総会が揉めない議案書テンプレ|説明責任を果たす「構造」と実務サンプル(管理組合向け)

マンション管理

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毎年、多くの管理組合で「今年の総会は揉めた」「特定の住民とのやり取りで紛糾した」といった声が聞かれます。しかし、私は現役のマンション管理士として、あえてここに違和感を唱えたいと思います。

総会は、本来「揉める」ものではありません。

多くの場合、それは特定の誰かの人格や態度の問題ではなく、理事会側が果たすべき「説明責任」が、議案書という書面段階で十分に整理されていなかったことが原因です。

総会当日、組合員が議案書を読み上げられて初めて「なぜ今なのか?」「他に選択肢はないのか?」と疑問を抱く。つまり、「総会当日に初めて住民に考えさせてしまっている」。この構造こそが紛糾の正体です。

総会はあくまで「確認と決議の場」であり、初見で考えさせる場にしてはなりません。私自身、これまで数百件(少なくとも五百件以上)の総会議事録に目を通してきましたが、紛糾した総会の多く、とりわけ最終的に否決に至った事案には明確な共通点があります。それは当日の発言内容や個々の意見の強さではなく、事前に配布された議案書の段階で、組合員が判断するための材料が十分に整理されていなかったという点です。

本稿では、そうした実務上の観測を踏まえ、次回の総会から即座に活用できる「説明責任を果たす議案書」の構造とテンプレートを提示します。


「総会が揉める」の正体は、説明責任の欠落である

総会が対立や紛糾に至る背景には、個々の事例ごとに異なる事情があるように見えます。しかし、現場を見続けると、そこには共通した「誤解の構造」が存在します。まずは、理事会側が無意識に抱きがちな典型的な誤解から整理していきましょう。

よくある誤解

多くの理事会や管理会社は、総会が紛糾する理由を以下のように捉えがちです。

  • 「反対意見を持つ住民がいるから」
  • 「修繕工事の金額が高いから」
  • 「厳しい質問をする人がいるから」

しかし、これらはすべて本質ではありません。どれほど高額な工事であっても、どれほど厳しい指摘があっても、論理的かつ構造的に説明が尽くされていれば、建設的な議論にはなっても「揉める(感情的な対立に終始する)」状態には陥りません。

むしろ、そうした反対意見や厳しい質問が出ること自体は、組合員が主体的に判断しようとしている、管理組合として健全なサインとも言えるのです。

本当の原因:思考プロセスのブラックボックス化

本当の原因は、理事会内で行われた数ヶ月、あるいは数年にわたる「検討のプロセス」が、議案書では数行の「結論」だけに省略されていることにあります。 思考の途中経過をすっ飛ばして「結論だけ」を提示する。これが住民の不信感を生み、当日その場で「なぜ?」という疑問が噴出するトリガーとなるのです。

あわせて読みたい:合意形成の失敗例 説明不足が招くのは紛糾だけではありません。最悪の場合、必要な決議が否決され、修繕資金の枯渇を招くこともあります。以下の記事では、一時金徴収が失敗した生々しい事例を解説しています。


説明責任とは「納得」ではなく「思考の共有」である

では、管理組合運営において「説明責任」とは、実務の現場でどこまで果たされていれば十分だと言えるのでしょうか。

説明責任の実務的定義

管理組合運営における「説明責任(アカウンタビリティ)」を、単に「法的に正しい手続きを踏むこと」だと誤解していませんか? 実務的な定義は異なります。説明責任とは、「反対する合理的余地(懸念点)を先回りして言語化し、判断材料を議案書に出し切ること」です。

100人いれば100通りの考えがあるマンションにおいて、全員を「納得」させることは不可能です。しかし、理事会の「思考プロセス」を共有し、「なるほど、理事会はそこまで考えてこの結論を出したのか」というプロセスへの理解を得ることは可能です。

説明責任を果たしている状態とは

優れた議案書を読んだ組合員は、読み終えた後に以下の状態になります。

  1. 「なぜ今、この議案が必要なのか」という緊急性と背景がわかる。
  2. 「他にどんな選択肢があったか」を把握し、なぜそれが不採用になったのか理解できる。
  3. 「想定されるデメリットや反対意見」を理事が隠さず開示していると感じる。
  4. 「可決された後の姿」が具体的にイメージできる。

この段階まで到達していれば、総会当日の質疑は「反対か賛成か」という感情論ではなく、「どう実行するか」「どこに注意すべきか」といった建設的な論点へ自然に移行します。結果として、合意形成の質が高まり、決議の可否にかかわらず、総会そのものが前向きな議論の場として機能するようになります。


【結論】説明責任を果たす議案書の基本構造

では、具体的にどのような構造で議案書を書くべきか。私は以下の順番を「鉄則」としています。この順番は、人間の心理的な納得プロセスに基づいた「思考の誘導装置」です。

議案構成の黄金律

以下は、私が多数の総会議事録や議案書を確認する中で、説明責任が適切に果たされ、総会が紛糾や否決に至らなかった事案に共通して見られた、議案書の基本構造です。

  1. 背景・前提条件: なぜこの話が持ち上がったのか。
  2. 現状の課題(事実): 放置するとどのようなリスクがあるか。
  3. 検討した選択肢(複数案): 理事会で比較検討したA案、B案、C案の提示。
  4. 管理組合としての判断: なぜその案を管理組合としての決議案として選んだのか(選定基準・優先順位の明示)。
  5. 想定される反対意見と回答: 議案書本文または別紙Q&Aとして、想定される懸念点に先回りして整理する。
  6. 可決後の流れ: 決まった後の決議内容に対する透明性を確保する。

この順番で情報が提示されていれば、組合員は理事会と同じ思考プロセスを自然にたどることができ、総会当日を「判断の場」ではなく「確認と決議の場」として完結させることができます。

なぜこの順番なのか

人は「押し付けられた結論」には反発しますが、「提示された情報をもとに自分でたどり着いた結論」には納得します。議案書は「説得のための文章」ではなく、「組合員を正しい結論へと導くための地図」であるべきなのです。

実際、理事会が辿った検討の順番と同じ順で情報が提示されていれば、組合員は総会当日に初めて考え始めることがなく、すでに思考を終えた状態で議場に臨むことができます。その結果、議論は感情論ではなく、実行や条件確認といった前向きな論点に集中します。


【テンプレ】説明責任を果たす議案書の書き方

議案書における説明責任は、本文から始まるものではありません。タイトルと本文が一体となって、組合員に判断の前提とプロセスを示す必要があります。タイトルの段階で検討の背景や論点の射程が示されていなければ、本文でどれだけ丁寧に説明しても、組合員は「結論はすでに決まっているのではないか」という印象を拭えません。

議案タイトルの考え方

×:第〇号議案 玄関ドア交換工事実施の件
〇:第〇号議案 長期修繕計画に基づく玄関ドア更新工事の選定および実施の件

×の例は、「何をやるか」だけが書かれており、「なぜそれを決議するのか」「どのような検討を経たのか」が一切伝わりません。このタイトルを見た組合員は、本文を読む前から「もう結論は決まっている」「あとは承認するだけなのか」という警戒心を抱きやすくなります。

一方、◎の例では、「長期修繕計画に基づく」という判断の前提と、「選定および実施」という検討プロセスの存在がタイトルだけで示されています。これにより、組合員は「理事会が計画に沿って複数案を検討し、その結果として決議案を提示している」という構造を、本文に入る前から理解することができます。

本文構成テンプレート(例:玄関ドア更新工事の場合)

以下では、「玄関ドア更新工事」を例に、説明責任を議案書の中で完結させるための本文構成を、実務でそのまま使える形で示します。対象が異なる場合でも、考え方と順番は同じです。

提案の背景(なぜこの議題が上がったのか)

「当マンションは竣工後〇年が経過し、玄関ドアのパッキン劣化や建付け不良に関する相談が、過去〇年間で延べ〇件寄せられていました。」

ワンポイント:ここでは「不便になってきた」「古くなった」といった主観的評価は避け、発生時期・件数・相談内容など、後から検証できる事実のみを記載します。

現状の課題と放置した場合のリスク

「現行の玄関ドア部品はすでにメーカーによる生産が終了しており、部分補修が困難な状況です。このまま放置した場合、防音性・断熱性の低下に加え、開閉不良による避難時の支障が生じる恐れがあります。」

※ワンポイント: ここでも評価ではなく、メーカー回答、部品供給状況、過去の不具合事例など、事実に基づいてリスクを整理します。

検討した選択肢と不採用の理由

理事会では、以下の選択肢について比較検討を行いました。

案A:玄関ドア全面更新(今回の決議案) … 初期費用は高いものの、耐用年数が長く、防犯性能・断熱性能を含めた総合的な改善が可能。
案B:塗装および部分補修 … 初期費用は抑えられるが、根本的な建付け不良は解消されず、数年後に再度工事が必要となる可能性が高い。

ワンポイント:不採用案も省略せず記載することで、「他の方法は検討したのか」という疑問を議案書の段階で解消します。

理事会としての判断理由(なぜこの案を決議案としたのか)

「各案について、今後20年間のライフサイクルコスト(LCC)を比較検討した結果、再工事の可能性が低く、長期的なコストを最小化できる案Aが最適であると判断しました。また、複数社から条件を比較検討した結果、施工実績および保証内容が最も優位な〇〇社を選定しています。」

関連知識:見積書の裏側を見抜く 見積書の比較では、金額だけでなく、工事範囲・保証条件・過去の施工実績を確認することが重要です。詳しくは以下の記事も参考にしてください。

想定される反対意見への整理(Q&A形式)

Q:まだ使えているのに、今やる必要があるのか?
A:部品供給が終了しているため、故障が発生してからでは応急対応しかできず、発注から施工まで長期間を要する可能性があります。生活への影響を最小限に抑えるため、計画的な更新が合理的と判断しました。

Q:もっと安い方法はないのか?
A:部分補修案も検討しましたが、数年後に再工事が必要となる見込みで、長期的には全面更新より総額で〇万円高くなる試算です。

合意形成のための「説得台本」 修繕積立金の値上げや均等積立への移行など、より重い議案の場合は、さらに踏み込んだ説明が必要です。具体的な手順と台本はこちらにまとめています。

可決後の対応・スケジュール

「本案が可決された場合、〇月に住戸別説明資料を配布し、〇月より順次説明会を開催した上で、〇月に着工する予定です。工事期間中の生活への影響については、事前に詳細を周知します。」

ワンポイント「決まった後に何が起きるのか」を明示することで、可決後の不安や混乱を防ぎます。


説明責任を果たしていない「NG議案書」の特徴

管理会社から提示された議案書案を、そのまま提出する前に、以下のチェック項目に当てはまっていないか確認してください。

典型的NGパターン

以下は、実務の現場で繰り返し見かける、説明責任が十分に果たされていない議案書の典型例です。

  • 結論しか書いていない: 「〇〇のため、施工業者A社に発注します」のみ。
  • 理由が抽象的: 「老朽化のため」「適切と思われるため」といった言葉。
  • 反対意見が存在しない前提: 全員が賛成する前提で書かれており、懸念点への言及がゼロ。

これらはいずれも、「理事会の判断プロセス」が議案書の中で共有されていない点に共通しています。

なぜこれが総会を止めるのか

これらの議案書に共通する問題は、判断に必要な情報が事前に出し切られていないことです。組合員は議案書を読んだ時点で判断を終えられず、総会当日に初めて「考える」ことを強いられます。

その結果、組合員には

「その場で質問しなければ、十分に検討されないまま決まってしまう」
「自分たちの権利を守るために、止める役割を担わなければならない」

という防衛的な心理が働きます。

こうして総会は、本来の「確認と決議の場」ではなく、理事会が後追いで説明を求められる“即席の説明会”へと変質し、議論が長引き、場合によっては否決や継続審議に至るのです。


まとめ:議案書は管理組合の「統治ツール」である

総会が紛糾するのは、決して偶然ではありません。それは、議案書という「唯一の公式文書」が、説明責任という役割を果たせていなかったことへの、組合員からのアラートです。

議案書は、単に決議を取るための書類ではなく、マンションというコミュニティを円滑に動かすための「統治ツール」です。理事会の真摯な検討プロセスを言語化し、構造化して届ける。それだけで、総会の雰囲気は劇的に変わります。

次の総会では、すべての議案を変える必要はありません。まずは、最も重要で、最も反対が出そうな1議案だけでも、この構造に変えてみてください。その一歩が、貴方のマンションの資産価値を、根本から変えていくはずです。

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