国土交通省は老朽化マンションや省エネ改修などに対する支援施策を多く用意しています。本稿では、特に下記の主な制度を中心に、概要・対象・補助内容・申請方法・注意点などを、かつて補助金を手掛けたことがあるマンション管理士の筆者が分かりやすく解説します。
令和7年度で管理組合が活用したいマンション関連施策とは?
まずはじめに、管理組合として活用しやすい補助金関連や手厚い補助がある施策について紹介します。
✅長期優良住宅化リフォーム推進事業
✅マンションすまい・る債
✅マンション共用部分リフォーム融資(管理組合申込み)
✅住宅・建築物省エネ改修推進事業
昨年実施された施策についても、合わせてご参照ください。
長期優良住宅化リフォーム推進事業
概要・対象
既存の戸建住宅・共同住宅を対象に、耐震性・劣化対策・断熱性などの性能向上や子育て向け改修を支援する制度です。共同住宅(マンション)も対象に含まれ、既存ストックの長寿命化・省エネ化を図ります。
補助内容
補助対象となる性能向上リフォーム工事費用の1/3を補助。1戸あたり補助上限は80万円程度です。また、インスペクション(既存住宅現況調査)や維持保全計画作成費用、当該申請にかかるコンサルティング費用も補助対象となります。
申請方法
施工業者等(補助事業者)を通じて国交省の電子申請システムで申請します(発注者(区分所有者)が直接申請することはできません)。事業者登録と住宅登録が必要で、それ以前に契約や着工した工事は対象外です。年2回程度の応募期間が設けられ、交付決定後に工事を進めます。
注意点
改修着手前に必ず事業者登録・住宅登録を済ませる必要があります。また、補助金の枠は募集ごとに限られ、早期に予算に達する場合があり、毎年応募が殺到する管理組合にとって大変人気のある補助金です。申請要件にある長期修繕計画の策定や耐震診断の実施なども要件となります。
マンションすまい・る債
概要・対象
マンション管理組合向けの債券商品で、修繕積立金の代替運用先として利用できます。1口50万円で募集され、原則10年満期の全期間固定金利債です。管理組合は購入(積み立て)することで、将来の修繕資金を計画的に運用することができます。
利率・条件
2025年度募集の通常「すまい・る債」は年0.525%(税引前)で、管理組合の認定管理計画取得済みマンション向け債券は年0.575%に上乗せされます。応募期間は例年4~10月頃、募集総額(口数)に達し次第終了です。すまい・る債を使って運用する管理組合も年々増加傾向であり、管理組合として実施する場合は、早めの検討が望まれます。
申請方法
管理組合が専用の申込書(Excelまたは手書き)を作成し、郵送やWebで申し込みます。申し込みには、管理規約や20年以上の長期修繕計画が備わっていることなどの要件があります。申込時点では「機構融資(共用部分修繕融資)を利用予定であること」も必要ですが、実際に借入れなくてもペナルティはありません。
注意点
応募は先着順で、募集口数上限に達し次第締め切ります。また、応募要件に反社会勢力との無関係であることなどがあり、要件を満たさない組合は利用できません。購入後も満期前に資金が必要になれば、公募期間外でも当初元本(購入額)で中途換金できます(利子のみ差額精算)。
マンション共用部分リフォーム融資(管理組合申込み)
概要・対象
マンション管理組合が共用部(廊下・屋根・外壁・給排水など)の修繕・耐震改修費用のために利用できる長期融資です。戸数や規模にかかわらず申込み可能で、担保不要かつ全期間固定金利です。
融資内容
借入金は大規模修繕や耐震工事の費用などに充当できます。融資を受けるには、あらかじめ住宅性能評価や諸条件を満たす必要があります。
金利優遇
通年の融資金利は低水準ですが、以下の条件を満たすとさらに優遇されます
✅耐震改修・浸水対策・省エネ改修工事を行う場合:融資金利から年0.2%引下げ。
✅マンションすまい・る債を積立中の場合:融資金利から年0.2%引下げ。
✅管理計画認定を取得済みの場合:融資金利から年0.2%引下げ(併用可)。
申請方法
まず機構本支店へ事前相談し、その後必要書類を整えて申込みます。融資は管理組合名義で契約し、返済は通常管理組合から行います。
注意点
法人格の有無を問わず利用可ですが、申込み前に管理組合の規約変更や総会決議が必要になる場合があります。フラット35等個人ローンとの併用はできません。また、金利優遇は各条件の達成が前提です。
住宅・建築物省エネ改修推進事業
概要・対象
既存の住宅や建築物を対象に、省エネ基準相当以上(ZEH/ZEB相当)へ断熱改修する工事を支援する事業です。政府と地方の費用分担で補助されます。
補助内容(住宅)
✅省エネ基準適合リフォーム(断熱改修等):1戸あたり30万円を上限に、工事費の4割分を補助。
✅ZEHレベル相当リフォーム:1戸あたり70万円を上限に、工事費の8割分を補助。
✅補助内容(非住宅):非住宅(オフィス・商業建築等)の省エネ改修は補助率23%、上限5,600円/m²(省エネ基準)、9,600円/m²(ZEB基準)などが設定されています。
申請方法
省エネ改修計画の事前審査や公募方式で交付申請します。改修事業は予算枠内での先着・審査方式となるため、早めの準備が望ましいです。
注意点
補助金は国と地方の費用負担であり、市区町村等が実施主体となります。申請要件や省エネ基準達成の技術要件を満たす必要があります。マンションにおいては各戸・共用部とも対象ですが、断熱材・窓など使用製品に仕様条件があります(詳細は国交省HP参照)。
その他の関連支援制度(マンション向け)
マンションストック長寿命化等モデル事業
老朽化したマンションを対象に、再生検討から改修・建替え等の先導的なプロジェクトを公募し、優良事例を全国展開する事業です。モデル地区での技術検討・環境整備や、実際の工事実施までを国が支援します。提案型の公募形式で、計画立上げ準備と改修工事の費用を一括して補助します。
マンション管理適正化・再生推進事業
マンション管理組合や地方公共団体を対象に、マンション管理・運営の専門家派遣、被災時の生活維持環境整備、再生促進など多岐にわたる課題解決型事業に補助を出す総合支援策です。例として、専門家によるコンシェルジュ支援、合意形成セミナー、防災設備の整備など、各テーマ別に補助率や上限額を定め、適正化・再生に資する取組を公募で支援します。
住宅・建築物安全ストック形成事業(耐震改修支援)
個人住宅やマンション等の耐震化を促進するため、耐震診断・耐震改修・建替えに対して補助や融資支援を行う事業です。特に高齢者等が居住する既存住宅の耐震補強(リバース60等の無利子融資併用支援も創設)や、ブロック塀改修への支援が行われています。マンションの共用部耐震改修も、自治体の補助や国の特例措置(被災時等)等でバックアップします。
地域防災拠点建築物整備緊急促進事業
地域の防災拠点となる学校・公的施設・ビルなど大規模建築物に対し、耐震化とともに災害時の避難者受入施設(備蓄倉庫・一時避難スペース)の整備をワンパッケージで重点支援する事業です。2014年度創設で、令和3年度から「地域防災拠点建築物整備緊急促進事業」に改組されました。補助金により、帰宅困難者・負傷者を受け入れる機能強化を図ります。
優良建築物等整備事業(グリーンインフラ整備)
商店街再開発や良質マンション供給など、土地共同化・高度利用に寄与する「優れた建築物」整備を補助する制度(社会資本総合交付金の一部)。複数のタイプがあり、その中に「マンション建替型」も含まれます。市街地環境の向上や住宅供給を目的に、敷地内共用部分(道路・広場等)整備費用に対し国が補助します。マンション建替えでは、新築後に取得可能な保留床整備等が対象となり、民間マンション建替組合等が利用できます。
サステナブル建築物等先導事業(省CO₂先導型)
省エネ・省CO₂性能に優れた先導的な建築物プロジェクトを公募・補助する制度です。住宅・非住宅の新築・改修工事が対象で、革新的な省エネ技術の導入やZEHマンション実現などを支援します。補助率は「増分費用」の1/2、1プロジェクトあたり上限5億円(改修含む)。年度内に事業完了が原則のうえ、民間提案を広く募り、採択後最大4年以内の事業実施を通じてCO₂削減を推進します。
ZEH等の推進に向けた取組み
ゼロ・エネルギー住宅(ZEH)やLCCM住宅(ライフサイクルCO₂マイナス)普及のため、補助金・税制優遇・規制強化など様々な施策が進められています。国交省では「住宅省エネ2025キャンペーン」等で新築・リフォーム時の高断熱・高効率設備導入を支援、2025年4月から新築住宅の省エネ基準適合義務化が予定されるなど、長期的な促進策が展開中です。マンションでも、ZEHマンション開発プロジェクトや各種補助(戸別蓄電池・グリーン改修など)へ活用の動きがあります。
まちづくり融資(長期事業資金)
住宅金融支援機構が提供する都市再開発・マンション建替え用の事業融資です。権利床(保留床)を取得して自社使用・賃貸する際の資金として借入れでき、主にマンション建替組合や再開発事業者が利用します。長期固定金利で融資でき、借入条件等の相談は各地域の機構窓口で受け付けています。融資対象地区要件はありますが、マンション建替え事業は地域要件なしで適用可能です。
「フラット35」維持保全型
住宅金融支援機構の長期固定金利ローン「フラット35」において、維持保全や長期管理を配慮した住宅には当初一定期間低金利を適用する制度です。具体的には、以下のような物件が対象となります。
✅長期優良住宅(新築・既存)
✅新築分譲マンションの「予備認定」取得物件
✅中古マンションの「管理計画認定」取得物件
✅耐震性確保&インスペクション実施済みの中古戸建て住宅(安心R住宅)
これら認定住宅を取得する場合に、通常のフラット35より0.2~0.6%程度の金利引き下げが一定期間受けられます。マンション管理適正化法による管理計画認定マンションも対象になっており、長期修繕計画や管理規約が認定されている中古マンションでは融資費用を節約できます。
ただし、フラット35は管理組合ではなく、マンション購入時に独自で申請する必要があります。条件に合致しているか、購入時に不動産屋さんや管理組合に確認することが必要となります。
国土交通省施策の音声解説(2025年5月27日追加)
今回のコラムに関して、音声解説を作りました。こちらを聞いていただくと国土交通省のマンション施策の概要が分かります。今回コラムで取り上げなかった内容について、事例も交えて解説しています。
音声動画を埋め込んで、以下からでも聴けるようにしています。
是非とも活用したいマンション関連施策
以上のように、国土交通省(および関連機関)はマンション管理組合向けに多彩な支援策を整備しています。いずれも制度概要・要件・応募期限などが定められており、最新情報は国交省や住宅金融支援機構の公式サイトで随時公開されています。
とりわけ管理組合に有利な補助金は、どの管理組合も注目していることから、応募が殺到し、早期に締め切るものもあります。そのため、活用する際は要件や募集要領をよく確認し、マンション管理士や建築士等の専門家と相談のうえ、前もって計画的に準備することが非常に重要です。
施策一覧表
今回紹介した施策を一覧にまとめると、以下の通りとなります。
施策名 | 主な目的 | 支援内容 | 対象 |
---|---|---|---|
マンションストック長寿命化等モデル事業 | 長寿命化、再生 | 補助金 | 管理組合、事業者 |
マンション管理適正化・再生推進事業 | 管理適正化、再生 | 補助金、支援 | 管理組合、地方公共団体 |
長期優良住宅化リフォーム推進事業 | 住宅の質向上 | 補助金(1/3、最大80万円/戸) | 戸建て・共同住宅 |
住宅・建築物安全ストック形成事業 | 安全性向上 | 補助金 | 戸建て・共同住宅・建築物 |
地域防災拠点建築物整備緊急促進事業 | 防災力強化 | 補助金 | 学校、民間ビル、病院 |
優良建築物等整備事業 | 都市環境改善 | 補助金 | 民間事業者、地方公共団体 |
住宅・建築物省エネ改修推進事業 | 省エネ化 | 補助金 | 戸建て・共同住宅・建築物 |
サステナブル建築物等先導事業 | サステナビリティ向上 | 補助金 | 民間事業者、地方公共団体 |
ZEH等の推進 | ゼロエネルギー住宅普及 | 補助金 | 新築・既存住宅 |
マンションすまい・る債 | 修繕積立金運用 | 債券購入 | 管理組合 |
マンション共用部分リフォーム融資 | 修繕資金確保 | 融資(低金利) | 管理組合 |
まちづくり融資 | 都市再生、建替え | 融資(最長35年) | 事業者、管理組合 |
ふらっと35 維持保全型 | 住宅取得支援 | 金利優遇 | 個人 |
参考文献
今回のコラムで参考にした文献は以下の通りです。
✅国土交通省(令和6年12月) 令 和7年度予算決定概要
✅国土交通省住宅局(令和6年8月) 令和7年度住宅局関係 予算概算要求概要
✅国土交通省 マンションストック長寿命化等モデル事業
✅国土交通省 住宅・建築物耐震改修事業 (住宅・建築物安全ストック形成事業)
✅国土交通省 住宅・建築物安全ストック形成事業 ブロック塀等の安全確保に対する支援
✅国土交通省 優良建築物等整備事業の概要
✅国土交通省 令和7年度長期優良住宅化リフォーム推進事業 補助金について 補助対象となる工事
✅財務省 広報誌ファイナンス 2025年4月号 菅野 裕人主計局主計官 令和7年度国土交通省・公共事業関係予算について
✅横浜市 優良建築物等整備事業
✅住宅金融支援機構 マンションすまい・る債 カタログ
✅住宅金融支援機構 マンション共用部分リフォーム融資 カタログ
✅住宅金融支援機構 まちづくり融資 短期事業資金 長期事業資金
✅国立研究開発法人 建築研究所 サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)
✅横浜マンション管理・FP研究室 令和6年度国土交通省補助金(マンション関連)等の概要【要確認】
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