修繕積立金の値上げを理解してもらうための具体策5選【実践したい】

マンション管理

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管理組合は修繕積立金の増額を検討しているということだけど、どういうことだろうか…?

また、

理事長をやっているのだが、理事会で修繕積立金増額を決議したものの、総会で承認をもらえるだろうか…??

このような疑問が管理組合内で多く出ています。

区分所有者としては、

「生活に支障をきたす修繕積立金の値上げはあり得ない」

と考える方もいるでしょう。

一方で、理事長や理事、監事といった役員は

「このままでは、修繕積立金をなんとか確保しなければ、将来、マンションの修繕ができなくなる」

という課題を抱えているところも非常に多いのが現状です。

このように、区分所有者と役員側では相反する見解が生まれることがあります。

このような管理組合環境の中で、どのように整合を取っていけばよいのか、これまでこのような場面に対応してきた筆者が、今回の記事で対応策を紹介します。

修繕積立金の値上げを理解してもらうための具体策5選【実践したい】

今回紹介する内容「修繕積立金の値上げを理解してもらうための具体策5選」は以下の通りです。

・区分所有者に理解してもらうための根拠資料の準備
・まずは理事会内での見解を統一
・区分所有者に対する説明会の開催
・管理組合総会での決議
・決議後の各区分所有者への変更額の通知

修繕積立金の値上げを決議しなければならないのは、その時担当となった理事長をはじめとした役員や、区分所有者にとっても相応の負担が掛かります。

しかしながら、マンション管理組合の将来を考えると、必ず考えていかなければならない事項でもあります。

そのため、あとの役員に対して先送りしてもあまり良いことではなく、なるべく早い段階で決議して、管理組合として一体で取り組んでいく必要があります。

このような修繕積立金の値上げに関して、管理組合として取り組んでおきたい対策を紹介します。

区分所有者に理解してもらうための根拠資料の準備

まず初めに、値上げをするにあたって、管理組合の現状を押さえる必要があります。また、他の管理組合がどのような状況にあるのか、把握しておくことも有効的でしょう。

そのような観点から、マンション管理組合として具体的に確認しておきたい事項に合わせて、具体的な資料を準備することが考えられます。

管理組合の現状の長期修繕計画や修繕積立金の確認

現状管理組合として立てている長期修繕計画や、そこと紐づいている修繕積立金の徴収額等の計画がどのようになっているか、確認する必要があります。

もし、それらがない、または長期間見直されていない場合は、このタイミングで作り直すことも考えなければならないでしょう。

今回はその詳細は紹介しませんが、具体的に紹介したコラムがありますので、そちらも合わせてご参照ください。

修繕積立金の調査結果の確認

次に、公表されている調査資料などから、修繕積立金としてどれぐらい徴収しているのかを確認することができます。

直近では、国土交通省が実施しているマンション管理組合や区分所有者を対象とした令和5年度マンション総合調査の結果が出ています。

そちらを参考に、世の中のマンションはどのような傾向にあるのか、確認しておくことも重要でしょう。

また、マンション管理の業界紙である、マンション管理新聞の調査でも、新築マンションではありますが、調査結果が出ています。

新築マンションの場合は、中古マンションに比べて修繕積立金の初期設定額が低い傾向にありますので、あくまでも目安程度ととらえる形でしょう。

他の管理組合の状況を確認

管理会社経由で確認できるのであれば、管理会社が担当している同規模のマンションや同年代のマンションの修繕積立金がどれぐらいなのか、確認することも考えられます。

情報として開示できない場合は、せめてマンション名等、具体的なところは伏せつつ情報を得られないかどうか、確認しておきたいところです。

比較検討することによって、自分たちのマンションの修繕積立金が適正かどうか、確認することも考えられます。

国土交通省が掲げる修繕積立金の目安の確認

国土交通省が、修繕積立金ガイドラインという公開資料において、マンションの修繕積立金として望ましい基準額(月額の専有面積当たりに直した修繕積立金額)を提示しています。


引用:国土交通省 修繕積立金ガイドラインより

こちらについては、現在積み立てている修繕積立金の額や、今後一定の年数で集める額、さらには専有部分の床面積などを活用して一定の計算が必要となります。

自らのマンションの修繕積立金単価について、オレンジの枠内に入っているかどうか、計算してみることも考えられます。

修繕積立金としてあるべき増額幅の確認

マンション管理組合として、修繕積立金が足らないからと言って、例えば前述のような基準額まで一気に上げるとなるとどうでしょうか。

区分所有者として負担が急増することとなり、生活においてもひっ迫する可能性があります。

また、その場合には、後述する説明会や総会において、理解が得られない可能性も出てくるかもしれません。

そのような課題も考えられることから、国土交通省としては、修繕積立金の望ましい値上げ幅の提示をしています。

具体的には、以下の図表で示す通り、あるべき金額(以下の表で均等積立方式とした場合の修繕積立金額のライン)に近づけるために、段階的にちょっとずつ上げていくという方法です。


引用:国土交通省 修繕積立金ガイドラインより

少なくとも、あるべき金額に近づけるべく0.6倍以上には引上げ、引上げ過ぎないように1.1倍以下に抑えるという提示がされています。

まずは理事会内での見解を統一

管理会社に委託していたり、外部専門家が入っている場合は協力しながらですが、前項で紹介したような根拠資料を理事会でも準備する必要があります。

準備ができれば、理事会内での見解の統一が必要ですが、具体的には、次のような流れが考えられます。

・長期修繕計画案の見直し
・修繕積立金計画案の見直し
・管理組合全体における修繕積立金の値上げ案の検討
・各区分所有者への値上げ案の検討
・理事会での値上げ案の決議

また、理事会の負担が多い場合は、前章の根拠資料の準備を含めて専門委員会を立ち上げて検討することも考えられます。そうすることによって、修繕積立金値上げの検討を、一部の区分所有者を巻き込んで検討することができるため、総意に向けて有利に進む可能性も考えられます。

今回は専門委員会については記載しませんが、それ以外の各事項について具体的に確認していきます。

長期修繕計画案の見直し

将来的などの段階で、どのような修繕工事を計画しているのかという、長期修繕計画を改めて見直すことから行う必要があります。

いくらの工事を将来計画しているから、そのために管理組合として必要な資金はどうなるのか

という、計画性ある内容です。

筆者の感覚ですが、この計画によって、多くの管理組合においては値上げが必要という判断が出ています。

また、作った長期修繕計画が未来永劫有効なものであると考えるのも難しいでしょう。

計画以上に劣化が進行し前倒し修繕しなければならない点や、インフレのさらなる進行による材料費や人件費の高騰、他に想定できない社会情勢の移り変わり等も想定されます。

そのため、最低でも5年程度のサイクルで当該計画は見直していくことが望まれます。

修繕積立金計画案の見直し

長期修繕計画によって、将来的に工事費をどれぐらい見込んでおかないといけないのかが算出されたところで、それと連動して修繕積立金をいくら積み立てるかの検討が必要です。

修繕計画の工事代金ギリギリの金額で積み立てると、想定外の工事に対応できないことも考えられます。

そのため、余裕を持った計画で修繕積立金を徴収していくことも望まれます。

工事の際に急遽修繕積立金が足らないということで、区分所有者から徴収したり、借入を発生させたりとなると、計画性がないものとなります。

そのため、長期修繕計画と合わせて、5年程度の計画的な見直しも想定しておく必要があります。

こちらも、一度値上げを決めたからといって、必ずしも未来永劫値上げは不要という訳ではない点に注意が必要です。

管理組合全体における修繕積立金の値上げ案の検討

将来的に工事のために必要となる修繕積立金が明らかになったところで、その金額に近づけるべく、今後いくら積み立てていくのかが明確になります。

そうなると、現状との乖離が発生して、最大でどれぐらい値上げをする必要があるのか、明確化します。

また、前述したとおり、修繕積立金としてあるべき増額幅に当てはまる範囲かどうかも検討する必要があります。

上げすぎると生活上の負担もあることから区分所有者からの承認が得られず、少なくても将来的な工事代金を満たすことができないこととなります。

そのため、ちょうどよい塩梅を理事会として討議していく必要があるでしょう。

各区分所有者への値上げ案の検討

管理組合全体としての新たに必要な徴収額が決まれば、各区分所有者に対していくら負担をしてもらうのか、割り振っていく必要があります。

具体的に割り出すとなると、長期修繕計画をもとに、全体の修繕積立金の額を出す必要があります。

概算では、仮に長期修繕計画が30年とすると、

(計画当初で管理組合に積み立てている修繕積立金+30年間でマンション全戸で集める修繕積立金総額)÷360カ月÷マンション全体の専有部分面積

で専有部分あたりの修繕積立金単価が出ることとなります。機械式駐車場がある場合は必要に応じて、加算します。

そこに対して、各区分所有者の専有部分面積を掛けて、月当たりの新たな修繕積立金を出すことになります。

理事会での修繕積立金値上げ案の決議

これらの材料が出そろったところで、理事会として修繕積立金計画や値上げが適正かどうか判断する必要があります。

その際には、長期修繕計画も見直すこととなるため、その計画も理事会で合わせて決議することが必要となるでしょう。

説明会やアンケートによって区分所有者から意見が出てそれをもとに修正の可能性も考えられます。

そのため、正式な理事会決定は説明会のあとでもよいかと考えられますが、区分所有者への説明会の前には理事会としての認識を固めておく(仮決議をしておく)ことは必要と考えられます。

区分所有者に対する説明会の開催

理事会内で決議を行い、見解が統一できたところで、区分所有者に対する説明会の開催を実施します。

値上げの提案をいきなり総会で諮るのも、区分所有者からの理解が得ずらいことが想定されるためです。

具体的には、以下のような論点で進めるのが良いと考えらます。

修繕積立金の値上げが必要な理由

前段で紹介した根拠資料をもとに、このまま修繕積立金を増額しないと将来的な修繕ができずに、劣化がさらに進むことがある点を話す必要があります。

また、様々な層が住んでいるマンションでは、以下のような意見も出るかもしれません。

①高齢者の意見として自分達の代だけ住めれば良いので、将来は考えていない
②家族がいるので、子どもの世代を含めて長く住みたい
③外部所有者で賃貸に出しているから、修繕積立金の値上げは家賃収入と見合わない
④将来的には建て替えや壊して敷地売却も検討しなければならないのではないか

①と②、③は原則生活スタイルが違うので、折り合わない可能性もあります。

ただ、劣化が進行しても将来適切に修繕を行わないとなると、マンションの資産価値低下により、全体に影響を与えてしまうこととなります。

資産価値の観点から、価値のあるマンションを維持するためには、継続的な修繕とともに修繕積立金の確保が欠かせないでしょう。

とりわけ、外部所有者において将来的な売却を想定している場合は、資産価値の低下は一番悩ましい課題なので、なんとしても避けたいところです。

さらには、④の場合においても建て替えや取り壊しを行うにも、その費用がかかります。その費用はどうするのか?と考えると、修繕積立金を充てることとなります。

どのような観点からも将来的には修繕積立金が必要な旨は、話していく必要があるかもしれません。

長期修繕計画と修繕積立金計画の説明

具体的な値上げ額の根拠として、工事すべき内容としての長期修繕計画と工事代金、さらにはその工事代金を手当てするための修繕積立金の計画をリンクさせて説明する必要があります。

理事会、さらには管理組合としても、根拠をもって修繕積立金の値上げを検討していることを丁寧に説明していく必要があるといえるでしょう。

また、検討のための根拠資料や計画については、区分所有者に漏れなく共有することが望まれます。

説明会後のアンケートの回収

一連の説明をしたあとに、区分所有者からの今回の値上げについてのアンケートは取っておいた方が良いでしょう。

なかでも、

・今回の値上げについて理解できたか
・修繕積立金の値上げは許容できるものか
・賛成できない場合の具体的な理由
・その他意見

などを徴収しておくことが望まれます。

アンケートを通じて、管理組合として今回の値上げが可能なのかどうか、アタリを付けることも可能となります。

改めて理事会に持ち帰り、場合によっては、

・大きな問題が出てくれば解消することは可能なのか
・今回の総会に議案として提出できそうか

なども検討する必要があります。

管理組合として合意形成が難しそうならば、改めて検討を継続して、次回の総会等で実施することも考えられます。

ただ、修繕積立金が明らかに足らない管理組合においては問題を先送りすることとなり、次期役員にしわ寄せがくることから、なるべく早い段階で値上げに持って行くことも大切です。

説明会で説明するのは?

基本的には理事長が説明会を進行することが望まれます。また、理事長だけでは負担が掛かる可能性があるため、理事会メンバーも協力することが求められるでしょう。

さらに、管理会社に委託している場合は、必ず管理会社の協力を得ることも重要です。

そして、長期修繕計画を作成するのが誰になるのかにもよりますが、建築士やマンション管理士等の外部専門家に作成を依頼する場合は、必ず説明会に出席して貰うことが重要です。

専門家から根拠や修繕積立金値上げの重要性などを第三者の観点から説明してもらうことによって、区分所有者に対する説得力が高まることが期待できます。

管理組合総会での決議

説明会で区分所有者からの理解が得られている前提ですが、管理組合としては正式に総会で決議する必要があります。

想定される総会の内容について、具体的には次のようなケースが想定されます。

総会議案の説明

説明会を開催した際に説明した内容と同等程度の説明をすることが望まれます。

理由としては、当日参加できなかった方への説明とともに、参加した人であっても改めて理解を深めてもらうことが重要なためです。

とりわけ、値上げに対する説明会を開催せずに総会で決議する場合は、丁寧に修繕積立金値上げの説明を行うことも必要でしょう。

議案に対する質疑応答

説明会同様に、議案に対する質疑応答が出されると考えられます。

総会の前に説明会を実施した場合は、そこでの質問が理事会としても整理されている前提となるため、管理組合としての課題はある程度潰せている状況にもあります。

場合によっては総会前に質問を受け付けるとともに、想定問答等も準備しつつ臨むことも考えられます。

長期修繕計画案と修繕積立金計画案ならびに金額変更の決議

長期修繕計画と修繕積立金の計画、さらにはそれに伴う金額変更は、一連の計画をもとに作成されたものとなります。

一方で、長期修繕計画は承認され、修繕積立金計画や値上げ案は否認されると、一貫した計画性がないものとなります。

そのため、これらは一連の議案としてまとめて決議を行うことが良いでしょう。

ちなみに、管理組合における管理規約にもよりますが、計画案の承認は、出席した区分所有者の過半数による普通決議が一般的です。

決議後の各区分所有者への変更額の通知

最後の5つ目は決定後の対応となります。総会決議後、変更が決まれば各区分所有者に新たな金額や値上げの時期等が通知されることとなります。

また、値上げの専有面積当たり単価が明確になっていれば、自宅の専有面積を掛けることによって、どれぐらいの値上げになるのか、あたりを付けることはできるでしょう。

いずれにせよ、金額が明確になった段階で、新たな支出額を想定しておく必要があるでしょう。

修繕積立金の値上げには区分所有者との合意形成が不可欠

修繕積立金を値上げに対して、区分所有者からの理解を深めるための対策を紹介しました。

今回紹介したのは、筆者が考える一例なので、他にも管理組合としての方法があると考えられます。

例えば、合意形成がスムーズにいく場合なら、説明会は不要で、説明書面の事前配布等でも足りるかもしれません。

また、

・マンションの規模が大きく検討事項が多い
・役員に負担が掛かりすぎてしまう
・管理組合内の合意形成に時間がかかる

などの場合は、前述でも触れましたが、長期修繕計画や修繕積立金検討に関する委員会の立ち上げによって、具体的な検討をしていくことも考えられます。

これらも含めて、管理組合における修繕積立金値上げの際の参考になれば幸いです。

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