マンションを維持・管理するうえで毎月必ず発生するのが「管理費」と「修繕積立金」です。これらは快適な居住環境の維持や資産価値の保全に欠かせない重要な費用ですが、近年は物価上昇や人件費高騰の影響により、管理費の増加が避けられないマンションも増えています。こうした状況下では、管理組合が現在の支出を見直し、無理のない範囲で効率的に管理費を削減していくことが求められます。
本記事では、管理費を見直す際に押さえておきたい具体的なポイントと、削減を進める際の注意点を、マンション管理士である筆者がわかりやすく整理して解説します。
マンション管理費の基礎知識と現状
まずは、管理費の基本的な役割と現在の一般的な状況について整理しておきます。
管理費と修繕積立金の違い
管理費とは、マンションの日常的な管理・維持に充てられる費用です。具体的には、管理会社へ支払う委託費、管理組合の運営費、共用部分の水道光熱費、保険料、軽微な補修費、設備点検費などが含まれます。廊下や階段などの定期清掃も管理費から支出されます。
一方、修繕積立金は外壁塗装や設備更新など、将来的な大規模修繕に備えて積み立てる費用で、管理費とは用途が明確に異なります。管理費が“日常の維持費”だとすれば、修繕積立金は“将来の大規模修繕費”と位置付けられます。なお、新築マンションでは、管理準備金や修繕積立基金などの一時金が別途必要となる場合があります。
管理費の相場と比較のポイント
マンション管理費の相場は、エリア、築年数、総戸数、建物形態といった複数の要因によって大きく異なります。
国土交通省「令和5年度マンション総合調査」によると、管理費の月額平均は 17,103円。ただしこれはあくまで全国平均であり、実際には建物の条件によって幅があります。たとえば、築年数が新しいマンションほど管理費が高くなる傾向があり、昭和60年〜平成元年築(平均15,570円)に対し、令和2年以降築では平均21,233円と、約6,000円の差が生じています。

引用:国土交通省 令和5年度マンション総合調査より
総戸数が多いマンションはスケールメリットで割安になりやすい一方、実際には戸数構成によってばらつきがあります。また、20階建て以上のタワーマンションは、19階建て以下と比べて管理費が高い傾向があり、月額で5,000円以上の差が出るケースもあります。

引用:国土交通省 令和5年度マンション総合調査より
管理費が増加している理由
近年、管理費が増加している背景として、まず挙げられるのが 管理員や清掃員の人件費の上昇 です。人手不足の影響を受け、管理会社の人件費は全国的に上昇傾向にあります。また、共用施設の高級化や大型化により、維持管理に必要なコストが増えているケースも多く見られます。加えて、インフレによる資材費・光熱費の上昇も管理費増加の一因となっています。
マンション管理新聞(2025年3月25日号)に掲載された神奈川県の調査データ(2024年12月〜2025年2月)でも、築年数による特徴が明確に示されています。新しいマンションほど高水準の管理費が設定される一方、築年数が古くなるほど修繕積立金の負担が増える傾向があり、マンションの抱える課題が数字に表れていると言えます。
管理費の5つの見直しポイント
管理費を削減するためには、支出項目のどこを見直すか、具体的な方法を検討する必要があります。メンテナンスの質を下げずに費用を削減するためのアイディアがいくつかあります。
管理委託費の見直し(最も効果が大きい)
管理費の中でも、最も大きな割合を占めやすいのが管理会社への「管理委託費」です。ここを的確に見直すことは、管理費削減の効果が最も現れやすいポイントと言えます。
以下の観点から、現在の契約内容を確認することが重要です。
業務内容・サービス範囲の適正化
まず確認したいのは、現在の管理委託契約に「不要な業務」や「過剰なサービス」が含まれていないかという点です。たとえば、管理員の勤務時間や清掃の頻度を適正化することで、無理なく費用を抑えられる可能性があります。
ただし、管理員の勤務時間を短縮するとセキュリティや来訪対応に影響が出る場合があり、清掃頻度を減らすと共用部分の美観維持に支障をきたすこともあります。削減にあたっては、これらの影響を十分に踏まえて検討することが重要です。
清掃については、一度スキップして実際の汚れ具合を確認するなど、客観的な判断材料を得る方法もあります。
管理会社の見直し・変更
管理費が相場より高い、または現在の管理会社のサービスに不満がある場合は、複数社から見積もりを取得して比較することが、最も効果的な削減手法の一つです。マンション購入時に指定された管理会社は、競争原理が働かないまま選定されているケースも多いため、見直しによって適正な価格水準に近づけられる可能性があります。
実際に、筆者が関わったマンションでも、管理会社の変更によって年間の管理費が大幅に削減された例が多数あります。費用を抑えながら管理の質を維持、あるいは向上できたケースも少なくありません。
ただし、管理会社の変更には一定の手続きや合意形成が必要であり、慎重に進めることが重要です。
共用部分の光熱費削減(LED・センサー)
共用部分(廊下・エントランス・階段など)で使用する電気代は、管理費の中でも削減しやすい項目です。白熱電球など従来型の照明を使用している場合は、LED照明へ切り替えるだけでも電力消費を大幅に抑えられます。LEDは寿命が長いため、交換作業にかかる手間や人件費の削減にもつながります。
さらに、不要な時間帯の照明を消灯したり、人感センサーやタイマーを導入したりすることで、無駄な電力使用を抑制できます。
保険契約の見直し(補償内容の最適化)
共用部分にかかる火災保険・地震保険の保険料も、管理費の重要な構成要素です。マンションの立地(ハザードマップによる災害リスクなど)を踏まえ、補償内容が適切かどうか定期的に見直すことが必要です。不要な特約を外すだけで保険料が下がる場合もありますが、近年は自然災害が増加しているため、補償を削りすぎないよう慎重に判断することが求められます。
また、管理組合にとっては一時的な負担が大きくなるものの、保険料を5年契約の一括払いにすることで、年間払いより割安になるケースがあります。資金に余裕がある場合は、費用削減策の一つとして検討する価値があります。
建物・設備維持費の削減(駐車場・設備の見直し)
設備点検やメンテナンスにかかる費用も、見直しの余地がある項目です。特に、利用頻度が低い設備や維持コストの高い設備(例:利用率の低い立体機械式駐車場など)は、縮小・廃止、あるいは平置き化への変更を検討することで、長期的な管理費削減につながる場合があります。
ただし、設備の撤去・改修には一定の初期費用がかかり、住民全体の合意形成も欠かせません。費用対効果を見極めながら慎重に判断する必要があります。
管理費支出以外で財政を改善する方法(収入アップ)
管理費を削減するだけでなく、管理組合の“収入を増やす”というアプローチも有効です。収入源を確保することで財政的な余裕が生まれ、将来的な管理費の値上げを抑えやすくなります。
具体的な例としては、次のような取り組みがあります。
✅共用スペースへの広告看板の設置(使用料収入)
✅携帯基地局・通信機器の設置場所としての提供(賃借料収入)
✅空き駐車場の外部貸しや自動販売機の設置(賃貸料収入)
✅シェアサイクルや電動キックボード(LUUPなど)ステーションの設置(賃借料収入)
これらの収益事業は、場合によっては課税対象となることがあるため、事前に税務面の確認が必要です。ただし、マンションの立地や運営状況に応じて導入を検討すれば、財政改善に寄与する可能性は十分あります。
管理費削減で失敗しないための注意点
管理費を削減することは重要ですが、安易な削減はマンションの管理の質を低下させ、かえって居住環境の悪化や資産価値の低下を招く可能性があります。
「安さ重視」が招くリスク
管理費は、マンションの清潔さや安全性、共用施設の維持、さらには資産価値の保全を支える重要な費用です。極端に管理費を低く抑えようとすると、清掃が行き届かなくなったり、必要なメンテナンスが後回しになったりするなど、居住環境の悪化につながるおそれがあります。
大切なのは、単に「安さ」を追求するのではなく、支払っている費用に見合ったサービスが提供されているかという視点です。費用対効果を踏まえたバランスの取れた削減を心がけることが、結果として長期的な資産価値の維持につながります。
居住者説明と合意形成の重要性
管理費の削減は、居住者が受けるサービス内容に直接影響する場合があります。たとえば、清掃頻度を見直すだけでも、共用部分の印象が変わる可能性があるため、事前に十分な説明と理解を得ることが欠かせません。
また、管理費や修繕積立金の変更には総会での決議が必要となり、合意形成には一定の時間を要します。理事会や専門委員会で慎重に検討したうえで、説明会などを通じて丁寧に情報共有することが、トラブルを防ぎ円滑な運営につながります。
修繕積立金への影響を踏まえた判断
管理費を削減できた場合、その浮いた分を修繕積立金に充てることで、将来の大規模修繕に備える体制を強化できます。現在は物価や人件費の上昇により、今後必要となる修繕費が増える可能性が高く、全国的に修繕積立金の不足が課題となっています。
そのため、管理費の削減は単なる負担軽減にとどまらず、修繕積立金を適正に確保するための一つの手段として位置付けることが大切です。
専門家や外部サービスの活用
管理費の支出構造を分析したり、適正な削減額を判断したりするには、一定の専門知識が必要となる場合があります。こうした場面では、マンション管理士などの専門家や、管理会社の見直しを支援するサービスを活用することで、理事会の負担を大きく軽減できます。専門家の関与により、削減の妥当性やリスクの見極めもしやすくなり、結果として効率的に管理費を下げられる可能性があります。
コンサルタントを利用する場合は費用が発生しますが、その分、客観的なアドバイスが得られ、総合的には管理費削減に寄与するケースも少なくありません。一方、管理組合のみで進める場合はコストを抑えられるものの、手間や知識が求められます。
管理費は削減ではなく“最適化”へ
マンション管理費の見直しは、管理組合にとって避けて通れない課題です。管理委託費や光熱費、保険料、設備管理費など、各支出項目を丁寧に分析することで、無理のない範囲で削減できるポイントが見えてきます。なかでも管理会社の見直しは、大きな削減効果が期待できる代表的な手段です。
ただし、削減にあたっては「管理の質を下げない」ことが前提となります。費用を下げることだけを目的にすると、清掃やメンテナンスの質が低下し、結果として居住環境や資産価値が損なわれる恐れがあります。
管理費削減を進める際は、居住者への丁寧な説明と合意形成を重ねながら、将来を見据えた長期的な視点で取り組むことが重要です。また、必要に応じてマンション管理士などの専門家や、管理会社見直しを支援するサービスを活用することで、より合理的で効果的な削減につながります。
戦略的に管理費を見直すことは、マンションの財政基盤を安定させ、長く快適に暮らせる環境と資産価値を守るための大切なプロセスです。











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