管理組合においては、管理費と修繕積立金を分けないといけないって聞きました
また、
修繕積立金から使ってはいけない費用があるってホント?
さらには、
管理費で足らない分は修繕積立金から資金移動してもよいのか?
このような管理組合の会計で課題になることも多いでしょう。
そして、管理組合の会計面における計上は決まったルールによって実行することが求められます。
今回は、このような会計上のルールについて、経理分野にも非常に詳しい筆者が、管理費と修繕積立金の区分経理に関する話題について説明します。
管理組合の管理費と修繕積立金の区分経理を細かく解説【改めて確認】
今回紹介する内容は、以下の通りです。
・管理組合における管理費と修繕積立金の使い道は?
・なぜ管理費と修繕積立金を区分経理するのか?
・区分経理の注意点は?
多くの管理組合にとって、管理費会計と修繕積立金会計、またそれ以外の会計を区分して計上する、いわゆる「区分経理」の概念が取り入れられていることと思います。
※管理費会計は一般会計ということもありますが、標準管理規約に従い、管理費会計として紹介します
それぐらい、管理組合にとっては非常に重要なことです。
また、これが明確に出来ていない、または資金が管理費⇔修繕積立金で行き来してしまうことは非常に問題になります。
これは、マンション管理を担当する国土交通省も明確に言っています。
今回はマンション管理における基本的な課題ですが、このような区分経理を行うことの重要性や注意点について紹介します。
令和5年度マンション総合調査から区分経理の状況等を確認
まず、はじめに管理組合における、区分経理の実施状況を令和5年度マンション総合調査のデータから確認していきます。
また、修繕積立金の他会計への充当状況のデータもあるので、合わせて確認してみます。
区分経理の状況は?
管理費会計と修繕積立金会計、さらには駐車場会計等その他会計を区分して経理している状況はどのようになっているのでしょうか。
国土交通省による令和5年度のマンション管理総合調査のデータから引用します。
区分経理を行っていない管理組合はわずか1.2%と、想定通りほとんどの管理組合において区分経理が行われています。
その他は恐らく区分経理は行っているものの、3区分のなかでも駐車場会計以外の区分であったり、4区分以上の区分を行っている管理組合がある可能性があります。
さらに、マンション形態別の状況も同様のデータから引用する形で見てみます。
全体の傾向は変わっていませんが、管理組合としても大規模になる団地型では、区分経理の形態が、管理費と修繕積立金だけではなく、駐車場会計含め、他の会計が含まれると想定されます。
大規模マンションにおいては、共用施設を別会計にしたり、複合施設として店舗の会計が含まれていたり等も考えられそうです。
修繕積立金から他の会計への充当状況は?
次に、修繕積立金から、他の会計への充当があるかの傾向を見ていきます。
「充当している」と回答している管理組合がわずかながらに確認されます。
3つ以上会計がある中で、駐車場会計に充当している場合もあり、またもしかしたら管理費会計に充当していることもあるかもしれません。
どこに充当しているかは分かりませんが、傾向としては修繕積立金からの資金移動があるようです。
また、マンションの形態別にも確認してみます。
こちらも単棟型、団地型双方において堅調な傾向はみられませんが、一定数は修繕積立金から他の会計への充当が確認できます。
管理組合における管理費と修繕積立金の使い道は?
令和5年度マンション総合調査から、ほとんどのマンションでは区分経理しており、また修繕積立金の充当がないことが確認できました。
そもそも管理費と修繕積立金はどのような用途で使用する必要があるのか、同じく国土交通省が出している標準管理規約から確認してみます。
管理費の使い道は?
標準管理規約第27条の各号には、管理費の使い道として次のものが挙げられています。
第27条 管理費は、次の各号に掲げる通常の管理に要する経費に充当する。
一 管理員人件費
二 公租公課
三 共用設備の保守維持費及び運転費
四 備品費、通信費その他の事務費
五 共用部分等に係る火災保険料、地震保険料その他の損害保険料
六 経常的な補修費
七 清掃費、消毒費及びごみ処理費
八 委託業務費
九 専門的知識を有する者の活用に要する費用
十 管理組合の運営に要する費用
十一 その他第32条に定める業務に要する費用(第28条に規定する経費を除く。)
これらの中で大きな費用を支出する場合であっても、原則管理費から支払う必要があります。
「六 経常的な補修費」は日々の補修すべき箇所なのか、それとも大規模修繕工事で本来修繕すべき箇所なのかの見極めはいるかと考えられます。
後者の場合は、後述する修繕積立金からの取り崩しによる使用も考えられます。
修繕積立金の使い道は?
次に、修繕積立金の使い道についても、同規約第28条より確認します。
第28条 管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
三 敷地及び共用部分等の変更
四 建物の建替え及びマンション敷地売却(建替え等)に係る合意形成に必要となる事項の調査
五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理 (中略)
4 管理組合は、第1項各号の経費に充てるため借入れをしたときは、修繕積立金をもってその償還に充てることができる。
5 修繕積立金については、管理費とは区分して経理しなければならない。
このように、一定の計画での修繕や、想定していないやむを得ない事故、また修繕以外の敷地や共用部分等の変更(窓サッシやドアの交換など)、さらには建替えに関する費用として使うことができます。
さらに、借入をすることができるのは修繕積立金で使用する用途であることや、区分経理についてもここで紹介されています。
その他会計に計上した資金の使い道は?
令和5年度のマンション総合調査のデータで出てきた、駐車場会計については、修繕積立金から別途会計として区分経理していることもあります。
その場合は、駐車場からの収入を収入源として、駐車場の修繕やメンテナンスにおもに充てられることとなります。
ちなみに、標準管理規約第29条には、次のような定めがあります。
第29条 駐車場使用料その他の敷地及び共用部分等に係る使用料は、それらの管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立てる。
また、この29条に関する補足コメントとして
機械式駐車場を有する場合は、その維持及び修繕に多額の費用を要することから、管理費及び修繕積立金とは区分して経理することもできる。
とあることから、令和5年度のマンション総合調査結果でも、「駐車場会計」という第3の会計が出てきていると考えられます。
それ以外にも、施設の会計として集会所会計等、細かく分けることも考えられますが、経理が煩雑になるため、あまり細分化し過ぎずに駐車場会計等、多額に支出する用途で区分することが一般的です。
なぜ管理費と修繕積立金を区分経理するのか?
区分経理の状況や、管理費、修繕積立金の内容を確認したところで、そもそもなぜ区分経理をする必要があるのか、具体的に紹介します。
それぞれの用途が明確である
前章で紹介した通り、マンションを管轄する国土交通省は、管理組合に守って欲しいルールを標準管理規約の中で取り決めています。
その中で、管理費は「通常の管理に要する経費」と定め、中でも「経常的な補修費」として良く発生する修繕の位置づけをしています。
対して、修繕積立金は「特別の管理に要する経費に充当する場合」として定めていることから、日々発生する費用には充当できないこととなります。
(長期視点・イレギュラーな)特別なもの=「修繕積立金」
という位置づけになり得るものがあることから、それぞれ分けなさいということになっています。
区分経理せず混同すると将来の見通しが立たない
これは普段のわれわれの生活費を考えてみればわかることですが、将来のために使う預金を直近の生活費に充てるということはあまり考えられないでしょう。
定期預金など長期的な預金を使う場合は、住宅を購入したり、車を購入する、または子どもの入学金に充てるなど、「特別な時の使用」になると考えられます。
対して、普段の食費や光熱費、交通費、交際費、さらには家賃やローンなど、日々発生する費用は「生活費」として充てています。
これが混同するとどのようなことになるのかイメージできるかと思います。
同様に、マンションの修繕として将来的に必ず掛かってくる費用を、短期の修繕に充てることとなると、いざとなったときに大規模修繕が出来なくなります。
特にマンションの大規模修繕は、普段の我々の生活ではなかなかないような巨額の資金がまとめて必要となります。
そのため、短期的視点と長期的視点の用途に分けて経理することが重要であると考えられます。
金融機関からの借入ができない
そもそも区分経理していないと、金融機関から借入ができません。
住宅金融支援機構等で大規模修繕にも使えるローンをやっている金融機関は、用途が大規模修繕やそれに準ずる改修に限られており、管理費目当てでの借入は当然できません。
また、各金融機関では条件として、「区分経理されていること」として、借入金は修繕積立金に入金され、修繕積立金から返済されることとなります。
仮に修繕積立金から管理費への資金充当の履歴が銀行口座から明らかになれば、契約違反になる可能性も考えられ、非常に注意が必要です。
区分経理の注意点は?
マンション管理組合の大多数が決められた用途において区分経理を適切に行っていることが分かりました。
また、区分経理するおもな理由についても紹介しましたが、それでも区分経理した場合でも課題が発生します。
最後に注意点として紹介します。
管理費から修繕積立金への充当
「管理費の使い道は?」の中で紹介した、「十一 その他第32条に定める業務に要する費用(第28条に規定する経費を除く。)」の中にはどのような費用があるかを確認します。
標準管理規約第32条は以下の通りです。
すると、修繕積立金と重複しない部分として、
という、修繕積立金にも関連する内容が入っています。
これは、修繕積立金に充当してもよく、さらに余剰がある場合はその運用として「すまい・る債」などの購入に充てても良いことになります。
ただし、管理費に余裕がある時であり、一度管理費→修繕積立金に充当した場合に元には戻せないので注意が必要です。
管理費や修繕積立金に対する過不足の取り扱い
標準管理規約第61条には、次のような定めがあります。
第61条 収支決算の結果、管理費に余剰を生じた場合には、その余剰は翌年度における管理費に充当する。
2 管理費等に不足を生じた場合には、管理組合は組合員に対して第25条第2項に定める管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を求めることができる。
ここで確認したいのが、
・第2項は「管理費等に不足」
とあります。
管理費に余剰が出来れば、翌年度の管理費に回して管理のための費用に利用できます。
場合によっては、修繕積立金に振り替えることを明確化することから、第61条を
などに変更することも考えられます。
一方で管理費等(標準管理規約では管理費と修繕積立金を指す)が不足の場合は、25条2項の負担割合(各区分所有者の共用部分の共有持分)で負担をする必要があります。
ここでいう、「各区分所有者の共用部分の共有持分」は、区分所有者の専有部分の床面積割合
で規定されることが一般的です。
もちろんこれは、管理費の負担、修繕積立金の負担と分けられており、それぞれ決められた額の負担をする必要があるということになります。
修繕積立金の余剰は管理費に戻せない
繰り返しになりますが、これまで見てきた通り、
管理費の余剰→修繕積立金へ振り替え
は可能ですが、管理費が足らないとはいえ
修繕積立金の余剰→管理費への振り替え
はできません。
特に自治体による管理計画認定制度においては、修繕積立金が他の会計に充当されていないかは、非常に細かく確認される傾向にあります。
そのため、このような充当がある場合は、修繕積立金の用途を見直して、標準管理規約に定められた費用区分にて支出することが重要であるといえます。
改めて管理費と修繕積立金が区分経理できているか確認したい
管理費と修繕積立金が区分経理できている管理組合も多い中で、今回は改めて基本的な内容を紹介しました。
人件費や材料費の高騰に伴う、管理費や修繕費用も上がっていく中で、将来の修繕積立金を確保することがどの管理組合にとっても非常に重要な課題になっています。
そのためにも、改めて管理費会計と修繕積立金会計を適切に計上する区分経理を徹底するという基本が重要です。
そろそろ年度末を迎える管理組合も多く、定時総会も近くなってまいります。
改めて、収支報告書を見た時に区分経理されているかどうか、また適切に費用支出がなされているか確認されることをお勧めします。
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