大規模修繕工事にいくら必要?各データを基にマンション管理士が解説

マンション管理

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大規模修繕工事っていくらぐらいかかるのだろうか?

また、

現在の修繕積立金で大規模修繕工事は対応可能なのだろうか…?

さらには、

一般的に大規模修繕工事費用にはいくらぐらいかかるのか知りたい…

このような疑問を持つ管理組合役員や、修繕委員も多いと思います。

確かに、実施するとなるとどのぐらい掛かっているのか、確認してみたいですね。

今回は、このような疑問を解消すべく、国土交通省が実施した調査に基づき、調査データについてマンション管理士の筆者が解説します。

大規模修繕工事にいくら必要?各データを基にマンション管理士が解説

今回紹介する内容は以下の通りです。

・令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査の傾向は?
・令和5年度マンション総合調査より大規模修繕工事費用の傾向は?
・2つの調査データから大規模修繕工事の傾向を分析

まず初めに、国土交通省が発表した資料「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」から、データの傾向を見ていきます。

次に、いつも当コラムでは参照している「令和5年度マンション総合調査」より、大規模修繕工事における金額の傾向を確認します。

最後に、これらの2つの大規模修工事に関するデータから、実際の傾向はどのような形なのか、分析してみます。

※以下、国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」「令和5年度マンション総合調査」より引用します。

令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査の傾向は?

国土交通省が発表した、令和3年度のマンション大規模修繕工事に関する実態調査から、工事金額の傾向について確認します。

また、こちらのデータは、マンション管理組合による大規模修繕工事の適切な発注等に資するため、「大規模修繕工事」及び「大規模修繕工事の設計コンサルタント業務」の実態を統計的に整理するものとしています。

調査は、令和3年7月~10月において、マンション計画修繕施工協会(MKS)会員社やマンション管理業協会会員社、その他設計コンサルタント企業に対して実施されています。

具体的に工事金額の部分を中心に抽出して紹介します。

大規模修繕工事の回数と工事金額の関係は?

まず、大規模修繕工事の工事金額の金額帯別分布です。

こちらは、マンションの規模や工事回数に関係なく、金額の分布を表示したものです。

価格帯として多いのは、4,000~6,000万円の所です。

ちなみに、工事代金が1億円以下の割合が56.2%、1億円を超える割合は43.8%となっていました。

続いて、工事回数と工事金額の関係となります。

左から、1回目、2回目、3回目以上の大規模修繕工事に対する金額の分布です。

また、2回目と3回目以上は傾向を捉えにくい点もありますが、1回目よりも2回目の方がグラフのピークが右側に寄っている傾向があります。

すなわち、2回目の工事になると金額が高くなっていく傾向にあります。

ちなみに、工事1回目の中央値が8,665万円、2回目の中央値は7,660万円、3回目以上の中央値は8,703万円となっていました。

回数によって大きな変化はないものの、2回目の工事がやや少ない傾向が見られます。

対する平均値は、1回目が1億5,237万4千円、2回目が1億1,702万7千円、3回目以上が1億4,758万6千円という結果でした。

そして、平均値は、1回目と3回目以上に山がある傾向で、2回目がやや下がっています。

1回目が高いのは、タワーマンションを中心とする大規模マンションが1回目の大規模修繕工事に差し掛かっていることも考えられそうです。

大規模修繕工事の回数と戸あたり工事金額の関係は?

続いて、1住戸あたりの大規模修繕工事金額も見てみます。

こちらも、マンションの規模や工事回数に関係なく集計したデータですが、100~150万円/戸が一番多く、次に75~100万円が多くなっています。

次に、大規模修繕工事回数も加味した戸あたりの金額傾向を見てみます。

こちらは逆に、1回目が一番高く、2回目、3回目と山がやや右側にシフトしています。

また、中央値は、工事1回目が110.2万円、2回目が106.1万円、3回目以上が97.0万円と徐々に金額が下がっています。

平均値については、工事1回目が151.6万円、2回目が112.4万円、3回目以上が106.1万円と中央値と同様の傾向が見られました。

令和5年度マンション総合調査より大規模修繕工事費用の傾向は?

続いて、令和5年度マンション総合調査より、大規模修繕工事の費用の傾向について確認していきます。

管理組合向け調査の中に、「直近の大規模修繕工事で掛かった費用は?」という質問があります。

それに対する管理組合の完成年次別、総戸数規模別、単棟型・団地型の形態別で確認してみましょう。

以下、令和5年度マンション総合調査のデータより引用します。

全体の傾向は?

大規模修繕工事について、データ全体の傾向から見ていきます。

規模を問わない形での確認となりますが、

・不明153件を除く平均額は1億43万円
・大規模修繕費用が1億円までの管理組合は759件、65.0%
・1億円超掛かっている管理組合は255件、21.8%

という傾向でした。

また、2,000万円超~1億円までの件数が676件、占める割合が57.9%と多くを占めています。

ちなみに、不明の13.1%を除くと、2,000万円超~1億円が72.6%、1億円超が27.4%という結果になります。

以下、完成年次や総戸数、単棟型・団地型などの傾向も具体的に見ていきます。

完成年次別の傾向は?

完成年次別の傾向としては、以下の通りとなっています。

工事平均額では、年次が古いいわゆる高経年マンションと、第一回目の大規模修繕工事を実施したと考えられる平成17年~21年が工事費が平均1億を超える高額傾向にあります。

一方で、昭和60年~平成16年までの2、3回目の工事は7~8,000万円台で安定している状況です。

総戸数別の傾向は?

次に、総戸数別の傾向を確認します。

おおむね、総戸数が多くなると金額が高くなるという、分かりやすい傾向になっています。

戸数帯の平均金額を、戸数範囲の中央値(小数点切り上げ)で割ると、戸あたりの平均工事金額は、

・中央値10戸(20戸以下):2,347万円÷平均10戸=234.70万円/戸
・26戸(21~30):3,085÷26=118.65
・50戸(31~50):4,618÷41=112.63
・75戸(51~75):6,345÷63=100.71
・100戸(76~100):7,950÷88=90.34
・150戸(101~150):12,440÷126=98.73
・200戸(151~200):16,169÷176=91.87
・300戸(201~300):25,321÷251=100.88
・500戸(301~500):35,468÷401=88.45

という傾向が出ました。

また、感覚的にも理解できますが、戸数が多いほど、1戸あたりの大規模修繕費用単価が下がっていくことがデータでも分かります。

マンションの形態別の傾向は?

データの最後として、単棟型、団地型のそれぞれの傾向について確認します。

戸数の傾向同様、階数が多いと戸数も増えるため、大規模修繕工事費用も増えていく傾向にあります。

なかでも、20階以上のいわゆるタワーマンションは平均3億560万円ということです。

22件の回答データということで少ないものの、11~19階建の8,281万円と比べると跳ね上がっています。

また、団地型は団地丸ごと1棟ずつ大規模修繕することが多いため、自然と高額になります。

2つの調査データから大規模修繕工事の傾向を分析

各データとして「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」「令和5年度マンション総合調査」の大規模修繕工事の金額に関する点のみ抽出してみました。

双方のデータにおいて、関連性がある点や見られない点もあるようです。

また、それぞれのデータの出所は、前者は企業からであり後者は管理組合からということで、算出における考え方も少し違うのかもしれません。

そのような中で互いのデータから見えた点を紹介します。

1億円超の工事の高額化傾向が一定割合存在

各データより、2000年代後半~2010年代前半に建てられたタワーマンションをはじめとした、大規模マンションが修繕周期的にも第1回目の大規模修繕工事を迎えており、データに反映されている傾向にあります。

そのため、令和3年度、令和5年度の工事代金のデータでは

・令和3年度調査は1億円超が43.8%
・令和5年度マンション総合調査は1億超が21.8%、金額不明を除いて計算すると27.4%

とややばらつきがあるものの、底上げされている傾向がありました。

さらに平均値では

・令和3年度調査は工事1回目が1億5,237万4千円、2回目が1億1,702万7千円、3回目以上が1億4,758万6千円
・令和5年度調査の平均は1億43万円

すでに1億を超えている水準にあります。

これは工事代金が5億を超えるようなマンションが平均値を引き上げているため、中央値で見ると、7,000万円台中盤~8,000万円台中盤に収まっています

今後は、物価高、人件費高を背景として、マンションの大規模化、設備の複雑化、高経年化の増加によって、工事代金1億超の割合もますます増えてくると考えられます。

総工事金額は1回目が高く、2回目は落ち着き、3回目以降は高くなる

双方のデータからも、1回目の工事が比較的割高になり、2回目がやや落ち着く傾向が見られました。

令和3年度のデータは、3回目以降ということでひとまとめになっていましたが、工事金額全体の平均値や中央値が2回目に比べて上がっていたことから、マンションは経年すると劣化度合いも大きくなり、金額が高騰すると考えられます。

また、この令和3年度のデータでは、「工事回数が多くなると、建設系工事、設備系工事の割合が高くなり、仮設工事の割合が低くなる傾向」と示されていました。

よって、これらによる修繕費用増加が考えられます。

戸あたりの工事金額は100万円前後に収れん

双方のデータ結果からも、1戸あたりの大規模修繕工事金額は100万円前後で算出されました。

そして、イメージ的には、100~110万円×戸数が大規模修繕工事金額の目安として考えることが出来そうです。

ただし、マンションのタイプや近年の材料費などの物価や人件費の急激な高騰により、今後はこの令和3年や令和5年の調査結果が必ずしも当てはまるという訳でもないしょう。

将来的には120万円×戸数や、150万円×戸数の想定をしておかなければならないかもしれません。

そのためには、修繕積立金のさらなる充実が求められるといえます。

両データからみる大規模修繕工事代金のまとめ

双方のデータにおいて、共通する点もあれば、そうでない点もあるという傾向に感じられました。

おもな傾向をまとめると、

・大規模修繕工事の平均金額は1億円を超える
・中央値では大規模修繕工事回数により違いはあるものの7~8,000万円台
・1戸あたりの大規模修繕工事金額は100万円前後(20戸以下を除くと90~120万円のレンジ)
・令和5年度のデータからタワーマンションの大規模修繕工事平均額は3億560万円

という傾向でした。

今後もデータのとり方によって、結果の出方もばらつきがあるような気がします。

しかしながら、今後は工事代金は増加傾向になることは間違いないため、管理組合としては修繕積立金の充実がますます必要になってくるでしょう。

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