マンション管理組合会計入門!現金主義と発生主義を徹底比較解説

マンション管理

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マンションの管理組合会計において、いつ収支を認識するのか分かりづらい

または、

発生主義や現金主義という言葉があるが、それぞれについてよく分からない

このような疑問を抱いているマンション管理組合も非常に多いようです。

今回はこのようなマンション管理組合会計における、発生主義と現金主義について解説します。

ちなみに筆者は、マンション管理士で活動していますが、それ以外の8~9割は企業における財務・経理を中心とした会計業務に長年従事する専門家です。

企業と管理組合では似て非なるものはありますが、企業よりもマンション管理組合の会計はよりシンプルです。

そのような経験値がある筆者が分かりやすく解説します。

マンション管理組合会計入門!現金主義と発生主義を徹底比較解説

今回紹介する内容は以下の通りです。

・マンション管理組合会計でよく使われる「現金主義」とは?
・マンション管理組合会計で採用すべき「発生主義」とは?
・管理組合会計で重要な「現金主義」と「発生主義」の違い
・マンション管理組合として発生主義を採用する理由とは?

現金主義、発生主義において、それぞれメリットやデメリットがあります。

マンション内に筆者のように経理業務に従事している役員がいれば、この考え方がすぐに理解できるかと思います。

一方で、大半の方は普段はそのような業務ではなく、経理業務に無縁の方も多いでしょう。

マンション管理組合役員においては、理事会や総会時に確認する事項でもあるため、ある程度は知っておいても良い知識であるといえます。

そのような、現金主義、発生主義の考え方について、基本的な点を中心に分かりやすく解説します。

マンション管理組合会計でよく使われる「現金主義」とは?

まずはじめに、現金主義とはどのような考え方なのか、それぞれ確認していきます。

収支計算を現金の入出金によって把握する考え方である

マンション管理組合の収支において、

・現金が入金されたら収入
・現金を支払ったら支出

という考え方に基づき、管理組合会計の経理処理をする方法です。

すなわち、管理組合口座や管理組合の現金受け渡し、支払い等の入出金で、収入や支出を把握する手法ともいえます。

具体的な事例としては、

・区分所有者からの管理費、修繕積立金の入金が銀行口座にて確認出来たら収入として処理
・管理会社への管理委託費の支払いが発生したら支出として処理

といったイメージです。

現金主義のメリットは?

考えられるメリットは次のようなものが考えられます。

・現金の入出金で把握することができることから収支が把握しやすい
・入出金という把握しやすい方法であることから確実に計上が可能となる
・現金が入出金した際に収支を考えればよいことから、収支計上の安全性が担保しやすい

などが考えられるでしょう。

デメリットは??

一方で、現金の入出金に基づいて収支を計上するという把握しやすさの反面、デメリットも存在します。

おもなものとしては、

・必ずしも正しい時期に収支が反映されるわけではない
・管理費や修繕積立金の滞納がある場合はどれぐらいあるのか把握しづらい
・将来の収支が把握しづらい

などが考えられます。

必ずしも正しい時期に収支が反映されるわけではないという点では、仮に8月分の管理費を6月や7月に入金確認した場合、その月に計上することとなってしまいます。

さらには、6月に7,8月分の管理費をまとめて入金確認した場合には、6月に7,8月分の2か月分を収入として計上することとなり、本来の7,8月は収入をゼロ円として計上することとなります。

管理費や修繕積立金を滞納している場合は、仮に6,7,8月分を滞納して9月に当月分含めて4か月分がまとめて支払われた場合、6,7,8月は収入ゼロ、9月に4か月分まとめて計上という形にもなってしまいます。

これらのことから、将来的にいくら入るのかまた払うのかが把握しづらくなり、管理組合における資金繰りにも影響を及ぼす可能性があります。

マンション管理組合会計で採用すべき「発生主義」とは?

現金主義に対して、発生主義といわれる考え方はどういった方針のものなのでしょうか?

収支計算を収入や支出の発生事実に基づいて把握する

なんらかの収入や支出が発生した場合に、現金の支払いや入金に関係なくそれを収入、支出として把握する考え方です。

具体的には、

・区分所有者に対して月次の管理費の請求を行う
・管理会社に対する、月次の管理委託費が発生する

といった行動が発生した際に収入、支出を計上します。

例を挙げると、

・8月の管理費の請求が発生した段階で管理費の8月度収入として扱う
・8月の管理会社に対する管理委託費の発生に対して、9月末支払いを行うものの8月に支出として扱う

という形です。

この場合、「8月の管理費の請求が発生した段階」であることから、仮にある区分所有者の入金が遅延して入金が10月になってしまったとしても、「8月の収入」として扱うこととなります。

「収入」というと、現金が入ってくることと混同しがちですが、発生主義の場合は、

収入計上時期と入金時期が同月であるとは限らない

という点です。

同月である場合もあり、発生主義として扱いますが、収入を計上して入金が確認できるまでに1,2か月等の時期ずれが発生する可能性がある点に注意です。

発生主義のメリットは?

発生主義においても、メリットとデメリットを確認しておきます。

まずはメリットとしては、現金主義のデメリットが回避できることを含め、以下のような点が考えられます。

・いつの出来事であり、どのタイミングで支払うまたは入金されるかが明確となる
・将来的な入出金を予測しやすい
・そのため、管理組合会計における将来の資金繰りの把握がしやすい

前月に発生した出来事に対して、支払いまたは入金が翌月なのか、翌々月なのか、明確にすることができる点はメリットでしょう。

そのため、管理組合会計において入出金の把握や、将来発生する資金繰りに対して把握が可能という点も挙げられます。

デメリットは??

一方で、デメリットとして考えられるのは以下のような点です。

・入金されていない滞納管理費であっても収入として扱われる
・入出金されていないものも会計上計上することから、後日入出金確認や消込作業が発生する
・管理組合会計において、経理上の負担や費用が現金主義以上に掛かる可能性がある

管理組合においては、「滞納しておりまだ入金されていない管理費が収入という点が理解し難い」という声も良く聞きます。

この点は「管理費を支払うという事実が発生している」ということに基づき計上している発生主義ならではの疑問点として挙がってくるかもしれません。

また、発生事実に基づき収入または支出を計上したあとに、入出金されたかどうかの確認とその消込作業が必要になります。

入出金されたにも関わらず、いつまでも「未入金・未払い」という経理の状況を置いておくわけにはいかないためです。

これらの手続きが必要になることから、経理上の負担や、管理会社に支払う会計管理のための費用が発生することが考えられます。

管理組合会計で重要な「現金主義」と「発生主義」の違い

これまで現金主義と発生主義の考え方、そしてメリット、デメリットを確認しました。

具体的にそれぞれの違いを、実例を挙げながら収入面と支出面で比較して確認します。

これだけ違う、収入面の違い

例えば、区分所有者における管理費の支払いにおいて以下のようなケースがあったと想定します。

・Aさん、Bさんともに7月度の月額管理費等が4万円
・Aさんは7月中に全額支払い済み
・Bさんは2万円のみ支払い、2万円は滞納した

と仮定します。

7月末時点での状況として、以下のように整理できます。

項目 区分 Aさん Bさん 合計
現金主義の収入 管理費の支払額 40,000 20,000 60,000
貸借対照表に計上する未収入金 管理費の未払額 20,000 20,000
発生主義の収入 合計 40,000 40,000 80,000

現金主義では、現金が入金されたときに収入を把握するため、Aさんから4万円、Bさんから2万円の合計6万円を計上します。

一方で、発生主義においては、7月度でAさんBさんそれぞれから4万円ずつ徴収することとなっているため、4万円ずつ、合計8万円の収入を計上します。

しかしながら、管理組合としては、Bさんから残り2万円を回収していないことから、本来収入として入るべき残り2万円を「未収入」として、未収入金を計上します。

ここは、貸借対照表という、収支計算表ではなく別の表で把握することになります。

実際に入金が確認された時点で、消込という作業を行い、未収入金の計上がなくなることとなります。

なんと計上しないことも…支出面の違い

次に、支出面については、一例として

管理会社に対する7月度の委託管理費30万円を8月末に支払う

ことを考えてみます。

7月末時点として、以下のように整理できます。

項目 現金主義 発生主義
収支計算書の管理委託費 計上なし 300,000
貸借対照表の未払金 計上なし 300,000

現金主義では、支払いの実行が行われて初めて計上することから、7月末時点では計上はありません。

対して、発生主義では、7月度に管理会社から管理サービスの提供を受け、支払うべき管理委託費が発生したため、収支計算書上では30万円の計上となります。

また、7月末時点では実際に管理組合から管理会社に対する支払いの実行が行われていない(未払いである)ことから、貸借対照表上の未払金に計上することとなります。

収入と同様に、支払いが実行された段階で消込作業を行い、未払金がなくなることとなります。

マンション管理組合として発生主義を採用する理由とは?

現金主義と発生主義の考え方や、それぞれのメリット、デメリット、さらには具体的な数値を挙げて説明しました。

企業と違って、厳密に発生主義で計上しなければならないルールはありません。

しかしながら、マンション管理組合としては発生主義を採用することが望ましいとされています。

その理由とはどのような所にあるのか、最後の章で解説します。

発生主義のメリットを享受でき、現金主義のデメリットを回避できる

前述の通り、現金主義のデメリットとして、入金されたときに収支を把握するという時期ずれが発生します。

それが回避できるのが、発生主義ではあるため、管理組合において収支の確認がより早くできることが考えられます。

また、事前にいくら払う予定か、またいくら入金される見込みかなどが事前に把握できることによって、前もって手の打ちようも生まれます。

現金が入出金されてからでは把握が遅れる

期日に現金が入出金されるまで、把握できなかったという形となった場合には、次のうち手が1か月遅れるなどの発生も考えられます。

区分所有者が管理組合に支払う管理費は基本的には同月か、前払いであることが多いので、発生主義であっても現金主義に近い形であるかもしれません。

一方で、支払うべき対象に対する支払いが現金主義により気付くのが遅れるとなると、管理組合として支払先に対する信用の問題にも発生します。

また、そこから急いで支払い手続きを行うとなると、管理会社でも一定の手続きが必要となります。

発生主義の場合は、発生した段階で翌月末の支払い準備ができる余裕も生まれることとなります。

将来的な収支や入金見込の把握ができる

例えば、大規模修繕工事などの高額の支払いが管理組合に発生する場合は、予めいつ、いくら支払うのか、工事が発生した時点で把握しておくことが重要です。

それによって、管理組合としての資金が十分であるのか、借入等を起こして資金を手当てしなければならないのかなど、予め想定もしやすくなります。

発生主義によるマンション管理組合会計の適切な把握が重要

マンション管理組合会計における、現金主義と発生主義について紹介しました。

発生主義は、会計上の煩雑さはあるものの、管理組合の収支において事実に基づく的確な計上方法といえます。

今回は会計が詳しくない方にもなるべく分かりやすい方法で紹介しました。

現金主義中心で会計を行っている管理組合の見直しに寄与できればと思います。

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