正月帰省で親と話したい、マンションの「終活」。2024年相続登記義務化後の実家会議

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久しぶりに帰る実家の玄関。見慣れた景色のはずなのに、エントランスのタイルにうっすらと汚れが目立っていたり、廊下の電灯が切れたままになっていたりすることに、ふと気づくことはありませんか。

「お父さんもお母さんも、少し小さくなったかな」

お屠蘇(おとそ)を囲み、家族が集まるお正月のひととき。そんな穏やかな時間のなかで、避けては通れない、けれど切り出しにくいのが「実家のマンションを将来どうするか」というお話です。

今回は、マンション管理の専門家、そしてFP1級(CFP®)の立場から、将来の「静かな不利益」を避け、ご家族の自由度を守るための、穏やかな話し合いの進め方を整理しました。

なぜ「正月」が、実家の話をすべきタイミングなのか

「まだ元気なんだから、そんな話はいいよ」

多くの子世代が、そう思って話を先延ばしにします。しかし、実務的な観点から言えば、お正月こそが対話を始めるべき時期といえます。その背景には、「相続登記の義務化(2024年4月開始)」という制度改正があります。

これからは相続を知ってから3年以内に登記をしないと、過料(罰金)が科される仕組みになりました。これは「不動産の所有者を明確にする」という社会的なルールが、これまで以上に厳格になったことを意味しています。

お正月は、家族の記憶が更新される場所です。親戚が集まり、これまでの暮らしをどう着地させるかという「準備」について、自然な流れで話題を向けることができます。「元気なうちにしかできない、前向きな確認」として、このタイミングを活かすべきです。

親と“決めなくていい”。まずは確認したい3つのポイント

「どうするつもり?」と結論を急かしてはいけません。将来のリスクを冷静に可視化するために、まずは以下の3点を「聞く」だけで十分です。

将来の暮らしについて、どう考えているか?

「売るのか、残すのか」と問うのではなく、「ここでずっと暮らしたいか、それとも別の選択肢も視野にあるか」と、親御さんの「意向」を確認してみてください。

住み続けるのであれば、室内の段差解消といった個別のバリアフリー化だけでなく、建物全体の維持管理の状態が、親御さんの生活の質に直結します。例えば、エレベーターの停止頻度、共用廊下や階段の照度、手すりの有無や床材の劣化などは、日常の安全性を左右する重要な要素です。

建物が適切に手入れされていない場合、将来的に転倒事故や移動時の不安が増え、親御さんの日々の安心が少しずつ損なわれていく可能性があります。

実際に、高齢者が安心して住み続けるために管理組合として確認すべき具体的なポイントについては、以下の記事で体系的に整理しています。

管理組合の運営に、変化はないか?

マンションは「管理を買う」ものです。しかし、築年数が経つにつれて役員のなり手がいなくなり、適切な合意形成が難しくなっている組合も存在します。

「最近、管理組合の集まりとかはある?」「役員が回ってきたりしてない?」と、組合運営の現状を尋ねてみてください。もし親御さんが「よく分からない」「全部おまかせ」と答える場合は、掲示板の張り紙が更新されているかエントランスの清掃が行き届いているかを子世代が自分の目で確認することも、立派な現状把握になります。

マンション内に「空き家」が目立っていないか?

実務上の、極めて重要な確認事項です。親御さんに、「同じフロアで、ずっと空き家になっている部屋とかない?」と聞いてみてください。

所有者と連絡が取れなくなる「所在不明区分所有者」が増えると、大規模修繕や管理規約の見直しといった、マンションの根幹に関わる決議ができなくなります。

法律上、一定数以上の賛成が得られなければ、必要だと分かっていても工事を進められず、結果として建物全体の維持が困難になるという、「決められないマンション」の状態に陥ります。

この問題に対応するため、令和8年4月の法改正では新たなルールが設けられました。所在不明区分所有者を一定条件のもとで決議から除外できる仕組み(標準管理規約第67条の3)については、以下の記事で背景と実務への影響を詳しく解説しています。

【令和8年4月マンション法改正】標準管理規約第67条の3「所在等不明区分所有者の除外」を徹底解説― 総会が開けない!を防ぐ新ルール ―

「今は問題ない」という言葉に潜む、時間差のリスク

対話の中で、親御さんから「今は特に困っていないから大丈夫」という言葉が出るかもしれません。しかし、マンション管理においては、「今困っていないこと」と「将来も安心であること」は別問題です。

マンションの老朽化や管理体制の疲弊は、急激にではなく、目に見えない速さでゆっくりと進行します。不具合が表面化したときには、すでに修繕積立金が不足していたり、管理会社から撤退を打診されたりといった、「手遅れに近い状態」になっていることが少なくありません。

FP1級としての時間軸で整理すると、この「時間差のリスク」を理解しておくことこそが、将来の家族の負担を減らす最大の鍵となります。

「選択肢が狭まる」という、静かな不利益を避けるために

相続や住まいの問題を横断的に整理すると、住まいは「資産」であると同時に、維持し続けるための「コスト」としての側面が見えてきます。特にマンションの場合、管理の状態によっては、将来「売りたい」あるいは「貸したい」と思ったときに、買い手がつきにくくなる可能性があります。

これは、急激な変化ではなく「静かな不利益」として進行します。親御さんが良かれと思って残してくれた実家が、次世代にとって選択肢を制限する負担にならないよう、今、現状を把握しておくことは、将来の自由度を確保することに直結します。

親との会話で、意識したい言葉選び

親御さんとの関係性を守るために、以下の表現には注意が必要です。

  • 「いつまでもここに住めるわけないでしょ」 → 親御さんの現在の生活を否定することに繋がります。
  • 「早く決めてくれないと困るんだけど」 → 感情の整理には時間が必要です。

代わりに、「何かあったときに、私たち子供がスムーズに動けるように、今のうちに状況を整理しておきたいんだ」という、子供側からの「サポートの申し出」という形をとってください。これが、お金と住まいの問題を冷静に整理するなかで導き出された、最も穏やかで実効性のある切り出し方です。

今すぐ「何もしなくていい」という線引き

ここで誤解してはいけないのは、現状を確認したからといって、「今すぐ売却やリフォームを決めなければならない」わけではないということです。

むしろ、今の段階で無理に結論を出す必要はありません。専門家に相談したり、業者を呼んだりするのも、まだ先の話で構いません。

大切なのは、結論を出すことではなく、「今の状態を家族が正しく把握していること」そのものです。把握さえできていれば、将来いかなる変化が起きても、慌てずに次の選択肢を検討できます。「知らない」という状態を脱すること。それだけで、お正月の対話としては100点満点なのです。

【実務FAQ】親子の対話でよくある悩み

  • Q. 親が話したがらない場合は? → 無理強いせず、マンション内の掲示板や清掃状態をご自身で確認するだけで十分です。
  • Q. 兄弟姉妹で温度差がある場合は? → まずは「親の意向を聞く」ことに徹し、資産配分の話は一旦脇に置きましょう。
  • Q. 自分が遠方に住んでいて頻繁に帰れない場合は? → 今回の帰省で、管理会社の連絡先や、親御さんが親しくしている近所の方の名前を控えておくだけでも、大きなリスクヘッジになります。

まとめ:正月の雑談こそ、未来への最初の一歩

「実家のマンションをどうするか」という問題は、一朝一夕に答えが出るものではありません。大切なのは、このお正月に「実家の将来について話ができる状態」を作っておくことです。

今すぐ何かを決める必要はありません。ただ、「親がどう思っているか」を知り、「管理の状態」を把握する。それだけで、将来の自由度は大きく変わります。

もし、お話のなかで「実は空き家が増えているらしい」「管理のことで困っている」といった具体的な状況が見えてきたら、その時はじめて専門的な情報を参照してください。

私のYouTubeチャンネルやブログでは、万が一、所有者と連絡が取れなくなった場合の[所在不明区分所有者への調査手順]や、管理体制が限界を迎えた際に起きる[管理会社からの更新拒絶(撤退)の実態]について、事実を元に解説しています。

事実に基づいた知識が、あなたと、そして親御さんの大切な資産を守るための「整理の道具」になるはずです。

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