マンションの価格は、立地や築年数だけで決まる。これまで多くの所有者、および市場が信じてきたこの「常識」は、今、静かに、しかし決定的に変化しつつあります。
2026年を境に、マンション市場では「見えにくい要素」が、確実に、そして無視できない重みを持って価格へ影響を及ぼし始めるでしょう。それは、金利の動向や税制の変更といった外部要因だけではありません。管理会社の撤退、管理組合の疲弊、そして小規模マンションという構造的な脆弱性――。これまで「あって当たり前」だと思われてきた管理というインフラの持続可能性です。
本稿では、現役のマンション管理士・ファイナンシャルプランナーの視点から、2026年以降にマンション価格へ影響を与え得る構造変化の正体を整理します。これは不安を煽る話ではありません。これからの時代に、マンションの資産価値をどう考え、どう備えるかを整理する、極めて現実的な資産防衛の視点です。日々の管理の中で少しずつ蓄積され、ある時「価格」という形で顕在化する真実を、今から紐解いていきます。
マンション価格は、もう「立地と築年数」だけでは決まらない
価格を決めてきた従来の常識
これまでのマンション市場において、資産価値を測る尺度は極めてシンプルでした。「駅から徒歩何分か」「築何年か」「大手デベロッパーのブランドか」。これらの「目に見える情報」さえ揃っていれば、管理の中身がどうあれ、市場価格から大きく外れることはありませんでした。極論すれば、管理は「管理会社に任せてさえいれば、自動的に担保される付帯サービス」と見なされていたのです。
2026年以降、価格に影響し始める「見えない要素」
しかし、2026年からは「見えない要素」の比重が圧倒的に高まります。具体的には、「管理体制の持続可能性」「修繕積立金の現実的な確保状況」「管理組合の意思決定能力」です。これまでは「住めれば問題ない」とされていた要素が、これからは「安心して買えるかどうか」という、買い手によるシビアな選別の対象になります。管理はもはや、資産価値を裏から支える、替えの効かないインフラになりつつあります。
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管理会社が「選ぶ側」に回ったという現実
管理会社撤退・値上げはなぜ起きているのか
今、マンション管理業界では大きな地殻変動が起きています。深刻な人手不足、コンプライアンス遵守の徹底、そして人件費や資材費の高騰により、管理会社は「全てのマンションを等しく引き受ける」というビジネスモデルを維持しにくくなっています。採算の合わないマンション、あるいは運営リスクが高いと判断されたマンションに対して、管理会社側から「契約更新の拒絶(撤退)」や「大幅な管理委託費の値上げ」を提案する事例が増えつつあります。
管理会社にとって“敬遠されやすい”マンションの条件
ここで重要なのは、撤退や値上げを検討されるのは、必ずしも「態度の悪い組合」だけではないという点です。むしろ、「戸数が少なくスケールメリットが出ない」「修繕積立金が不足し、将来の工事計画が立たない」「理事会が機能不全に陥り、合意形成が困難」といった、マンションが抱える「構造的な弱さ」が選別の基準になっています。これは管理会社の姿勢の問題以上に、民間企業としての「採算ラインの明確化」という冷徹な経営課題の結果なのです。
実務の深掘り:
実際に管理会社から契約終了を告げられた際、組合が取るべき具体的な防衛策については、以下の記事を参照してください。
管理組合という「無給組織」に押し寄せる限界
管理組合はプロ組織ではない
本来、マンションという多額の資産を維持管理する「管理組合」は、専門知識を持たない居住者のボランティア(無給役員)によって構成されています(役員報酬を設定している場合もあり)。任期制による継続性の弱さ、区分所有者の高齢化、そして「誰かがやってくれるだろう」という無関心が、管理組合の意思決定能力を長年削いできました。
これまで何とか回ってきた理由
これまでは、管理会社が実質的に理事会の事務を代行し、不動産価格の上昇局面が多少の管理の不備を覆い隠してきました。しかし、管理会社がサービスの採算性を重視し、所有者に「主体的な判断」を求める現代において、この甘えは許されません。管理組合が自律的な判断能力を維持できなくなったマンションでは、資産価値に影響が及ぶ可能性が高まっています。
小規模マンションが最も影響を受けやすい理由
戸数が少ない=1戸あたりの負担が重い
2026年以降、資産価値の維持がより困難になると予測されるのが、戸数の少ない「小規模マンション」です。理由は単純な算数にあります。エレベーターの保守、共用部の清掃、消防点検といった固定費は、戸数が少なくても大きく減ることはありません。1戸あたりが負担する管理費・修繕積立金の単価は必然的に高くなり、大規模修繕時に発生する負担も、大規模マンションの数倍に膨れ上がる構造的な宿命を背負っています。
「値上げ」「一時金」が出しにくい構造
小規模マンションは、一人ひとりの負担が重いため、積立金の値上げや一時金の徴収に対する反対意見が出やすく、合意形成が難航しがちです。さらに、特定の役員が固定化されたり、高齢化や空室化が数戸進むだけで、組織そのものが立ち行かなくなるリスクを抱えています。こうした「静かに詰む」リスクは、買い手や仲介実務者の間で、徐々に意識され始めています。
現場のリアル:
小規模マンションが抱える特有のコスト構造と、それを打破するための考え方を整理しました。
なぜ「管理の質」が「価格」に直結するのか
売却時に見られるチェックポイントの変化
かつて、マンションの査定で「管理」の項目は形式的なものでした。しかし現在は、重要事項調査報告書を通じて、修繕積立金の累計額、滞納状況、長期修繕計画の有無、そして「管理計画認定」「マンション管理適正評価制度の★」を取得しているかどうかが、厳しくチェックされます。積立金が枯渇し、計画が形骸化しているマンションは、買い手から「将来の負担分」として値引きを要求される対象になっています。
「住める」と「安心して買える」は違う
現在住んでいる分には、生活に支障がなければ「問題ない」と感じるかもしれません。しかし、資産としての評価は「将来にわたってその状態が維持されるという保証」にかかっています。説明責任を果たせない管理体制は、市場において「潜在的リスク」としてカウントされ、そのまま価格の下落として反映されます。管理は、今を快適にするための出費ではなく、将来の資産価値を守るための「投資」なのです。
2026年以降、価格を「守れるマンション」の条件 ― 管理会社か自主管理か、という苦しい二択を超えて ―
「管理会社管理」か「自主管理」か、という発想そのものが古い
マンション管理の議論では、長らく「管理会社に任せるか」「自分たちで自主管理するか」という二択で語られてきました。しかし2026年以降、この二択は多くの管理組合にとってどちらも持続しにくい選択肢になりつつあります。管理会社管理では値上げ・撤退リスクが高まり、自主管理では理事の負担が重く、継続性に限界があるからです。この二つの選択肢に縛られている限り、管理は「コスト」か「苦行」のどちらかになり、結果としてマンションの管理体制は弱体化していきます。
第三の選択肢:「管理を分解して考える」という視点
これから価格を守れるマンションに共通するのは、管理を丸投げもせず、全部抱え込みもしないという姿勢です。つまり、日常管理・事務は必要最小限に整理し、専門性が必要な部分だけを外部の専門家に切り出すという、管理の「機能分解」の発想です。
理事会は「全ての作業を行う場所」から、「専門家のアドバイスを受けて、マンションの方向性を判断する取締役会」へと進化する必要があります。管理組合が主導権を持ったまま、外部の知恵を適切に使う管理。これこそが、2026年以降の持続可能な管理の形です。
なぜこの考え方が「価格」を守るのか
この「第三の道」を選択し、機能させているマンションは、売却や承継の場面で圧倒的な強みを持ちます。
- 管理体制が第三者(マンション管理士等の外部専門家)によって言語化され、透明性が高い
- 修繕積立金の根拠が「ガイドライン」ではなく、自物件の「実態」に基づいている
- 誰が、いつ、何を根拠に判断したかという履歴が整理されている
これらの情報は、買い手の「管理不安」という最大の値引き要因を根底から排除します。管理の中身を説明できるマンションは、管理不安という“見えない値引き要因”を排除できるため、結果として価格が守られるのです。
2026年以降に問われるのは「管理の形」ではなく「管理の質」
これからの時代、管理会社が入っているかどうかという「形」はもはや本質ではありません。問われるのは、管理が属人化していないか、将来の支出を把握できているか、外部の専門性を適切に使えているかという「設計」そのものです。管理を「任せる」か「抱える」かではなく、どう「設計」しているか。そこに、2026年以降のマンション価値の分岐点があります。
解決の糸口:
「第三の管理」への第一歩は、現在の体制を客観的に診断することから始まります。
価格は語る──2026年以降、マンションは「管理」で選別される
マンションの価格に影響を与えるのは、災害や市場の暴落だけではありません。管理の持続性が静かに失われていくことが、最も気づきにくく、最も影響の大きい要因です。
2026年以降、「管理は問題ないと思っていた(根拠のない安心)」マンションと、「管理を言語化し、健全性を証明できる」マンション。この差は、市場において、時間をかけて価格の差として現れてくるでしょう。
管理はコストではなく、資産を守るためのインフラです。年始という節目に、一度自分たちのマンションの“足元”を見直すこと。それが、これからの時代における最も堅実な資産防衛となります。管理の形ではなく「質」を見つめ直す。その一歩が、あなたの資産の未来を大きく左右することになります。





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