されるため、料金が高くなる傾向がある
他社製品への対応が限定的: 自社製品以外のエレベーターには対応できない場合がある
契約の柔軟性が低い: 標準的な契約プランが中心で、カスタマイズが難しい可能性
部品調達に時間がかかる場合がある: 純正部品が入手できず、代替品を使用せざるを得ない場合がある
技術レベルのばらつき: 技術者のスキルや知識に差があることがあり、業者選びが重要
知名度が低い: 大手メーカー系に比べて、知名度やブランド力が劣る場合がある

※筆者調べ

まとめ:安全とコストの両立をめざす改修を

エレベーター改修は、単なる設備更新ではなく、マンションの安全性と快適性を守るための「未来への投資」です。管理組合は以下の点を意識して取り組みましょう。

  • 現状の状態を正確に把握し、必要性を明確にする
  • 相見積もりを取って、適正な費用と工事内容を見極める
  • 合意形成のために丁寧な情報発信と説明を心がける
  • 長期修繕計画と照らし合わせて、資金的な裏付けを確認する
  • 補助金や助成制度など、使える制度を最大限に活用する
  • エレベーター改修とその後のメンテナンスはセットで考える

マンションという共同住宅において、エレベーターの維持管理は全住民の安心・利便性に直結する問題です。「費用がかかるから後回し」ではなく、「いま、適切な備えをする」ことが将来のトラブル回避につながります。管理組合が主体となり、計画的かつ透明な改修を実現することが求められています。

今回のコラムを分かりやすく音声解説

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