マンション管理組合の財務管理において「会計年度」を正しく理解することは、健全な運営のために欠かせません。
マンション標準管理規約第56条では、管理組合の会計年度について定められていますが、実際の運用では「役員の任期とのズレ」や「予算執行のタイミング」など、注意すべきポイントがあります。
本記事では、会計年度の基本から、管理組合運営で気をつけるべき点まで、分かりやすく解説します。
【規約解説】マンション管理組合の会計年度とは?第56条のポイントと注意点を解説
今回紹介する内容は、以下の通りです。
✅マンション標準管理規約第56条のポイント
✅「会計年度」に関する管理組合・区分所有者の注意点
マンション管理組合にとって「お金の管理」は非常に重要です。そのお金の出入りを記録し、計画的に運営するために「会計年度」が決められています。
まず、最初の章では標準管理規約第56条の条文から「会計年度」についてそのままの文面を紹介します。
続いて、第56条「会計年度」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者が注意すべき点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第56条とは?会計年度の基本を解説
第56条についての条文とともに、おもなポイントについて紹介します。
(会計年度)
第56条 管理組合の会計年度は、毎年○月○日から翌年○月○日までとする。
この一文だけですが、以下条文解説します。
そもそも「会計年度」とは?管理組合における役割
「会計年度」とは、1年間のお金の動きを区切る期間のことです。マンション管理組合では、この期間内で収支報告をまとめたり、次年度の予算を計画したりします。
📌 会計年度の例
- 「4月1日~翌年3月31日」
- 「1月1日~12月31日」
- 「3月1日~翌年2月末日」
など、組合ごとに自由に設定できます。
会計年度が必要な理由とは?管理組合運営の重要ポイント
管理組合のお金の流れを適切に管理するためには、「いつからいつまでの収支を管理するのか?」を明確に決めておく必要があります。これが決まっていないと、管理費の徴収や決算報告が曖昧になり、トラブルの原因になりかねません。
管理組合の会計年度はどう決める?よくある設定パターン
多くの管理組合では、以下のような会計年度を採用しています。
📌 一般的な会計年度
✅ 4月1日~翌年3月31日(日本の官公庁や学校と同じ)
✅ 1月1日~12月31日(暦年ベースで分かりやすい)
また、マンションが建って組合員が住み始めた段階でもかわってきます。
そのため、管理組合の事情に合わせて、どの期間にするかを決めることもあります。
会計年度の決め方と変更時の注意点
会計年度は、管理規約で明確に定める必要があります。もし、現在の規約に記載がなければ、総会での議決を経て変更することも可能です。
⚠️ 注意点
- 途中で会計年度を変更すると、決算報告や管理費の計算に混乱が生じる可能性があります。慎重に検討しましょう。
- 税務や会計処理の影響も考慮し、管理会社や税理士と相談しながら決定するのがベストです。
ほとんどのマンションでは、分譲時の管理規約で定められていることが一般的であり、そのまま会計年度を変更せずに使用する所も多いでしょう。
一方で、企業などと同様に、管理組合におけるなんらかの事情によって決算期を変えることも考えられます。
その場合は、上記の注意点等を確認しながら考えていくことが求められます。
会計年度を決める際の注意点と管理組合の対応策
管理組合における、会計年度に関する注意点を紹介します。
管理組合の会計は「発生主義」?現金主義との違いを解説
管理組合の会計は、企業の会計などとと同様に、発生したら収支を計上する発生主義です。
会計期間内に発生した収支を正確に把握する必要があるためです。
発生主義の一例としては、
✅入金時ではなく売上の事実が発生したら計上
✅管理費等の収入も滞納(未収入金)があっても計上
✅工事代金の支出も支出の事実が発生したら費用計上
などが考えられます。
例えば、1月1日~12月31日の会計期間の管理組合があった場合、
✅売上計上日が12月31日であり、入金されるのが1月31日であっても12月迄の会計年度の売上
✅工事代金の請求日が11月30日付であり、支払いが1月31日であっても12月迄の会計年度の費用計上
となります。
発生主義に対して、現金主義という言い方がありますが、こちらは現預金の入出金で把握する考え方ですが、こちらは用いられないことが一般的です。
収支予算は会計年度と一致させる!ズレが生じる原因と対策
管理組合の収支予算は、会計年度を基準に立てるのが基本ですが、実際にはズレが生じることがあります。これが原因で、「予算がうまく執行できない」「想定外の支出が発生する」といった問題につながることも。
収支予算がズレると何が起こる?よくある問題
📌 年度途中で契約更新があると、予算が狂う
- 例えば、管理会社の契約更新が10月なのに、会計年度は1月~12月の場合、予算計画時に「更新後の金額」が確定していないことがある。
- 「途中で管理会社の委託費が上がるとは思わなかった…」というケースも。
📌 大規模修繕の時期と会計年度がズレると、資金繰りに影響
- 修繕工事の開始が年度末(3月)で、支払いが翌年度(4月)になると、予算上の計画と実際の支出(資金計画)が一致しない。
- 「前年度で組んでいた修繕予算が、次年度の収支に影響を及ぼす」ことがある。
収支のズレを防ぐための具体的な対策
そのため、以下のような対策を検討する必要があります。
✅ 年度途中に影響を与える契約(管理会社・保険など)の更新時期を確認し、予算に反映する
✅ 修繕積立金の使い方を年度ごとに整理し、計画的に資金を確保する
✅ 余裕をもって「予備費」を設定し、年度途中の想定外の支出にも対応できるようにする
役員の任期と会計年度はズレる?スムーズな引き継ぎのポイント
管理組合の役員(理事・監事など)の任期は、会計年度とは必ずしも一致しないことが多いです。
具体的には、
✅会計年度は1月~12月
✅定時総会は翌年3月
✅役員の任期は定時総会で満了
となるためです。
このズレを理解せずに運営すると、「前の役員が決めた予算を引き継げない」「決算の責任の所在が不明確になる」といった問題が発生します。
役員の任期と会計年度がズレることで発生する問題とは?
📌 「前の理事会が決めた予算で、私たちは動かないといけないの?」
- 新しい役員が就任した時点と同時の定時総会で、その年度の予算はすでに決まるため「自分たちは予算立案に関与しなかったが、本当にこの予算で良いのか?」と疑問を持つことも。
📌 「決算報告をするのは誰?前理事?それとも新理事?」
- 会計年度が終わった後の2~3か月後の定時総会で決算報告をするが、その時点ではまだ新しい役員が就任していない。
- そのため、決算を作成するのは前理事会・前役員となる。
会計年度を適切に設定し、管理組合の財務を健全に運営しよう
マンション管理組合において、会計年度の設定は財務管理の基本です。適切に会計年度を定め、発生主義に基づいた会計処理を行うことで、予算の適正な執行や決算の透明性が確保されます。
また、役員の任期と会計年度がズレることを理解し、スムーズな引き継ぎを行うことで、管理運営の混乱を防ぐことができます。
本記事で解説した注意点を踏まえ、管理規約の見直しや実務運用の改善に役立ててください。
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