管理組合が外部の第三者が管理するいわゆる第三者管理者方式・外部管理者方式の状況はどうなっているのか?
また、
現在、国土交通省で管理業者が管理者(≒理事長)の代わりとなる管理業者管理者方式の今後はどのようになっていくのだろうか…?
このような、マンションの外部者である第三者がマンション管理組合の管理者に就任することが管理組合における課題となって暫く経っています。
現在既に導入している、または導入を検討しているマンション管理組合としては今後の動向が気になる所です。
今回は、マンション管理新聞の最新号にも取り上げられていたおもな二つの話題について、今後の方向性等についてマンション管理士が解説します。
第三者管理者方式や管理会社が管理する管理業者管理方式の検討状況は
今回紹介する内容は以下の通りです。
・マンション管理士の団体である日本マンション管理士会連合会(日管連)が考える外部管理者方式の注意点は?
国土交通省が今後マンション管理適正化法・建替え円滑化法の改正に向けた議論を開始したとのことで、その中でも管理業者管理者方式を今後どのように考えていくかも含まれています。
したがって、その点を中心に、どのような論点を検討しているのか紹介します。
次に、日本マンション管理士会連合会(日管連)が、外部管理者方式を検討する管理組合向けに、この方式を導入するためのリスク回避のチェックリストを公開しています。
また、そのチェックリストについて、具体的に解説します。
今回の内容は、今後のマンション管理に関する方向性として重要な論点であるため、管理組合向けとして紹介しています。
ただ、内容的には管理組合運営においてはやや専門的になるため、これらの業務に影響する方向け(管理会社、マンション管理士など)になる可能性があります。その点ご了承ください。
国土交通省が考えている管理業者管理者方式の方向感は?
まず、はじめに国土交通省が検討中であるマンション管理適正化法・建替え円滑化法の改正の中で、管理業者管理者方式についても検討中とのことです。
具体的には以下のような内容が検討されているようです。
・多様なマンション再生ニーズに対応した事業手法の充実
・マンション管理適正化・再生円滑化への関与の強化・充実
また、管理業者管理方式は、「マンション管理適正化を促す仕組みの充実」の中に含まれる検討事項とのことです。
再生ニーズについては建替え等の課題、また、マンション管理適正化・再生円滑化については自治体の権限強化等についての課題のようです。
その中でも、管理業者管理方式について、以下の2点にみていきます。
管理業者管理者方式の利益相反取引に対する区分所有者の保護
当然のことながら、管理業者が管理者として実質理事会を運営し、日々の管理を主体的に行うこととなると、修繕の発注や清掃業務、点検業務等は管理業者に近いところに発注する可能性があります。
または、関連会社に発注することもあるかもしれません。
いわゆる利益相反取引行為と言われるものであり、管理組合の費用(不利)となる事柄を、意図的に管理会社の利益(有利)に仕向けるような対応も可能ということになります。
この点は長年議論されていることであり、どのようにマンション管理に不慣れな区分所有者や管理組合を保護していくのか、国土交通省としても引き続き重要な論点として考えています。
管理業者管理者方式の法制化
次に、この管理業者管理方式を、マンション管理適正化法改正によって法制化することも議論の対象のようです。
実際に管理業者管理者方式を採用する場合、管理会社としてどのような対応が必要になるのか、議論されることになるかと考えられますが、区分所有者や管理組合に不利にならないようなことが法律で定められるということです。
そして、実際に定められた場合は、罰則規定なども想定されそうであり、管理業者管理者方式に一定の規制が掛かる可能性も考えられます。
日本マンション管理士会連合会(日管連)が考える外部管理者方式の注意点は?
続いて、日管連が考える外部管理者方式の注意点ということで、同会が外部管理者方式導入における、移行安全度チェックリストを開示しています。
日管連は「項目が1点でも適用されない場合は安全ではないということになります。」との記載がある通り、リストに該当しない場合は注意が必要と警鐘しています。
具体的に紹介していきます。
マンション管理士が管理者となる場合のチェック項目
まず、マンション管理士が管理者となる場合であっても、必ずしも安全であるという訳ではありません。
具体的には、次に紹介する事項が踏まえられているかが重要です。
有効な賠償責任保険(含第三者管理者特約)に加入している。
マンション管理士が第三者管理者(外部管理者)になるには、もし当人がミスをした場合に管理組合に賠償ができる保険に入っておく必要があります。
なかでも、第三者管理者特約ということで、第三者管理者として就任した場合のミスや過失について、補償される保険に入っているかが重要な点となります。
印鑑を管理者に預ける場合、横領着服等犯罪に対する有効な補償に入っている。
もし、管理組合の印鑑を管理者に預ける場合に、横領着服等が起きたら管理組合に補償される内容になっているのか、十分確認をしておくことが重要です。
マンション管理士が入っている保険証券等の控えなどから、保険内容を確認することや、管理組合独自で保険会社に内容を確認することも必要であると考えられます。
管理業者が管理者となる場合
次に、管理業者が管理者となる場合についてのチェックリストです。
(マンション管理士等)と記載があるのは、マンション管理士の団体であるため、マンション管理士の活用を推奨、PRしていることもありそうです。
規約に管理会社等管理者の固有企業名が入っていない。
これによって、管理会社を変えることができないなど、固定化されていないことが重要です。
「管理者は●●管理会社の社員が就任する」等が規約に入ってしまっていると、規約変更にもひと手間掛かります。
また、管理業者管理者方式は、管理会社を中心とした運営になることから、区分所有者が対応を促してもすぐに進めてくれない可能性も極論あるかもしれません。
規約に外部専門家(マンション管理士等)監事の設置規定がある。
監事の就任には客観的な監査ができる外部専門家の設置が可能な状態になっているか、規約に定められていることが重要になります。
外部専門家(マンション管理士等)監事の場合、有効な賠償責任保険に加入している。
監事であっても、管理者同様に有効な賠償責任保険への加入が必要であることが、重要となります。
通帳は管理業者管理者、印鑑は組合員若しくは外部専門家(マンション管理士等)監事とされている。
通帳は記帳が必要なため、すぐに対応できる管理会社側であっても、預金の引き出しが簡単にできないように、印鑑は組合員や外部専門家が持つという形が必要とされます。
外部専門家(マンション管理士等)監事に印鑑を預ける場合、横領着服等犯罪に対する有効な補償がある。
もし印鑑を外部専門家に預ける場合、その外部専門家が横領着服等をした場合であっても、管理組合に補償される保険に入っているかも必要事項となります。
規約規定共通事項
マンション管理士が管理者となる場合、さらには管理業者が管理者となる場合の双方において、規約で規定されるべき事項については、以下の通りです。
管理者・監事が総会で選任される規定となっている。
外部管理者方式ではない、通常の管理規約でも、管理者(≒理事長)や監事は総会で選任されることとなっています。
当然のことながら、外部管理者方式であっても、管理者や監事が総会で選任されることが必要であるという規定です。
外部管理者のお手盛りで役員を選んではいけないということになります。
管理者・監事の任期が規定されており、任期は1〜2年となっている。
管理者や監事の任期が定められていないと、極論10年間就任ということも可能となってしまいます。
また、長期政権となると、管理者や監事がやりやすいように工夫したり、利益相反行為に抵触するような行為に及ぶ懸念も考えられます。
そのため、任期は1~2年という、外部管理者方式を敷いていない管理組合と同様の任期とすることが求められています。
管理者・監事の欠格条項が規定されている。
こちらも通常の管理組合や、標準管理規約においても役員の欠格条項があります。
標準管理規約第36条の2に定める欠格条項
標準管理規約なら、第36条の2に以下のような定めがあります。
第36条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、役員となることができない。
一 精神の機能の障害により役員の職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者又は破産者で復権を得ない者
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
三 暴力団員等(暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者をいう。)
外部の専門家からの役員の選任における欠格条項
標準管理規約の補足コメントして、外部の専門家の役員就任についても触れています。
・ マンション管理に関する各分野の専門的知識を有する者から役員を選任しようとする場合にあっては、マンション管理士の登録の取消し又は当該分野に係る資格についてこれと同様の処分を受けた者
イ 法人から専門家の派遣を受ける場合(アに該当する者に加えて)次のいずれかに該当する法人から派遣される役職員は、外部専門家として役員となることができない。
・ 銀行取引停止処分を受けている法人
・ 管理業者の登録の取消しを受けた法人
これらと同様の欠格条項の規定が必要であると考えられます。
管理者・監事の誠実義務が規定されている。
同じく標準管理規約の第37条には、役員の誠実義務についての規定があります。
第37条 役員は、法令、規約及び使用細則その他細則(以下「使用細則等」という。)並びに総会及び理事会の決議に従い、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとする。
2 役員は、別に定めるところにより、役員としての活動に応ずる必要経費の支払と報酬を受けることができる。
同様に、外部管理者方式においても、管理者や監事という役員に対する誠実義務を規定すべきと考えられます。
監事の意見陳述が規定されている。
これは、管理者の言いなりのお飾りの監事ではなく、総会や管理者に対して、意見を述べる必要があるという規定です。
実際の標準管理規約は、第41条の監事の役割の規定で、第4項に
とあります。
管理業者管理者方式等、理事会が設定されない場合は、理事会を「管理者」「総会」といった形に読み替えるものと考えられます。
そのため、必要があると認める時には、「意見を述べなければならない」ということで、監事としての意見を述べる義務があるということになります。
管理者・監事の利益相反防止が規定されている。
こちらも当然の規定と考えられますが、管理者が所属する管理会社や、管理者に近い業者、さらに監事に近い外部の業者などに発注することは、利益相反に当たる可能性があると考えられます。
それらを防止するための取り決めを規定する必要があります。
また、標準管理規約では、第37条の2に以下のような規定があります。
第37条の2 役員は、次に掲げる場合には、理事会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 役員が自己又は第三者のために管理組合と取引をしようとするとき。
二 管理組合が役員以外の者との間において管理組合と当該役員との利益が相反する取引をしようとするとき。
役員を「管理者または監事」、理事会を「総会」と読み替える形になるかと想定されますが、そもそも総会であっても、区分所有者と役員の間には、情報の非対称性(取引情報について役員が知りすぎていて、区分所有者が知らなすぎる)が考えられます。
そのため、個人的には外部管理者方式では、利益相反行為自体は慎むべきではないかと思います。
組合員の総会招集権が、標準管理規約より厳しい規制をされていない。
これは、総会を招集しづらくしていることはないかという点です。
すなわち、外部管理者に有利なように、決議する議案であっても、総会をしないようになっていないかということになります。
招集については、多くの規定があるので一例を紹介します。
第43条には、招集手続の規定があり、その第1項には、
とあります。
すなわち、招集しづらくするために、会議の開く日の5日前や目的を示さずに通知する等、管理規約の規定以下の内容になってはならないということになります。
総会の議決事項が、標準管理規約17項目と同様以上になっている。
標準管理規約の第48条には、総会議決事項として、17項目が挙げられています。
多いので具体的には紹介しませんが、この項目と同等数か、それ以上の項目を総会に掛けて審議する必要があるということです。
外部管理者方式の場合で、総会のみを開催するパターンは、区分所有者は総会しか出席することができません。
そのため、理事会で一回審議されることなく全てを総会で審議することとなるため、本来は理事会で審議されるべき事項も総会に織り込んでおくことなども想定されるでしょう。
第三者管理者方式・外部管理者方式や、管理業者管理者方式はチェックポイントが多くなる
国土交通省の現状の検討事項と、日管連の外部専門家管理者方式への移行安全度チェックリストを確認しました。
特に後半の日管連のチェックリストは、細かな内容も含まれ、具体的に紹介しました。
今後これらの方法論が具体化されてくるに従って、法整備もされてくるでしょう。
今後の第三者管理者方式・外部管理者方式、そして管理業者管理者方式にますます注目が集まりそうです。
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