皆さんのマンションの管理規約、最後に開いたのはいつでしょうか? もし、「新築時のまま一度も変えていない」あるいは「国交省の標準管理規約をそのままコピーしている」という場合、赤信号が灯っているかもしれません。
マンション管理は今、「貯金」から「運用」への意識転換が求められています。
なぜ今「管理規約・使用細則」の見直しが必要なのか
時代は劇的に変化しています。 具体的には、居住者の高齢化、物流2024年問題、そして物価高騰です。 標準管理規約はあくまで「標準」であり、あなたのマンションの「今の課題」を解決してくれるわけではありません。
「インフレ」と「資産防衛」の視点
例えば、修繕積立金について「元本保証で安全に持っておけばいい」と考えていませんか? 昨今のインフレにより、現金の価値は相対的に目減りしています。 国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」などのデータを見ても、建築補修費は複数年のスパンで見ると2〜3割前後の上昇となっているケースも珍しくありません。
これは、私たちの年金(GPIF)の運用とも重なります。 もし「投資=博打」しかないのであれば、国が何十兆円もの年金積立金を市場で運用することはありません。重要なのは、中身を選び、リスクを分散させながら長期で運用することです。
もちろん、年金財政は「現役世代の保険料」や「国庫負担」といった仕組みも含めた総合設計ですが、その前提を支える柱の一つが、GPIFによる長期・分散投資です。
この「長期・分散・堅実な運用」という考え方は、マンション管理にもそのまま当てはまります。時代に合わないルールを放置(思考停止)するのではなく、環境に合わせてルールを最適化(運用)していくことこそが、真の「資産防衛」なのです。
今回は、現役のマンション管理士である私が、「実務へのインパクトが大きく」かつ「今、優先的に着手すべき」規約・細則の改正ポイントをランキング形式でTOP5に厳選しました。
トラブルを防ぐ規約・細則改正ランキングTOP5
それでは、具体的に変えるべきポイントを見ていきましょう。
第5位:【災害】専有部分への立ち入り細則(緊急時)
第5位は、命と財産、そしてマンションの評価を守るための「切り札」です。
【理由(定性)】 上階からの漏水事故や、単身高齢者の孤独死(異臭)など、緊急時に「鍵を開けて入っていいか?」で躊躇し、被害が拡大するケースが増えています。
【理由(制度)】 さらに重要なのが、国が推進する「管理計画認定制度」です。 この認定基準の中に、「緊急時における専有部分への立ち入りに関する定めがあること」が必須項目として明記されています。 この規定を整備することは、固定資産税の減税措置や、マンションの市場評価向上(認定取得)に直結します。
【アクションプラン】 標準管理規約第23条(必要箇所への立ち入り)をさらに強化した細則を定めます。
- 緊急時の定義: 漏水、火災、生命の危険などを具体的に定義。
- 立会い: 第三者の立会いを必須とする。
- 免責と補償: 正当な理由に基づく立ち入りでの損害(鍵の破壊等)の費用負担を明確化。
第4位:【IT化】WEB総会・理事会細則
第4位は、現役世代の参加を促す「デジタル化」です。
【理由(定性)】 「平日の夜や休日に、集会室まで行かなければならない」という物理的な制約が、現役世代を理事会から遠ざけています。 Zoom等での参加が可能になれば、移動時間がなくなるため、忙しいビジネスマンでも参加しやすくなります。「会場に行かなくて良いなら」と、理事を引き受ける心理的なハードルが下がる効果も期待できます。
【アクションプラン】 標準管理規約でもWEB会議は認められましたが、運用ルール(細則)が必要です。
- 出席の扱い: WEB参加も「出席」とみなし、議決権を行使できることを明記。
- 通信トラブル: 切断時の扱いなどを規定。
- 招集通知の電子化: ペーパーレス化によるコスト削減も同時に進めます。
第3位:【物流】置き配利用に関する細則
第3位は、生活の利便性に直結する「置き配」です。
【理由(定量)】 2024年問題により、宅配業界の人手不足は限界を迎えています。政府も再配達削減を強力に推進しており、置き配はもはや「インフラ」です。
【理由(定性)】 オートロック付きマンションの共用廊下に荷物を置くことは、原則として管理規約や使用細則違反(共用部分の私的使用)にあたります。 これをルールなしに黙認すると、「避難の妨げ」「美観の悪化」「盗難リスク」といったトラブルに発展します。
【アクションプラン】 「使用細則」を改正し、ルール付きで置き配を解禁します。
- 専用使用権の解釈拡大: アルコーブ等を「置き配のために一時的に使用できる」と明記。
- 免責事項: 「盗難・紛失について管理組合は一切責任を負わない」と明記。
こうしたルール整備によって、「法的に筋を通したうえで便利さを享受できる」環境を整えていきましょう。
第2位:【防衛】カスタマーハラスメント防止規定
第2位は、管理会社や現場スタッフを守るための「盾」です。
【理由(定量)】 近年、管理会社からの「契約更新の辞退(解約通知)」が急増しています。その大きな理由の一つが、一部の住民による管理員やフロントマンへのカスタマーハラスメント(カスハラ)です。 次の管理会社がなかなか見つからず、見つかったとしても、昨今の賃上げやリスク対応費により、管理委託費が数割〜場合によっては倍近くに跳ね上がるケースもあります。
【理由(定性)】 理不尽な要求や暴言によって優秀な担当者が潰れれば、巡り巡って損をするのは管理組合自身です。「管理員さんを守ることは、自分たちのマンションの管理品質を守ること」と同義なのです。
【アクションプラン】 マンションの細則として、カスハラ防止を明確化します。
- ハラスメントの定義: 暴言、威圧的な態度などを具体的に禁止事項として列挙。
- 対応措置: 「理不尽な要求には対応しない」「悪質な場合は警察へ通報する」といった条文を盛り込む。
これにより、管理会社側も「組合が守ってくれている」と安心して業務に取り組めるようになり、良好なパートナーシップが築けます。
第1位:【ガバナンス】役員選任細則(定年制・外部専門家活用)
堂々の第1位は、マンション管理の根幹である「人」に関するルールです。
【理由(定量)】 築30年を超える高経年マンションでは、区分所有者の高齢化が深刻です。私の肌感覚でも、相談を受ける管理組合の約8割で、役員の高齢化や固定化が問題になっています。
【理由(定性)】 「いつも同じ人が理事長をやっている」「高齢で体調が優れず、理事会が開催できない」。 このような状態(理事会の形骸化)になると、重要な意思決定がすべて先送りになります。マンション管理において「決断できないこと」は最大のリスクです。
【アクションプラン】 「役員選任細則」を策定し、以下のルールを導入することをお勧めします。
- 定年制の導入: 例えば「選任時に75歳以下とする」といった年齢制限を設けることで、強制的に新陳代謝を促します。
- 外部専門家の活用: 内部でなり手がいない場合、マンション管理士などのプロを理事や監事として迎え入れる道筋を作ります。
「冷たい」と感じるかもしれませんが、管理不全に陥る前に「誰が舵を取るのか」というルールを明確にすることが、結果として資産価値を守ります。
まずは「一つ」から着手しよう
今回は、2026年に向けて優先すべき規約・細則の改正ポイントTOP5をご紹介しました。
- 役員選任(高齢化対策・ガバナンス)
- カスハラ防止(管理品質維持)
- 置き配(利便性と物流対応)
- WEB総会・理事会(参加率向上)
- 緊急立ち入り(リスク管理・認定制度対応)
これらは単なる「ルールの変更」ではありません。 「私たちのマンションは、時代の変化に対応し、居住者と資産を守る意思がある」という、管理組合からの強力なメッセージになります。
一度にすべてを変える必要はありません。まずは第1位の「役員選任」や、身近な「置き配」など、あなたのマンションで最も課題感が強いものから着手してみてください。
「具体的にどのような条文にすればいいのか?」 「総会での合意形成はどう進めればいい?」
もし迷われた際は、お近くのマンション管理士、あるいは当サイト「横浜マンション管理FP研究室」までお気軽にご相談ください。 古いルールの殻を破り、快適で資産価値の高いマンションを目指しましょう。







コメント